転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
「七不思議?」
「そう。オレも最近知ったんだけど、この学校にもあるらしい」
いつもの様に中庭で昼食を摂っていると、ふとラタが思い出した様に話題を切り出した。真琴が不思議そうに問い返すと、彼は頷いてから続きを話し始める。
別にしなくて良いのに。
「降りる時と昇る時に数が違う階段。夜中に音が鳴るピアノ。一人で走り出す人体模型。まっ、割と何処でも聞く内容なんだけど
「……最近?」
「そう、最近」
真琴の疑問も当然だ。こういう七不思議というのは、大抵使い古されたモノで最近追加された〜なんて話自体がおかしい。
そもそも昼間からこういう話題で盛り上がるのがおかしい。
「夕方の5時55分に視聴覚室に行くと、出るんだって」
「出るってもしかして──」
「あ、二人とも。今日の卵焼き自信作なんだ。良かったら食べてよ」
おれは真琴の言葉を遮り、ラタの話を中断させて弁当箱から卵焼きをそれぞれお二人にあげた。
二人はキョトンとした顔をするも、おれの卵焼きを食べると頬を綻ばせる。
「ん……! 美味しい!」
「アンタまた腕上げたんじゃない?」
「えへへ。ありがとう」
「んで、話戻すけど出るんだって幽霊」
おれは耳を塞いだ。
第六話『あさひと学校の七不思議』
「あはは。相変わらずそういうの苦手なんだねあさひは」
「怖がっているあさひかわいい……」
ラタ、きらい。
……いや、別に苦手という訳ではない。だって? おれも一度死んで生まれ変わった転生者で? 幽霊と近い存在ですし? それに最近は魔法と出会って日夜ご町内を守る為に魔法少年させて貰っている訳で? そんなおれが幽霊怖がるとかそんな訳──。
「ちなみに。最新情報だと血濡れの髪の長い女だったらしい」
「ひえん」
ひえん。
「大丈夫だぞあさひー。所詮は七不思議。いわゆる作り話だ」
真琴が苦笑しながら慰めてくれる。精神年齢はおれの方が上なのに情けない……。
そう、おれは幽霊が苦手だ。それは前世からも同じで、しかし今世からはさらに苦手になった。
……理由? 心も読む能力で、何もない所からすんごい怨念籠った声が聞こえたらどうなる? 普通にチビる。あれは無理。
分からないから怖いじゃなくて、身近に感じ取れるからこそ怖いのだ。
「それがそうでも無いみたいなんだ」
そしてこういう話題が大好きなラタは、おれが怖がっている様子に興奮しながら話を続ける。この時のラタはドSなので嫌いです!
「視聴覚室で見るっていうのは確かなんだけど、全員見た物がバラバラなんだ」
「バラバラ?」
「そう。一つ目の白いオバケだったり、首の無い落武者だったり、体の下半身がないお婆さんだったり」
お願いだからもうやめてくれ……。
「確かに他の七不思議と比べてふわっとしているな」
「そそ。だからさ、今日確かめに行って見ない?」
「……え?」
──そして放課後。
「何でアタシまで巻き込まれているんだ……」
「いいじゃん別に。もしもの時は盾になってよ」
「酷い」
現在の時間が夕方の5時40分。視聴覚室前にて、おれはラタと真琴、そしてラタに無理矢理連れて来られた十和子と四人で集合していた。
刹那は親に呼び出し喰らっているらしく、今回不参加だ。良いな。おれも不参加だったら良かったのに。
「……怖いの?」
「………………うん」
認めたくないけど、おれは観念して頷いた。
情け無くて泣けてくる。
(あぁ。やっぱり原作通りあさひは幽霊苦手なのか。魔力があるせいで、昔からそういうの感知していたみたいだし)
十和子の心を読んで、ああそういえば変な気配を感じる時があったなぁと納得した。あれって幽霊だったんだ。部屋に塩撒かないと。
さらに気分が落ち込み、おそらく顔を青くさせていると十和子の心の声が聞こえた。
(でも、そうなるとあさひは両親が幽霊として出てきたら怖いのだろうか……)
──父さんと母さん、か。
二人が死んで時間が経った。今でも夢に見る。二人と一緒に過ごした日々を。そしてその当たり前の日常がある日突然崩れ落ちたあの日の事を。
……ラタや真琴、十和子や刹那のおかげで前を見て生きていく事はできているが、やっぱりふと思ってしまう。二人に会いたい、と。
「そろそろ時間だ。それじゃあ、行くよ?」
できれば会うのなら二人が良いな……。
そんな風に思いながらおれはラタに手を引かれて視聴覚室に入る。
「……暗いな」
夕方になり、電気も点けていない。暗いと言えば当然だけど、噂のせいでいつもよりも五割り増しで暗く感じる。というか怖い。
ラタも怖いのか、少し声が震えていた。
反対に真琴は平気なのかキョロキョロと辺りを見渡し、件の七不思議を探す余裕を見せている。
十和子は欠伸をしながら「どうせ噂」と信じていない様子だった。どうやらこのイベントは彼女の知識にない。つまり原作では起きなかった出来事の様だ。
だったらもう帰ったら良いんじゃないかな!? 早く帰ろうぜ!
