【完結】とある原典の霊媒作家(ゴーストライター) 作:大根ハツカ
1
「おはよう、
目を覚ます。
周囲を見渡すと、そこは音楽ホールのようだった。宗教における歌や音楽を学ぶための施設だ。防音壁のためだろうか、あれだけ脳に響いていた『知識の毒』は聞こえてこない。
気がつくと上条は客席の最前列に座っていた。
「お前は……」
「手荒な真似をしてすまないね。しかし、描写されない細かな癖や反応、緊急時におけるきみの動き方を知る為にはこの騒動は必要だったのさ」
目の前の舞台上では、アラン=スミシーが足を組んで椅子に腰掛けていた。
あれだけ存在した
「結局、お前は何がしたかったんだ……?」
上条当麻を殺すと言いながら、何度も見逃し。
上条当麻を殺すと言いながら、親しげに話しかける。
アラン=スミシーの行動には一貫性がなかった。
「最初から言っているだろう? ぼくは『
「それなら、どうして今俺を殺さない?」
「文字通りの意味ではないよ。……そうだね、もう戦う必要はない。だから話しても構わないのか……」
原作主人公とオリジナル主人公。
世界に一人しかいない特別な二人による問答が始まる。
「前にも言ったかな? きみは世界の中心にいる。きみはこの
「だから世界中の不幸は俺の責任だって話だろ?」
「ああ、そう言ったね」
そして、アラン=スミシーは。
この
「
初めて。
アラン=スミシーの表情が崩れる。
飄々とした態度が怒りに覆われる。
これこそがアラン=スミシーの本性。世界を敵に回した魔術師の底の底。
「
「……は?」
上条は思い違いをしていた。
思い違いをするように仕向けられた。
上条当麻を殺しても世界を救う、訳ではない。
全くの逆。
上条当麻と『
そこには大きな隔たりがあった。
「
2
アラン=スミシーは激怒していた。
椅子を倒して立ち上がり、怒りに表情を歪ませて絶叫する。
「関係のない戦いに巻き込まれて、関わりのない少女を助けて、戦争の中心を担わされて、神が創った地獄を味わって、アレイスターの悪巧みに絡め取られて、もう一人の自分に立場を奪われてッ‼︎ きみは何も悪くないのに‼︎ きみが主人公というだけできみは傷つき続ける‼︎ そんなのッ、誰かが……
喩え話をしよう。
ミステリ漫画では名探偵が行く先々で殺人事件が起こる。それは名探偵の運が悪いからではない。その世界の治安が悪いからでもない。
名探偵が殺人事件を解決する世界観であるからだ。
だとすると、その殺人は誰に責任があるのか。
事件を起こした殺人犯の責任か?
世界観の中心にいる探偵の責任か?
……いいや、答えなんて一つに決まってる。
だって
「
カウントしてみろよ。
上条当麻は何度病院送りにされた?
上条当麻は何度右腕を切断された?
そして、上条当麻は何度死亡した?
二度程度じゃ済まなかっただろうがッ‼︎‼︎‼︎
「
それは魔法名。
魔術師が胸に刻んだ原初の願い。
叫び声すら上げられない人々の、叫び声を上げている自覚すらない人々の、何よりもこの世界に存在すら出来なかった前世の人々の願いを叶えたいというアラン=スミシーの祈り。
「だからぼくは救うぞ。
その顔つきは、『ブライスロードの戦い』におけるアレイスターと通ずるものがあった。
或いは、悲劇を前にした上条当麻と言い換えてもいい。
アラン=スミシーは絶対に止まらない。
唯一無二の友人に裏切られようが、絶対に失敗する『黄金』の呪いを受けようが、世界の全てに足を引っ張られようが、絶対に。元々世界から排斥されてきた独りぼっちの転生者なのだから、今さらどんな障害が待ち受けていようとその魔術師にとっては驚くほどの事ではない。
「何を、するつもりだ……?」
「
「それが今回の事件と何の関係がある⁉︎」
「分からないか?
