転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
第一話『あさひと物語の始まり』
──夢を、見ている。
満月が輝く夜空の下で、一人の男の子が空を見上げていた。
その手には杖が握られており、肩には赤毛の猫の様な動物が居た。
男の子は空から降り注ぐ21の星を見つめると、そのまま杖を掲げて……そして──。
「……変な夢、見たな」
ぼんやりとした頭の中に残っているのは夢の光景。しかし思い出す事が出来ず、漠然と普通じゃない夢を見たと感じた。
普段なら気にも留めないけど……。
「今日絶対何か起きるだろう……」
転生者達の言葉を思い出して、おれは項垂れた。
第一話『あさひと物語の始まり』
おれの名前は月ノ本あさひ。何処にでも居る普通……と言うには少しだけ人とは違う秘密を持つ小学四年生。
好きな科目は算数と体育。苦手な科目は歴史。
さて、おれの人と違う秘密とは前世の記憶を持った転生者である事。さらに貞操観念が逆転していたから戸惑う事も多かったけど、今は慣れている。
もう一つは心を読めること。でもこの能力があっても良い事はあまり無いから普段は使っていない。
「おはよう、あさひ。今日も早いね」
この人はおれの叔父であり、保護者である風間順平さん。
数年前から一緒に住んでおり、とても優しい人だ。
今もこうしておれの作った朝食を美味しい美味しいと笑顔で食べてくれている。
「いやー、あさひは良いお婿さんになるよ」
「ははは。ありがとう」
ちなみに叔父さんは普段は小説作家として家で作業をしているが、時折裏家業の忍者の仕事もしている。ちょっとエッチな内容らしいけど。
しかしそのおかげでおれは食いっぱぐれる事がないため、少々複雑だ。
ご飯を食べ終えたら、弁当片手に登校だ。
でも、その前に。
「行ってきます。父さん。母さん」
仏壇の前で大好きな両親に挨拶をするのを忘れない。
おれの両親はある日交通事故によって命を落とした。それもおれの誕生日の一週間前の事だった。
今思い出しても悲しいけど──二人が心配しないくらいに立派な人間になって安心させてあげたいと今は思っている。
おれは二人に挨拶を交わし、そのまま学校に向かった。
「おはよう」
「おはよう、あさひ!」
「おはようあさひ」
学校に到着し教室に着くとそこには親友二人がいた。
金髪ツリ目の男の子がラタ。紫色の長い髪をカチューシャで纏めているのが真琴。
二人とも小学一年生からの付き合いで、でもこの二人はちょっと仲良すぎて時々浮いているなぁと思う時がある。
「ラタ。ネクタイ曲がってる」
「ま、真琴……!」
……背景に薔薇の花が咲いてそうな場面だなぁ。
正直最近はもう慣れてしまった。
元の世界だと可愛い女の子がイチャイチャしている百合百合しい光景なんだろうな。
もっとも、彼らが居なければおれは学校に通っていなかった為、彼らのイチャつきにどうこう言うつもりはないけど。
「あさひ……♡」
……時折、ラタの熱視線がおれの方に向いてくるが。
おれは気づかないフリをして微笑みを浮かべるのであった。
授業が終わり昼休憩。
おれ達はいつもの様に中庭で弁当を広げて昼食を摂っていた。
ちなみに真琴はラタの作って来た弁当を食べている。愛夫弁当かよ。
「はぁ。最近学校の勉強が退屈に思えてきた」
ラタが自分の弁当を突きながらそう言った。
彼は勉強の成績が良過ぎる。確か学校のテストで100点以外取った事が無いんじゃないかな。
「ははは。まぁ、そう言わずに」
苦笑している真琴だが、彼もまた学校のテストでほぼ100点を取っている。
100点以外の点数の時は字の間違いだったりで基本はミスはない。
「二人とも凄いなぁ」
おれもテストでは100点を取っている。……歴史のテスト以外は。
いや、この世界貞操逆転しているからか偉人の名前や性別が変わっていたり、事件や没年も変わっていて混乱するんだよな……。
なまじ前世の記憶がある分覚えるのが大変なんだよな。
「あさひ。歴史はもっと勉強した方が良いよ」
「そうだね。特に三国志が苦手だよね」
いやだって。武将が全員女になっていたし……。
それに将軍とかも何か女になっていたし……。
「──まっ。それがあさひの良い所だ」
「げっ。刹那」
ラタが嫌そうな声を出したその先には、銀色の長髪を靡かせ、赤と青のオッドアイを持つ絶世の美少女が居た。
彼女の名前は神城刹那。おれと同じ……と言うには少々違うところがあるが、まぁ転生者だ。
そして彼女の持つ前世の記憶はこの世界の未来。つまり──。
(あさひが歴史が苦手なのも原作通りだ)
この世界は彼女の前世ではとある作品として存在している、と言うわけだ。
つまり彼女は望んでこの世界に転生しており、そしてこの世界にやって来た目的。それは……。
「げっ、とは傷つくじゃないか、マイダーリン♡」
「そのダーリンやめろ。あさひにも真琴にもチャラチャラと……!」
イラついた様子で苦言を吐くラタだが、刹那は気にした様子もない。
この様子から分かる通り刹那の目的はハーレムである。彼女はこの世界のキャラ達が好きらしく、こうしてフラグを立てようと必死だ。
もっとも……。
「それに! オレは真琴が──」
「俺?」
「っ、じゃなくて、えっと、その!」
少なくともラタの脈は無いと思うけど。
「……そっか」
前言撤回。真琴も脈がないわ。
おれ? おれは……その……ノーコメントで。
おれの事が好きな感情は本当で、見た目が凄く好みでドストライクだけど、性格がまだなぁ……。
とりあえず確実に言えるのは刹那のハーレムの夢を叶えるのは難しいってことだ。
「ったく。相変わらずだな」
「あ、十和子ちゃん」
そんな刹那に悪態を吐きながら現れたのはもう一人の転生者である黒崎十和子。
常に眉間に皺を寄せている黒髪の少女で、刹那ほどの人間離れした美しさを持っている訳じゃないけど、見た目は可愛い子だ。
ただ、無愛想な態度を取り続けているからか周囲に人が居ない。
普段もおれ達にあまり近づかないんだけど、刹那が居ると突っかかってくる。
「お前なぁ、二人の邪魔をするなよ」
「言いたいことは分かる。──それでも私は挟まりたい」
「殺すぞ」
何だか高次元な話をしていて着いていけないなぁ。
(薔薇に挟まるクソ女)
(ハーレムを妨害する邪魔女!)
