転生したらあべこべアニメ主人公だった件について   作:カンさん

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序章『原作前』
第一話『転生したらフラグを建てられた件について』


 

 月ノ本あさひ。

 それがおれの今世の名前である。

 

 今の言い回しで勘の良い者なら察せると思うが、おれは前世の記憶を持つ人間……所謂転生者である。

 気が付いたら赤ん坊になっており、酷く混乱し制御できない体はワンワンと泣いて見た事のない両親の顔を拝む事ができた。

 思い出せる前世の中で、死んだ記憶が無いが現状を受け入れるしかなく、おれは前世よさらば、こんにちわ来世してしまったのだと自覚するしか無かった。

 

 そしてさらに、どうやらこの世界は前世とはまた違った世界らしい。

 両親の会話や聞こえてくるテレビのニュースから、前世の知識を基に導き出した答えは貞操観念逆転世界。インターネットの一部界隈で人気ジャンルの世界に転生しまったらしく、そう理解すると母親の嫌に逞しい言動も、父親の妙にナヨナヨしい態度も理解する事ができた。

 ただ、貞操観念逆転世界で見られる男女比に偏りは見られず、このジャンルでよく見られる男性への極めて強烈なアイドル視は無さそうである。

 その事にホッとしつつ、追々この世界に慣れていこうと考えながら、おれはもう一つの問題に頭を悩ませた。

 それは……。

 

(あさひは可愛いな〜。将来アイドルになったりして)

(うちの息子が可愛過ぎる。──将来、うちの子を奪う女は絶対一発殴ってやる。息子はやる気は無いが)

 

 ニコニコとこちらを見つめる二人の男女の脳内が、おれの頭の中で流れ込んでくる。

 そう、お察しの通り読心能力だ。

 転生者特有のチートなのか、おれは気が付いたら他人の心を読む事ができた。しかもオンオフできない。

 おかげでこの世界の事を理解する事ができたが、これからの事を考えると辟易とする。なまじ前世のきおくがあるだけに、この能力の弊害を簡単に想像する事ができた。正直、できるならば封印したいと思うくらいには。

 

 しかし、おれのそんな願いが叶う事もなく、そのまま月日が流れて数年後──。

 

「私の名前は神城刹那(かみじょうせつな)──良かったら私と友達になってくれない?」

 

 ある日一人でブランコに座っていたおれは、偉い美形の幼女に話しかけられ──。

 

(ぐひひひ。まずはここで幼馴染フラグを建てて、ゆくゆくはハーレムを!)

 

 欲情に染まり切った感情を叩き付けられた。

 とりあえず、これ誰に訴えたら良いですか? てか何ハラスメント? 

 

 

 第一話『転生したらフラグを建てられた件について』

 

 

 五歳くらいになった頃だろうか。両親の仕事が忙しくなり、一緒の時間を取れなくなっていた。

 朝に保育園に預けられ、夜遅くに迎えに来て貰い飯食って風呂入って寝る。

 なまじおれが手のかからない良い子を演じた所為か、「ごめんね」と言われながらまるで流れ作業の様に日々を過ごしていく。休日も出勤しており、基本家を出ずに作り置きのご飯を食べている状況だ。

 育児放棄と見られそうだけど、二人の反応を見ているとおいそれと非難できない。

 落ち着くまでは協力しよう。そう思っていたのだが……。

 

「辛かったね……君を独りにはしないよ」

 

 何故かおれの家庭事情を知っている銀髪幼女が、おれの頭を無遠慮で撫でている。なんだこいつ。

 この伸ばされた腕を叩き落としてやろうか、と思うも問題を起こすと両親に迷惑を掛けてしまう為グッと堪える。

 しかし、なんでこの子はおれの事を知っているんだろう……先生が漏らしたのかな? 

 原因を探る為、おれは読心能力を使う事にした。

 

 おれのこのチート、最初は制御できずに近くの人間の心を無制限に聞き取っていた。おかげで夜に親の喘ぎ声が聞こえて大変だった。

 しかし数年に渡る訓練の結果、力のオンオフができる様になり、安眠を手に入れた時は思わず泣いて喜んだくらいだ。

 ただ、感情の強い考えは聞こえてしまう。さっきのこの子の考えみたいに。

 そしてその時に聞こえた心の声とこの言動。何となく察しは付くけど、とりあえず力を使ってみる。

 

(原作だとこの時期は両親に相手にされなくて寂しがっている。そこを慰めれば好感度を稼げる筈!)

 

 あー、うん。はいはいはい。

 今のでこの子の正体と狙い、そしておれについて新しい情報が判明した。

 

 まずこの幼女、神城刹那はおれと同じ転生者だ。彼女の言動が前世で見たネット小説でよく見た光景と同じだからだ。

 しかもハーレム狙いのニコポナデポを狙っている踏み台系転生者……。さっきから凄い笑みを向けてくるし、ずっと撫でていや力強すぎる視界がぐわんぐわんするやめろやめろ。

 

 そしてどうやらおれは単に転生したのではなく、憑依転生したらしい。

 それも何かしらの漫画やアニメのキャラに……。

 原作とか言っている事からおそらく貞操観念逆転世界のある作品。

 前世で見た小説の内容と照らし合わせて察するに、女の子……じゃなくて男の子が主人公で、他にも男の子が出てくるタイプ。ハーレムとか言っていたし。

 

(ぐへへ。やっぱり前世の推しのショタ時代は最高だぁ)

 

 流れ込んでくる心を読んで思わず顔を顰めてしまいそうになる。

 しかし困った事になった。おれが何かしらのキャラに憑依転生したという事は、その子と違った行動をした結果どうなるか。想像しなくても分かる。頭に乗せられた手が何時おれの頭をグシャッと握り潰すのか、怖くなってきたな……。

 しかしこいつ、性格ははっきり言ってドン引きだが顔は良いな……。それが腹立つ。

 取り合えず心を読んで月ノ本あさひを演じなければ──。

 

「それにしても酷いよね。君の事を育児放棄するゴミ親は」

 

 ──はああああああ? 

