【完結】とある原典の霊媒作家(ゴーストライター)   作:大根ハツカ

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終 章 原点回帰 Origin_Hero.

 

 

 上条当麻(かみじょうとうま)は『とある魔術の禁書目録(インデックス)』を睨み付ける。

 距離は四メートル。

 たったの四メートルを駆け抜け、その少女に触れるだけでこの悲劇は止められる!

 

「おおアッ‼︎」

 

 叫んで、走る。

 なりふり構わずに、自分の怪我を忘れたように力を振り絞る。

 

「妨害者を『上条当麻』と認識。対象に最も有効なエピソードを検索、対抗手段記述済み。これより対抗手段による迎撃を開始します」

 

 対して。

 アランに向かれていた『禁書目録(インデックス)』の頭がこちらへ振り向く。

 二つの魔法陣が空中に浮かび上がり、交差するポイントには黒い亀裂が生じる。亀裂の奥からは『何か』が覗き込んでいた。

 

「旧約第一巻参照、『竜王の殺息(ドラゴン・ブレス)』を引用」

 

 ゴッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 亀裂の奥から光の柱が放たれた。

 例えるならばレーザー兵器か。太陽を溶かしたような灼熱の白い閃光が横薙ぎに上条を襲う。

 

「それはもう知ってる‼︎」

 

 安易に右手に頼るわけにはいかない。完全には打ち消しきれず、絶望的な鍔迫り合いに追い込まれると何かが訴えていた。

 故に上条は破壊の閃光をスライディングのように身を落として回避する。勢いを落とさず突き進む。

 

(このまま突っ込む! ものがなんであれインデックスが使用するのは魔術。異能の力である限り、幻想殺し(イマジンブレイカー)で触れさえすれば破壊できる‼︎)

 

 真下から浮かび上がるように、上条は右手を伸ばす。

 その時だった。

 

「気を抜くな! 『禁書目録(インデックス)』は魔術だけじゃない‼︎」

「旧約第一巻参照、『超電磁砲(レールガン)』を引用」

 

 言葉と同時。

 音速の三倍でオレンジ色に光る槍が突き抜けた。

 反射的に、前兆の感知によって反応できたそれを上条は右手で防ぐ。……()()()()()()

 動き続けていた体が停止した。

 それは明確な隙となる。

 

「しまっ───」

「新約第一巻参照、『FIVE_Over. Modelcase_“RAILGUN”』を引用」

 

 『とある魔術の禁書目録(インデックス)』。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それが引用できるのは異能の力だけじゃない。

 

 ッッッッッッッッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 音すらも消し飛び、鋼の暴風が上条を襲う。

 銃撃なんてレベルではなかった。直撃すれば駆動鎧(パワードスーツ)すら鉄クズに変える一掃。異能を打ち消すことしかできない上条など跡形も残らない。

 

 

 ()()()()()

 上条当麻は傷一つなく立っていた。

 全ての弾丸は上条に届く前に()()され、自爆に近い形でその兵器は破壊された。

 

 

『情けねェ真似してンじゃねェぞ』

「……あ、一方通行(アクセラレータ)⁉︎」

 

 

 目の前にいたのは上条もよく知る人物。

 学園都市第一位の超能力者(レベル5)

 二代目学園都市統括理事長、一方通行(アクセラレータ)

 

「それはきみが持つ縁を頼りにして、ぼくが引用したキャラクターさ」

「……目の前のインデックスと似たようなものか」

「今のぼくはほんの一瞬しか召喚できないけどね」

 

 一方通行(アクセラレータ)も瞬きの内に消えていく。

 

「そしてこの召喚はきみという触媒があったからこそ成功した」

「……は?」

「言っただろう、きみの縁を頼りにして引用したと。キャラクターときみに繋がりがあるからこそ、相手が上条当麻の力になりたいと思っているからこそ引用できたということさ」

「……いや、俺は何も……」

「賞賛を受け取ってくれ、上条当麻。これこそはきみの成果物、きみが人を救ってきたからこそ起きた奇跡なのだと。半年に満たない僅かな人生にも価値はあったのだと」

 

 それこそが上条当麻の本質。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)という力ではない。

 前兆の感知なんて技能ではない。

 右手の奥に潜む物でもなく、神浄の討魔なんかでもない。

 ましてや『主人公補正』なんかあるはずもない。

 

 『繋ぐ力』。

 敵と味方という壁さえも打ち壊し、世界から糾弾されたあの『魔神』オティヌスさえも救った力。

 チートなんて陳腐な言葉では言い表せない一番重要なもの。

 

「脅威度を修正。『上条当麻』及び『アラン=スミシー』に最も有効なエピソードを検索……該当無し(ERROR)決戦(ラスボス)級エピソードを対抗手段として迎撃を再開します」

 

 『禁書目録(インデックス)』は警戒するように距離を取る。

 距離は先程よりも伸びて一〇メートル。

 それでもたったの一〇メートルだ。

 命を賭けてこの地獄を走り抜けろ!

