転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
『何で……どうして……!』
画面越しに一人の男性が血濡れになって倒れていた。
雪が積もり、白く染めた地面をさらに赤く染め上げるその光景を、◾️◾️という一人の女性が見ていた。
酷い。あんまりだ。
そう叫び、泣いても彼女には何ら影響はない。何故なら、画面越しに映っている光景は作り物なのだから。
『だって、貴方は魔法使いなんでしょ?』
血濡れになった男性の近くに立つ男の子が呟く。
魔法使いは悪い奴だ。生きていたらいけない存在だ。俺たち現実の世界を滅茶苦茶にする存在だと。
そんな彼の言葉に賛同する様に、周りに居る人間達が「そうだそうだ」「地球は俺たちが守る」と叫んだ。
『おれは、君たちを助けようと──』
『関係ないよ』
さっきまでは仲良く一緒にご飯を食べて、村の案内をしていた優しい少年は、何処までも冷え切った表情で自分を助けてくれた男性──月ノ本あさひを見下ろして。
『だって、貴方は魔法使いなのだから』
次の瞬間、何かが振り下ろされる音と共に場面は切り替わり、何処までも綺麗な空が映し出された。
月ノ本あさひが魔法と出会って大好きになった青空が。
「まったく……あの二人は何なんだ!」
「は、はははは」
「ごめんね? おれが勘違いしたばかりに」
「そんな、あさひは悪くないよ」
でもチ◯コないから雌だって言ったのはおれだし……。
しかしあの二人はやはりというべきかユナの事を知っていた。おそらく原作知識で。だからこそユナが男である事に驚いていたみたいだけど……。
……それにしても。
(あからさま過ぎるなぁ、あの二人)
ユナが男の子だと知ってからの二人の態度は分かり易過ぎた。
それまでの冷たい態度は何だったのかと言わんばかりに平謝りしていたし、刹那に至っては──。
「これからは私が守るよ──ダーリン」
「は?」
あの時のユナの冷たい声が忘れられない。凄く怖かった……。
十和子もしどろもどろになって、何も言えずいつもの様に仏頂面を浮かべるだけになっていた。
やっぱり二人とも男の子に対してコミュ障過ぎる……。
当然ながらユナはそんな二人の態度に性別が間違えられた事も含めて怒り心頭で、口には出さなかったけど協力して貰う事を渋っていた。
「でも強いよねあの二人」
「……うん。不自然な程に。まだボクと同じ世界の人間だって言われた方が信じられるよ」
どうやら家に居た時から学校で二人の強い魔力を感知していたらしく、おれの事が心配だったらしい。
魔力量だけでおれの3倍だとか。
流石は転生者。原作キャラよりも強くするのはテンプレだな。
「大丈夫だよ。ちょっと残念な所があるけど悪い子達じゃないから」
今後の付き合いを考えておれが二人のフォローをすると、ユナは驚いた顔をしてから神妙な表情になり。
「あさひ……将来変な女に引っ掛からないでね?」
それはとてもとても心配そうに言われました。
……どういう意味!?
そんな会話があった次の日。
ビューッと力強い風が吹いた。思わず目を閉じてしまう程で、隣のラタと真琴も小さな悲鳴を上げる。
「……ふぅ。なんだか今日は朝から風が強いね」
現在、四時間目の体育でサッカーをしている。グラウンドでボールを追いかけて駆け回るのは楽しいんだけど、真琴の言う通り朝から風が凄く強い。
「えー。このままだと中止になりそう……」
ラタが不満そうにそう言い、おれもそれは嫌だなぁと思った。
(
ユナは言っていた。魔法は私利私欲で使ってはいけない、と。
おれもその考えには賛成しているので、使うつもりはない。
だから中止になった時はごめんねラタ。
なんて考えながらこっちに来たボールを受け止めて、ゴールに向かって走り出し──。
──ヒュルルルルル……!
「──え?」
風を切る音のような、もしくは鳥の鳴き声のような、そんな不思議な音が聞こえて思わず足を止めた。
それと同時に──今までの比ではない強風がおれ達を襲った。
「「「きゃあああああああ!?」」」
「みんな、早く校舎に──うわぁ!?」
みんなの悲鳴と先生の怒号が聞こえる。
おれも蹲って飛ばされない様にし、横にいた真琴はラタをお姫様抱っこにして踏ん張っていた。ラタは赤面していた。うん、大丈夫そうだな!