アラン=スミシーは自身を指差した。
そう、つまり。
「
全てはその為の用意だった。
正確な上条当麻を知る為に、本物の上条当麻と殺し合う。
『原作』を崩壊させる為に、惑星を魔道書に書き換える。
「
「……ッ‼︎」
この物語を救う主人公。
上条と寸分違わぬ立ち姿。
唯一の違いは、その少年には右手がなかった。
上条は思わず唾を飲み込む。
もう一人の自分。クローンではない、瓜二つのドッペルゲンガー。それは存在するだけでアイデンティティを揺らがせる。ウィンザー城での戦いがなければ上条もまた揺らいでいたかもしれない。
「……
「そりゃそうだ。異能を否定する右手を、異能で創れるはずがないだろう?」
「……俺はアンタの言う『物語』は知らないけど、
「きみは何を言っている……?
アラン=スミシーは当然のように言った。
そこは上条当麻への信頼が込められていた。
きっと誰よりも上条当麻を信じているのは彼だ。親よりも、先生よりも、たぶん上条自身よりもずっと。
「もう対話は十分だろう? きみはもう戦わなくていい。きみはもう傷付かなくていいんだ」
目の前のツンツン頭の少年は左手を伸ばす。
「だから」
始まりと同じように。
アラン=スミシーは言った。
「救わせてくれよ、
対して。
そして答えた。
「
パチン! と。
上条の右手が差し出された左手を跳ね除ける。
それだけで、目の前の少年は跡形もなく消え去った。
「……何故だ」
「お前はさ」
「どうして救いの手を拒む……⁉︎」
「ちょっと勘違いしてんだよ」
「何が勘違いだ……‼︎ きみだって事件ばかりの毎日にはうんざりだろう⁉︎ オティヌスの創った幸せな世界では『総体』に泣き言を漏らしていたじゃないか‼︎ ぼくはこの
「確かにさ、辛いことは沢山あった。理不尽に泣きそうになったことも、痛みに挫けそうになったこともあった」
「だったら……‼︎」
「だけどな、アラン=スミシー。『物語』としてこの世界を見下してるお前には分からねぇだろうがな、それだけじゃなかったんだよ。この世界は、……この物語はッ‼︎」
漫画で、アニメで、映画で、ゲームで、アプリで、外伝で、あらゆるメディアミックスで、そして何より原作で。彼の勇姿を何度も見届けた。
でも、それでも。
「お前の知らない
知らないことだってある。
戦いだけで上条当麻を理解することはできない。
非常時の善行なんかじゃない。物語にならないような面白くもない日常にこそ、人の本質は現れるのではないか。
「……、ははっ」
アラン=スミシーは、唇の端を歪めて小さく笑った。
今までのような憐れみを込めた上から目線の笑いではない。どうしようもない馬鹿を見るような顔。
「……ぼくの目的を打ち明ければ、きみの負担を軽減できると思ってた」
「悪いけど、俺はアンタの考えるキャラクターなんかじゃない。アンタが俺の何を知ってるんだ? 画面の向こうにいるアイドルのプライベートなんか知らないだろ。それと同じで『物語』の俺を知っていても、それは本当の上条当麻なんかじゃない」
「だけど手遅れだったのか。きみは『
「結局言えることはこれだけだ。テメェの考えた不幸を俺に押し付けるんじゃねぇよ。まずやるべきことは本当の俺を知ることだったんじゃねぇの、アラン=スミシー」
「自分の状況も理解しないで語ってるんじゃねぇよ、上条当麻。きみが何を言おうと関係ない。ぼくのためにきみを救う。今まできみがやって来たことをきみに返してやる」
バヂッ‼︎ と、二人の主人公の目が合った。
一触即発。平行線の対話は交わることなく衝突する。
「きみは忘れてるんじゃないのかい? きみはぼくに勝てない。勝敗は既に決まっている。わざわざ戦うまでもないんだよ」
忌々しさを隠そうとともせずにアラン=スミシーは言う。
ポケットから取り出した小さなリモコンを押すと、音楽ホールの天井が開いていく。
「『知識の毒』。外の音が遮断されなくなるだけで、きみはまともに戦うことも出来ない」
天井が完全に開く。
街を覆う音が耳に入る。
そして、そして、そして。
「お前も忘れてるぜ、アラン=スミシー」
「……………………は?」
想定外の事が起きた。
3
少し時間が巻き戻る。
「うえっ、けほっ、ばはっ‼︎」
全力疾走で逃げ出した
インターネットを通して『知識の毒』が拡散する中、彼だけは無事だった。街中に響く『知識の毒』の音自体は異能ではない。だからこそ、耳の聞こえない彼だけは昏倒していなかった。
しかし、だからと言って何が出来る訳でもない。
「たすけて、たすけてくれぇ……ッ‼︎」