額を突き合わせて睨み合う転生者二人。
考えている事が似たり寄ったりで苦笑しか出ない。
……このまま二人の頭を抑えたらキスできそうだなぁと思ったけど、そんな行動は
「おい黒崎。今日は特に私の邪魔をするなよ?」
「それはお前次第だ神城。むしろアンタがアタシの邪魔をするな」
……何やら気になるような会話をしている二人だけど。
──キーンコーンカーンコーン。
もう時間だな。
予鈴が鳴り授業が始まる時間が来た。
おれ達は喧嘩する二人を置いて、急いで教室に向かった。後で知ったけど、二人はしっかりと遅刻して担任の先生に怒られたらしい。
授業が終わり、家に帰る途中。おれの頭の中に広がるのはこれからの事……原作についてだった。
今朝見た奇妙な夢。そして刹那と十和子の会話。
これだけあれば判断する事ができる。
今日始まるんだ。おれを中心に起きる事件が、物語は。
「そういえば、この前公園に美味しいクレープ屋さんが来てたから行かない?」
「良いね。あさひはどうする?」
「……え? あ、うん。行くよ」
考え事をしていた所為で、ラタと真琴の会話に入っていなかった。
えっと、クレープだったか。
今日の夕ご飯の当番はおれだから、自分の食べる量を減らせば良いか。
「どうしたんだ? ボーッとして」
「今日は珍しくアイツらが付き纏って無いから物足りないとか?」
真琴が心配し、ラタが揶揄う様に言ってくる。
そうなんだよな。あの二人今日はおれ達と一緒に帰らずに先に帰ったんだよな。
まぁ理由は何となく分かるけど。
原作に備えてとか、その辺だろうな。
「そういう訳じゃないよ。ただ今日の夕ご飯何にしようかなーって考えてただけ」
「叔父さんは作らないの?」
「最近練習してるけど、まだおれの方が上手いかな」
「あさひは将来良いお婿さんになるなー」
(お、お婿さん!? そんな、真琴オレ達まだ早──)
真琴のお褒めの言葉に、ラタが内心荒れ狂いそれを受信してしまうおれ。
元気で何よりだ。
他愛ない話をしながら目的のクレープ屋さんに向かうおれ達。
「……ん?」
しかし、何やら公園が騒がしい。
どうしたんだろう? と三人で首を傾げながら公園に入ると、警察官が複数居て何かを調べている様子だった。
「あの、何かあったんですか?」
「ん? ああ、どうやらね……」
近くに居た人に聞いてみた所、昨夜此処で傷害事件があったらしい。
ただ被害者も加害者も居らず、残っているのは破壊痕と血痕との事。
周囲の人たちは口々に怖いねーと言っている。
「……一族関係?」
「いや、そういう報告は受けてない」
……何やらラタと真琴がコソコソと話している。
聞き耳は立てない方が良いかな?
原作関係なのか、別件なのか分からないな……。
「二人とも、行こう?」
「そうだね」
「……うん」
おれはラタと真琴と共に事件現場を尻目にクレープ屋さんに向かおうとし──。
(助けて)
突如、頭の中に人の声が響いた。
それによりおれは足を止めてしまい、視線は声の出所を探すように辺りを見渡す。
「あさひ?」
「どうしたの?」
ラタと真琴が不思議そうにし、問い掛けてくる。
しかしおれは二人に言葉を返す余裕がなかった。
今の声は心を読んだ時に聞いた時の物じゃない。
もっと別の、普通じゃない感じだ。声がした方向は──こっちか。
「あさひ!?」
「どこ行くんだ!?」
二人の呼び止める声に構わず、おれは走って走って、茂みの中を突き進む。
視界の彼方此方で木々が折れていたり、削られていたりと何かがあったのが分かった。
そしてしばらく走った先でおれは──一匹の子猫を見つけた。
「あさひ、急に走り出して……」
「一体どうして……」
後から追いかけて来た二人は、おれが抱えた子猫を見て言葉を失う。
無理もない。元々赤毛であろうこの子猫は、傷付いたことによりさらに赤く染まっていた。
おそらく、この公園で起きた何かに巻き込まれたのだろう。いや、正確には事件の渦中にいたというべきか。
「ひどい怪我……」
「急いで病院に連れて行こう!」
「うん!」
ラタと真琴の言葉におれは頷き、先行する二人を追いかけようとして。
「──これって」
子猫が倒れていた場所の近くに落ちていたソレを拾い上げる。
何でこんな物が此処に?
「あさひ、早く!」
「──今行く!」
しかしその疑問はラタに呼ばれた事で一旦置いておく事にした。
ソレをポケットの中にしまうと、おれは二人を追いかけて走り出した。
その際、子猫が首にかけていた宝石がついたペンダントが揺れて、それがイヤに気になった。
「──いよいよ、か」
その光景を刹那が見送り。
「……」
十和子もまた、物語の始まりを感じ取っていた。