えっ?絆はゲームから引き継ぎ!?
「『滅帝』イクスである。フフ……再び我が力を欲するか。物好きな女よ」
その男は傲慢に笑っていた。
半裸であったが、それを気にさせぬ至高の玉体。帝を名乗るが権力の象徴は身につけていない。圧倒的な力により自身の従える勢力以外の全てを滅ぼすことで、唯一にして絶対の王となろうとした男。
――『滅帝』イクス。
「二度も縁が結ばれるとは恐悦至極。主の敵は私の敵も同然。この『
その男はゆるりと笑っていた。
その身を内側から焼き尽くすほどの怨念により、身体が焔に変わった元人間種。赤い西洋鎧で青い焔の身体を包み刀を振るう。既に復讐を果たしているが、その怨念はもはや消えることはない。
――『
「……『
その男は不気味に笑っていた。
見目に興味はないのか服は色褪せている。手入れが不十分でパサついた長い髪をだらりと伸ばし、その隙間から見える目は血に飢えギラリと光る。武器である大鎌二振をそれぞれの手に握り、命令はまだかまだかと待ち望んでいる。
――『
「わーいお久しぶりー! 『氷塵』ブリーズバディスだよ! やっぱりボク、おねーさんと縁があるみたいだね!」
その男は無邪気に笑っていた。
子供のように見えるが侮ってはならない。正体は長き時を生きた龍。彼の前に立つものは皆、彼から見て面白いか面白くないか……それだけで生死が決められるのだ。漏れ出す冷気が空気を白く染めていく。
――『氷塵』ブリーズバディス。
「二つ名『
その男は仮面により笑っていた。
如何なる命令も実行可能な機械仕掛けの戦闘人形。数多の銃火器を搭載し、プログラムに組み込まれた術式で弾丸を錬成するため弾切れを起こすことはない。その銃撃が止まるのは相手の息の根が止まる時。
――『
「ハワワ」
その女はスマートフォンを手に硬直していた。指先はガチャを引くボタンをポチッたままの場所から動いていない。
ガチャのリザルト画面に出てきたキャラと名乗りを上げた男達は、見た目も声も性格も二回目召喚セリフも完全に一致していた。
「なんだコレは……我らは一体何を呼び出してしまったのだ……!?」
呆然とする複数の魔法使い的格好をした人間。
この状態を一言で言うならば――カオス。
……どうしてこうなったのだろうか? 私はガチャを引いただけだというのに。
私がハマっていたソシャゲ、『CALL』。セルラン上位に食い込み、良質なストーリーとクセのあるキャラを楽しめる……まあよくある? ソシャゲだ。
どのキャラも最高レアまで育てる事が可能な上メインストーリーもイベントもほぼフルボイス。新たな物語が追加されるたび運営様ありがとうございます、メンテがあれば石寄越せの声がよく聞こえるなど民度はそこそこ良かった。いや後者は良いと言えるのだろうか? まあいいや。
前からこのキャラいいなあ、かっこいいなあと思える者はいたがどれもそこまででお終い。強化は取り敢えずレベルマックスでスキル強化は中途半端。……まあなんだ、いつもゲーム内の金と素材はカツカツの状態、戦力はストーリー進行可能できるならまあいいかと色々とっ散らかっていた。
そんな私を沼に引き込んだ。それが『イクス帝国』の帝王様と幹部級キャラ達。
彼らがゲーム内に出てきたのはメインストーリー4章2話【蘇る帝国】。
――遥か昔に存在したとされる強国『イクス帝国』。過去メインストーリーでもちらちら名前が出てきていた国である。全世界を手中に収める力があり、実際世界征服一歩手前まで侵攻できていた。そんな国がなぜ突然消えたのか――その真実に迫る、という解説と振り返りを兼ねた1話を終えた後の2話。真っ暗な画面にセリフが映る。
「時は来たれり! 強き溢るる世界よ、『滅帝』イクスの声を聞け!」
「目覚めよ、我が懐剣たる『帝国死星』! かつて我らと戦った弱きは時と共に滅びた。――あの時よりも強き者を滅し、今こそ完全なる支配をもたらそうではないか!」
……つまり、強いやつがゴロゴロいる世界こそ支配する価値がある、と言ったようなもので……予想できるかそんなもん! と誰もが心の中で叫んだ。
そのセリフを証明するかのように、適当育成でも攻略できたこれまでのストーリーと比べ物にならないぐらい帝国の面々は強かった。