そう叫ぼうとした瞬間だった。
「え──」
ラタの引き攣った声に全員が視線を向ける。そして同時に息を呑んだ。
何故なら──5時55分になり、学校の七不思議に出会ってしまったから。
「きゃあああああ!?」
「うわあああああ!?」
皆が叫び出し、急いで視聴覚室を出ていく。そして廊下を走り、玄関に来た所で全員が顔を見合わせて叫んだ。
「男と女の幽霊!」
おれが叫び、
「髪の長い血だらけの女!」
ラタが叫び、
「口が裂けた股間がモッコリしていた男!」
十和子が叫び、
「……肉まん」
『……え?』
そして真琴の呟きに、おれ達三人は素っ頓狂な声を出した。
……どういう事なの?
「それってカードの仕業じゃないの?」
「やっぱりそう思う?」
家に帰り、おれはユナに今日起きた出来事を話した。
すると冷静になっておれが辿り着いた答えと同じ事を言った。
現在、叔父さんはいつもの仕事で家を出ている。
だからおれが料理しながら会話をしていても変だとは思われない。……この前危うくバレそうになり、猫に話しかける演技をして温かい目で見られたのは恥ずかしかった。
「真琴くん。あの時お腹空いたから肉まん食べたいって思ったらしくて……」
「そしてラタって子は噂で聞いた幽霊を、十和子も自分の思う怖いと思う幽霊を考えていて……」
「……おれは」
おれが直前に考えたのは両親の事だ。
あの時は気が動転して逃げ出してしまったけど……。
「考える限り、その人の見たいモノを見せるカードみたいだけど……あさひ」
「……何?」
「大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
しかしおれの返答に満足できなかったのか、彼はため息を吐いて再度問いかけて来た。
「もう一度聞くね──お父さんとお母さんが出て来て、ちゃんと封印できる?」
「……」
「今までのカード達は色んな力を使って来た。でもどれも分かりやすい力だった……でも、今回は違う。もしかしたら今まで一番危険かもしれない」
「だったら尚更だよ。このまま放って置いたら学校の誰かが悲しい目に遭ってしまう。だから」
その前に封印しよう。
強い意志を持ってそう言えば、ユナはそれ以上言うつもりないのか頷いてくれた。
おれはその後、十和子と刹那に連絡して明日視聴覚室に居るカードを封印しに行く事を伝えた。
「リバースワールド展開!」
放課後になり、あさひ達三人は視聴覚室に訪れていた。
刹那による結界により、彼女達と視聴覚室に居るカードが世界から切り離された。
「しかし、魔力を感じないな……」
扉を前に刹那が不思議そうに言う。
噂が流れ始めたのは少し前。もしカードの仕業なら魔力の気配で分かる筈だと疑問に思った様だ。
「もしかしたら、そういう気配を消す力を持っているのかもしれない」
「気配を消す。みんなにそれぞれ見たいモノを見せる……多芸だな」
ユナの予想を聞いた十和子が何処か関心した様に言った。
そうこうしているうちに時刻は5時50分。そろそろカードが現れる時間だ。
しかし、突入前にユナが全員に改めて今回の作戦を伝えた。
「相手はこっちの思考を読んで姿を変える。だったら怖いものを思い浮かべず、なるべく無力化しやすいモノを考えるんだ」
「オッケー、もうイメージはできている」
「アタシもだ」
「そしてあさひ」
刹那と十和子の返事を聞いたユナは、あさひを見る。
「絶対に、両親の事を思い浮かべたらいけないよ」
「……分かった」
ユナの忠告を聞くも何処かあさひの返事は弱く。
しかし、時間は待ってくれず55分となった。
「では、突撃!」
四人が入ると同時に、視聴覚室の七不思議は幻をそれぞれ見せた。
ユナが考えた無力化できるモノに──ではない。
「な、ななななな──何で此れが此処に!?」