 

 その言葉を聞いた瞬間、おれの頭の中で描かれていた生存戦略は綺麗さっぱり消え失せた。

 こいつ、よりにもよっておれの親を! 

 パシンッと頭に乗せられた手を払いのける。そして感情のままに──多分肉体に精神が引っ張られて──叫んだ。

 

「お父さんとお母さんの事を、悪く言わないで!」

「でもね、あさひ。普通に考えてこの年の子に愛情を注がない親は──」

「──おい」

 

 怒りの沸点を超えてしまいそうなその時、横から第三者の声が響いた。

 銀髪幼女と揃ってそちらを向くと、そこにはこれと言って特徴のない黒髪の幼女がブスッとした顔でこちらを見ていた。

 銀髪幼女──刹那は、おれに対して向けていたニコニコ笑顔を引っこめると目元を釣り上げて声を低くして口を開く。

 

「あーん? 何アンタ? 今あさひと話しているから、引っ込んでくれる?」

「いや、正直どうでも良いし関わりたくないけど、耳障りだから黙ってくんねーかなって」

「は?」

 

 刺々しい黒髪幼女の言葉に刹那がキレる。

 ああ、うん。予想通りこの子キレやすいんだ。こりゃあ、おれが憑依転生したってバレたら「原作汚すな」って殺してきそうだな……。

 完全に注目が黒髪幼女に向いた刹那が、彼女に掴みかかった。

 

「アンタ、もう一回言ってみろ」

「何回でも言ってやるよ。アニメ脳のキモオタク」

「──なるほど。そういう事ね」

 

 納得、いや理解した顔を浮かべる刹那。それと同時に彼女の敵意が膨れ上がり、それに呼応するように黒髪幼女も敵意を上げていく。

 あーこれは……。

 何となく察しつつも、おれは読心能力を使い二人の心を読んだ。

 

(こいつ間違いない! 転生者だ! くそ、何で私以外の奴がこの世界に……!)

(典型的な踏み台転生者……はぁ、原作に関わらずに平凡な日常を送ろうと思っていたのに、何しているんだろアタシ)

 

 幼女らしからぬ言動で察していたけど、心の中で言っている言葉から彼女たちも転生者である事が確定した。転生者複数ものかよオワタ。

 あれかなぁ。黒髪幼女は踏み台転生者をざまぁする巻き込まれ型主人公かなぁ。あーもうめちゃくちゃだよ。

 

(それにしても、やっぱり原作主人公かわいいな……)

 

 そう言ってチラリとこっちを見る黒髪幼女の目には、刹那ほどでは無いにしろおれに対する好意があった。正確には月ノ本あさひに、だけど。

 しかし困ったな……まさか転生者が二人も居るなんて。これから無事に生きていく自信がない。

 それに……。

 ここは保育園。転生者ではない普通の子がたくさん居る訳で、そこでおれでも感じ取れる程の敵意をまき散らせばどうなるか──。

 

「う、うぇええええええん!」

「こわいよおおお!」

「ママー!」

 

 おれが危惧した通り、至る所で園児たちが泣き始めた。

 先生たちはギョッとして対応に走りてんやわんや。

 しかし原因である二人は気づかず目の前の相手の胸倉を掴んで至近距離でにらみ合い、当然先生に見つかった結果。

 

「ああ!? こら、刹那ちゃん! 十和子ちゃん! 喧嘩したらダメです。その手を放しなさい!」

 

 急いで駆け寄ってきた先生が二人を引き離す。同時に二人は邪魔されたと舌打ちした。おいこら幼女ども少しは演技しろ怖いよ。

 

「まったく、モブのせいで計画がパァだ」

「あ、刹那ちゃん!」

 

 刹那はブツクサ文句を言いながら先生の言葉を立ち去り──その前におれにウインクして来た。どういう神経してんだコイツ──そのまま居なくなる。

 

「ちっ」

「ああ、十和子ちゃんまで……」

 

 さらに黒髪幼女、十和子もまた不貞腐れた様子で何処かへと言った。チラリとおれに視線を向けるのを忘れずに。

 

「どうしてこうなるのぉ……」

 

 二人の幼女に無視されて凹む先生。

 敵意の発生源が消えたとはいえ、泣き出した園児達は泣き止むはずも無く、先生達はてんてこ舞いだった。

 その収拾をしないといけない彼ら彼女らには同情するしか無く、おれはそっと先生に寄り添い……。

 

「せんせー、よしよし」

「──うー、あさひくぅん!」

 

 先生の心を癒せるように園児を演じた。

 はぁ……これからの生活が思いやられる。

 

 刹那と呼ばれていた銀髪オッドアイの超絶美少女。

 十和子と呼ばれていた黒髪黒目の何処にでもいる普通の少女。

 しかし彼女達の正体は転生者。

 もし彼女達が望んでいる原作主人公がもう居ないと知れば、果たして彼女達はどの様な行動を取るのか。おれは無事で居られるのか。

 少なくともおれが前世で見ていたネット小説では……碌な目に遭っていない。

 できれば、今後彼女達とは関わり合いたくないが──。

 

 この時おれは、彼女達とはこれから長い付き合いになるとは思いもしなかった……。

 

 なんて、モノローグ調で言ってみたり?

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