【完結】とある原典の霊媒作家(ゴーストライター) 作:大根ハツカ
1
突然ではあるが状況の確認をしよう。
フィアンマが引き起こした第三次世界大戦は終結した。
魔神オティヌス率いる『グレムリン』の脅威は去った。
大悪魔コロンゾンの野望は打ち砕かれた。
そんな上条当麻であるが、彼は全てが自分の功績だとは考えてない。世界を救えたのは世界中の人達の頑張りがあっての事であり、上条当麻一人に出来ることなどたかが知れていると思っている。
そして、彼はまた一人では解決できない問題に直面していた。
「…………………………………………食費がヤバい」
上条当麻は財布の中を見て、膝から崩れ落ちた。
時期はクリスマス間近の一二月二三日。貧乏学生のツンツン頭とて、クリスマスのために何の準備もしていなかった訳じゃない。クリスマスの夜には貧乏ながら豪華な食卓を用意して、インデックスたちを驚かせようと考えていた。
しかし、そんな考えは上手くいかなかった。
「とうま、お昼ご飯の時間なんだよ!」
ベッド代わりに使っているユニットバスのバスタブで頭を抱えていると、リビングから上条当麻を呼ぶ声がした。
そこには白地に金刺繍を施した紅茶のティーカップみたいな修道服を纏う銀髪の少女、はらぺこシスターのインデックスが立っていた。
「…………さっき朝ご飯を食べたばっかりだろインデックス」
「朝昼兼用なんて許せないんだよ! ご飯は一日三回しか食べられない贅沢なんだから、毎日三食しっかり作るのが基本でしょーっ‼︎」
「自分で作ってから言おうかインデックス‼︎」
空腹に喘ぐ人間なんぞ知ったことかと、三毛猫はペットフードを貪っている。しかも、イギリスのメイドさんから貰った高級ペットフードである。この中でただ一匹だけ食事のグレードが違うのであった。
「昨日、スーパーの特売で買い出しを済ませたんじゃなかったのか?」
三毛猫の気が逸れて、安心して寛いでいる全長一五センチの『魔神』オティヌスは尋ねた。
「そうだインデックス。あの作り置きした料理の数々は一体何処に……?」
「イギリスのパーティと比べたら大したことないんだよ!」
「あれを全て食べ切ったって言うのか⁉︎」
イギリス清教の聖地・ウィンザー城にて、パーティのご飯を大量に食べたインデックスは食欲の抑えを振り切った。
お腹いっぱいに食べるまで、もう止まらない。たった数日でエンゲル係数は跳ね上がったのである。
「無理だよ‼︎ こんなんじゃクリスマスパーティどころか、年末まで保つかさえ危ういよ‼︎」
「お腹がすいたんだよ、とうまーっ‼︎」
「ひひっひいいー! もはや不幸じゃなくて理不尽だと思うよ⁉︎」
インデックスの可愛らしい口元から凶悪な犬歯が覗いたのを見て、上条当麻は叫ぶ。
(……もう嫌だぁぁぁ‼︎ せっかく学園都市に戻ってこれたって言うのに、なんでこんな所で命の危険を感じなきゃならないのォォォォ‼︎)
突然だが、上条当麻は不幸な人間である。
計画が計画通りに進むことなど当然なく、どう転んでも危機に陥ってしまう。
故に。
上条当麻はアドリブに強い。
魔術師の戦いを始めとした数々の死闘を乗り切ったのも、その場で敵の考えを根底から覆す方法を編み出したためである。
そんな百戦錬磨の上条当麻はこの危機を生き延びるための道を思い付く。
「そうだ‼︎ クリスマスパーティに行こう‼︎」
2
上条当麻はインデックスやオティヌスと一緒に、第一二学区へやって来た。第一二学区は学園都市の中でも、特に神学系の学校を集めた学区で、あらゆる宗教施設はこの学区に集中して存在している。
一つの通りごとに各種宗教施設が並び、道を一つ渡る度に別の国のように雰囲気がガラリと変化する。中には、階層ごとに異なる宗教施設が詰め込まれた高層ビルもある。
上条たちはその中でも、大聖堂が並ぶ十字教のエリアを歩いていた。普段は真面目な印象のある第一二学区だが、この日ばかりは何処か浮き足立っていた。
「不気味な街だ。教会が精巧に築かれているのにも拘らず、実際には魔術的記号が一切存在しない。科学と魔術の領分を冒さないための配慮だろうが、ここまで来ると逆に不自然だな」
当然のように上条の肩に座り、マフラーに埋もれたオティヌスは呟く。
魔術サイドと科学サイドを隔てる不可侵協定。余りに科学的な手法を取り入れた魔術・霊装は処罰対象となり、反対に科学サイドが魔術を取り込むのも禁止されている。
「とうまー。あっちの方からお芋の匂いがするんだよ!」