 

「反撃だよ、ボスラッシュは『上条勢力(ハーレム)』で迎え撃つ‼︎」

「旧約第一三巻参照、『黒翼』を引用」

 

 それは第一位が放つ漆黒の翼。

 世界を蹂躙する竜巻の如き黒い暴風。

 不可視の力が音速の数十倍で襲い掛かる。

 避ける暇はなく、一歩でも止まれば先程の二の舞だ。

 だから上条はアランを信じて突っ走る!

 

 

「『食蜂操祈(しょくほうみさき)』『御坂美琴(みさかみこと)』引用」

『第一位なんて関係ないわ。二人合わせて、順位なんて覆してあげましょ☆』

『だから、アンタは迷わずに突き進め‼︎』

 

 

 第三位が撃ち放った超音速のコイン。

 それを第五位が水分操作によって表面に特殊な格子模様を張り巡らせる。

 摩擦熱をブレーキからアクセルに変えたその弾丸は、距離と速度の枷から解き放たれる。

 

 『超電磁砲(レールガン)』×『心理掌握(メンタルアウト)』=『液状被覆超電磁砲(リキッドプルーフレールガン)

 

 二人の超能力者(レベル5)によるコンビネーション。

 即ち、クロスオーバー。

 一枚のコインが黒い嵐の中に道を切り開く‼︎

 

「旧約第四巻参照、『神戮』を引用」

 

 それは大天使が降らす神罰の矢。

 地上の半分を焼き払うとされた炎の豪雨。

 範囲を三〇〇メートルにまで絞ることで、その魔法陣はたった五秒で起動する。

 

 

「『五和(いつわ)』『オティヌス』引用」

『心配せずに進んでください! 私達が必ず守ってみせます!』

『そういう事だ、人間。あの女に上条当麻という救いを見せてやれ』

 

 

 今となっては逆に珍しく感じる大きい方のオティヌス。このオティヌスは上条と和解した後のオティヌスである。故に彼女は『魔神』としての力を万全には振るえない。

 それでも、全盛期を引用された彼女の手にはとある霊装があった。『魔神』の力を完全に引き出すための霊装、神槍グングニル。しかし、今重要なのはそこではない。

 『槍』の設計図にはブリュンヒルド=エイクトベルの知識が用いられている。そして、『ワルキューレ』でありながら『聖人』としての性質も持つ彼女が作成した『槍』は、気がつかない内に『ロンギヌスの槍』の要素が含まれていた。

 

 では、例えば。

 『魔神』が振るうレベルにまで突き詰められた完成度の霊装から、意図的に『ロンギヌスの槍』としての要素を抽出すればどうなるのか。

 

 『主神の槍(グングニル)』×『聖人崩し』=『神様殺し(ロンギヌス)の槍』

 

 神の槍を少女が振るう。

 五和が一突きした槍は雷光と化し、魔法陣の中心にいる『禁書目録(インデックス)』を穿つ。外すはずがない。『ロンギヌスの槍』という要素を強めたのだとしても、『主神の槍(グングニル)』は必中の神槍である。

 神さえ殺すのであれば、天使など言うに及ばず。一時的に術式の前提となる『天使の力(テレズマ)』が暴走し、魔法陣が破裂するような音を立てて砕け散る。

 

 その余波で上条は飛ばされそうになるが、身を屈めて踏ん張りながら走る。

 残り七メートル。

 

「新約第九巻参照、『(いしゆみ)』引用」

 

 ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ、と。

 世界の軋む音が響いた。

 

 それは『魔神』が(つが)えた一〇本もの矢。

 世界を撃ち落とす一〇の破壊が降り注ぐ。

 上条が知る限り、それよりも破壊力が高い異能は存在しない。幻想殺し(イマジンブレイカー)でさえも正面から受け止めきれない一撃。スナイパーライフルから放たれた弾丸が窓ガラスを貫通するように、クレーターすら生まずに惑星を削り取る圧倒的な威力。