いや、でも他の人はそうも言っていられない。
おれは服の中からペンダントを、宝石を取り出す。その時、ユナの言葉を思い出した。
「魔法はなるべく秘匿しなくてはいけないんだ。だから、使う時は細心の注意をして」
……此処で魔法を使うのは間違っているのかもしれない。
でもこの風は明らかに普通じゃない。絶対にカードの仕業だ。
だったら、バレても良いからみんなを守る為に魔法を使おう……!
覚悟を決めておれが詠唱を口にしようとした瞬間──。
「──リバースワールド展開!」
聞き覚えのある叫び声が聞こえると同時に、世界の色が抜け落ちた。
これは一体……?
宝石を握り締めて戸惑っていると、剣を片手に刹那がおれの前に飛び降りてきた。
「刹那ちゃん!」
「この結界の中なら、魔法がバレる事は無い。今なら良いよ」
「ありがとう!」
刹那の言葉を聞いたおれは、宝石に魔力を込めて詠唱を開始し──。
「月の力。太陽の力──え?」
しかし、次の瞬間風は止み、微かに感じていた魔力の気配が消え失せた。
え、何で?
「──逃げた、か」
その一言と共に刹那の張った結界も解け、おれ達は現実世界に戻る。
すると周りでは風が急に止み戸惑う生徒たちが居り、真琴とラタも不思議そうにしていた。すぐにお互いの顔が近くて赤面し合っていたけど。
それにしても……。
「……助けて?」
最後に聞こえた心の声に、おれは首を傾げた。
「あさひ、魔法を使おうとしただろ」
放課後、おれは十和子に呼び出されて屋上へとやって来た。そこには刹那も居て魔法関係だという事が分かった。
やって来たおれに対して、十和子は開口一番咎める口調でそう言った。
「ユナから聞いていないのか。魔法は隠すべきだって」
「……聞いている」
「だったら何故軽率にあんな所で堂々と使おうとした?」
やっぱりと言うか、十和子は怒っているらしい。
でも納得できない気持ちがあった。魔法は隠すべきというのは理解しているけど、あのまま何もしなかったらどうなっていたのか。想像するのに難しくなかった。
「このバカが結界を張ったから良かったけど、今後は控えるんだ」
「……でも、何もしないでジッとしていたらみんなが怪我をするかもしれなかったから」
「──お前が魔法使いだとバレたら、世間はお前を守ってくれないぞ」
おれの反論は十和子に切って捨てられる。
「何も知らない世間は怪物だとお前を追放し、同じ世界の住人からは排除される。魔法の世界ってのはそういう世界なんだ」
「でも!」
「──一時の感情に身を任せた時……あさひ、お前は死ぬぞ」
それだけ告げると、十和子は先に一人で帰ってしまった。
その背中を見送るおれと刹那。
……何も言い返す事ができなかった。あんな心の声を聞いてしまったら。
(あさひは未来で死にかける。それも助けた普通の人の手によって。そんなの絶対にさせない!)
魔女狩りと似た出来事なのだろうか。
先ほどの十和子の様子は普通じゃ無かった。
……彼女が見た確定した未来って奴か。
「あの、あさひ。アイツいきなりメチャクチャな事言っているけど……間違った事は言っていないんだ」
刹那もまた、珍しく十和子の言葉に賛同する様に口を開いた。
「出来るだけ私が結界を張ってバレない様にするけど、それでも間に合わない時がある。その時、もしあさひがあの場面みたいに──」
そこまで言って刹那は口を閉じてそれ以上は話さなかった。
しかしその反応で彼女もまた十和子と同じ未来を案じているのが分かった。
「ごめん、先に行くね」
「……うん。ありがとうね」
刹那が先に帰ったのを見送って、おれはしばらく空を見上げ──自分も家に帰った。
そして、今日起きた出来事をユナに話した。
「それは……二人が正しいよ」
ユナはやっぱりというか、二人の言動に肯定を示した。
「過去にも自分が魔法使いである事を明かした人は一定数居たんだ。それで受け入れられて魔法から離れた人も居れば……迫害された人だって居る。それに、そこから犯罪に走る人も居て魔法教会も対応が遅れて大惨事になった事もある。だから、魔法の秘匿は絶対なんだ」
「そう、なんだ……そうだよね」
その考えは分かる。でもそれでもし助ける事が出来た人を助ける事が出来なかったら。
その先を思い浮かべる事が、おれはそっちの方が怖い。
「頼っていて図々しいけど……あさひの為にも、あさひの大切な人達の為にも、魔法はできるだけ隠して欲しいんだ」
「……うん、分かった。今後は軽率な行動は控えるよ」
此処でようやく十和子や刹那、そしてユナの言っている事を飲み込めたおれは彼にそう誓い──魔力の気配を感知した。
これは、昼に感じた魔力と同じだ。場所は──学校!