「待つんだインデックス、ここまで来て石焼き芋はもったいない!」
クリスマスムード一色の街中を進む。
途中に人混みで逸れそうになるが、なんとか目的地にたどり着いた。何の変哲もない路上。周囲の建物は先程までと変わらない。しかし、変化が一点。
「あれを見るんだ‼︎」
「あちこちでお菓子を配ってるんだよ! 五つのパンと二匹の魚の奇跡なの⁉︎」
そこではサンタの格好した神父たちが、路上でチラシと一緒にお菓子を配っていた。
サンタに群がる小学生女子がわあわあ言っているのが聞こえる。
『にゃあ⁉︎ サンタがこんなにいっぱいいる‼︎ 学園都市はいつからサンタに乗っ取られて……』
『ち、ちがうよフレメアちゃん。この人たちはサンタの格好をしただけの普通のおじさんだよ』
『まさかサンタウイルスに感染して……⁉︎ 大体、タダでお菓子を配るなんて怪しいに決まってる! みんなが騙されないように私が全部食べなくちゃ‼︎』
『ああっ、昨日見たゾンビの映画と混ざってるーっ⁉︎』
何処にでも食い意地を張った女の子はいるらしい。割と人気のない第一二学区ではあるが、今日は小学生を中心として人混みができていた。
「信仰心の薄い学園都市の住民は、クリスマスに教会になんて来ない。だからこそ、前日の一二月二三日になるとこの辺りじゃチラシと一緒にお菓子を配ってるんだ。これがクリスマスイヴイヴパーティだ‼︎」
「お前な……。一応言っておくが、クリスマスイヴのイヴは前日って意味ではなく、イブニングのイブと同じだ。十字教徒でなくとも、これぐらいは常識だと思うが、人間……」
三毛猫を連れてお菓子を食べに行くインデックスを見送り、上条当麻とオティヌスはベンチに座った。
「お前は食べに行かないのか?」
「あれ貰えるのは小学生までなんだよ。インデックスは貰えるだろうけど、俺は流石に無理かな」
ツンツン頭の昼抜きは変わらなかった。
お腹がぐーっと鳴る。
すると、インデックスがこちらへパタパタと走ってきた。
「いっぱい貰ってきたんだよ! これはとうまの分!」
「インデックス、大きくなって…………‼︎」
ツンツン頭は感動して涙ぐんだ。
心境はもはや同居人ではなくお母さんだった。
3
学園都市、第二三学区。
航空・宇宙関連施設が集中するこの学区は、当然ながら学園都市唯一の国際空港が建設されている。そんな国際空港のロビーを走り回る足音があった。
足音は二種類ある。片方は
「そこで止まるじゃんよ‼︎」
対して、もう片方の足音は静かだった。
コツン、コツン、と一歩ずつ歩く。
体格の大きい
それでも、青年の歩みは止まらない。
(くそ……何が起きてる⁉︎)
彼女の本来の所属は第七学区だが、ここにはあらゆる学区の精鋭たちが集められていた。それ程までに事態は切迫していた。
「くそっ、怪物が……! これならどうだ‼︎」
「待つじゃんよ‼︎」
痺れを切らした一人の
ボ‼︎‼︎‼︎ と、爆音が炸裂する。
金属製の壁だろうと数秒でスポンジのように穴だらけになる威力だった。対戦車用のそれが、一人の人間に放たれた。
「………………それで?」
それでも、青年の歩みは止まらない。
何もなかったかのように、一切の狂いなく同速度で動き続ける。
「そろそろ飽きてきたなー。きみたちは学園都市だろ? アレイスターが築いた街だろ? だったら、もっとエグくてキモくてイヤらしい兵器の一つや二つはあるだろ? 出し惜しみなんてせずに、全部使ってくれないかなー?」
「何が目的じゃんよ⁉︎」
青年は黄泉川の質問に答えない。
代わりに、一つだけ変化があった。
「本気を出さないなら殺しちゃうぞ」
「
現れたのは白い装束を纏った純白の少女。
その手にあるのは死神の斬魄刀。
『
直後、第二三学区は凍りついた。
4
ベンチにはお菓子を貰った小学生が座りにきたため、上条たちはゆっくりと食べられる場所を探して歩いていた。
「あっちに空き地があるんだよ」
「あれは……何だろう。公園ではないよな。建設予定地か何かなのか……?」
すると、開けた空間が見つかった。
近づいてみると、その空き地についての説明が書かれた看板がある。
センサーでも付いていたのか、看板の前で止まった上条に反応して読み上げ音声が流れる。
『第一二学区の新たなランドマーク、「
「ぐらびとんぱねる?」
「
「へー、3Dプリンターみたいなものか」
模様替え感覚で家を建て直せると言う事だ。それでも普及していないって事は、普通の建築費よりも維持費の方が高いんだろうなと上条は思った。
