転生したらあべこべアニメ主人公だった件について   作:カンさん

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第二話『あさひと魔法の出会い』

 

「先生、どうですか?」

 

 赤毛の子猫を抱えて近くの動物病院へと駆け込んだおれ達。

 治療を終えた先生にラタが心配そうな顔をして尋ねた。確か、ラタの家にはたくさんの猫が居たな……。

 真琴も動物全般が好きだから、ラタと同様に心配している。

 

「うん、大丈夫。命に別状はないよ」

「良かったぁ」

 

 おれ達は先生の言葉にほっと胸を撫で下ろした。

 実際に見てみたら? と言われて部屋に入ってみると、包帯を巻かれて痛々しい格好の赤毛の子猫が診察台の上に横たわっていた。しかし、規則正しく寝息を立てており、先生の言葉に嘘偽りが無い事が分かる。

 

「それにしても珍しい仔ね」

「そうなんですか?」

「えぇ。長年獣医をして来たけどこんな猫見た事ない」

「そう言えばオレも見た事がないな……」

 

 先生の言葉に猫をたくさん保護しているラタが同意する。

 その辺詳しく無い真琴は「へー」と感心していた。

 おれも詳しく無いけどこの子猫が普通じゃない事は分かっていた。子猫に近付きそっと背中を撫でる。

 

(──)

「……」

 

 心を読んでみたけど、やっぱり気絶していて読めない。寝たふりをしている訳じゃない様だ。

 

「さて、今日のところは此処で預かるけど今後どうする?」

「そうですね……オレの家なら一匹増えた所で問題無いので明日引き取りに来ます」

「あ、ごめんラタ。その話だけどさ」

 

 慣れた様子で先生と受け応えしていたラタを呼び止めて、おれは一つお願いした。

 

 

 第二話『あさひと魔法の出会い』

 

 

「猫を保護したい?」

「うん。ダメかな」

 

 動物病院でおれはラタにあの赤毛の子猫を保護したい旨を伝えた。普段そういう事を言わないおれに驚いた様子を見せたラタだったが、特に反対される事なく頷かれた。

 

「その代わり、ちゃんと順平さんに許可を取る事。そして保護する事が決まったらちゃんと面倒を見る事!」

 

 たくさんの命を預かり、保護しているラタの言葉におれは頷き、こうして叔父さんに許可を貰うべく夕食時に話を切り出した。

 

「珍しいな、あさひがそんな事を言うなんて」

「うん、ラタくんにも言われた……ダメ、かな?」

「……ううん、ダメじゃないよ。滅多にお願いを言わないあさひの頼みだ。お世話するの手伝うよ」

「──ありがとう叔父さん!」

 

 快く許可をくれた叔父さんにお礼を言い、食後に真琴とラタに家で保護する事を伝えた。

 すると二人とも喜び、何かあったら手伝うと言ってくれた。やっぱりみんな優しいな……。

 

「さて」

 

 家事を済ませ、お風呂に入り終わり、仕事に出掛けた叔父さんを見送ったおれは、ベランダで公園で見つけたアレを取り出す。

 

「カード……だよな?」

 

 あの赤毛の子猫を助けた場所で見つけた不思議なカード。何故不思議かと言うとまるで宝石の様に青く透明感のある石で作られているからだ。裏から見ても表から見ても何か描かれている訳ではなく、しかし何処となく温かい。

 石板というには軽く薄い為おれはカードだと思っている──いや、そう思う前からカードだと確信していた。

 不思議な話だが……心当たりはある。

 

「これが刹那達の言っていた……」

 

 原作とやらに関係あるのだろうか。

 十中八九関係あるだろう。だからおれはこれを回収しあの子猫を保護する事を決めたのだ。

 これから何が起きるか分からないけど……何となくこうした方が良いと思ったから。

 

「……ん?」

 

 ジッとカードを見ていたら、声が響いた。

 ただの声ではない。心を読む時に聞こえる声と同じ感覚だった。

 しかし、とても弱い声で微かにしか聞こえずおれは目を閉じて集中し耳を澄ませた。

 

(──)

「……ル。ゲー……」

 

 人とは違う声だからか、おれは集中した状態で聞こえた声を口にした──口にしてしまった。

 

