転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
──夢を、見ている。
夜の闇に覆われた街は、人工的な光に照らされていた。そしてその街並みを見下ろす少年が一人。
その手には赤、青、緑、黄色の四つの宝石が付いた錫杖の杖が握られ、その身には黒い法衣で包んでいる。
そして街並みを見下ろすその瞳は綺麗な赤で、風に靡く長い髪は青かった。しかしそれ以上に気になるのはその男の子の顔だ。
なんて綺麗なのだろう。
なんて……悲しそうなのだろう。
その少年は重力に身を任せ、まるで投げ出す様にビルから飛び降り、そして──。
「あ……」
そこで目が覚めた。無意識に手を伸ばしていたおれは、そのまま自分の掌を見つめて……息を吐く。
「カードが落ちて来た時と同じ夢。つまり」
原作の新展開、か。
夢で見た少年とアーティファクトがこの街に降り注いだ時の事を思い出し、何となく諸々を察したおれは……何が起きるのかと不安になった。
第七話『あさひともう一人の魔法少年』
「本当に何もなかったの?」
さて、登校の為に通学路を歩いていると、突然待ち伏せしていた十和子に捕まって尋問を受けている。
一体何なんだ……。
昨日、ラタの家にユナと一緒に遊びに行ったのだけど、彼女はその時に変わった事はなかったのか? と聞いて来たのである。しかし昨日はユナがラタが飼っている雌猫達がユナに発情して追いかけ回す事以外特に無かった筈だ。
「カードも現れなかった? こう、猫に取り憑いたりとか……」
「ううん。そういうカード絡み事件も無かったよ」
おれがそう答えると、十和子は難しい顔をして唸り何やら考えている。
うーん。様子を見る限り、本来なら昨日ラタの家に行った時に何か起きる筈だったみたいだ。でもそれが起きなくて十和子が
「もし何かあったら連絡するから」
「うん……分かった」
納得していない様子だけど、取り敢えず今の状況を飲み込んでくれたみたいだ。
それにしても昨日は本来なら何が起きたのだろうか。少し彼女の心を読んでみるか。
(猫は巨大化しなかったのか。それにナイトの襲撃も無し……いよいよ原作が当てにならなくなって来た……)
……猫が巨大化? ナイト? 襲撃?
よく分からない単語の羅列におれは理解する事を諦めてそのまま二人で登校した。
そして学校に着くなり、おれと二人で居た十和子に刹那が突っ掛かりいつもの光景が流れた。
「今日転校生が来るんだって!」
しかしそれも朝までの様で、着くなりラタが年相応にワクワクとした様子ですおれ達に話して来た。
転校生。この時期に?
おれと同じ疑問を抱いたのか、真琴が不思議そうにラタに尋ねた。
「珍しいね。こんな時期に」
「ねー。オレもそう思っていたんだけど、先生と一緒に職員室に入ったし、優しそうなお父さんも居たし」
「どんな子だった?」
「青い髪でポニーテールにしてた。男子の制服着てたから男の子だと思う」
……青い髪? そのフレーズを聞いて思い出すのは今朝見た夢の事だった。そういえば夢で見た男の子も髪が長かった。ポニーテールにはしていなかったけど。
「はーい。皆席についてー」
夢の事を思い出していると先生が教室に入って来た。ラタと真琴も己の席に戻り、他のクラスメイト達も席に着く。
それから先生は朝礼時の連絡事項を簡単に終わらせると本題とばかりにその事につれて触れる。
「さて、今日は皆さんに新しいお友達が加わります。では入って来てください!」
先生のその言葉と共にガラリと扉が開き、一人の男の子が入って来た。
……やっぱり夢で見たあの子だ!
