転生したらあべこべアニメ主人公だった件について   作:カンさん

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第二話『転生したら言い寄られた件について』

 

 あれからというもの、案の定というか銀髪美少女こと神城刹那には付き纏われている。

 おれが好意を抱いていると信じて疑っておらず、いつも甘い言葉を吐いては微笑みかけたり頭を撫でてきて正直鬱陶しい。さらに心の声も強く意識して聞かない様にしてもおれの頭の中に入ってくるので、彼女の声が二重となって響き最近は偏頭痛が起きそうだ。

 

「ふふふ。相変わらずあさひはかわいいね」

(ショタあさひ最高おおおおおお!)

 

 こんな感じでね。新手の拷問かと疑い始めたほどだ。

 こうやって毎日毎日付き纏われれば彼女の人間性も把握でき、さらに彼女の中にある月ノ本あさひ像も理解できた。

 おかげでおれは月ノ本あさひを演じる事ができた。今もこうして……。

 

「刹那ちゃんは男たらしだね!」

 

 笑顔を浮かべてなるべく嫌がらない様にしている。言葉に棘がある? 最大限我慢しての発言だ。許せ。

 もしこいつの顔が美少女じゃなかったら、言動への不快感で払いのけているところだ。それだけ、彼女の顔は良いんだ。腹立つことに。ハーレム狙っているヤバイ奴だが。

 

「またやっているのかお前……」

「あぁん?」

 

 そして、こうしておれに纏わり付いていると決まって介入してくるのが黒髪幼女こと黒崎十和子。

 何かと刹那を目の敵にしては関わりたくないと言いつつも、突っかかって来ている。

 おれの居ない所で転生者同士の話し合い、もしくは決闘でもしたのか以前の様な怒気を撒き散らす事はなかった。

 しかしこうしてグチグチと文句を言っては、おれの前で喧嘩を始める。勘弁してくれ。

 

「そろそろ自覚した方が良いよ。お前の行動イタいだけだから(やっぱり好きだなあさひ……)」

「っるセーな。将来の第一夫人とのイチャイチャを邪魔しないでくんない?」

「そうやってハーレム狙いなのもイタいから(あさひかわいい……)」

「英雄色を好むって言うでしょ──まぁ、モブには分からないか」

 

 刹那ほど煩くないけどしっとりとした言葉が現実の言葉と乖離していて風邪ひきそう。

 てか内心で思っている事と言動が乖離してて精神的に心配になる。多分これが高二病。

 そして本人はクールぶっているけど、チラチラとおれを見るから側から見たら挙動不審気味なんだよね。好きな子の前でキョドキョドするオタクそのもので、刹那とは別側面で見ていられない。

 ふとした瞬間に目が合うと全力で顔を背けるんだよな……。そして刹那はそれに気が付かず首を傾げて不思議そうな顔をする。その時の顔が可愛くて腹が立つ。

 

「ああ。またあの二人が……」

 

 そして、二人の喧嘩をしている光景を見た先生が憂鬱そうな顔をする。あれからこの二人顔を合わせれば喧嘩するからね。先生としては勘弁して欲しいって感じだろうね。

 

「二人とも喧嘩はダメだよ」

「はーい、あさひ♡」

「……ふん」

 

 原因の一つである為、おれは二人を諌める。それにこいつらおれの事好きだからお願いすれば大抵聞いてくれるのである。……オタサーの姫みたいな思考で何か嫌だな。

 しかしこうすれば少なくとも先生達はホッとする。問題解決を幼児に押し付けるなとは思うけど。

 そしてこの二人に付き纏われた結果、先生達はおれ達の事を三人組と認識し、他の園児達はこの二人を怖がって近付いて来ない。何なら顔は良い刹那に好かれてる事を面白くないと思っている男児に若干ハブられてる。こっちの世界の男こわ〜。

 そんな事が毎日あるからか、精神的に疲れてしまい親に心配される始末。心配させたくないと大丈夫だと言うも、気遣われていると落ち込ませてしまい、正直悪循環だ。

 はぁ。これからどうすれば良いんだ。

 