「気配は感じる。でも、目に見えない……」
夕方の人が少ない校庭で、おれは肩にユナを乗せて学校に戻って来ていた。さらに隣には同じく魔力の気配を感じ取ったのだろう、十和子と刹那も駆け付けていた。しかし、先ほどあんな会話をしたからか、二人の態度は何処か余所余所しい。
おれはもう気にしていないし、何ならおれの為に心配し注意してくれた事はお礼を言いたいくらいなんだけど……。
──ピイイィイイイイ、ヒュルルルルルルル……!
そんな事を考えていると、強風と共に昼に聞いた鳴き声がした。
風に飛ばされない様に踏ん張って空を見れば──居た。
大きな翼を広げて悠々と空を飛んでいる巨大な鳥が。
他の三人も気づいたのか、各々空を仰ぎ見ていた。
「あさひ!」
「うん、あれがカードだね!」
おれは早速
(──)
「え?」
聞こえてきた心の声に思わず動きを止めた。
今の声って……まさか。
改めて空を仰ぎ見て、そこに居る鳥をよく見た。
そして気付く。あの鳥、もしかして……。
「あさひ! あの鳥は私たちで堕とす!」
「封印は任せたぞ」
そう言って二人はそれぞれ魔法を使い空を飛んで──って。
「ダメ! 待って!」
おれは慌てて叫んで呼び止めるが、二人は聞こえていないのかグングンと上空へと飛んでいく。
今のあの鳥と二人を戦わせる訳にはいかない。
そんなおれの想いも虚しく、二人は鳥の居る場所へと辿り着きそれぞれ剣と刀を振るい攻撃を始めた。
「はっ!」
「せいっ!」
おそらく魔力を纏わせたのだろう。光り輝く武器で鳥の両翼をそれぞれ斬り落とす二人。
しかし、強い風が吹くと同時に鳥の翼は元通りになり、二人に向かって思いっきり羽ばたいた。二人は防御魔法を展開するも魔力の篭った風を防ぎ切れなかったのか、そのまま地面に向かって凄い速さで落ちていく。
このままじゃ二人が危ない。
おれは
「彼の者達を優しく受け止めよ──
魔法が発動すると同時に地面がぐにゃぐにゃと蠢く。そこに二人が落ちると、まるでゴムの様に地中深くまで沈み、直ぐに元に戻って二人が放り出された。
「あた!?」
「ケツが!?」
おれは怪我のない二人の元に駆け寄って叫んだ。
「二人とも!」
「あさひ……次こそはちゃんと」
「そうじゃなくて! ──あの子はおれに任せて欲しい」
空を見上げてそう言うと、十和子が叫んだ。
「ダメだ! アタシ達二人の攻撃を受けてダメージが無かったんだ! 正直あさひじゃ太刀打ち──」
「──倒さないよ。おれは、あの子を助けたいんだ」
「──あさひ?」
「ユナくん。二人をお願い」
何で? と十和子の心の声が聞こえた。それが今の状況なのか、それとも昼に注意した時に考えていた事なのかは分からない。でも聞こえてくる程に強い感情が込められているのは分かったから、おれは振り返って微笑んだ。大丈夫だとそう込めて。
「我を遥か彼方へと運び給へ──
おれは風に乗って空へと飛び。
「あさひ!」
おれを呼び止めようとする叫び声を背に、苦しんでいるあの子の元へと飛ぶ。
──ピイイィイイイイ!!
空高く舞い、鳥の元へと辿り着くと、嘴を開いてこちらを威嚇してくる。とても怯えている。さっきの二人の攻撃も相待って。
「大丈夫だよ」
おれはなるべく優しい声でゆっくりと近付く。
──ピイイィイイイイ!