旋風(ゲール)

 

 次の瞬間、おれの足元に光り輝く円形の模様──魔法陣が出現した。

 

「え?」

 

 そして変化はそれだけに留まらず、室内なのに物凄く強い風が巻き起こった。

 目を開けてられず、飛ばされない様に踏ん張るので精一杯で、それでも手に持ったカードはしっかりと握り締めていた。

 しかしその代わりと言わんばかりにおれの体の中から()()()が外へ飛び出し、風に乗る様にして飛んでいくのを感じた。

 一瞬にも、永遠にも感じられる時間。風が治まった時ベランダはメチャクチャで、おれは体の力が抜けてその場に座り込んだ。

 

「な、何だったんだ一体……」

 

 突然の出来事に呆然と呟くが、頭の何処かの冷静な部分は何となく理解していた。

 これが魔法なのだろう、と。

 そしてその魔法を発動させたのはおれが今手に持っているこのカードであり──。

 

「あれ……?」

 

 カードを見て思わず声が出た。

 先ほどまでは何も描かれていない透明なカードだったのに、今持っているカードは似ても似つかない別のモノに変わっていた。しかし先ほど感じていた温もりはまだ……いや、さっきよりも温かく感じた。

 それよりも、だ。

 

「疾風……ゲール……?」

 

 カードの上部分には『疾風』という漢字が、そして下部分にはカタカナでゲールという文字が書かれていた。さらに何処かファンタジックな衣装を着た幼い男の子が描かれていた。

 そして裏返してみるとデカデカと魔法陣が描かれており、何処か見覚えがあると感じ……さっきおれの足元で浮かび上がったソレと同じだと気付く。

 

「どういう事なの……?」

 

 不可思議な出来事に頭の処理が追い付かず、さらに目を背けたいリビングの惨状に頭を抱えたくなり──そんな時だった。

 

【助けて!】

「な、なに!?」

 

 突然頭の中に響いた声にビクリと肩を跳ねらせる。

 心の声とは違う声。おれの知らない超常現象は、さらに続く。

 

【この声が聞こえている人! どうか助けてくださ──】

 

 そこまで言ってブツリと途切れる謎の声。

 少し待っても続きが聞こえる事はなく、しかし幻聴だったかと思い過ごすにはリアルで、胸の奥が騒めき落ち着かない。

 ど、どうすれば良いんだ? 

 混乱する頭で次の行動を考えていると、声が聞こえた。今度は慣れ親しんだ感覚の声が。

 

(──)

「え……? 案内してくれるの?」

 

 おれは当たり前の様にカードに話しかけた。

 自分でもおかしいと思う。でも魔法があるのなら、生きている……心があるカードがあってもおかしく無いだろう。

 カードもおれが心を読める事が分かっているのか、おれの問い掛けに肯定し指示を出してくれた。

 

 夕方に赤毛の子猫を預けた病院に向かえ……と。

 

 

 

 何処か気怠い体を動かし、おれは動物病院へと走った。

 途中警察に見つかり補導されたらどうしよう、と不安に思うも不思議と遭遇する事がなく、それどころか人とすれ違う事が無かった。

 その事に疑問に思うも、しかし動物病院に着くと同時にその疑問も霧散した。

 

 ──ドゴン! 

 ──ズシン! 

 ──ガァン! 

 

「な、何アレ……?」

 

 巨大な毛むくじゃらなナニカが跳ね飛び回り、何かを追いかけていた。毛むくじゃらの正体は分からなかったが、追いかけられていた何かは分かった。

 あの赤毛の子猫だ。

 子猫はおれの姿を確認すると一目散にこちらに向かって走り、ピョンっと胸の中に飛び込んできた。おれは咄嗟に受け止めるが勢いがあり思わずその場に転んでしまった。

 

「いててて……」

「あ、ありがとう……来てくれたんだね」

 

 そして当然の様に子猫が人語を喋り、思わず子猫を凝視して固まってしまった。いや、不思議なカードがあるから猫だって喋るのか? 

 

「っ! 危ない!」

 

 子猫の警告に咄嗟に体が動き、子猫を抱えたまま横へと跳んだ。その後すぐに、先ほどまでおれ達がいた所にあの毛むくじゃらが突っ込み、地面と壁を粉砕しめり込んでいた。

 じ、冗談じゃない! 