 おれは、また喧嘩を始めた二人を見ながら内心ため息を吐いた。

 

 

 第二話『転生したら言い寄られた件について』

 

 

 保育園が休みの日、今日は珍しく両親と一緒の時間を過ごしていたのだが急用で二人とも家を留守にしている。

 父の兄、叔父が現在こちらに向かっており、それまでおれは暇になってしまった。

 車で1時間かかる場所に住んでいる叔父には迷惑をかける。おれが後少し歳を取っていれば一人で何とかするのだが……。

 両親もおれを一人にするのは心配だったみたいだけど、急用故に早く現場に行かないといけないのは事実で、ダメだと分かりつつもこの家を後にした。その時の顔が今でも忘れられない。正直おれには勿体無いくらい優しい人達だ。

 

「……それにしても」

 

 さっきまで両親と一緒に居たからか、家が広く感じる。

 ……前々から思っていたけど、おれってこんなに甘えん坊だっただろうか? 

 前世と比べると両親に対しての好意が高い様に感じる。彼らが人間として優れていると言うのもあるが──先日判明したおれが転生ではなく憑依転生した事から、元々月ノ本あさひはそういう気質の人間でおれの精神が引っ張られているのかもしれない。

 だからといって不都合がある訳ではないが、少し気恥ずかしい。

 

「まぁ、悪くないかな」

 

 おれが彼らの事を好きなのは変わりないし。

 作り置きしてくれた今日の昼食を見ながらそう思い、そろそろ食べようかなと思ったその時だった。

 

 ──ピンポーン。

 

「……? 叔父さん? いやでもさっき家を出たって話だし」

 

 インターホンが鳴り、首を傾げながらもモニターに視線を向ける。

 新聞勧誘とかなら無視しようかなと思い、そこに映っていた顔を見て「うわっ」と声を出してしまった。

 

『ふっ……今日もバッチリ決まっている』

 

 そこに居たのは手鏡に写っている自分にウットリしている神城刹那が居た。

 インターホン鳴らして何しているんだこいつ。

 いや、それよりも。

 

「何で此処に居るんだコイツ!?」

 

 まさかストーカー!? ああ、ストーカーだな! 

 家に現れた変質者(幼女)にパニックになるも、に深呼吸をして冷静になる様に努める。

 落ち着け、落ち着けおれ。まだ応えてないから! バレていない筈だから! だからこのまま居留守すれば……。

 

『おかしいな……此処に居るのは分かっているのに……寝ているのかな?』

 

 なんかバレてる……。

 確信している様に呟いた刹那の声を聞いて、ブルリと背中に寒気が走った。

 え? 何でバレているの? どういう事なの? 

 知らぬ存ぜぬでこのまま無視したいが、そうすればどうなるか……。

 

 ──「私を無視するなんて、お前あさひじゃない!」

 ──「死ねえええええ!」

 

「……」

 

 起こり得るであろう未来を想像し、自分の顔が青くなるのを自覚する。

 そうならない様にする為に、おれがこれからすべき事は何なのか。

 分かり切った答えに辟易としながら、おれは玄関に向かい鍵を開ける。するとその先に居た刹那が嬉しそうな顔をして──ってあれ? 

 

「やぁ、あさひ。今日も暑いね」

「う、うん刹那ちゃん。どうして家に来たの?」

 

 彼女の言う通りここ最近は暑い日が続いている。温暖化やらオゾン層の破壊やら色々とテレビで話題になっている。

 いつもの様に微笑む刹那ちゃんだけど……何処となく覇気がない。

 

「ふふふ。理由がないと君に会いに来たらいけない?」

 

 できれば無くてもそっとして欲しいです。

 

「まぁ、積もる話もあるけどとりあえずは──」

 

 そこまで言って刹那ちゃんはぐらりと体を傾かせて。

 

「水、頂戴」

 

 バタンと玄関先で倒れた。

 ……え!? 

 慌てて助け起こし、そっと額に触れると凄く熱かった。まさか、熱中症!? 