 

 出し惜しみは無かった、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「『インデックス』『レイヴィニア=バードウェイ』引用」

『今度は私が助けに来たよ、とうま』

『この私が直々にお前に手を貸してやろう』

 

 

 対するは、イレギュラーを先鋭化した二人の少女。

 全てを正しく使えば魔神に至る可能性を秘める一〇万三〇〇一冊。

 漠然と呼び出した力を、術式や儀式に頼らず扱えるレベルの魔術の腕。

 二人の少女は神の領域に手を伸ばす。

 

 『魔道書図書館』×『召喚爆撃』=『模倣神技』

 

 バキバキバキバキ‼︎ という音と共に、少女の手から『槍』が生じる。

 神の力を一〇〇%奪い取ることはできない。

 だからこそ、一部を切り取り先鋭化する。『主神の槍(グングニル)』におけるたった一点のみを抽出し、『槍』による破壊という現象を再現する。

 

 『弩』と『主神の槍(グングニル)』。

 同じ『魔神』の力が衝突する。

 

 

 その瞬間。

 世界から、あらゆる音が消滅した。

 

 

 世界を削り取る『破壊の矢』。

 世界を塗り潰す『創造の槍』。

 二つの力が拮抗し、奇跡的に世界が無事に保たれる。

 

 しかし、それも長くは続かない。

 片や、一〇本の矢。

 片や、一振りの槍。

 神の矢と人の槍が同じ威力だと仮定しても、単純な計算で一〇倍の差があり、やがて押し負けることは間違いない。数秒遅れて矢が上条当麻に到達する。

 その。

 一瞬手前の出来事だった。

 

 

「『アレイスター=クロウリー』引用」

『まさか私が呼ばれるとはね。感動の別れが台無しじゃないか?』

 

 

 聞こえるはずのない、声がした。

 その声を聞いて、上条は泣きそうになった。

 死亡したはずのその少女が何故現れたのか、そんなことはどうだって良かった。ただ銀髪の少女が笑って佇んでいる。上条を助けるために力を貸してくれている。その事実だけで十分であった。

 

 そして魔女の如き銀髪の少女は。

 かつて『黄金』に所属していた魔術師は。

 アラン=スミシーの親友にして上条当麻の宿敵、『人間』アレイスターは告げる。

 

『「衝撃の杖(ブラスティングロッド)」。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それはアラン=ベネットが保有し、アレイスター=クロウリーが受け継いだ杖。この上なくシンプルで確実な力の象徴。

 ただでさえ強力な『主神の槍(グングニル)』の威力が更に跳ね上がる。

 

 『模倣神技』×『衝撃の杖(ブラスティングロッド)』=『※※※※』

 

 その魔術はもはや人間の認識を凌駕する。

 一〇本の矢。

 一〇倍の槍。

 原作(オリジナル)を超えた二種類の魔術。

 世界の崩壊と再生が繰り返される。

 

 ところで話は変わるが。

 アレイスター=クロウリーとは腐ってもあの『黄金』に所属していた伝説の魔術師。世界にどう作用するか分からない位相の衝突で生まれた飛沫や火花を、狙って向きを調整させられる術式を持つ。

 それに加えて、ヤツは科学の街の王でもある。そして、彼の居城を守る装甲の名は『演算型・衝撃拡散性複合素材(カリキュレイト=フォートレス)』。それは単純な硬度ではなく、最適な振動によって威力を相殺する防壁。

 

 故に、アレイスターにとって世界に被害を出さずに、二種類の魔術を対消滅させることなど造作もない。

 

 余波はなかった。

 後ろを振り向きたい気持ちを抑え、一心不乱に走り続ける。

 残り四メートル。

 

「旧約第二二巻参照、『聖なる右』引用」

 

 それは『神の右席』が手にした奇跡の右手。

 振るだけで勝利を約束する『神の如き者(ミカエル)』の力。

 狙われたのは上条ではなかった。

 距離も速度も関係なく、右腕がアランを封殺する。

 誰かを引用する暇などなかった。

 

「行け、主人公!」

 

 アランの叫び声が聞こえた。

 上条は一言も答えない。背後を振り返ることもない。

 そんな事をする前に、『禁書目録(インデックス)』の元へ走り寄る。アランの叫びを聞き取ったから。アランの願いを汲み取ったから。

 上条は走る‼︎

 

 あと三メートル。

 あと二メートル!