心が折れた城石はある教会にいた。
敵に立ち向かう事も、誰かを救おうと進む事もその老人には出来なかった。自分自身すら信じられない彼に出来ることはただ一つ、……
「たのむよ神さまっ、わしはアンタのことを信じちゃいなかった! 研究の対象としか見ていなかった! でもっ、たのむっ、どうか……どうかッ‼︎」
城石は一心不乱に神に祈る。
それは自身の安全のため……
「
どうか。
自分が見捨てた名も知らぬ少女を救ってくれ、と。
「わしはいいんだ! わしのような根性無しは地獄に落ちても構わない! でもっ、あの子は救われるべき子なんだ‼︎ 守られるべき子供だったんだ‼︎ だからっ、お願いします……‼︎ あの少女を、この災害に巻き込まれた全ての人達を救ってください……っ‼︎‼︎‼︎」
誰だって完全な善人にはなれやしない。
逆説、誰だって完全な悪人にもなれやしない。
少女を見捨てる決断をした彼だって、心の底からそれを悔やみ、少女の救いを願う善性を持つ。
それでも、老人の
学園都市の教会は魔術的記号が一切存在しないハリボテの建物。神に声は届かず、ここに救いは存在しない。老人の祈りの声は無駄でしかない。
あるいは、その叫びは音ですらなかった。
音は空気を振動させ、波となって人の鼓膜を刺激し、それを脳が認識して初めて音となる。であれば、本人も含めて誰にも聞こえない叫びなど音とは言えない。
声なき叫びに救いは訪れない。
奇跡なんて起こりはしない。
「
しかし。
そんな絶望を少女の声が打ち払う。
救いはある、と。
奇跡はある、と。
老人の祈りは銀髪の少女に届いた。
彼女の名はインデックス。
一〇万三〇〇一冊の魔道書の知識を記憶した、シスター服を着た銀髪の少女である。
「
それは魔法名。
悪しき知識を善なる目的のために活用する魔道図書館の在り方。
無辜の民を救うため、
「わたしの持つ一〇万三〇〇一冊の知識で、『知識の毒』を打ち消す。わたしの歌で奇跡を起こして見せる」
彼女は宗教防壁──『
故に、城石と同じようにこの状況でも動き回る事ができた。
「その為には貴様の力が必要だ。私たちはこの教会の動かし方を知らん。だがサンタ服を着た……関係者の貴様ならば操作も出来るだろう?」
そして全長一五センチほどの少女、『魔神』オティヌスはインデックスの通訳をするように手話を繰り出す。
彼女はそもそも人間とは構造が異なる『魔神』。
故に、『知識の毒』はその小さな体に通用しない。
同じように、人間の言葉を理解できない猫のスフィンクスも無事であった。
「だから力を貸して。この『
祈りは届く。
奇跡は起こる。
上条当麻にはなれなくても。
世界を救う主人公にはなれなくても。
誰だって
4
学園都市中にインデックスの歌が響く。
それはパイプオルガンに変形した『
権限を用いて音声をばら撒いた
音声をデータに変換してSNSで拡散した少年がいた。
能力で音量を増幅させた常盤台の女子中学生がいた。
SNSに上がった音源を巨大スピーカーから放ち、大音量を響かせながら走り回った『ヒーロー』がいた。
自身の羽を高速振動させて逆位相の波をぶつけ、『知識の毒』を減衰させて子供たちを守っていた白いカブトムシがいた。
他にも、他にも、他にも。
「言っただろうが」
「…………………………、」
「この街で戦ってたのは俺だけじゃない。世界を支えてるのは俺だけじゃない。その事実を忘れていたお前の負けだ」
「……これで、この程度で勝ったとでも? ぼくはまだ終わっちゃいない。『知識の毒』が防がれたから何だ? ぼくにはまだ彼女たちがいる。ぼくが生み出し、ぼくと感情を共有し、ぼくと同じくきみを愛する魔道書がっ! きみのことが大大大大大好きな三〇一冊の『ハーレム』が……‼︎」
アラン=スミシーの
『
世界さえ滅ぼせるような
「鎌池和馬著書、『とある魔術の
謳うようにアラン=スミシーは言った。
「長月達平著書、『Re:ゼロから始める異世界生活』盗作。『ダフネ』引用。大森藤ノ著書、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』盗作。『フレイヤ』引用。蝸牛くも著書、『ゴブリンスレイヤー』盗作。『勇者』引用」
あるいは、全身を拘束具で雁字搦めにされた上に、両目を黒い目隠しで封じられた暴食の魔女が。あるいは、炎を模した扇状的なドレスを纏い、五感を犯すような色香を放つ美の女神が。あるいは、伝説の聖剣を片手に携え、並外れた才能と恐るべき強運を兼ね備えた白金等級の冒険者が。
