転生したらあべこべアニメ主人公だった件について   作:カンさん

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これで書き溜め尽きました
毎日更新したいなぁ


第七話『転生したら原作に振り回された件について』

 

 両親が死に、誕生日が過ぎてしばらくして。

 おれは両親と過ごしていた家から、叔父さんとお爺ちゃんが住んでいる家に引っ越す事になった。そして元々住んでいた家は……残念ながら手放す事に。

 正直苦しい。でも、子どものおれではどうする事も出来ず、日が経つ毎に両親との思い出が消えていく。

 二人の服も、小物も、使っていた食器も。

 最後に残ったのはアルバムだけだった。

 でもそれを見る事はできなかった。もう会えない事実を突きつけられてただただ悲しくなるから。

 

「あさひ。無理する事ないよ」

 

 そんなおれに慰めの言葉を送ってくれるのはお爺ちゃんだった。

 お爺ちゃんは、かつておれの父さんと母さんの結婚を反対していたそうだ。それだけ父さんの事を可愛がっていたのだろう。

 それでも、二人の結婚を認めて、おれが生まれて、遊びに行った時はとても優しくて――だから、二人が死んだと知ってショックだった筈だ。

 その心労が原因か分からないが、お爺ちゃんは病気を患って此処最近は病院で寝たきり生活だ。

 

「お爺ちゃん……」

「辛い時は逃げて良い。戦わなくて良い。どうか、幸せになって欲しい……あの二人の分まで、な」

 

 優しい目でこちらを見て、優しい手つきでおれの頭を撫でて、優しい言葉を送ってくれるお爺ちゃん。

 

 しかし、そんなお爺ちゃんも数日後に亡くなった。

 叔父さんが泣く中、おれはまたしても泣く事が出来なかった。

 

 

第七話『転生したら原作に振り回された件について』

 

 

 学校に行く事にした。いつまでも塞ぎ込んだ所で何も変わらない。……こんな状態では、死んだ父さんと母さん、それにお爺ちゃんを心配させてしまう、と考えて……死んだ人間がそんな事を考えられる筈がないと思考がネガティブになってしまう。

 

「あさひ!」

「お前、大丈夫なのか?」

 

 久しぶりに会った友達は当然の様におれの事を心配してくれた。不登校の時も家の外から必死に呼び掛けてくれていたのに、おれは応えることが出来なかった。

 

「うん。ごめんね二人とも。迷惑を掛けて」

「あさひ……」

「……無理、するなよ?」

 

 心配させない様に笑顔を浮かべたが、二人は依然として表情は暗いまま。

 あれ? もしかしておれ笑えていない?

 自分の頬に触れてそう思ってしまうが、その事を二人に聞く事は出来なかった。

 

 それからの学校生活は何事も無く続いた。先生が少しおれの事を心配……いや扱い兼ねていると言った方が正しいか。それにしてはイヤにベタベタして来ていたが……。それ以外は特に変わった事はなかった。

 他のクラスメイトは元々必要最低限にしか接していない為、何か言われる事は無かった。一部の生徒の視線が少し気になったけど……。

 

 授業が終わり、中庭で昼食を取る。

 いつもの光景の筈だが、今日は違う。

 

「あさひ、それ……」

「……うん。叔父さん、ご飯作るの苦手だから」

 

 今日おれが持って来たのは弁当ではなく、コンビニで買ってきたおにぎり数個。何故今日は弁当じゃないのか、なんて考えるまでもない。

 いつも美味しい弁当を作ってくれていた父さんは死んでしまった。だからもうあの弁当を楽しみに学校に行く事も、幸せを噛み締めながら食べる事も、あの美味しい味も──もう、無い。

 

「〜〜〜っ! これ、おかず上げる!」

「えっ、でもそれラタの好きな唐揚げ……」

「良いから!」

「ん。じゃあ俺も卵焼きあげるよ」

 

 そう言ってラタの弁当箱の蓋の上に唐揚げと卵焼きを置いておれの膝の上に乗せた。

 ……優しいな、二人とも。

 泣きそうになるのをグッと堪えてお礼の言葉を送る。

 

「ありがとう、二人とも」

 

 パクリッと食べて──慣れない味が少ししょっぱく感じた。

 

「……そういえば」

 

 ふと、いつも二人が居る場所を見る。

 この時間になるとワーワーと騒いでラタと真琴と一緒に呆れていた。でもこうして静かだと、何か物足りなく感じる。

 ……今日は、あの二人とは会っていない。

 

「ねぇ、あの二人は?」

「あぁ。アイツらなら――」

 