 あと一メートル‼︎

 

 別に物語の主人公になりたかった訳じゃない。

 でも、それでも。

 こんな俺が主人公(ヒーロー)だって言うのなら。

 こんな右手にも救えるものがあるって言うのなら!

 上条はあと一歩を踏み出す‼︎

 

 だが、

 

「新約第二二巻参照、『Magick:FLAMING_SWORD』引用」

 

 ぎぎぎぎぎぎぎみぢみぢみぢみぢぎぎぎぎぢぎぢぎぢぎぢぎぎぎぎぎぎぎぎ、と。

 目の前で、軋んだ音を立ててゆっくりと。

 レイピアを突き出す一瞬手前のような仕草があった。

 

 それは大悪魔が繰り出す極限の一撃。

 あらゆる理を分断し、世界を断ち切る電光の炎剣。

 かつて上条が二度受けた魔術。

 一度目は右手ごと上条当麻は粉砕された。

 二度目は弱体化によって打ち消すことができた。

 

 そう、つまり。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 雪辱戦(リベンジマッチ)

 アランの助けはない。

 今度こそ少年は一人で死因を乗り越えねばならない。

 真正面に迫る力の奔流に対し、上条当麻は己の拳を叩き込む。

 

 衝突。

 

 

 ドッッッボッッッ‼︎‼︎‼︎ と。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)が押し負けた。

 可笑しなことではない。原作においても上条当麻は粉々に破壊され、右手はかろうじて繋がっていただけだ。

 ただし、相違点が一つ。

 

 

「うおおおおおおおおおお‼︎」

 

 

 アランも、『禁書目録(インデックス)』すらも驚愕する。右手は吹き飛んだ、それでも上条当麻は健在だった。

 コロンゾンの炎の剣(フレイミングソード)幻想殺し(イマジンブレイカー)でも打ち消せない。

 インパクトの瞬間、上条は右手を上にかち上げた。それで攻撃を逸らす事はできても、雷炎は右手に纏わりつく。上条当麻の全身を再び破壊しようと腕をつたって来る。

 しかし逆に考えてみよう。その一撃は威力が高過ぎる。当たり方さえ調節すれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。スナイパーライフルから放たれた弾丸が窓ガラスを貫通するように。オティヌスの『弩』がクレーターすら作らないように。

 

 そしてそれは成功した。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)は負けた。

 それでも、()()()()()()()()()()()

 原作(かこ)を踏み越えて、少年は征く‼︎

 

 右手が千切れた奥から、『何か』が生じる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、違う。

 今必要なのは()()()じゃない。

 相手を殺す可能性のある暴力の塊なんかいらない。

 上条当麻の相棒はいつだって()()だった。

 

 ()()に意思があるかなどは分からない。

 ()()は不幸の元凶で、上条当麻を助けるつもりはないのかもしれない。

 ()()は神浄の討魔の物で、上条当麻に引き寄せられた訳ではないのかもしれない。

 それでも、少年と()()は十五年以上ともにいた。

 上条当麻が誕生した時から。

 『とある魔術の禁書目録(インデックス)』が発売した時から。

 だから()()()()は少年の呼び声に応える。

 

 

「来い‼︎」

「『幻想殺し(イマジンブレイカー)』引用‼︎」

 

 

 右手の奥から溢れ出そうとする力に蓋をするように、幻想殺し(イマジンブレイカー)は上条当麻の右手に収まる。

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)が異能に触れてから打ち消すまでには少しのタイムラグが存在する。そしてそのタイムラグは異能の出力が莫大であるほど大きい。

 故にほんの一瞬、僅かな間のみその右手の顕現は許された。

 

(この物語(せかい)が、作者(アンタ)の作った運命(シナリオ)の通りに動いてるってんなら─────)

 

 上条は握った拳の五本の指を思い切り開く。

 まるで掌底を浴びせるように。

 まるで失った記憶の原作(あの日)のように。

 

 

「──────まずは、その幻想をぶち殺す!!」

 

 

 そして、少年は右手を振り下ろす。

 亀裂や魔法陣をあっさりと右手が引き裂く。

 逸話は再現された。()()()()()()()()()()()()()

 

「────警、こく。創約……巻、原作──……致命的な、崩壊。……再現、不可……消」

 

 ブツン、と『禁書目録(インデックス)』の声が掻き消えた。

 同時、上条当麻は限界を迎えて膝から崩れ落ちる。

 

「大丈夫かい⁉︎」

「だいじょうぶ……じゃ、ねぇ……」

「それは……困る。明日にも事件(イベント)があるんだけどなぁ」

 