復活直後の『滅帝』イクスとの初戦――帝王様には試しの一戦というデバフが掛かり攻撃低下&防御低下&奥義封印状態、さらに体力を一定数削れば戦闘終了するイベントであるにも関わらず全滅しかけるレベルの難易度。それが4章の初戦闘である。
この時の帝王様はデバフ耐性が皆無なためほぼ全ての状態異常を受ける上回復もしない。なのでバフデバフをきっちり使う等戦略をきちんと組めば勝てる難易度に設計されていたのだが……これまでパワーでゴリ押してきたプレイヤーはここで盾役の重要性を無理矢理に教えられた。
かく言う私もその一人である。
「面白い。我を恐れず立ち向かうその目。間違いない、まだ伸びる……ク、フフ、ハハハハハ!」
「この時代を生きる強者よ! また会う時を楽しみにしているぞ!」
見逃されたような形で主人公達は戦闘を終え……ストーリーは進んでいく。
「嗚呼……偉大なる王へ感謝を。守るべきものを守れなかった私を、今も騎士であると断言してくれる貴方達と巡り合わせてくれた事に。ですが命令は絶対。討たねばならぬ。――お覚悟を」
「悲しいねぇ……あの時頷いて帝王様の部下になれば、俺達と楽しく殺しをしながら生きられただろうに。……もう、死星は欠けている……寂しいねぇ」
「あハは! いいねぇ、こういう下等生物の勇気と足掻きを特等席で見れるなんてェ! やっぱりニンゲンは見ていて飽きない生き物だ! まったく帝王様サマサマだよォ! ウン、彼についてきて良かった!」
「否定、否定否定――! 機体名ランドイーターの存在意義の消滅、否定! 最重要目標、前方の敵生命体の排除!」
欲望と忠誠心を併せ持つ彼らの全て、なにもかもに心を鷲掴みにされた。
ストーリーをクリアして感動でぺそぺそ泣きファンアートを貪り考察をしゃぶりつくしピックアップ2で帝王様と帝国死星が実装! 帝国に栄光あれウォオオオオーッと衝動のままガチャを引き……帝王様と帝国死星を揃えることはできたが二人目以降を引き当てる事が……つまり重ねることはできなかった。そのままピックアップは終わった。
かの五人は常設ガチャではなく期間限定ガチャでしか出てこないのだ。多くの帝国推しになったプレイヤー達が深い悲しみに襲われた。
敵として戦った時に一部判明していたが、能力の構成がどれも自己バフと特殊な自己バフで固められているのを見て流石バトルジャンキー……と納得させ、五人の常時発動する能力が中身は違えど名前が『イクス帝国の誇り』で統一されているのを確認して帝国推しは膝から崩れ落ちた。
そんなこんなどハマりした私は弱い帝国なんて解釈違いですが!? の衝動のまま初めて本気で素材クエストを周回をした。目と手首と指の疲労と引き換えにカンストになったステータス――この瞬間、私はきっと優勝した。いや何が優勝なのかはわからないがとにかくやりきった。
やはり重ねられなかったことで火力が少し足りない時もあったが、愛と根性とコンテ石を砕きストーリーもイベントも帝国の面々と共に走った。
その結果、全員絆はMAX。ゲームを始めて最初に引いたキャラよりも先に絆MAXになる、というもにょる感情など何一つとしてなかった。もちろんもう絆が上がらない状態でも彼らを使い続けた。
メインストーリー5章追加と1.5周年記念に伴う新情報発表生放送――そこにあったのはイクス帝国ピックアップガチャ復刻の文字。期間は一週間。
メンテ終了、ガチャ更新完了後。私は魔法の課金カードを消費しイクス帝国ピックアップガチャを引いて――そして今に至るというわけだ。
「あ、主様? 如何なされたので?」
跪き、どこか戸惑っている様子の炎の騎士。
「……風が変だねぇ……俺らのいた世界とは違う」
鎌を肩に担ぎ痩せぎすの男は呟く。
「アッココイセカイナンダーヘー」
確かに、足元にはなんかよくわからない円と記号が組み合わさったものが光っている。異世界召喚テンプレートな状況だろう。それがなんで二次元の存在である帝国の面々も召喚されているのか、という説明にはならないのだけれども。
あっもしかして私の存在がオマケ的なタイプのやつ? となると追い出されてざまぁを目指すストーリー? いや無理無理! 帝国に対してざまぁとか死罪!