 そこで聞いた話は、少し信じられないモノだった。

 二人は暴力事件を起こしてしまい、現在停学処分になっているだとか。刹那と十和子が喧嘩したのかと思ったが、どうも違うらしくおれのクラスメイトと喧嘩し、怪我をさせてしまったらしい。

 

「それは、大変だったね……」

「俺達も何で喧嘩していたのかは知らない」

「でも、あまりいい気分じゃないのは確か」

 

 ……でも正直なところ有り難いと思っている。

 

(──原作、通り)

 

 刹那の心を読んで、おれの両親の死は決定していた。その事が辛い。

 そして二人はそれを止めようとして止める事が出来なかった。

 普段のおれなら仕方ないと流す事が出来たのかもしれない。でも今のおれは……何で助けてくれなかったんだと思ってしまう。

 

(刹那が知ってたって事は十和子も知っていたんだろう。あの日二人揃って学校を飛び出したし)

 

 だから今会っても、二人にどんな言葉を吐き捨ててしまうのか分からないし、怖い。だから向こうから避けてくれるのは有り難い。

 ──このままじゃいけないと分かりつつも、おれは現状に甘んじていた。

 

 こうして日々を過ごしながらも、おれは何処か無気力に過ごしていた。

 このまま何も変わらない。そう思っていた日常は突如変わる事になる。

 

「おはよう。……?」

 

 住所が変わり、真琴やラタと一緒に登校できなくなったおれは、二人よりも早く学校に着くことが増えた。

 いつもの様に教室に入ると何やら空気がおかしい。

 こっちを見てクスクスと笑う子や何処か居心地悪そうにしている子。さらにはおれと目が合うと視線を外す子まで居た。

 一体何だろうか、と思いながら席に向かい――言葉を失った。

 

「……なんだ、これ」

 

 呆然と呟いたその言葉に、一層忍び笑いが増えた気がする。

 しかし、それも当然だろうな、と頭の冷静な部分がそう分析していた。

 

「おはよー。あさひ、今日も早い……は? 何これ?」

「どうしたんだ、ラタ――これは」

 

 後から来た二人も気付いたのだろう。背中越しに息を呑むのが分かった。

 まぁ、無理も無い。

 おれは後ろのロッカーから雑巾を取り出し、ゴシゴシと自分の机を拭き始める。そんなおれの動きを見て、ラタが教室を見渡して叫んだ。

 

「誰だよ、こんな事したのは!」

 

 目に涙を浮かべるラタ。無言でおれの手伝いをしてくれる真琴。

 

「こんなの、イジメじゃないか!」

 

 まぁ、つまりはそういう事だ。

 『死ね』『臭い』『消えろ』『疫病神』『親無し』――何とまぁ、ここまで人の心は醜いのかと、少し辟易とする。

 ……嫌われているのは分かっていた。心を読まない様にしても、時折漏れ出た心を聞いてしまう事がある。だから今まで上手く回避して来た……と思っていたんだけどなぁ。

 どうやらそう思っていたのはおれだけらしい。

 

「名乗り出ろよ、この卑怯者!」

「良いよ、ラタくん」

「あさひ、何言って……!」

「良いからっ。……ごめんね、二人とも」

 

 おれの言葉に二人は暗い顔をする。そんな顔にさせて申し訳ないと思う。

 

 でも、おれ――もう疲れちゃった。

 

 それからおれのイジメを受ける日々が始まった。

 ラタと真琴が必死に防ごうとするも、二人が居ない時にバレない様にしてくる為、二人の努力は無駄と言っても過言ではなく。

 先生に言うも学校側はイジメと認識するのが嫌なのか、なかなかこれといった動きを見せなかった。

 ……叔父さんにはバレない様にした。それでも様子がおかしいと気付き、何度も話を聞こうとして来たが何とか誤魔化した。

 そんな日々を過ごし、一週間――。

 

「――大丈夫か、月ノ本」

 

 ホームルームが終わり、おれは担任の教師に呼ばれて指導室に居た。今朝の事は当然彼女にも伝わっており、ホームルームでもイジメの事が話された。

 長々とありきたりな言葉を並べて、犯人は出て来なさいと言っていたが――当然出てくる訳もなく、無駄な時間が過ぎただけだった。さらに先生はおれが如何に可哀想な状況なのかを語り、今後こんな事は辞めようと言って――はっきり言って火に油だった。

 

(おれをイジメている主犯が、先生の事好きだから余計に、ね)

 

 今回この様な事をしたのも、先生がおれを贔屓にしたかららしい。

 全く、くだらない。

 

「おれは大丈夫です。ありがとうございます、先生」

「そうか。……」

 