位置的にもこの空き地は第一二学区の中心部にある。これからの第一二学区のランドマークとなるだろう。
「見て、とうま! クリスマス演奏会! 終わった後にはケーキも出るって書いてあるんだよ‼︎」
「ダメだインデックス‼︎ それは選ばれし者だけが行ける、入場料がいるやつだ‼︎ ドレスコードもあって、俺たちには敷居が高い‼︎」
「建物自体がパイプオルガンのようになり、街中に演奏を届ける事もできるのか。面白い機能だな。猫畜生から私を守る待避所としてこれが欲しいぞ、人間」
「無理に決まってんだろ‼︎」
居候のお嬢様方は上条家の財政が分かっていないのだ。演奏会の入場料だけでもカツカツであり、こんな高そうな建物など買えるはずがない。
「この辺りも食べる所は無さそうだし、一旦第七学区に戻るか。外で食べるよりも落ち着くだろうし」
「そうかも。やっぱり、お家が一番なんだよ!」
「……かもしれないな」
上条当麻は小さく笑った。
ここに来るまで、色々なことがあった。痛みがあった、悲しみがあった。許す事のできないもう一人の自分がいた。救う事の出来なかったあと一人の人間がいた。
それでも、その一言で何処か救われた気がした。元の日常に帰れた喜びを噛み締めていいのだと、そう許された気がした。
そんな時だった。
後方から、足音が一つ。
その小さな音は、喧騒に包まれた街に響き渡る。
言葉には出来ない異変があった。まるでスイッチが切り替わったように、世界観そのものが書き変わったかのように。
じわじわと魂を蝕むような違和感。
寒気に導かれ、反射的に後ろを振り返る。
「
髪色を除けば、街中を歩いていても気づかないごく普通の見た目だった。先程買ったばかりなのか、この時期には珍しいほどピカピカの学生服を着ている。しかし、その雰囲気は同年代とは思えず、大人がコスプレを着ているような印象を受けた。
そんな青年の何気ない一言に、上条当麻の前身が縫い止められる。異能の力ではない、物理的に抑えられている訳でもない。
硬直しているのは上条だけではなかった。インデックスとオティヌスも、三毛猫さえも動かない。
喉が引き攣る。自分でも気が付かないうちに、枯れ果てたような声が零れ落ちる。
「アンタ、は……?」
「アラン=スミシー。
息を呑む音が聞こえた。
上条のではない。インデックスとオティヌス、魔術サイドの知識を持つ二人が目を見開いて驚愕した。
「簡単に言うと、ぼくはかつての『黄金』に所属していた魔術師さ。本業は作家、しかも書いた本が魔道書になるという体質のね。そして、今まで
さて問題、『とある魔術の
「そう言えば、禁書目録が持つ一〇万三〇〇〇冊の魔道書の知識を正しく使えば、魔術師は何に到達できるんだっけ?」
答えは
5
「……ま、じん?」
上条当麻の頭の中が絶望で埋め尽くされる。
脳裏に無限に続く迷宮が浮かび上がる。
(『魔神』って本物の『魔神』かサンジェルマンみたいな『魔神』を騙っただけの偽物じゃくてオティヌスと同じ正真正銘の『魔神』なのかしかも僧正みたいに弱体化している節もない全力全開の神あり得るのかそんなのそもそも上里のヤツが
得体の知れない寒気に全身が襲われる。
ネガティブな思考が堂々巡りする。
「いいや、待て」
その思考を、オティヌスの声が断ち切った。
「確かに
オティヌスは理論的に述べる。
『魔神』とは御伽噺のような空想の存在ではなく実際に存在した脅威だと、突然に『魔神』が降って湧いてくる可能性は低くともゼロではないと、他でもない『魔神』オティヌスがよく知っている。
しかし、そこまで述べてからオティヌスはこう切り返した。
「だが、お前が
「どっ、どういうことだ⁉︎」
話について行けなくなり、上条当麻は聞き返す。
『魔神』を自称する青年は言い返す事なく笑って話を聞いている。
「アラン=スミシーの名前は有名だ。魔術サイドよりも、むしろ一般社会によく知られた名前だよ。そこらのイギリス人を捕まえて有名な作家を挙げてみろと質問すれば、一〇本指が埋まる頃にはルイス=キャロルだのコナン=ドイルだのと並んで必ずアラン=スミシーの名前が出てくる。それくらいのランクだよ」
「ええっと……」
いまいちその凄さが分からない上条は、眉を顰めながら尋ねる。
「それだけ有名なら、やっぱり『魔神』になれるような凄い偉人ってことじゃ……?」
「でもそれは執筆だけだ、魔術には何の価値もない。魔術を齧っていようが、ただの物語で『魔神』に至るはずがない」