「わーいホンモノのおねーさんだー! ぎゅー」
「オアーッ」
あーいけません『氷塵』様! 子供()体温が! 感触がー!
「過度の接触によりマスターの心拍数の急上昇を確認。距離を取るよう推奨します」
「ボクがイイって思ってるからいーの。ボクが法律でーす」
頭ぐるぐる大混乱状態の女性に好き放題ひっついて良い? そんな法律は勿論無い。あってたまるか。アーッ推しがーッ!
「『氷塵』……貴様ァ」
「んべー」
おやめ下さい帝王様このような存在のために怒るなど色々と勿体ないです。
距離感がなんかおかしい。やべーやつらが私に対しての友好度カンスト。はわゎ……。もしかして私がゲームで育てたキャラが召喚されたとか? いやそんなまさか……(ここでスマホの画面を見る)……ありそうなんだよなぁ!?
異世界召喚、といえばチート。私如きに帝国が力をお貸しに……? そりゃチートですは……はわ……。
異世界に
推しと来ちゃった
どうしよう (辞世の句)
「え、衛兵を呼べ! 結界で封じ込め時間を稼――」
「失せろゴミ虫共」
しっしっ、と追い払う軽い動作。引き起こされた突風により魔法使いズは吹き飛んだ。
「ハワ……」
帝王様はまあそのぐらいするよなあという感情とリアルで起きたファンタジーバトル的現象がどすこい大相撲してどちらも頭の中から吹き飛んだ。
何故なら。
「そう怯えなくとも良い。我が
「エッ」
待って今帝王様なんて言った????
「し、失礼ですが王よ! このような状況での宣言は少々ムードに欠けるかと!」
「む、そうだな。聞かなかったことにしておけ」
「ヒャイ」
「このようなカビ臭い場所にいつまでも置いてはおけぬ、行くぞ」
有無を言わせずお姫様抱っこ状態に移行し移動を開始され――アーッ視界に胸筋が! いい匂いが! 五感がぁーっ!