 何処か投げやりな言葉に先生はそう答え、しばらく黙っていた。

 しかし突然立ち上がると、部屋の扉に向かい――鍵を閉めた。

 

「先生?」

「月ノ本。お前をイジメた奴を許せないか?」

「……」

 

 そう言われて、おれはどう思っているのか考え――正直どうでも良いと思っていた。

 大好きな父さんと母さん、さらにはお爺ちゃんが死んだ事で投げやりになっている今のおれは普通じゃない。でも、おれを虐めてくる彼に仕返しする気も、罪を問う気も起きなかった。

 

「……いえ。話を大きくしたら学校や先生に迷惑を掛けちゃうので」

 

 だからおれはそんな心にも思っていない事を言った。

 さっさと帰りたい、今はそれしか考えていなかった。

 

「そうか。月ノ本は優しいなぁ」

「……先生?」

 

 ――何か、様子が変だ。

 先生の言葉が何処かネットリしていて、振り返ろうとし――ガバッとおれよりも大きな女性の腕が後ろから抱きしめて来た。

 

「せ、先生……!?」

「月ノ本のその優しさ、私は好きよ。でも、それじゃあ君が潰れちゃう――実は、犯人は分かっているんだ」

「え?」

「正直、君の言う通り大事にしたくなかったーーでも、もし君が私の言う事を聞いてくれるなら……」

 

 そこまで言って先生の手がイヤらしくおれの胸を弄り、徐々に下へと降りていく。胸から腹に。腹から腰に。そして腰から――。

 

「や、やめてください!」

 

 ゾワっと背筋に悪寒が走る。生理的に無理だった。

 おれは先生の手を振り払い、拘束から抜け出すと扉を開けようとして、その前に腕を掴まれて床に押し倒される。

 その時の衝撃が凄まじく、背中が痛かった。思わず呻き声を出し、視界がチカチカとする。

 

「つ、月ノ本? 何で? 何で私を拒絶するの? あんなに優しい月ノ本が――」

「っ……」

 

 それでも尚おれは抵抗しようと力を入れ――。

 

「そんなんじゃあ、お父さんもお母さんも悲しむぞ?」

「――」

「大丈夫。これからは私が守ってあげるから。だから、月ノ本」

 

 ――ああ、そうだ。

 もう父さんも母さんも居ないんだ。

 だからおれはこんなに無気力なんだ。だからイジメられても何とも思わないんだ。

 だったら、此処で抵抗した所で――何の意味がある?

 おれは、力を入れるのを辞めた。

 

「! つ、月ノ本! 良いんだな! 合意と取って良いんだな!?」

 

 先生が興奮した様子でそう叫び、バッと上着とブラジャーを脱いだ。

 おれはそれを冷めた目で見たまま、迫り来る先生を呆然と見続け――。

 

「させるかこのショタコン野郎!!!!」

 

 突如扉が吹き飛び、刹那が飛び込んできた。

 

「な、何をする――」

「うおりゃあああああああ!!」

 

 狼狽する先生の腕を掴むと、そのまま力任せに背負い投げをした。フォームも何もかもバラバラで、勘違いで無ければ先生の腕の筋や肩の骨が脱臼したかの様な音が聞こえた気がする……。

 それを成した刹那は、長い銀髪を揺らしながらこっちを見て。

 

「無事か、あさひちゃん!?」

(こんな事原作には――いや、今はそれ所じゃない!)

 

 心の底からこちらを心配している彼女が居て、さらに――。

 

「あさひ!」

「大丈夫か!?」

「……」

 

 後から真琴、ラタ、さらには十和子まで駆けつけて来た。

 おれは真琴とラタに助け起こされ、十和子は刹那と並び先生からおれを庇う様にして立ち塞がる。

 

(まさかマジカル⭐︎ハートであったエロシーンが、あさひで再現されるなんて……あれはマジ⭐︎ハ世界の順平さんのイベントの筈なのに……)

 

 ……どうやら、今回は原作とは関係ないみたいだ。

 でも――どうして、今回は見逃さなかったんだ。

 おれの父さんと母さんは……っ。

 

「お、お前ら先生に向かって何をっ」

「うるせぇぇぇぇぇええええ! お前こそあさひちゃんに何してんだ!」

 

 そう言って刹那は思いっきり先生の横っ面をぶん殴った。

 げぶぁ!? と先生が変な声を上げて吹き飛ばされる。

 転生者ボディの拳は効いたのか、先生は頬を抑えて立ち上がれなかった。

 

「あさひはな! 今悲しんでいるんだよ! それをお前、心の隙を突く様な事して、最低じゃねーか!」

 

