転生したらあべこべアニメ主人公だった件について   作:カンさん

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チートハーレム杯お疲れ様でした
チートハーレム杯は終わりましたが、この作品は終わりません
今後も更新していきますっ


第六話『転生したら原作と変わらない件について』

 

 魔法少年あさひ。

 刹那や十和子が転生する前の世界で人気だったアニメ。

 月ノ本あさひがある日突然魔法と出会い、事件を解決していく王道な魔法少年アニメだ。

 後に二期三期とシリーズ化し、さらに劇場版、コミック化、ゲーム化。さらにはソシャゲ化も成した大手ジャンル。

 当然ながら同人誌や二次小説でもよく取り扱われていた。

 

 さて、魔法少年あさひの主人公である月ノ本あさひはとても優しい子だ。

 敵である魔法少年に手を差し伸ばし続け、誰であろうと助けようとする──ネットでは度々頭がおかしい、壊れていると言われる程の聖人。

 故にキャラ人気は常に一位であり、刹那も十和子も前世から好きだった。

 

 しかし、そんな彼にも闇がある。

 人に優しくし続けた彼の闇はとある場面で爆発し、人を救い、人を傷つけ、彼の核心に迫る重要な要素だ。

 そして、その闇の原点にあるのは──彼の両親の事故死だ。

 

 

 第六話『転生したら原作と変わらない件について』

 

 

 葬儀はスムーズに終わった。

 叔父さんとお爺ちゃんが全部やってくれたから。

 

 ラタと真琴が優しく慰めてくれた。

 学校を休んでいるおれの家に来てくれる。

 

 刹那と十和子とは会っていない。

 あれから顔を会わすことが無かったけど……今はどうでも良かった。

 

 ……おれは、泣いていない。泣けていない。

 泣くことができなかった。

 悲しい筈なのに、苦しい筈なのに。

 でも頭の何処かで交通事故だから仕方の無い事だと、ずっと落ち込んでいたら周りに心配させる。迷惑を掛ける。だから早く立ち直らないといけない。

 そう考えた。……考えないといけないと思った。

 

 でも。

 

 でも……。

 

「……」

 

 カレンダーを見る。両親が死んでから一週間経った。

 つまり、今日はおれの誕生日。

 本当なら父さんの作ったご飯を食べて、母さんの下手な誕生日ソングを聞かされて、おれの作文を読み上げて、そして、そして……。

 

 でも、そんな未来は来ない。そんなIF(もしも)を考えても意味がない。

 だって、父さんも母さんも死んだのだから。だって、もう二人には一生会えないのだから。

 

「……」

 

 家族と過ごしたこの家で目を閉じれば、自然と両親との記憶が蘇る。

 

 ──あぁああっ!! やっぱりあさひは宇宙一可愛い!! 

 

 まだ歩けなかった頃、赤ん坊のおれを抱き上げた母さんは顔を緩ませていつもそう叫んでいた。

 

 ──相変わらずさくらはあさひが大好きだなぁ。

 

 そんな母さんをご飯を作りながら微笑ましそうにして見ていた父さん。でもおれを抱っこしたいのと母さんとイチャイチャしたい欲求でそれぞれに嫉妬していた事を心を読んでいたおれは知っていた。

 

 そんな二人の愛を受けておれは、この世界で生きていく事を決めた。

 

 そんな両親だから、仕事で忙しくて構って貰えなくても我慢していた。

 

 ──ごめんね、あさひ。本当はもっと一緒に居たいのに。

 

 目元に涙を潤ませて父さんがそう言い、いつも玄関を出る時はギュッとおれを抱き締めていた。

 

 ──健二、頑張ろう。いつか自由になったら、あさひと三人で普通の暮らしをするんだ。

 

 そんな父さんを慰める母さんも、やっぱり辛そうにしていた。

 

 だからおれは、二人に抱き締められた時はちょっと恥ずかしかったけど力いっぱいに抱き締めた。

 

 ──……へぇ。あさひに言い寄る奴が居るんだ。

 

 ただその愛はとても強くて、とても保育園児に向けるとは思えない程に、おれに言い寄る刹那と十和子に敏感に反応していた。

 

 ──さくら。そんな事言っているといつか『お母さん嫌い!』とか言われるぞ。

 ──ぐはっ!? 