 耳元で囁く声に応える。

 この感じだといつものアレだ。

 お馴染みの病院にぶち込まれるのだろう。

 

「仕方ないか……、『旧き善きマリア』引用」

『お任せを』

 

 知らない声がした。

 声と共に全身から痛みが引く。

 もはや痛みにすら鈍くなったのかと怖くなったが、どうやら怪我が全部治ったらしい。右手が千切れているからこそ出来た荒技だろう。

 

「傷は塞げても、失った血は戻らない。明日からの脅威に備えて、今日は病院でゆっくりと休みなさい」

「おまえ、は……?」

「ぼくは……もう保たない、かな」

 

 ピシリ、と音がした。

 小さな、それでも致命的な音だった。

 

「魔術の火花や飛沫は忘れた頃に、本人の思いもよらない形でやってくる、か」

 

 ピシリピシリピシリ、と音は止まない。

 アラン=スミシーの全身に亀裂が入る。

 

「ぼくはかつてブライスロードの秘宝に射抜かれた傷を、自分自身が肉を持った人間だと定義する事で効力を弱めた。この際に『人間』としてのぼくと、『原典』としてのぼくの二通りにアラン=スミシーは分裂した」

 

 『原典』アラン=スミシー。

 物語の布教を使命とする魔道書。

 『人間』アラン=スミシー。

 上条当麻を救おうとした魔術師。

 

「普段、ぼくたちの意見は共通していた。でも最後の最後、『人間』は原作よりもそこに生きるきみを優先した。その結果、ぼくという存在は自己矛盾に陥った。自壊もやむなしだよ」

「ま、てッ……‼︎」

「大丈夫、消滅する訳じゃない。物語が伝わる限りぼくは生き続ける。ぼくの執筆した彼女たちには影響しない。『原典(オリジン)』としてのぼくは存在し続ける。『人間』としてのぼくが復活するまで何年かかるかは知らないけどね」

 

 あと一歩。

 ほんの一歩。

 また上条は届かなかった。

 

「ぼくが遺してしまう彼女たちを頼んだ。ぼくが大好きだったこの物語(せかい)を任せた」

 

 光の塵となる寸前。

 アラン=スミシーは笑顔で言った。

 

 

「いつか会えた時、きみの物語(人生)結末(さいご)を聞かせてくれないか」

 

 

 この日、一つの原作(オリジン)は崩壊した。

 





 ご一読いただきありがとうございました。
 これチートハーレムか……? と思うような拙作ではありましたが、チートハーレム杯は書き手としても読み手としても楽しかったです。そんなチートハーレム杯も今日が最終日、全体的にめちゃくちゃ面白いのでぜひ他の作品も読んでみて下さい。
 ところで、あとがきを書いたってことは……ね?






















































 ぼこりという奇妙な音が響く。
 一人の『人間』が魔法陣から這い出た音だった。
 呆然と空を見上げる『人間』から、思わずと言ったふうに声が溢れる。

「………………は?」

 初め、『人間』はその声が自分の出した物だとは気が付かなかった。本来の自分よりも高い声、本来の自分よりも低い視線。自分の掌を眺めると、その手は記憶よりも小さかった。
 遠回りな考えをやめ、直接的に表すならば。


 『人間』アラン=スミシーは少女になっていた。


「……はぁ⁉︎」

 コツン、と。
 聞こえてきた足音が現実逃避していたアランの思考を回転させる。
 状況は分からないが、周囲を見る限り肉体が崩壊してからそう長い時間は経っていない。何故すぐさま肉体が再構成したのか、何故性転換しているのかなどの疑問はたくさんあるが、その下手人はおそらく足音の主だ。警戒して音が聞こえた先を睨む。

「やあ、やあ」

 現れたのは一人の女性。
 肩まで伸びた金色の髪。宝石のような碧眼。ベージュ色の修道服。女性らしさ溢れる豊満な肉体。
 顔も形も違う。性別すらも異なる。記憶の中とは似ても似つかない。
 それでも、()()()()()()()()()
 アランの記憶には無く、しかしアランの『知識』に存在する一人の姿。