ユナが見たのは、あさひの家のパソコンでコッソリと見ていた少年漫画のGL同人誌が。
彼はあたふたと顔を真っ赤にさせてみんなに誤魔化すための言葉を吐き捨てる。
「いや、違うのみんな! 普段からこういうの見ている訳じゃなくてあさひの叔父さんが!」
しかし、彼の言葉が皆に届く事はなかった。
それぞれが違うモノを見て囚われてしまったからだ。
「こ、これはぁぁああああ!!」
刹那の目の前には際どい下着を来た大人となったあさひ、ラタ、真琴。さらに青い髪の青年と毛先が黒い銀髪の青年達が刹那に情欲の混じった視線を向けて……チラリと下着を下ろしてその下を見せた。
「ぐはぁ!?」
「刹那!?」
刹那が鼻血を噴出させて倒れる一方、十和子もまた幻に意識を囚われていた。
「待て待て待て待て! それ以上見るなクソ姉貴!」
十和子の目の前には、この世界には無いはずの前世のノートを真剣な表情で見ている今世の姉の姿があった。しかしあのノートはただのノートではない。かつて厨二病という大病を患っていた十和子が前世で書き連ねた小説の内容、キャラ、設定が載っている。所謂黒歴史ノートという奴だ。
今世の十和子の姉はその黒歴史ノートを一通り見ると……十和子に対して物凄く優しい表情を浮かべてうんうんと頷いた。
「──かはぁ!?」
「十和子!?」
精神的な苦痛が限界に達し、血反吐を吐いて倒れる十和子。
多分もう彼女はダメだ。ビクンビクンと痙攣を起こしている様はまるで打ち上げられた魚の様だ。
そうなると、問題は──。
「──父さん。母さん」
やっぱりか、とユナは舌打ちしそうになった。
今回のカードはこちらを無力化する為の幻を見せて来ていた。ユナ達は見事術中にハマってしまい、刹那と十和子は見るからに再起不能だ。そしてあさひも──。
「ダメだ、あさひ! しっかりして!」
ユナは叫んであさひに駆け寄るが。
「──きゃん!?」
バチッと見えない壁に弾かれてしまう。
カードの仕業? 否。今ユナを拒絶したのは──あさひ自身だ。
彼の魔力が心に影響されて、この夢を終わらせない様に無意識に邪魔者を拒絶していたのだ。
だから、誰の声も聞こえない。幻に導かれるまま彼は歩く。
「父さん。母さん。お願い、一人にしないで!」
目に涙を浮かべて幻に向かって走るあさひ。
そんなあさひにユナが叫んだ。
「ダメだあさひ! そっちは窓だ!」
しかし彼の言葉は届かず、あさひは誘導されるまま窓に向かい、そして足を縁に掛けて……。
そのまま飛び降りた。
「あさひ!」
ユナが駆け寄るも、あさひはそのまま下へと落ちて行き──。
(父さん。母さん──)
彼は大好きな二人を思い目を閉じて。
「──」
「──」
何かに包まれる感覚と共に、そのまま意識を失った。
「……此処は」
ふと目が覚めると、おれはベッドで寝ていた。
薬品の匂い、周りの風景を見て此処が保健室だと理解した。
「やぁ。目が覚めたかい」
ボーッとしていると隣から声がし、そちらに視線を向けるとそこには先生が居た。
白衣を来てこちらを見つめる眼差しは優しい。
……確かこの人、1ヶ月前に赴任してきた先生だった。確か名前は……。
「ジーク先生?」
「はい、ジーク先生ですよ」
ふんわりと笑う彼に、おれは何処か力が抜けた。
ジーク・ロードスター。クリーム色の髪に緑色の瞳を持つ外国人教諭。その優しい性格から男女問わず生徒に人気だ。
飲む? と渡されたココアを飲みホッと一息入れる。
「……」
何があったのか思い出そうとし……そうだ、おれは視聴覚室に居たんだ。そして、父さんと母さんが現れて……。
「……」
「それにしてもびっくりしたよ。三階から月ノ本さんが落ちてくるのだから」
それにしては怪我が無いな、と不思議に思った。
先生が受け止めてくれたのだろうか?