そうだ。『魔神』とは魔術を極めた先にあるもの。その他の分野にどれだけ秀でていたとしても、魔術においては何の意味も持たない。
「とうまには話したことがあるよね。魔術は既存の伝説やエピソードを参考にした方が効率的なんだよ。左足で文字を書くよりも、右手で文字を書いた方が簡単なようにね」
インデックスの話には聞き覚えがある。第三次世界大戦の直後、グレムリンが襲来する直前だっただろうか。学生寮の一室でバードウェイから魔術について教えてもらった記憶がある。
「でも、アラン=スミシーは特別なんだよ。アラン=スミシーはあらゆるエピソードを利用する事なく、自分で創り上げた記号を儀式に使用したんだよ」
「自分で創り上げた記号……?」
「アラン=スミシーは自らが執筆した作品を魔術に使用する。つまりは左足で文字を書いた馬鹿だ。ゼロから神話を構築するような偉業ではある。新たな位相を創造した天才ではある。だがな、そんな非効率な魔術で到達できるほど『魔神』は甘くない」
オティヌスはそうはっきり断言した。
「耳が痛いなー。似たようなことはメイザースから何度も言われたよ。革命的ではあるけど、実用的ではないってね」
アラン=スミシーは自虐的に笑った。
言われ慣れたようにヘラヘラと笑っている。
そんな青年にオティヌスは挑発を投げかける。
「姿を曝け出せよ、
「……的確なことを言うね」
『魔神』ではないと分かった。
それでも、この悍ましい恐怖は消えない。
『黄金』を思い出せ。『魔神』でないからと言って、イコール弱いと決まった訳じゃない。むしろその脅威は高まる。
『聖人』も、『神の右席』も、『魔神』も、『黄金』の魔術師も、あの『大悪魔コロンゾン』だって、何かの神話・伝承を利用して魔術を発動していた。だが、アラン=スミシーにはそれがない。ルールが分からない、先が見えない、これまでの定石が通用しない。ジョーカーでありイレギュラー、次の瞬間に殺されたっておかしくはない。
そんな
「ぼくの目的はただ一つ。『
6
「きみは自分が世界の中心にいるって思ったことはないかい?」
唐突に質問が投げかけられた。
「世界の定義なんてどうでもいい。単純に印象の話として、自分の周りではよく事件が起こると思ったことは? 世界は広い。そんなものを一人で支えられるはずはなく、みんなの力を合わせて世界ってヤツを守っているはずだ。それでも、自分の手の届く範囲で世界の存亡を賭けた戦いが巻き起こるとは思わないかい? 例えば、どうしてきみに
「……僧正みたいなことを言うな」
上条当麻は右手に目を落とす。
そして、考える事なく
そんな問答は既に済ませている。今更、悩むまでの事ではない。
「詭弁だ」
「へぇ?」
「確かに俺の周りではよく事件が起こる。誰かを救ったのは一度や二度の経験じゃない。でもさ、誰だってそうだろ? 誰だって毎日何かを乗り越えていて、誰だって毎日誰かの救いになっていて、それが最終的に世界を救ってるんだ。俺はたまたま世界を救う決め手にいただけで、俺一人の力で何かを救えたことなんて一度もないよ」
「ふーん、自分のことをどこにでもいる平凡な高校生だと思ってるんだ」
「当たり前だろ」
「そんな訳ないだろ。
その言葉には納得がいかなかった。
みんなを助けたいって、一人も死なせたくないって、そう思うのは当たり前のことだ。それをできない、やらない。そんなヤツは平凡ですらない。ただの負け犬だ。
しかし、アラン=スミシーは口を挟む間もなくこう告げた。
「特別な右手も、前兆の感知なんて経験則も、ましてや
「……しゅじん、こう……?」
「ああそうさ。気づかなかったのかい? こんなご都合主義な世界があるもんか。この
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
価値観が違うヤツらとは何度もぶつかった。
例えば『魔神』。傲岸不遜な神は人間なんて物差しでは測れず、理解できないことでいっぱいだった。
そんなヤツが相手だったとしても、人と人は分かり合えるはずなんだ。相手を悪として切り捨てなければ、繋ぐ力を諦めなければ。
でも、或いは。
そんな『魔神』よりも理解ができない。
常識を駆逐する怪物が現れた。
「世界をきみ一人が支えているという話じゃない。きみが世界を救うという話じゃない。世界の存亡を賭けた戦いが、或いは
オティヌスの位相を思い出す。
あの世界を壊したのは上条当麻だ。
であれば、上条当麻こそが世界全ての不幸を生み出した張本人と言えるのではないか?