 

 反対に父さんは恋バナが好きなのか、刹那や十和子の話を嬉々として聞き出そうとしていた。この辺は叔父さんと兄弟だなっと思った。母さんは撃沈していた。

 

 ──ラタくんに真琴くんか。どっちも可愛いね。まぁ、うちのあさひには負けるけど! 

 

 初めてできた友達の事を話した時も、母さんは相変わらずの親バカだった。でも、それが恥ずかしくも嬉しかった。

 

 ──心配だったんだ。あさひは良い子なのに友達できなくて、でもそれを我慢できちゃって……。あさひ、その友達の事、大切にするんだぞ。

 

 涙目で大袈裟な事を言う父さんに呆れながらも、しかしその言葉におれは素直に頷いた。他ならぬ大好きな父さんの言葉だったからだ。

 

 自分でも不思議だった。どうして今世はここまで両親の事が好きなのか、と。

 貞操観念逆転しているから? 月ノ本あさひに生まれ変わったから? 前世と比べてこっちの方が優れているから? 

 そんな風に理由を考えては、最終的には同じ結論に至る。

 彼らの事が好きな理由なんてない。ただただ好きなだけだ、と。

 だから、あの置き手紙を見た時は嬉しかった。一週間前からおれの誕生日の事を考えてくれていた事が。何が何でもおれの誕生日を祝おうとしてくれた事が。

 

 でも、もう──。

 

 おれに愛を囁いてくれる声は永遠に失われた。

 

 おれを抱き締めてくれる温もりは消えてしまった。

 

 おれが大好きだったあの人達は──この世に、居ない。

 

 ──あさひ。

 ──あさひ。

 

 ──愛してるよ。

 

「……っ」

 

 大好きだった人達との空間は、今となってはおれの心を苦しめる牢獄と化していた。

 それが我慢できなかったんだろう。身体は勝手に動き、家を出て、行く手もなく歩き出す。

 

「……」

 

 世界の全てが灰色に見える。果たして今のおれはどんな顔をしているのだろうか。

 ……どうでも良いか。

 そんなおれの心が天に映し出されたのか、ポツポツと雨が降り出し、勢いを増し、数分もせずに音を立てておれの体を濡らした。

 こんな姿を見たら、父さん達は心配するな。

 そんなもうあり得ない事を考えながら歩き続けたおれは、いつの間にか町にある公園に辿り着いた。

 当然ながら雨が降っている公園に人がいる筈もなく、おれ一人。

 おれはそのまま何も考えずブランコに座り、空を仰ぎ見る。

 顔に雨の雫が当たり、それが頬を伝って地面に落ちていく。

 

「──あさひ」

 

 そんな無為な事をしていると、聞き慣れた声が耳に響く。

 気怠げに視線をそちらに向けると、そこには傘を差した刹那が肩で息をしてこちらを見ていた。

 おれを探してこの雨の中探し回っていたのだろうか? 普段は男子にダーリンだの夫だの言ってウザがれているが、こういう所で彼女の本心が見える。

 

 でも、今はどうでもいい。

 

「ごめん。今は一人にして」

「できないよ」

 

 そう言って彼女はおれに傘を差して──その際に肩に手が触れた。

 すると聞かない様にしていた彼女の声が聞こえた。精神的な揺らぎによる事故。しかし、その事故が──おれの心を騒つかせた。

 

(原作通りだ)

 

 原作通り。その言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になって理解ができなかった。

 しかし、その言葉を飲み込み、咀嚼し、意味を理解した瞬間──思わず、刹那の胸ぐらを掴んで殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られた。

 

(……ふざけるな)

 

 原作通りという事は、両親の死は決まっていたのか? お前は知っていたのか? 

 それで何もしなかったのか──その原作と同じ展開にする為に。

 それでおれの両親を見殺しにしたのか──その原作と同じ展開にする為に。

 

(──そこまでして)

 

 そこまでして! お前は、月ノ本あさひを、自分の物にしたかったのか!! 

