【完結】とある原典の霊媒作家(ゴーストライター)   作:大根ハツカ

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 そこは霧の世界だった。

 蒸気と煤煙にまみれた、何処までも毒々しい霧の都。

 轟‼︎ と一室の壁が吹き飛ぶ。

 とある書斎に一人の男が押し入った音だった。

 

『だっ、誰だい⁉︎』

『「原典(オリジン)」を量産する作家など胡散臭いことこの上ないが、実際に担当編集が次々に発狂しているとなれば信じぜざるを得ないな』

 

 男はズカズカと寝室に土足で上がり込む。

 別に文化的には土足でも問題無いのだが、前世からの日本人の習慣が身に付いていた青年からすれば、それは聖域を犯す悪魔の如き冒涜のように感じられた。

 その銀の悪魔は散らばった壁の破片を踏み潰して歩く。

 それは黒いローブを纏った銀の髪の青年だった。

 

『アラン=スミシー……だったか? 先生といいい、私はつくづくその名に縁があるようだ』

 

 何処か青さの抜け切らない若い男は、自信を滲ませた表情で呟く。若者特有の全能感とはまた違う、周囲の人間を見下した顔だった。尻もちをついて驚いている部屋の主を気にする様子などはカケラもない。

 アラン=スミシーと呼ばれた青年は、ビクビクと銀髪の青年を警戒する。()()()()()()()()()()()()()()()()()のだとしても、怖いものは怖いのだ。アランは前世からビビりであった。

 

アラン(Alan)スミシー(Smithee)という名は“偽名の人々(The Alias Men)“のアナグラムか? 前世の作品を盗作していると自称する君にはお似合いの名だな』

『……‼︎』

 

 アランは息を呑む。

 的外れだったからでは無い。アランスミシーはこの時代には存在しない映画監督の名前であり、匿名の意味で用いられた名前だ。そしてその名前の由来として、偽名の人々が一つの説として挙げられる。

 紛れもなく初対面。

 にも関わらず、誰にも教えた事のないペンネームの由来をほぼ言い当てる。

 

『きみは一体……?』

 

 思わず、アラン=スミシーから言葉が溢れる。

 対して、銀髪の青年はにやりと笑って言った。

 

 

『アレイスター=クロウリー』

 

 

 やがて、伝説の魔術師となる者は。

 やがて、異端の魔術師になる者に向かって言う。

 

『私は魔術師だ』

『魔術師……?』

『世界の真理を解き明かす者と言い換えても良い。それで? 私に名乗らせたんだ、君も名乗るのが礼儀というものだろう』

 

 きみはもう名前を知っていたじゃないか、とか。

 そもそも壁をぶち破った男に礼儀もクソも無いだろう、とか。

 色々言いたくなる言葉もアランは飲み込んだ。

 

『ぼくの名前はアラン=スミシー。前世に読んだ物語を盗作して執筆しているだけの、ありふれた作家だよ』

 

 これこそが二人の魔術師の出会い。

 百年を超える因縁の始まりであった。

 

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