「きみはいいかもしれない。不幸だとは言っても、結局最後は何とかなるだろう? 女の子に囲まれて幸せだろう? だけど、きみのせいで起こった事件に巻き込まれる人達はどうする?」
上里翔流の憎悪を思い出す。
上条当麻は何処にでもいる平凡な高校生だ。
であれば、上条当麻なんて者が好意を向けられているのは不自然ではないのか?
「例えば、フレンダ=セイヴェルン。彼女は死んだ、きみの責任だ。きみはそのお話に間に合わなかったから。きみが居ない物語を描くためだけに彼女は殺されたんだ」
サンジェルマンの糾弾を思い出す。
上条当麻が存在すれば救われた人がいた。
であれば、六〇億なり七〇億なりのあらゆる人間の死は上条当麻に責任があるのではないか?
「例えば、木原加群。彼は死んだ、きみの責任だ。きみがそのお話を止められなかったから。きみが遅れた物語を描くためだけに彼は殺されたんだ」
アレイスター=クロウリーの応答を思い出す。
上条当麻が活躍できるようにこの街は作られた。
であれば、上条当麻の暴力的な右の拳こそが悲劇を生み出した諸悪の根源ではないのか?
「そして……アレイスター=クロウリーが死んだのもきみの責任だろう?」
もう一人の
上条当麻がもっと右手を使い熟せていれば、あるいは
だったら‼︎ アレイスターの死も、コロンゾンの結末も、何もかも‼︎ 上条当麻なんてモノが
「もう沢山だ。この
喩え話をしよう。
ミステリ漫画では名探偵が行く先々で殺人事件が起こる。それは名探偵の運が悪いからではない。その世界の治安が悪いからでもない。
だとすると、殺人事件を未然に防ぐ為にはどうすればいいのか。
動機を解消すればいいのか?
犯行可能な状況を作れなくすればいいのか?
……いいや、答えなんて分かりきっている。
きっと、それが最後の殺人となるだろう。
「だからさ」
最後に、アラン=スミシーは右手を伸ばす。
懇願の想いを込めてこう言った。
「死んでくれよ、
対して。
上条当麻はアラン=スミシーを見据えて。
そして答えた。
「断る」
切望の声を跳ね除ける。
青年の右手は虚空に残された。
「もしかしたら、お前が言う通りこの世界は物語なのかもしれない。確かに俺が不幸にした人がいるのかもしれない。誰かが俺を糾弾するべきなのかもしれない。だけど
上条当麻には夏より前の記憶がない。
僅か半年未満の思い出しか持たない。
それでも、そんな少年を優先してくれた人がいた。
それでも、他人を不幸にするとしても手放せない
「
だから。
少年は右手を握り締める。
自らの
「その答えでいいんだな?」
「ここはお前なんかが出る幕じゃない」
その言葉にアラン=スミシーも覚悟を決める。
「はぁ……、“Plorare410”」
「……、」
「……魔法名を名乗る意味、分かるよね?」
魔法名。
魔術師がラテン語で己に刻んだ『目的』。
魔術なんて異常な物に縋り付く『理由』。
或いは、
「さあ、やろうか。こっから先に主人公補正は存在しないよ」
「誰がそんなものに期待するか」
上条当麻とアラン=スミシー。
原作主人公とオリジナル主人公。