ラタの情報で何となく分かっていたけど不思議な感覚だ。そう思って件の男の子を見ていると……。
「──」
「……?」
何だか、物凄く見られています……。かつて初めてラタと会った時の様な敵意は感じられない。ただ、物凄くこちらを見ている。凝視という奴だろうか? ちょっとムズムズして落ち着かない。
しかし先生に促されて彼は黒板の前に立つとチョークを待ち自分の名前を書いた。
「ナイト・アルビオン君だ。イギリス人と日本人のハーフで、日本語は普通に話せるらしいから皆仲良くするんだぞ」
「……よろしく」
鈴の音の様な中性的な声で言葉少なく挨拶するナイト。
彼はペコリと一度頭を下げた後、またおれの方をジッと見ている。な、何だろう……。
「それじゃあ、アルビオン君の席は……月ノ本さんの後ろが空いているな」
「ふえ?」
驚いて思わず変な声が出てしまった……。
先生に促されたナイトはこちらに向かって来て、そしておれの前で止まりまたもやジッとコチラを見つめてくる。
「……」
「あの、その、えっと……よろしくね?」
なるべく刺激をしない様に笑顔で挨拶すると、何故かナイトはぷいっと顔を背けてそのままおれの後ろに座った。……しかし、相変わらず強い視線を感じる。
そしてその強い視線はその後も続いた。
「それじゃあ次の問題を……月ノ本さん」
「はい!」
「……」
授業中でも。
「やれー! あさひー! そこだー!」
「うん!」
「……」
体育の時も。
「それでさー。結局送り出す事になったんだ」
「それは、少し寂しいね」
「でも、新しい家族に出会えたんだらから良い事だよ」
「……」
昼食の時も。
ず──ーっと! 転校生はおれの事を見ていた。それも強い視線で!
でもおれが視線を向けるとプイッと視線を逸らされるし、心を読んでも真っ白で何故か見る事ができない。
一体どういう事なの……。
こういう時に助けてくれる転生者二人は、先生の呼び出しでこっちに来ないし!
「はぁ……」
放課後になり、気疲れしたおれは机に顔を伏せる。転校生はトイレに行っているのか、それともさっさと帰ったのか、今は此処には居ない。
おれの様子を見たラタと真琴が苦笑しながらこちらへとやって来た。
「凄く見られていたね。あさひ、何かした?」
「んーん。何もしてない……」
真琴の言葉に素直に答える。いや、原作とやらだとどうかは分からないけど、少なくともこの世界では何もしていないはずだ。
しかし、あの視線は尋常ではなかった。あまりにも強い視線に他のクラスメイトも彼に近付く事がなく、転校生恒例の質問攻めが起きなかった。
「もしかしたら、あさひに一目惚れしていたりして」
「ははは。ラタくんは面白い事を言うね」
ラタの揶揄い混じりの言葉におれは力無く笑って答えた。
もしそういう話だったら心を読んだ時に分かる筈なんだよなぁ。
まぁ、十中八九カード絡みの事だろう。流石に察せる。
夢で見た男の子だったし、その時の格好はあからさまに魔法少年って感じだった。それにカードの事を夢で見た時と同じ雰囲気で、それで何も関係ありませんでしたーとかだったらちょっとおれの頭の中を心配してしまう。
新キャラ登場。そう考えるのが妥当だろう。
「おーい、あさひ! 待たせて悪いな!」
「誰もアンタの事待ってないと思うけど?」
先生の呼び出しが終わったのか、いつもの調子で刹那が教室に入ってきた。ラタがため息混じりに返すも、刹那は気にした素振りを見せず。
そしてその後ろから当たり前の様に十和子も続く。
「あれ? あさひ元気がない」
「……何かあったのか?」
「あー、うん。ちょっと今日来た転校生がね」
「「……転校生?」」
真琴の言葉に心底不思議そうな顔をする刹那と十和子。
まるで寝耳に水と言わんばかりに、真琴の発した言葉を理解できていない様子だった。
そんな二人に今日転校して来たナイトについて話そうとしたその時。
「ちょっと、良い?」
「「──!?」」
刹那と十和子の後ろから声を掛けたのはナイトだった。
ナイトの声を聞いた二人は物凄く驚いた様子で振り返り、そしてナイトの姿を見てさらに驚いた。
(な、何でナイトが此処に居るんだ!?)
(この時期はまだ学校に通っていない筈……!?)