しかし怯えた様子の鳥は力強く羽ばたいて、そのまま鎌鼬を発生させた。鎌鼬はおれに襲い掛かり、体の至る所に切り傷を作る。服が破れ、血で染まり、痛みが走る。
それでもおれは、聞こえてくる心の声に従い──そっとその鳥を抱き締めた。
(──)
「大丈夫。怖くないよ。だから、おれに君を助けさせて」
この子を見つけた時確かに聞こえたんだ。助けてって。
良く見てみると、羽の付け根の所に傷跡があった。
そこをソッと触れると、おれの中からナニカがゴッソリと抜け落ちていく感覚がし、鳥の傷跡が癒えていく。
「良かった。これで大丈夫だね」
『──ありがとう』
その言葉と共に鳥が光り輝くとみるみる小さくなっていき、おれの胸の中に収まる程度のサイズに変わった。
鳥はスリスリとおれに顔を擦り寄せてきて、ちょっとくすぐったかった。
「ふふふ。気付くのが遅れてごめんね?」
しかし鳥は気にしないでと言わんばかりに首を振って、そしてこちらをジッと見つめる。封印して、という事だろう。
おれは杖を構えて呪文を唱える。
「姿迷いしカードよ。我と契約し生まれ変われ。我が名はあさひ。汝の名は──
光り輝き、カードとなった
無事に封印ができたおれは
「あさひ、その怪我」
「あ、ちょっと切っちゃった」
「今から治療する」
そう言って刹那が剣を傷痕に近付け、温かい光を灯してくれた。
するとジクジクと感じていた痛みが和らいでいくのが感じ取れた。
そうして治療をして貰いながら、おれは仏頂面で佇んでいる十和子へと視線を向けた。
「十和子ちゃん」
「──何であんな無茶をしたんだ」
「え?」
「アタシとそこのバカに任せれば、あさひが傷付かなくて済んだのに。それなのに、何で!」
「助けてって言われたから」
おれの言葉に、十和子は息を呑んだ。
「今日の放課後、十和子ちゃんが怒ってた理由……ユナくんから聞いて理解したよ。ありがとうね。でも」
おれは誰かを見捨てる事ができない。
だから、例えおれが不幸になるとしても、誰かを助ける為なら魔法を使うだろう。傷付くだろう。無茶をするだろう。
「後悔はしない。絶対にしない。だから先に謝っておく──ごめんね」
「──っ」
十和子は耐え切れないと表情を歪めると踵を返してそのまま走り去ってしまった。
……悪いことしちゃったな。
聞こえてきた心の声に、そう思っていると側に居た刹那が口を開いた。
「あさひ。多分止めても意味がないだろうから、これだけは言っておく──私たちが守るから」
「刹那ちゃん」
「本当は私が、私だけがって言いたいけど、私馬鹿だから出来るか分からねーし、あのアホに頼りたくないけど仕方ないから手伝わせてやる」
「は、ははは」
「──まっ、だから私たちがフォローできる程度に無茶してくれ」
「ありがとう」
おれは、刹那のその言葉に少しだけ救われた気がした。
(破れた箇所から見えるあさひの肌、えっっっっっっ!)
「…………刹那ちゃん、ちょっと目がえっち」
「え!?!?」
刹那はユナからゴミを見る様な目で見られていた。
「それじゃあ、意味が無いんだ」
帰路の途中、十和子は先ほどのあさひの言葉を思い出していた。
あの言葉は聞いた事がある。
間一髪仲間に助けられ、大親友にもう無理をしないでくれと懇願された時にあさひが言った言葉。あの場面はとても痛々しく、あさひの異常性がこれでもかと描写されており、彼女の前世のトラウマだった。
だから、できればこの世界ではあさひには無理をしない様に育って欲しかったが──どうやらもう手遅れの様で彼女は悲しかった。
「──だからと言って諦めない」
悲惨な未来を回避する為に、十和子は決意する。絶対にあさひを支え続けよう、と。
そして万が一の時は──既に覚悟は決めている。
おそらく刹那も同じ考えだろうと思い、この時能天気なあのバカが羨ましいと思った。
「それにしても」
十和子はふと思い出す。
先ほどの鳥は刹那と十和子の魔法で傷一つ付かなかった。転生者二人の一撃で、だ。
にも関わらず傷を負っていたという事は──。
「アタシ達以外の誰かにやられたって事……?」
その可能性を口にし、十和子は無意識にブルリと体を震わせた。
「──」
そんな彼女を、物陰から野獣の如き眼光が貫いていた。