 刹那は、そう叫び。

 

(ああ、全く以って最低だよ――私もっ)

 

 心の言葉に、おれは思わず目を見開いた。

 

「あいつは優しすぎるから、滅多に泣かないんだ。イジメられても泣かなくて我慢して、それをみんなに悟らせない様にして――でも、そんなの悲しいじゃん!」

 

 ――後で知った事だが、刹那と十和子はイジメを未然に防ごうとしていたらしい。しかし犯人グループと先生による証言により、彼女達は停学にさせられた。

 

「――刹那ちゃん」

 

 どうして。どうしてそこまでしておれの事を――。

 思わず呟いたおれの言葉に、刹那は振り返って心の中に浮かんだ言葉を一句一言間違える事なく叫んだ。

 

「お前が、好きだからだ!!」

「――」

「だからあさひちゃんの両親を助けたかった。でも出来なかった。当然だよな、私詳しい事知らねーし。難しい事ウダウダ考えられないし。それでも」

 

 好きな人には笑顔で居て欲しい。

 

「だから、私の夫にして幸せにしようとした!」

「それはおかしい」

 

 すかさずラタが突っ込むが、刹那は構わず叫ぶ。思いの丈を。

 

「だから――()()()を泣かせるな!」

 

 そう言って刹那は拳を振り上げて、先生の脳天に振り下ろし完全に沈黙させた。

 

「――お前、こんな事してヘタしたら退学だぞ」

「知るかっ。だってこいつが悪いんだし」

「言い訳子どもか。ったく」

 

 十和子が刹那の言動に呆れ果てながら、しかしポケットからある物を取り出して言った。

 

「さっきの問題発言はしっかりと録音してある。それにイジメの証拠も集めたし、この先生とイジメの主犯の繋がりも分かった。これがあれば何とかなる」

「黒崎くん、そんな事してたんだ……」

 

 十和子の言葉に、真琴がドン引きした態度で言った。

 

(マジハやっていてよかった……)

 

 どうやら出典はエロゲらしい。

 

「どうとでも言え――何もできずに後悔するのはもうたくさんだ」

 

 そう言って十和子はこちらをチラリと見て、すぐに逸らした。

 

 二人は、本気で何とかしようと動いてくれていたらしい。

 心を読めるおれにはそれが痛い程分かる。

 分かるけど――まだ、踏み出せないでいた。

 

「あさひ」

 

 そんなおれを真琴がギュッと抱き締める。

 

「辛かったよな。そうだよな?」

「……別に、大丈――」

「――大丈夫な訳ないだろ!」

 

 おれの言葉を遮ってラタが叫ぶ。

 

「だって、お前がそんな顔しているとオレ達が悲しんだ。辛いんだ。それなのに、お前が辛くない訳ない!」

「……我慢しなくて良いんだよ。だから、あさひ。どうかお願いだから我慢しないでくれ」

「――」

 

 ――堰き止めていた何かが一気に壊れた感覚がした。

 おれの頬に次々と涙が伝い、拭っても拭っても止まらない。

 胸の奥にある騒めきが感情となって、声となって、おれの口から溢れ出した。

 おれは、人目も憚らず泣いた。

 なんて言ったのか分からない。なんて叫んだのか覚えていない。

 それでもラタと真琴は優しく抱き締めて受け止めてくれて、刹那と十和子は黙って耳を傾けてくれた。

 

 ただ、覚えている事が一つだけある。

 おれはこの時、父さんと母さん、それにお爺ちゃんの事を思い出して、ずっと呼び続けていた。

 

 

 

 それから暫くして。

 おれに淫行を働こうとした教師は解雇され、虐めていた生徒は別の学校へと転校した。

 

「エーテルライトの家の力はこういう時のためにあるんだ」

 

 その時のラタの笑みが少し怖かった。

 あれから暫くしておれは落ち着きを取り戻し、いつもの学校生活を送っている。刹那と十和子も停学は取り消しとなり、今では前と同じ様に接してくれている。

 ……ただ、ほんの少しだけ、二人の顔を見るのが恥ずかしい。

 

 叔父さんは転校する事を強く勧めた。当然の事ながら、イジメを早期に解決してくれず、淫行を働く教師を雇っていた学校に不信感があるらしい。

 でもおれは皆と離れたくなくて無理を言って残る事にした。

 

「仕方ない……でも辛くなったら、今度こそ相談してくれよ? 家族なんだから」

 

 その時の叔父さんの優しい目をおれは忘れない。

 それと、此処最近おれは料理の勉強をしている。父さんの遺した本を参考に、美味しいご飯を叔父さんに振る舞っている。

 流石に外食ばかりはね……。

 まだまだ拙い所もあるけど、いつかは父さんに負けない料理を作る予定だ。だから……。

 