……どうやらおれの予想は半分当たって、半分外れているらしい。
刹那達の動揺を他所に、ナイトは今日初めておれと視線を合わせて口を開いた。
「話がある。月ノ本あさひ。神城刹那。黒崎十和子。着いて来て」
何とか真琴とラタは説得して帰って貰い、おれ達はナイトの先導の元屋上へとやって来た。当然ながら此処に居るのはおれ達だけで、内緒話をするにはうってつけだった。
「僕の名前はナイト・アルビオン。魔法教会しょぞくの魔法士だ」
「何だと!?」
彼の言葉に過剰に反応したのは十和子だった。
一体どうしたのだろうか。今の言葉にそこまで驚く要素があったのだろうか。
気になったおれは彼女の心を読む。
(ナイトが魔法協会に所属するのは二期になってからの筈……!? それに無印での事件での罪を軽くする為の恩赦だから、この時期に所属する意味がない!)
……? よく分からないけど、十和子にとっても想定外の事が起きているみたいだ。
それにしても魔法教会か……。確か、ユナが言ってた魔法について管理している組織だったかな。救援要請はしているから何時か来ると言っていたけど、まさか同い年の男の子だなんて。
「……本当に魔法教会に所属しているのか?」
「なに?」
「正直、信用する事はできない」
険しい顔でそう言う十和子だけど……それは良くないな。
彼女が疑う理由はおそらく原作知識から来るものなんだろうけど……それに囚われて間違った選択をしたようだ。
ナイトから心の声が聞こえる。ふざけるな、と怒りの感情が篭った声が。
「──これを見てもそんな事が言える?」
そう言って彼が取り出したのは一つの懐中時計。
銀色に輝く魔法陣らしく物が描かれた何処か神秘的な代物。
それを見た十和子は見るからに動揺し、刹那は目を輝かせていた。
「それ、魔法教会に所属している魔法士が持つシルバークロック!」
「そう。このマジックアイテムは魔法教会だけが作れる物。詐称する事は普通できない。そして、これを渡される魔法士は教会から信頼されている証──寧ろ怪しいのは野良魔法士である君たち二人だと思うけど」
「……」
十和子は黙りこくり、刹那は「そうなの?」と不思議そうにしていた。
……心を読んだ感じだと、野良魔法士のほとんどは犯罪者で、勝手に魔法を使うのもあまり良くないみたいだ。
ナイトは十和子と刹那が尋常じゃない魔力を持ち、高性能な杖を持っている事に疑念を抱いているみたいだ。
「あの、二人は手伝ってくれているんです。アーティファクト集めの」
「……」
おれはナイトに説明した。
何故この街にカードが散らばったのかを。そしてユナの事も、おれが手伝っている事も、二人が力を貸してくれている事も。
二人が魔法を知っている経緯を説明した時に眉を顰めて、疑いの視線を向けていたけど二人が犯罪者ではない事は分かってくれたみたいだ。
「なるほど、状況は理解した」
ナイトは一つ頷いて、とりあえず二人に対する警戒心を下げてくれた。
いや、正直冷や汗ものだった。心の声でずっと二人に対する疑念が消えなかったから……。
何時拘束する! って二人に襲いかかるかヒヤヒヤした。
「その上で確信した事がある」
しかし、おれはどうやら未だに事を楽観的に見ていたらしい。
ナイトがこちらを見て、視線が合うと一瞬逸らし、しかしすぐに合わせてきた。
するとさっきまで聞こえてきた心の声が真っ白になり、しかし彼の声はしっかりとおれの耳に届いた。
「月ノ本あさひ。君は魔法の事を忘れて元の日常に戻るべきだ」
「え……?」
放たれた言葉が予想外過ぎて、素っ頓狂な声が出てしまう。
魔法を忘れる? それってつまり──もうカード集めをするなって事?