「『殺生院キアラ』『フー・ファイターズ』『偏執王アリギュラ』『アルクェイド・ブリュンスタッド』『祈本里香』『シア・ハウリア』『神代利世』『クロエ・オベール』『篠ノ之束』『シャルティア・ブラッドフォールン』『羅濠教主』『シャーロット・リンリン』『安心院なじみ』『ロゥリィ・マーキュリー』『サイガ-0』『南宮那月』『アドミニストレータ』『長門有希』『キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード』『ユミル・フリッツ』『四葉真夜』『オーフィス』『アトーフェラトーフェ・ライバック』『断頭台のアウラ』『セリカ=アルフォネア』『スタグネイト』『哀川潤』『マルグリット・ブルイユ』『戦争の悪魔』『サラ・フィアーマ』『和泉玲奈』『セルティ・ストゥルルソン』『天河舞姫』『ラ・プラス・ファンタズマ』『小桜茉莉』『エーデルワイス』『両儀式』『卯ノ花八千流』『鳴女』『リナ=インバース』『座敷童・緑』」
あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは、あるいは。
ゴッ、と。
世界を軋ませる女性たちが降り立つ。
一人一人が物語の
本来だったら一巻丸ごと、あるいはシリーズ全てを使って戦うような強敵が、タイムラインに流れるイラストのように消費されていく。
「ぼくらの愛を受け入れてくれよ、上条当麻」
三〇一の絶望が上条当麻に殺到する。
5
直後。
それは起きた。
ぱんっ‼︎ という乾いた音だった。
三六〇度を包囲する攻撃。
それだけで、まるで見えないバリアに当たったように
「…………まさか」
「ずっと考えてた。俺を救うにしてもやり方はもったあったはずだ。正々堂々真正面から俺に挑む必要はなかったし、俺と会話を行う必要もなかった。そして極め付けは、お前の魔術。
魔術師であるならば。
魔法名を心に刻んだのならば。
目的のために魔術を組み上げるはずだ。
もっと効率的な手段を選ぶはずなのだ。
だから考えるべきなのは、何故しないのかではない。……何故できないのか。
答えは単純。
「お前が『
魔道書の本質は本ではなく記述。
『異世界の知識』を脳細胞に記述した者。それはもやは、人間ではなく魔道書と言える。
「お前が今まで行ってきた魔術……物理攻撃の無効化、キャラクターの抽出、星の『
三〇一冊の魔道書。
それらは『
アラン=スミシーという『
オーレンツ=トライスが弟子だったというのも、説得力を持たせるためのカバーストーリーに過ぎない。事実、オーレンツ=トライスは『黄金』の魔術師の弟子とは思えないほどに弱かった。
肉体を天使に近づけた『神の右席』が通常の魔術を使用できなかったように、生粋の『
唯一生み出された魔術が『クロスオーバー』。アレイスターと共同制作した魔術。物語のキャラクターを呼び出す召喚術。知識の伝達という『
「そう考えると、お前の不自然な行動にも納得がいった。『
ゴッッッ‼︎ と世界さえ崩壊させる攻撃が放たれる。
しかし、上条は右手を構えない。その必要はない。そんな事などしなくとも、全ての攻撃は上条に当たる前に消失する。
「
反撃や悪意であっても、アラン=スミシーを害そうとした時点で攻撃が出来るようになるのだろう。アラン=スミシーに対して感じる恐怖も、攻撃をしやすくするための小道具だろう。
上条は正面からアラン=スミシーを見据える。
「もう終わりだよ、アラン=スミシー」
「……まだだ」
「お前の手で終わらせるんだ。自分の間違いを認めて、迷惑をかけた人に謝ってきやがれ!」
「まだだッッッ‼︎‼︎‼︎ きみの右手はぼくを破壊できる可能性がある‼︎ だったらぼくはぼくを守るためにきみを攻撃できる‼︎ そんなふうに拡大解釈をすれば……‼︎」
「この馬鹿野郎が……‼︎」
アラン=スミシーは止まらない。
躊躇なく、最大最強最凶最悪の存在を顕現させる。
「鎌池和馬著書、『未踏召喚://ブラッドサイン』盗作‼︎ 『白き女王』引用ッッッ‼︎」
『魔神』さえ超えた未踏の領域に足を踏み入れた。
6
もしも『彼女』が出現していれば、上条はなす術なく倒れ伏していただろう。
例えそれがアラン=スミシーの脳から形成された偽物であったとしても、世界なんて枠組みに縛られるほど『未踏級』は安くない。
しかし、忘れていないだろうか。
もはや事態は学園都市だけに留まらず、惑星全てを巻き込んだ大事件となった。それは即ち、
そう言えば、最初からアラン=スミシーを追っていたのは誰だっけ?