彼らの道の邪魔をする者は皆平等に薙ぎ倒され、覇道を彩る飾り付けの一部として積まれていく。
キーラは殺せないのは暇だ何だと愚痴っていたが、雇い主へ汚いものを見せるわけにはいかないと納得はしていたので敵から情報を抜き出そうと拷問方面に精を出している。
階段を上がる。
「き、貴様ら何をしておる!? 召喚された異世界人がするべきは我が国に全ての力を邪悪なる魔王を捧げ倒すことだと知っておろうが!」
「知らん。退け愚物」
イクスは文字通り、王座から邪魔者を蹴落とした。
ゴロゴロと転がるこの国の王だろう男。側使えも大臣もだれも彼を助けることはできなかった。一歩でも動けば斬る――モミジの威圧に屈したためだ。
ここは王がその威厳を示すための玉座の間。床にチリ埃ひとつも残らぬよう清掃されているので汚れることはなかった。だが、醜態を晒すことで王のプライドをズタズタにすることは成功した。
「ふ、不敬であ――」
口笛のような音に白い息。瞬く間に男の体は自由を奪われていった。
「五月蝿いんだよなあ愚鈍な下等生物のクセに。でも凍らせちゃえばボクの好みにぴったり! ……かき氷とシャーベット、どっちがいいかなあ。んーふふんふ」
よっこいしょ、と氷像を担ぐ少年。その小さな体のどこにそこまでの力があるのかと正体を知らない現地人らは驚愕に目を見開く。
「じゃ、これお庭でオヤツに加工しテくるねェ」
そのままフリーズバディスは玉座の間から出て行く。
「また悪癖が出ましたか……まだ利用価値はあるだろうものを失うわけにはいきません。かの人間の解凍許可を」
「許す。疾く向かえ」
凍ってしまった人間を溶かすため、というなんとも力の抜ける幹部の使い方。それを馬鹿にするものは帝国には一人としていない。龍の力に匹敵する焔など、この世にあるはずがないものの一つであるからだ。
ギャグ描写のような帝国の帝国らしさ、ゲームの中で何度も見たソレをリアルで見ることができた女は心の中で神様ありがとうと祈りを捧げた。
「……良い土地だな」
「肯定。土壌成分の解析結果より農作物の安定供給が可能。また原住民の身体的要素より建築物を使用目的を変更することなく流用が可能と進言」
土の扱いに長けたランドイーターがいつの間にか
「異世界、か。それに魔王なるものがいるとな? またあやつらに匹敵する強者に会えるかもしれんが、我らには拠点となる場が無い。――故にここにイクス帝国の再建を宣言しようではないか!」
「ヤメテェ」
「フフ……嬉しいか我が妃よ、汝が愛した帝国の復活であるぞ」
あっ、やっぱり妃固定なんですね。気絶したいが都合良く起きるはずもなく、女はただ推しからの好意をどうしたら受け流せるだろうかと脳内シミュレーションを重ねていた。
「あれエー? 駄目なのォ? お腹減っちゃったのにィ」
「駄目なものは駄目です。よってこれは私が責任を持って回収します」
「けーち!」
ぶーぶーと文句を言っても口だけで彼の動きを止められるはずもなく。真白に固まった元王はモミジにより解凍され始めた。
「ふんだ。いい子ぶっちゃってさー、スキなヒトに自分はあなたの言うことをちゃんと聞けますよアピールか? あの人の目が届かないところでもちゃんとお仕事して点数稼ぎとかかァ?」
「――な、何を言うのですか突然!?」
「えっその反応当たってるの? 元人間こわ」
帝王様はがっつりオープンに愛を捧げている。そこはまあいい。
モミジは騎士道だ主との恋愛などもってのほかだのなんたら言ってるくせにちょっとつついたら頬染めてるし。バレないと思っていたら大間違いだぞ元人間。
キーラはまあ……なんだ……あの見た目だけど世話焼きのにいちゃん、的な方向にシフトするだろうから障害にはならない。それどころか誰がくっついても祝福する気満々だ。
「ま、ボクが一番先にぐるぐる巻きにしちゃえばいいんだもんね。んふふー、竜の執着って凄いんだぞー♡」
蛇のように先が割れた舌を口から覗かせてブリーズバディスが笑う。
「………………」
とても高性能な聴覚機構と土属性魔法の合わせ技によりランドイーターは大地に根ざすものの音をほぼすべて聞き取れる。
いや、この場合は「聞いてしまった」と言うべきなのだろうか。
「試算」
ランドイーターは計算する。ぐるぐる巻きに……というのは例え7割、物理的な意味3割。3割? 結構高い。マスターは鍛えてないから間違いなく竜のベキャゴキギュッ(※可能な限りフィルターをかけた擬音)には耐えられないぞ。
「…………合掌」
機械であるが感情豊かなランドイーターが祈る。
――どうかマスターに胃痛なき心安らぐ世界が来る事を。