「どうして!?」
「決まっている。君は巻き込まれただけのただの一般人。魔法の事を碌に理解していない素人。正直、今まで良く死ななかったとホッとしているくらいだ」
「……」
そう言われておれは今までのカード集めの事を思い出す。
確かに何度も危ない場面があり、この前の
でも、ここで辞めるつもりはなかった。
「それはできない! ユナくんと、十和子ちゃんと刹那ちゃんと約束したんだ! カードを全て集めるって」
「安心して欲しい。今後のカード集めは僕が引き継ぐ。そこの二人の協力も不要だ。だから──」
突如、フッとナイトの姿が掻き消えたかと思うと、おれのすぐ後ろに気配がした。
振り返ると同時に両手首、両足にガキンッと衝撃が走ると同時に身動きが取れなくなった。視線を向けると、光の輪がおれの四肢を拘束していた。
十和子や刹那に似た魔法……! でも、全く気付けなかった。
「さぁ、持っているカードを渡すんだ」
そう言ってナイトは顔を近付けておれの瞳を覗き込み──。
「ちょ、待って!」
そんなおれ達の間に刹那が割り込んだ。
ナイトはバックステップで下がりいつの間にか持っていた赤、青、黄、緑の宝石が付いた錫杖を構える。
刹那が立ち塞がる中、十和子がすぐさまナイトの魔法に干渉しおれの拘束を解いた。
ありがとう、と礼を一つし刹那の背中を見る。
「いきなり辞めろって言われてあさひは納得しないって」
「寧ろ彼をずっとこの件に関わらせていた貴女達の方がどうかしている。このままだと、そこの彼は死ぬ」
「そうさせない為に私たちが──」
「その割には、僕の動きに対応できていなかったと思うけど?」
う、と言葉を詰まらせる刹那に冷ややかな視線を向けるナイト。
はぁ、と呆れた様にため息を吐いた彼は杖を仕舞うとこちらに背を向ける。
「忠告はした──貴女達はそこの彼の護衛でもしておいてください。残りのカードは僕が集めます」
それだけ言い捨てるとナイトは屋上から立ち去り、残ったのはおれ達三人だけだった。
「アルビオン? その名前は聞いた事がある……」
家に帰り、学校であった事を話すとユナは腕を組んだ。
今日は叔父さんが居ないため、リビングで一緒におやつを食べていた。
ユナ、叔父さんの前だとキャットフードしか食べられないから……。
魔法教会からの援軍が来たと聞いた時は喜んでいたけど、それが同い年の男の子一人と聞いて不思議そうにしていたが、名前を聞くと何処か納得した様子を見せていた。
ちなみにシルバークロックとやらの話はナイトが言ってた通りらしい。
「魔法世界ではちょっとした有名人だったよ。新しい魔法理論やマジックアイテム。それにアーティファクトについても詳しい魔法士。名前は確か……リガルド・アルビオン」
「それじゃあナイトくんは……」
「確かにリガルドには息子が居るって聞いた事あるけど……」
そこまで言ってユナは言い淀む。
……どうしたんだろう? 何か気になる事があるのだろうか。
「でも確かなのは、シルバークロックの偽装は簡単には出来ない」
待って。それじゃあ……。
「あの子にカードを渡した方が良かったって事?」
元々アーティファクトの回収は魔法教会の仕事だってユナは言っていた。
初めて会った時も魔法教会の人が来るまで手伝って欲しいと言っていた。だったらあの時に渡した方が──。
そこまで考えた所で、おれのポケットからカード達が飛び出した。そしておれの周りを飛んだ後に擦り寄って来た。まるで「そんな事を言わないで」と慰めてくれている様な。
「確かにその子が言っている事は正しい。でもカード達は……」
そうか……。
おれは一枚一枚カード達を撫でて感謝の心を送る。
カード達はそれに気を良くした様に飛び回り、おれの掌の上に戻った。
「普通に考えたらその子に任せるのが正しい。でも、こんな事巻き込んだボクが言えた義理じゃ無いけど──最後まであさひとカードを集めたい」
「……ありがとう、ユナ」
笑顔を浮かべお礼を言うと、ユナは何処か恥ずかしそうに笑った。
それが可笑しくて、おれ達は二人揃って笑う。
そう、だよな。始まりはあんなだったけど途中から投げ出すつもりは無いんだ。おれも初めは月ノ本あさひがやる事だからと始めたけど──今はおれが始めた事だ。
だから何があろうと最後までカードは集める。
そう強く決意した時だった。
「──これは」
「カードの気配!」
突如カードの気配を感じたおれ達は、窓の外を見て──次の瞬間強い光と共に衝撃と轟音に襲われた。