7
同時刻。
ロンドン西部、ヒースロー空港。
「惑星『
そこには『
目の前には空港の中に紛れ込まされていたアンテナ型霊装があった。
インターネット上に『
それがこのアンテナだった。
「見つからないように周囲の景色に紛れ込ませたようですが、私には無意味です。偽装や隠密性において
神裂火織は世界に二〇人といない『聖人』であるが、それ以前に天草式十字凄教の魔術師。
彼女にとって日常の風景から魔術的記号を見出すことなど造作もない。
しかし霊装が見つかろうと問題はない。
その霊装自体は『
故に、ここに
「頼みましたよ、
「もちろんよ‼︎ この天才・ダイアン=フォーチュン様にまっかせなさい‼︎」
ダイアン=フォーチュン。
『黄金』の魔術師、その再現体。
あのアラン=スミシーと同格であり、現在のイギリス清教のトップを担う魔術師である。
「ネット上の『
科学サイドに足を踏みいれた『
言い換えれば、
「だからわたしたちが対処するべきはこの霊装。不滅とは言っても、結局は魔術の一つに過ぎないわ。だったら……」
フォーチュンはサッカーボールが入る程度の、つるりとした素材でできた黒い箱に手を伸ばす。
そう、つまり。
「翻訳、簡略化、新規作成‼︎」
『
魔術が黒い箱に飲み込まれ、伝言ゲームのように
そして、
これまでの功績がそれを担保する。
「いっくわよお‼︎」
8
不発。
『白き女王』なんて存在は現れない。
それだけではない。
上条を囲むキャラクター達も消滅していく。
「…………はは」
白髪の青年は、もやは笑っていた。
何もかもが失敗し、水の泡のように消えた。
そうだ、思い出すべきだった。
「儀礼場が破壊された、か……」
星を『
魔道書の『
かつて、ダイアン=フォーチュンを形成していた『
そこには、
剥き出しの
「繰り返すぞ、アラン=スミシー」
ザン! と上条当麻は踏み込む。
顔に血の気はなく、足元はおぼつかない。
それでも侮ることなど出来るはずもない。
相手は大天使『
「俺だけが特別なんじゃない。誰だって毎日誰かを救ってるんだ。俺が世界を救ってるだと? ふざけるじゃねぇよ! 俺の力だけで救われるほどこの世界は弱くない‼︎」
それが誰かなんて関係ない。
誰かのお陰で『知識の毒』は防がれて、誰かのお陰で惑星規模の術式は阻止されて、誰かのお陰で上条は生きていて、そんなふうに世界は回っている。上条当麻ってヤツはその内のたった一人でしかない。
「俺は
上条当麻は。
この世界は。
上から目線で救ってもらうほど不幸なんかじゃない。
「……いいや、まだだッ‼︎ まだ戦いは終わっちゃいない‼︎ ぼくはまだきみを……ッッッ‼︎」
「本当に俺を救いたかったのなら‼︎ 俺だけじゃない『ヒーロー』が立ち上がった事を喜ばなくちゃいけない‼︎ それが出来ない時点でテメェの幻想はとっくに破綻してる‼︎」
「…………ッッッ‼︎」
「テメェの救いはここが限界だ。だからもう終わらせろ。テメェはテメェ一人の命じゃない。お前が生み出した沢山の
対して、アラン=スミシーは唇を噛んで告げた。
「やれッ、『
後方から悪寒がした。一〇万三〇〇一冊の知識が、一冊一冊が『必殺』の力を持つ魔術が発動する。
『とある魔術の
しかし、上条当麻は瞼さえ閉じない。
「終わりだって言ったろ」
「どうして……ッ‼︎⁉︎⁇」
「まだ分かんねぇのか‼︎」
上条当麻は更に踏み込む。
特別な右手なんていらない。
敵を叩きのめす暴力なんて必要ない。
「俺の右手がお前を殺せるかもしれないから攻撃できるだと⁉︎ 自分を守るために人を傷つけるだと⁉︎」