 おれは子猫を抱えたまま走り出す。

 

「あ、あれは何!? ていうか君は何!? 何が起きているの!?」

「お、落ち着いて! 話せば長くなる──」

「そんな時間無いと思うけどなー!?」

 

 振り返らなくても分かる。背後でズシンズシンと音が響きこっちに向かっているのが。あの毛むくじゃら着いて来ているよ! 

 

「とりあえず手短かに、要点だけ教えて!」

「えっと、あれは古代魔法文明が作り出したアーティファクトの一つで、今は暴走しています! ボクが封印しようとしたんですけど力及ばず……」

「どうすれば良いの!?」

 

 今専門用語を聞いている余裕は無いので、今聞きたい事をおれは叫んだ。

 

「これを使ってボクの代わりに封印して欲しいんです!」

 

 そう言って子猫が取り出したのは、あの時見た首飾り。太陽と月があわさった宝石みたいで、でもただそれだけじゃない気がする。

 

「ボクじゃ上手く使えなかったけど、君ほどの力があれば──この杖の本当の力を引き出せるかもしれない」

 

 そう言って子猫はおれの腕の中から飛び降りて電柱の影に入り、おれも続く様にして座り込んだ。

 

「お願いします。お礼は必ずしますから!」

「そんな事言っている場合じゃ──とにかく!」

 

 毛むくじゃらに知能は無いのか、おれ達を探して顔の部分を彼方此方と動かしている。今なら時間がある。

 

「この状況をどうにかできるのなら、おれは何でもする!」

「分かりました。では、これを持ってボクと同じ言葉を!」

 

 おれは子猫から宝石を受け取り、胸の奥が熱くなるのを感じ取りながら言われた通りに、耳を澄ませて同じ言葉、詠唱を口にした。

 

「──月の力よ。太陽の力よ。我が呼び掛けに応え給え」

「──月の力よ。太陽の力よ。我が呼び掛けに応え給え」

 

 胸の奥がさらに熱くなり、おれ達の足元が光り輝く。

 

「天光満ちとし時我はあり。星の導きの元汝あり」

「天光満ちとし時我はあり。星の導きの元汝あり」

 

 風が巻き起こり、光が天に向かって光り輝く。

 

「「真の姿を我の前に示せ、魔法の杖。──メタモルフォーゼ・マジカルアップ!」」

 

 そしておれは自然と胸の中に浮かんだ言葉を口にし、目の前に現れた杖を掴んだ。

 それと同時におれは掴んだ杖と密接に繋がった感覚がし、自然と体が動いて杖をクルクルと回してビシッと構えた。

 

「成功だ……」

 

 子猫が呆然と呟くのが聞こえる。

 対しておれは手に持った杖をジッと見る。……夢の中で見た杖と同じだ。

 杖先が太陽を模しており、その中に三日月の紋章が描かれている不思議な形。おれが前世で見た魔法少女の杖とは全然違うタイプ。

 でもそれでこの杖に対して不信感を抱く事なく、それどころから妙な頼もしさというか愛着が湧いた。

 これなら何とかできる。

 

「こっちだ!」

 

 電柱の影から飛び出して毛むくじゃらに対して叫んだ。

 すると毛むくじゃらはこちらに振り向き、アスファルトの道路を砕きながら跳んで、おれはそれを見上げて杖を構えた。

 

「──え?」

 

 しかしその瞬間違和感を抱き、それと同時に杖とポケットに入れてあるカードから「危ない」って心の声が聞こえた。

 

「わ、わわ!?」

 

 慌てて横に跳んで避け、背後からズガンッと道路が砕ける音が響いた。

 

「どうしたんですか!?」

 

 駆け寄って来た子猫が驚いた様子で尋ねて来た。

 心の中で疑問の言葉を溢しながら。

 

(主人が危機感を抱けば、杖が自動で防いでくれるのにその素振りが無かった──でも何故!?)

 

 どうやらこの子にとっても想定外の出来事だったらしく、動揺している声が聞こえた。え? これどうしたら良いの? 

 

(どうすれば、どうすれば……!?)