「これからも見守ってください。父さん。母さん」

 

 おれは仏壇に備えられている両親の遺影に向かって、そう伝えた。

 さて、そろそろ学校に行かないと遅刻してしまう。

 

「それじゃあ、父さん。母さん行ってきます」

 

 今日は、絶対に遅刻する訳には行かない。何故なら――。

 

 

 

【タイトル。『私の大好きなお父さんとお母さん』。

 私には二人の自慢の両親が居ます。父の作る料理はとても美味しく、仕事が忙しい中いつも弁当を作ってくれます。隠し味とかあるの? って聞くと「あさひへの愛情だよ」って少し恥ずかしそうに言って、私まで恥ずかしくなります。でもそれと同じくらい、いやそれ以上に嬉しくて私はいつもお父さんのご飯が楽しみでした。

 お母さんは逆に料理が全然ダメです。でも力が凄く強くて、私が5歳の時に家の屋根まで届く高さまで高い高いをしてくれました。その後お父さんに怒られていました。そんなお母さんが面白くて、私の事が大好きな所が私も大好きで、いつも甘えてしまいます。

 それでも一つだけ不満な所があります。それは仕事でなかなか一緒に居られない事です。それで普段は叔父さんにお世話になっていますが、それでもやっぱりお父さんとお母さんと一緒に居たいと思います。

 遊園地に連れて行って欲しいとか、水族館に連れて行って欲しいとか。オモチャやゲームを買って欲しいとは言いません。でもできるなら少しでも長く一緒の時間を過ごしたいです。

 それでも私は二人の事が好きなので今は我慢して、いつか大きくなったら二人が仕事をしなくても良いくらいに働いて何時迄も仲良く暮らしたいです。

 それくらい私はお父さんとお母さんが大好きです。

 

 三年一組。月ノ本あさひ】

 

 

 

「いやー、感動的だなぁ。これで原作通り原作通り」

 

 あさひ達の授業風景を覗き込む影――否、闇が居た。

 まるで老人の様な、子どもの様な、女の様な、男の様な、あべこべな声でソレは嬉しそうに言う。

 

「本当焦ったよ。ボクが居なければ、原作が崩壊していた」

 

 そう言ってソレが懐から取り出したのは一つの水晶玉。

 ソレはその水晶玉を一つ撫でると、少し前に録画した映像を空中に映し出し、ウットリとした顔で鑑賞する。

 

『――お願い、だ。どうか、健二だけは助けてくれ。アイツには、あさひにはコイツが必要なんだ!』

『何言ってるんだバカ! あの子に必要なのは父親だろ!』

「ん〜。とても素晴らしい親子愛! 原作通りでとても尊くて――だからこそ、それを壊すのは良く無いなぁ」

 

 ソレがニタリと笑みを浮かべた瞬間――映像の中に居た二人の男女は、とても悲痛な叫び声を上げ、最後に己の息子の名を呼び……息絶えた。

 

「だからさ。あまりやり過ぎるなよ?」

 

 映像が巻き戻る。男女の死、息子を想う言葉、命乞いと映像が切り替わり――次に映像に現れたのは倒れ伏す十和子と刹那の姿。

 そこから逆再生された映像は、二人が如何にして負けたのかを丁寧に写し続け――ソレが介入する前の場面で止まる。

 

『君たちは一体……』

『魔物はアタシ達が倒しました。話は後でするので、今は早く此処を脱出――』

『私の名前は神城刹那。あさひの夫です。以後、よろしく』

『だから時間が無いって言ってんだろうがこのバカ!』

 

 それは、刹那達が原作を――運命を変えた瞬間だった。

 もしこのまま何事も無ければ、あさひは大好きな両親と誕生日パーティをし、刹那と十和子はいつもの様に彼に接し……もしかしたらどちらか、もしくは両方と良い関係になれたのかもしれない。

 

 しかし、それを許さない者が居た。

 

「ただでさえ、上位存在が原作主人公に入り込んで滅茶苦茶になっているんだ」

 

 ソレの手には、刹那と十和子の記憶の一部が握られていた。

 チート能力で結晶化したそれを握り潰し、この世から消し去るとソレは嗤う。

 

「だからせめて原作の物語は守ろう――ね、あさひ?」

 

 その言葉と共にソレは、まるで最初からそこに居なかったかの様に消え失せた。

 

 すぐ近くに闇が居る事を、誰も知らない。

 遭遇した二人の転生者も覚えていない。

 

 それでも物語は進む――原作に沿って。

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