 よく見てみると長袖長ズボンの黒い服を着て帽子も被っていなかった。アホなのかコイツ!? こんな格好だと熱が籠るに決まっている。

 急いでおれは彼女を担いで家の中に運んだ。

 

 

 

「はぁ〜生き返る〜」

 

 冷房の利いた部屋でポカリスエットを飲ませた結果、刹那はすぐに回復した。

 さっきまでの死にかけの状態が嘘のように笑顔でゴクゴクと喉を鳴らしていた。

 転生者だから回復も早いのか? 

 

「ありがとうあさひ、助かったよ」

「いや、うん。おれは良いんだけど……どうして此処に?」

「……ふっ。さっきも言ったけど理由がないと君に──」

「どうして?」

 

 少しだけ圧をかける。

 

「……いや、その、散歩をしていたら、あの、迷子に……」

「……それであんなに体が熱く?」

「う、うん……」

 

 そう応えると居心地悪そうに目を逸らす刹那。

 正直信用できない為、おれは読心能力を使って彼女の心を読む事にした。

 

(ようやく親の目を盗んで外に出れたから、聖地巡礼した結果熱中症。流石に情けない……)

 

 どうやら本当みたいだ……呆れて物も言えない。

 でも、迷子になっていたのにどうしておれの家は分かったんだろう。

 そこだけ不思議だったけど聞いても誤魔化しそうだし、深入りして不信感持たれたら危ないので辞めておく。

 

「じゃあ、今日は帰るね」

「え?」

 

 よいしょっと立ち上がった刹那に思わず戸惑いの声が出てしまう。

 普段の彼女なら無遠慮にこの場に留まり、おれにベタベタ纏わりつくと思ったからだ。

 そんなおれの様子に首を傾げながらも彼女は玄関に向かい……。

 

(腹も減って力出ないし、このまま居ると弱い所を見せてしまう)

 

 そして聞こえてくる心の声におれは、

 

(あさひちゃんに迷惑はかけたくないから)

 

 ──イラッとして彼女の手を掴んで引き留めた。

 

「え?」

「お腹、減っているんでしょ?」

「え、いや、別に──」

 

 そこまで言って彼女のお腹から「ぐ〜〜っ」と大きな音が響く。

 顔を赤くして違う、これはと誤魔化そうとする彼女を無視して無理やり椅子に座らせる。

 そして冷蔵庫の中からお父さんが作ってくれたチャーハンを取り出し二つの皿に分けてレンジで温める。

 

「あの、あさひさん……?」

「無理したらダメ。帰るなら食べて元気になってから!」

「は、はい」

 

 温め終わり、おれと刹那の前にチャーハンを置く。

 一人分を二つに分けたから少ないけど、それでも多少は空腹が紛れるだろう。

 

「いただきます」

「い、いただきます……」

 

 恐る恐るとレンゲで掬い、チャーハンを口に運ぶ刹那。

 モグモグと咀嚼してしばらくすると。

 

「! お、美味しい」

 

 驚いた顔をしてパクパクと掻き込んでいく刹那。

 しかしすぐに喉に詰まらせて胸をドンドンと叩く。

 そんなに慌てなくても誰も取らないのに、と苦笑しながら水を差し出した。するとそれをゴクゴクと勢いよく飲み、プハーッと息を吐いた。

 

「あ、ありがとう」

「どういたしまして。美味しいでしょお父さんが作ったチャーハン」

「……!」

「お父さんのご飯は何でも美味しくて、おれは大好き」

 

 おれも一口食べて、その美味しさに頬を綻ばせる。

 

「仕事が忙しくてもこうやって作ってくれる。だから──お父さんとお母さんを悪く言った君の事が、おれは好きじゃない」

「……っ」

 

 今までは自分の身を守るために黙っていた。自分を騙していた。

 でもやっぱり、こうしてお父さんのご飯を食べて、刹那が美味しいと言ってるのを見ると……感情が抑えられなかった。

 

「どうして、お父さんとお母さんの事を悪く言ったの? お父さんとお母さんは君に何か悪いことした?」

「それは……」

 