()()()()()()()
「……()()()()()()……⁉︎」


 アレイスター=クロウリー。
 大悪魔コロンゾンの肉体に入り込んだ『深淵を超える者』。
 女の肉体をエンジョイ中のド変態クソ野郎である。

「ふむ、召喚は成功したか。呼ぶ出す前に脱獄した上に、肉体も崩壊して一時はどうなるかと思ったが……」
「……ぼくはどうなってる?」
「君の魂を魔道書『とある魔術の禁書目録(インデックス)』に詰め込んだ。君と写本達との関係は、御坂美琴と『妹達(シスターズ)』よりも垣根帝督に近い。普通は不可能な無茶も通ったという訳さ」

 顔の前に手鏡を見せつけられる。
 銀色の長髪。かつてのアレイスターと同じ緑色の瞳。今のアレイスターが纏う服とはまた違った白い修道服。頭のベールが取れているが、それは紛れもなくインデックスの外見だった。

 『禁書目録(インデックス)』の肉体に憑依した死者。
 正しく、霊媒作家(ゴーストライター)

 『とある魔術の禁書目録(インデックス)』が消えた訳じゃない。元より、三〇〇冊の写本は『原典』アラン=スミシーの一部を抽出した物であり、『人間』アラン=スミシーと感情を共有するほぼ同一人物と言っても過言ではない者だ。つまり、ハーレム(一人)という訳である。
 故にアランの魂が詰め込まれた事で、一部でしかなかった『禁書目録(インデックス)』が、アラン=スミシーにまで拡張されたと言った方が正しい。

「……何の要件だ。こんな体にされてまでぼくを蘇生した理由は?」
「不満かね? 今は共に女の身を持つ者、一緒に百合●●●●でもしないか?」
「ぶっ殺すぞクソ野郎‼︎」

 やれやれと言うようにアレイスターは肩をすくめ、皮肉げに笑う。

「全ては君の責任さ。原作(みらい)が大きく変わった。君にはその後始末をしてもらう」

 ザッザッザッザッ! と。
 大量の足音が聞こえて来る。足音の主は何の変哲もないありふれた人々。ざっと数えただけでも一〇〇〇人は超えるのではないか。
 魔術師でも能力者でも原石でもなく、学園都市にすら住んでいない。何一つとして特別なスキルを持たないありふれた少年少女たち。

 共通点はたった二つ。
 日本人であること。
 そして、()()()()()()()()()()()

 彼らはアランを見つけると、口々にこう言った。


「「「「「ヘイ、『禁書目録(インデックス)』」」」」」


 スマホの自動音声アシスタントを起動するように、それぞれのスマホから『とある魔術の禁書目録(インデックス)』が応答する。

 インデックスだけではない。
 御坂美琴。
 神裂火織。
 食蜂操祈。
 オティヌス。
 一方通行(アクセラレータ)
 フィアンマ。
 トール。
 垣根帝督。
 他にも。
 他にも、他にも。
 他にも、他にも、他にも。

「……何、だ……? 何が起こっている⁉︎」
「君はインターネットに魔道書を流した。それを無害に加工して、魔道書アプリとして販売した企業がある」
「R&Cオカルティクス……、アンナ=シュプレンゲルか⁉︎」

 一〇〇〇冊の『禁書目録(インデックス)』。
 一〇〇〇人のアラン=スミシー。

 アンナ=シュプレンゲルの肉体を奪っていたマダム・ホロスが、滝壺理后に与えた水晶に近いだろうか。
 魔力は魔道書が勝手に集め、ユーザーの願った現象をその魔力によって引き起こす。そしてユーザーによる使用履歴が積み重なり、蓄積したビッグデータが更に魔道書を最適化する。
 誰でも簡単に一流の魔術師になれるアプリという訳だ。

「さて、今はまだ日本語で書かれた魔道書を読むことができ、流行に敏感な日本の若者にしか渡っていないが、これが世界中に拡散すればどうなるかは言うまでもないね?」
「まあ、世界中の人々が『黄金』の連中みたいになるってことだろう? ロクなことにはならないだろうね」
「では、どうする?」
「……決まっているだろう」

 ザギンッ‼︎ という凶悪な音が響いた。
 アランは自分の髪を肩の辺りからバッサリと切り落とす。他の『禁書目録(インデックス)』と混ざって紛らわしかったからだ。

「ヘマをするなよ、アレイスター」
「誰に向かって言っている、アラン」

 金と銀。
 元の肉体を失った二人の魔術師は並び立つ。
 かつて自らを打ち破った少年を背に守るように。
 二人の伝説から、声を重ねて宣戦布告があった。


「「上条当麻の日常(せかい)を壊させてたまるか」」


 語られることのない物語の外側で。
 世界を揺るがす衝突があった。
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