「まぁね。こう見えても腕っ節には自信があるんだ」
でも、と先生は続ける。
「多分君が助かったのはそれだけじゃないと思うよ」
「え?」
「見えるモノが正しい訳じゃ無い。見えないモノが間違っている訳じゃない」
「どういう意味ですか、先生?」
「……さて、ね」
ただ先生は優しく微笑むと、外を見ておれに言った。
「保護者の人は呼んだから今日の所は帰りなさい」
「はい。あ、でも」
「神城さんと黒崎さんなら既に帰りましたよ。それとあの赤毛の子猫は今日は神城さんの家で預かるそうです」
「……そうですか」
その後、迎えに来た叔父さんにおれは凄く心配され、少し説教されて、先生にお礼を言った後そのまま帰路に着いた。
先生はおれたちの事を最後まで笑顔で手を振り続けて見送っていた。
「――どうか最後までこの町に降り注いだ厄災を取り除いてくださいね。月ノ本あさひさん。それが結果的に我が主の為になるのですから」
「ねぇ。叔父さん」
「どうした?」
車に乗って家に帰る途中、おれは叔父さんに問い掛けた。
「死んだ父さんと母さんに今すぐ会いたいって言ったら……どう思う?」
「あさひ。それって」
叔父さんの声が険しい物になる。何を考えているのか何となく分かり、おれは取り敢えずその考えを否定した。
「別にそういう意味じゃ無い。でも、何が何でも死んだ人に会おうとするのって間違っているのかな」
「……そうだなぁ」
おれの要領の得ない質問に叔父さんは真剣に考えてくれた。
運転をしているからこちらに顔を向ける事はなかったけど、意識はしっかりとこちらに向けている事は何となく分かった。
「正直、同じ事を考えた事はあるよ。叔父さんこう見えてたくさんの人とお別れして来たからね」
「……」
「大人の俺でもそうなんだ。子どもであるあさひがそう思うのも無理ないと思う」
そういえば、叔父さんは裏では忍者みたいな仕事もしていたんだった。
エロい事ばかりされていると思ったけど、裏仕事である以上血生臭い事もあったのだろうか。
「でもね。まだその時じゃないと思うよ」
だからこそ叔父さんの言葉は重かった。
「頑張って頑張って頑張って……そしてその果てに再会した時に俺は頑張ったんだぞって胸を張りたいと思っている」
「叔父さん……」
「それに、あまり情けない所を見せると怒られちゃうからね。だから」
叔父さんが運転していた車が止まり、叔父さんはこちらを向いた。
その目はとても優しいものだった。
「お父さんとお母さんを安心させる為に、もう少し頑張ろうよあさひ」
おれは、その言葉をしっかりと胸に刻み込み頷いた。
「あさひ、ごめん」
次の日学校にて。
登校してすぐ屋上にておれ、刹那、十和子、ユナは集まっていた。
そして顔を合わせるなりユナがおれに謝ってきた。刹那と十和子も申し訳なさそうにして頭を下げてきた。
「ボク達、君を助けることが出来なかった。……何も出来なかった」
「ユナくん……」
「あさひ、今回ばかりはあのカードは保留しよう。現状だと攻略する事ができないし、それにこれ以上あさひが傷つくのは見たくないんだ」
その言葉にはおれが怪我をする事以外にも精神的に傷つく事も含まれているのだろう。
心を読まなくても分かる。それだけ昨日の事がショックで、反省して、でもどうしようもないからユナはそんな事を言ったんだ。
刹那と十和子が反論しないのも、彼女達の力では解決できないからだろうか。
でも、おれはその提案を受け入れるつもりはなかった。
「それはできないよ。もしかしたら他の誰かが怪我をするかもしれない」
「だったらさ、先生に言って視聴覚室を立ち入り禁止にして……」
「それでも誰かがこっそり行くかもしれない。それに」
おれはユナと約束したんだ。
「カード全部集めるって言ったから。此処で逃げ出したら……父さんと母さんに怒られるよ」
「あさひ――分かった。ボクはもう何も言わない。その代わり次こそは絶対に守ってみせるから」
「私もあさひを守るよ――嫁として、ね」
「アタシも手伝う」
三人ともおれの我儘を聞いて手伝ってくれると言ってくれた。
……やっぱり皆優しいな。
だからこそ、今日の夕方絶対にあのカードを封印してみせる――必ず。