上条はアランの襟首を両手で掴む。
もう逃さない。
服を引っ張り、額と額を合わせ、至近距離から上条当麻は叫ぶ。自分の心すら分からないこの大馬鹿野郎に言葉を叩き込む。
「
『
自己防衛だと思い込めなければ攻撃はできない。そしてアラン=スミシーは一方的に上条当麻を害することを正当な防衛だとは思い込めない。
だって、彼はそんな理不尽から上条を救う為に立ち上がったのだから。
「俺を傷つけたい訳じゃなかったはずだ。俺を不幸から救いたかったはずだ‼︎」
捨てさせてたまるか、その善性を。
その願いを捻じ曲げさせてたまるものか‼︎
「だからさ、アラン=スミシー」
上条当麻は左手を差し出す。
始めにアラン=スミシーそうしたように。
懇願の想いを込めてこう言った。
「俺と一緒に戦ってくれよ。俺を救う為にお前が代わりになるんじゃ意味がない。俺を不幸にしたくないって言うのなら、この世界に不幸が溢れてるって思ってんのなら‼︎ 俺とお前の二人でこの
上条当麻は誰かの為に人を救ってる訳じゃない。
その不幸を見過ごせないと思ったから、自らの意思によって拳を握った。だから本当の意味で上条当麻を救いたいと思うのなら、不幸から遠ざけるんじゃダメなのだ。
見えないところで不幸が起こってるなんてのは気に食わない。自分の代わりに誰かが不幸になってるなんてのも腹が立つ。
だったら上条当麻の出番が無くなるくらいこの世界が幸せになればいい。
二人でこの
「……はは」
青年の震える唇から笑いが溢れる。
世界に居場所の無かった異世界人は、少年の隣というたった一つの『席』を得る。
「……きみとなら、ぼくも───」
アラン=スミシーは手を伸ばす。
そして。
9
最悪のタイミングで『呪い』は発動した。
10
ゴッッッガッッッ‼︎‼︎‼︎ と。
二人を切り裂くように、真っ白な閃光がアラン=スミシーを薙ぎ払う。
真横からその存在は現れた。
いいや、最初から
それは白地に金刺繍を施した紅茶のティーカップみたいな修道服を纏う銀髪の少女。
「───警告。『とある魔術の
「インデックス……いや、『とある魔術の
『
一冊の魔道書が暴走していた。
「なんでこのタイミングで……⁉︎」
「偶像の理論、マクロな宇宙とミクロな人体は互いにリンクするという訳か。きみに分かりやすいように伝えるならば、全体論の超能力と言い換えてもいい」
「アラン! 無事だったのか‼︎」
「ぼくは『
そうは言っても、アランはふらついていた。
単純に無効化できない攻撃だったのか、修復すらも阻害する攻防がこの一瞬で起こったのかもしれない。
「この世界そのものと『とある魔術の
「話が長い! 端的に頼む‼︎」
「ぼくときみが手を組むと
もちろん、そんな上手く事が運ぶわけがない。
しかしアランには『呪い』がある。
アレイスター=クロウリーが『黄金』にかけた、全てを失敗させる呪い。故に上条当麻を救うという願いが最悪のタイミングで失敗した。
その結果がこれだ。
「さて、どうする? ぼくを見捨てたら逃げられるが」
「決まってるだろ」
「ぼくは死なないし、放っておけば『
「答える必要あるか?」
「だよね」
アランは笑って囁いた。
「逸話再現だ。きみの
ずきんっ、と。
上条のこめかみに頭痛が走り抜ける。
感情の抜け落ちた顔。
瞳の中に浮かび上がる真っ赤な魔法陣。
学園都市とウィンザー城、何度か対峙した記憶が蘇る。そしてそれとは別に、上条当麻の頭の中にあるどうしても思い出せない部分が疼く。