「……ん?」

 

 子猫が悩んでいる中、ふと先ほど声がしたポケットから熱を感じる。

 それを取り出してみると、熱を帯びていたのはあの時のカード……旋風(ゲール)だった。

 

(──)

「え……?」

 

 旋風(ゲール)の心の声を聞いて思わず戸惑いの声が出てしまう。

 でも、現状を打破するにはこれしかないのだろう。

 だから信じよう。このカードを。

 

「とりあえず今は距離を取って──」

「ううん。やってみたい事がある!」

「あ、ちょっと!」

 

 子猫の静止の声を振り切っておれはカードと杖を携えて毛むくじゃらの前に出た。毛むくじゃらが「ボヨヨーン」と……叫び声? 雄叫びをあげてこちらを睨みつけて来る。

 それに負けずにおれは、カードを空中に投げ付けて──心の中に浮かんだ言葉を口にした。

 

「荒れ狂う獣を捕らえ、沈めたまえ──旋風(ゲール)!」

 

 その言葉と共に杖をカードに突き付けると、体の中からゴッソリと何かが抜け落ちる感覚がした。同時にカードから風が巻き起こり、カードの絵柄と同じ少年が飛び出した。

 

『フッ……ハッ!!』

 

 少年……いや旋風(ゲール)は、風を操り毛むくじゃらを拘束した。

 毛むくじゃらは逃げ出そうと足を動かすが……その短い脚は地面に届かずピョコピョコと動くだけだった。

 旋風(ゲール)は得意げな顔をしてこっちを見た。まるで今だ、と言っている様に。

 おれは頷いて駆け出し、毛むくじゃらの前に飛び出す。そして杖を構えて心の中の言葉を叫んだ。

 

「姿迷いしカードよ! 我と契約し生まれ変われ! 我が名はあさひ! 汝の名は──跳躍(ジャンプ)!」

 

 すると、毛むくじゃら──跳躍(ジャンプ)の体が光に変わり杖先に集うとカードへと変わった。カードはそのままおれの手に収まり、旋風(ゲール)もカードに戻っておれの元へと戻った。

 おれは跳躍(ジャンプ)のカードを見てみると、先ほどの毛むくじゃらがスマートになった絵柄が描かれていた。耳が長くてウサギみたいな獣だった。

 

「あ、ありがとうございます。お陰様で助かり……」

「あ、ちょっと!」

 

 カードを眺めていたおれに子猫がお礼の言葉を言いに来たが、まだ怪我が治っていなからかその場に倒れた。

 慌てて抱きかかえて息を確認し、気絶しているだけだと分かりホッとした。

 しかし、ホッとしている暇はなかった。

 

 ──ピーポー、ピーポー。

 ──ウーー、ウーーー。

 ──ザワザワ、ザワザワ。

 

「……これは不味いのでは?」

 

 周りを見ると跳躍(ジャンプ)が破壊した痕。そこに立っている不思議な杖を持ったおれ。

 

「──ごめんなさーい!」

 

 おれは何故か謝りながらその場を走り去った。

 腕に子猫と杖、そしてカードを抱えた状態で。

 

 こうしておれは魔法と出会った。

 これから長い長い付き合いとなる不思議な世界で。

 

 

 

「──どういう事?」

 

 その光景を見守っていた刹那が、困惑した様子で呟いた。

 人払いの結界を解き、破壊された痕は修復される。

 しかし刹那の心の中には疑問が残った。

 

「おい。お前の言う通り手を出さなかった結果、原作と展開変わったぞ」

「……」

 

 刹那は自分の隣に居る十和子に問い掛けた。

 当初、刹那は原作開始の時点から介入する予定だった。しかし、十和子に止められて不測の事態に備える様にしていた。

 しかしその結果に刹那は納得していない様子だった。

 

「カードに絵柄なんてなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……」

「お前、何か知っているだろ」

 

 刹那の問いかけに、十和子は考えながら答える。

 

「お前の原作知識はアニメがほとんどだよな?」

「うん」

「だったら知らないのも無理はない」

 

 十和子は先程の光景を見て、前世の知識を思い出して確信した様子で彼女に言った。

 

「この世界は魔法少年あさひの世界ではない──」

 

 彼女の言葉に刹那は目を見開いて驚いた。

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