 当然言い淀む刹那。

 君を攻略する為に、二次小説で見たのと同じ行動をしただなんて普通の感性の人間なら言える訳ない。

 正直そのまま言うと思ったけど。

 刹那は視線をキョロキョロと彷徨わせていたが、グッとおれと目を合わせた。真っ直ぐに。

 

「ごめんなさい。その時の言葉は私が間違っていました」

 

 そして放たれたのは謝罪の言葉。一方、心の方は──。

 

(普通にアレはダメだった……謝ろうとしたらアイツが来て喧嘩になって謝りそびれて──いや、言い訳だなこれは)

 

 意外にも自分の非を認めていた。

 いや、違うな。

 正直気づいていた。二人が居るからうるさいからあえて読心能力を使わない様にしていた。それでも彼女から謝意の感情が籠った心が聞こえていた。だからおれは関わるのが嫌だったけど、拒絶をするまでには至らなかった。

 それ以上に情欲の心が聞こえてキツかったけど……。

 

 そして今日、刹那は謝ってくれた。

 

「遅いよ、言うのが」

「うっ」

 

 でもまぁ、ギリギリ合格かな。

 

「良いよ。もう言わないなら」

「うん。分かった」

 

 その言葉は心から出たもので、おれは少しだけ見直した。

 何なら反省もしている。見た目と言動で踏み台転生者だと思っていたけど、おれがイメージしていた彼らと違い、彼女は根っこの部分は素直なんだ。

 ただ少しだけいじっぱりで、周りを見る事ができれば──将来はいい女になると思う。

 

「それと十和子ちゃんとも仲良くして」

「それは無理」

 

 ……本当いじっぱりなんだから。

 

 

「今日は本当にありがとう」

「うん」

「それじゃあ、また保育園で──あの、あさひちゃん」

 

 帰る直前になって、刹那がおれに問いかける。

 

「さっき好きじゃないって言ってたのは本当?」

「……うん、本当」

「……マジかー」

 

 頭を抱えて落ち込む刹那。心を読まなくても分かる。ニコポナデポが効いていないとか、惚れさせる事ができていなかったとか、そんな事を考えているのだろう。

 しばらくウンウンと唸り続ける刹那を見ていたが、正直気持ち悪い。

 いや、その光景がとかじゃなくて、普段の自信満々な踏み台ムーブしている彼女を見慣れているから、今の思い悩む姿に強い違和感を覚えるってだけで。

 

 ──うん。だからこれからやる事は、ちょっとしたリップサービスだ。

 

 おれはそっと彼女に近づき、唇を耳に寄せて囁く。

 

「──でも、素直に謝った刹那ちゃんは好きだよ」

「──あふふぇ!?」

 

 バッと耳を抑えて離れる彼女の顔を真っ赤で、それを見たおれは──可愛いなコイツと胸の中に言い表せない奇妙な感情を抱きながらそう思った。

 刹那はその綺麗な顔を百面相の如く変化させて、口から出る言葉も支離滅裂で心の中の声も荒れ狂っていて面白かった。

 

「じゃあね刹那ちゃん。また保育園で」

「え、ちょ、待っ──」

 

 それを最後に玄関の扉を閉める。扉の奥からしばらく刹那ちゃんの気配があったが、すぐにその場を離れた。

 その際に彼女の心の声が聞こえたけど、思わず笑ってしまった。

 

 ──(あさひちゃんって本当に可愛いんだ)

 

 今までの情欲に濡れた声とは別の感情が乗ったその声は、明らかに刹那の変化を表していて……。

 

「次に会うのが楽しみだな」

 

 アレだけ関わりたくないと思っていたのに、おれは次の保育園に行く日が楽しみになっていた。

 ふふふ。今日はよく眠れそうだ。

 そんな事を考えながらおれは、叔父が来るまでルンルンとした気分で過ごしていた。

 

 

 

 そして次の日、冷静になったおれはまるで悪女の様な自分の行動に悶えるのだが、この時のおれはその事にまだ気づいていなかった。

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