「――ふぅ」
夕方5時50分。おれ達は再び視聴覚室に集まっていた。
全員杖を構え、さらに刹那の結界魔法だけでなく、ありとあらゆる強化魔法を全員にかけていた。これであのカードの効果を無効化できれば良いんだけど……多分、そういうのじゃないんだ今回のカードは。
「それじゃあ……行くよ!」
扉を開けて入ると同時に、おれ達の前に気配が強まり――父さんと母さんが現れた。
「――あれって、もしかして」
「ああ! あさひのお父さんとお母さんだ!」
「でも、何で今回はアタシ達にも同じものが見えるんだ?」
背後で三人の声が聞こえる。
でも、それが何処か遠くで聞こえる。それだけおれは目の前の二人に心を奪われていた。
ああ。頭で分かっていても、叔父さんの言葉を思い出しても、三人との約束を胸に抱いても――この誘惑には抗うことが難しい。
やっぱり、おれは――父さんと母さんと一緒に居たい。
「父さん。母さん……」
「――! あさひ!」
ユナの声が後ろからして、近づいてくるのを感じ……バチンっと大きい音が響いた。
「きゃあああ!?」
「ユナ!」
「やっぱり、あさひの魔力がアタシ達を拒絶している……!」
「ああ。それに、さっき私が付与した魔法も弾かれている」
おれは昨日と同じように目の前の父さんと母さんに向かって歩いてしまう。まるで体がそうするのが当たり前と言っている様に。
「っ……あさひ! お前、それで良いのか!? 今日の朝言っていた事を思い出せ!」
刹那の叫びが聞こえる。
「あさひ! それは本当のお前の父さんと母さんじゃない! 気をしっかり持て!」
十和子の叫びが聞こえる。
「あさひ、本当にそれで良いの? それであさひの本当のお父さんとお母さんは喜ぶの? 何より――君の本当の両親が、こんな危ない目に遭わせる訳ないよ!」
ユナの訴えが聞こえる。
そして。
『――あさひ』
『――私たちはいつも見守っているよ』
二人の声が聞こえた。
「――ッ!」
ぼんやりとしていた意識が覚醒する。
ダランと下げていた腕に力を入れて――おれはいつの間にか宝石となっていた杖に力を込めた。
「月の力よ。太陽の力よ。我が呼び掛けに応え給え。天光満ちとし時我はあり。星の導きの元汝あり。真の姿を我の前に示せ、魔法の杖。──メタモルフォーゼ・マジカルアップ!」
太陽と月の杖を突きつけて、目の前に居る父さんと母さん――いや、おれを惑わす幻に向かって叫んだ。
「父さんと母さんに会うのは今じゃない――正体を現せ!」
すると、目の前の二人の男女の姿はブレて姿形を表せなくなり、不可思議な文様をした光となった。
――いつも感じているカードの気配がしっかりとする。今なら封印できる!
「姿迷いしカードよ。我と契約し生まれ変われ。我が名はあさひ。汝の名は──
杖さきに魔力が集いカードとなる。
封印に成功し、手元に降りてきたカードの絵柄を見ると白い手袋がクロスする様に描かれていた。
「あさひ!」
封印が成功し、ユナ達が嬉しそうにしてこちらに駆け寄る。
そしておれが持っているカードを見て納得した様に頷いた。
「幻影。やっぱり幻を見せるカードだったんだ」
「ユナくん。やっぱり今後もこういう事が起きるよね?」
おれの問いにユナは頷く。
「アーティファクトはまだ解明されていない事が多いんだ。近代の魔法でできない事もたくさんできる。だから……」
「うん。だから――頑張って全部集めるよ」
おれは今しがた封印した
「父さんと母さんが見守っているだろうから――だから、胸を張って会えるその日まで頑張るッ」
「――ありがとう、あさひ」
ユナは優しい顔でおれにそう言い、刹那と十和子もこの時は何も言わずおれを見守っていた。
父さん。母さん。まだ貴方達とは会えません。
でもいつか再会できた時――いっぱい褒めてくれるよね?
心の中でそう思い……。
――。
――。
何故か二人に頭を優しく撫でられた気がして嬉しく思った。
「――カード状のアーティファクト。願いを叶える奇跡の遺物」
闇の中、赤き瞳を光らせて街を見下ろす一人の少年がいた。
その手には杖が、その身には黒の法衣が。
「父さんの為にーー全て集める」
この街に新たな魔法少年が、舞い降りた。