 

 もう我慢できなかった。原作なんて知らない。正体を知られても良い。殺されたって構わない。

 ドス黒い感情がまるで水源の如く湧き出てくる。ここまで人を憎いと思ったのは前世含めて初めてだった。

 おれは勢いよく振り返り、刹那の肩を掴んで拳を握り締め──。

 

「──ごめん(──ごめん)」

 

 目の前の彼女からの心からの謝罪の言葉に、一瞬動きが止まり。

 

(助けられなくて、ごめん)

「──え」

 

 続いて聞こえた心の声に、拳が止まる。

 

(本当は助けたかった。でも、原作でもあさひの両親が死んだ日は詳細に語られなかった──助けたかった。その為のチートだったのに)

 

 ──胸の中で渦巻いていた刹那への憎しみが消える。

 おれは心が読める。相手の本心が読める。感情が強いと耳を塞いでも聞こえるくらいだ。

 そして目の前の刹那の今の言葉に嘘偽りは無かった。

 

 ……だから、何だ。

 それで、どうしろって言うんだ。

 おれのこの感情は……もう止められない。

 刹那の両肩を掴み、でも力が入らず膝をつく。服が汚れるが気にする余裕は無かった。

 

「なんで、どうして父さんと母さんが死なないといけないんだ?」

「……」

「父さんも母さんも悪いことしてないのに」

「……」

「いつも仕事で構って貰えなくて本当は寂しかった。でも、それでも優しくて──大好きだったんだ」

「……」

「ねぇ、どうして? ──どうしてなんだよぉ……!?」

「……ごめん」

 

 この時、おれは初めて泣いた。父さんと母さんが死んだのだと、もう会えないのだと本当に理解したから。

 刹那に縋り付きながら泣き叫ぶ。彼女はそんなおれに謝罪の言葉を返しながらも、何故両親が死んだのか、その原因を口にする事も心の中で考える事もなかった。

 

 雨が止む事はなかった。

 

 

 

 

 

「……」

 

 その光景を十和子が沈痛な表情で見ていた。彼女もまた、原作を知る人間であり──ギリギリまで原作沿いか原作改変をするか悩んでいた。

 

 彼女は、刹那よりも原作に詳しい。

 刹那は原作のアニメを片手で数える程度で巡回し、後のほとんどの知識は同人誌と二次小説となっている。

 対して十和子は全てのメディアを網羅し、設定資料も買い、ソシャゲでは重課金し過ぎて前世の死因に繋がるほどだった。

 

 だからこそ、大好きな魔法少年あさひの原作改変を良しとせず、ハーレムを築く為に好き放題しようとする刹那の事を毛嫌いしていた。

 しかし、この世界で生きていく上であさひの悲しむ顔を見たくないと感じ、多少の原作改変も視野に入れた矢先に──あさひの両親を助ける事ができなかった。

 

「──何してんだよ、アタシはっ」

 

 彼女が迷ったのにも理由がある。

 月ノ本あさひはこの先いくつもの困難が待ち受けている。

 その時に彼の中にある闇が力を生み出し、敵に打ち勝つ事ができる場面が多々ある。

 だからもし両親の死というあさひにとっての最大の闇を除去すると、どうなるか分からない。

 

 二次小説においても、どの作品でもなんだかんだと理由を付けてあさひの両親は助けられる事なく死亡していた。……ちなみに幼少期の孤独の緩和、両親の死でショックを受けているあさひに寄り添って好感度を稼ぐというのがテンプレになっていたが……。

 しかし、十和子が居るのはアニメの世界ではない。だから彼女はあさひの両親を見殺しにしてしまった事を後悔していた。

 

 ──どうして! どうしてなんだよぉ……! 

 

 あさひの泣き叫ぶ声が、十和子の心を震わせる。

 彼の言葉に刹那も十和子も返す事ができない。

 いくらチートを得ようが、いくら原作知識を持っていようが。

 それを使いこなせなければ、誰も救えない。何も変えられない。

 彼女達はその事を学んだ。

 誰よりも大好きで、誰もよりも助けたかったあさひを救うことができず泣かせた事によって。

 

 この日初めて彼女達はこう思ってしまった。

 

 どうしてこの世界に転生してしまったのだろう、と。

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