転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
「事故で死なせちゃった。メンゴ」
「テメェ!」
「お詫びとして魔法少年あさひの世界に転生させてあげるよ」
「アザース!」
そうして、私は魔法少年あさひに転生した。
第八話『転生したら魔法少年あさひの世界に居た件について!!!!!』
「……ふっ。懐しい夢を見た」
カーテン越しに差す朝日を浴びてキラキラと輝く銀髪を持つ絶世の美少女の名は神城刹那。青と赤のオッドアイを持つ目を細めて、欠伸を一つ。
常人離れをした容姿を持つ彼女は、とある秘密がある。それは、前世の記憶を持つ人間──転生者である事。
彼女はこの世界とは別の人間であり、彼女の前世の知識はこの世界の未来の情報がある。
もっとも、それを活かすだけの脳みそが無いのだが。
「さて」
刹那はカーテン越しに外を見ると。
「二度寝しよ」
再び布団の中に入った。
今日は日曜日。学校は休みである。前世で社会人だった彼女は今の生活に幸せを感じていた。
微睡みの中に体を委ね、そのまま彼女は心地よく……。
「──くぉらぁ! 刹那ぁぁあああ!!」
「うぇ!?」
しかし、突如起きた怒号により意識が覚醒する。
布団に潜らせていた上体を起こし、急いで二階の自室から一階のリビングへと駆け降りる。
「おはようございます、お父様!!」
「はい、おはよう。それはそうと、起こしたら一回で起きんかい!」
「ご、ごめんなさい……」
刹那を叱りつけるのは、彼女の父親である神城ヒロシ。
黒の短髪に無精髭。腹は少し出ており、それを腹巻で隠している。
はっきり言っておじちゃんである。容姿端麗の刹那とは似ても似つかないが、しっかりと血が通っている。
刹那は肩を下ろしてテーブルに着く。
自堕落な生活をしようとすれば、すぐに口うるさい父親から説教が飛んでくる現状に辟易としていた。
(というか、オリ主の親にしては見た目良くないな……)
転生特典により美少女になった刹那。
そうなると、自然と両親も自分と似たような美形になる筈だが、何故かそこら辺に居る人間と変わらない。
……当然、母は浮気したのか、してないと大喧嘩となった。DNA鑑定した結果しっかりと二人の子どもと判明したのだが、ならばこの見た目は? と首を傾げる事に。
病気の可能性もなく、何かしら隔世遺伝子と判断された。
(てか、何で私はペコペコしているんだ? こんなのかっこ良くない!)
不満を抱いた刹那は、すぐに行動に出る事にした。
「──おい、くそジジイ!」
「親に向かってくそジジイとはなんだ!?」
「ごめんなさい!」
刹那、反抗期終了。
ゲンコツを喰らい、頭にタンコブを乗せたまま彼女は父と料理を食べる。
「ま〜ったく。アンタは本当にへんな子なんだから。ダメよそんなんじゃぁ。周りにアンタみたいな子居ないでしょ」
「ふっ。まぁ、私みたいな人間はそう居ないよ」
「アンタみたいな奴がたくさん居たら世界の終わりだよ」
ファサ、と髪を靡かせて言うも、父親の前ではただの妄言だった。別に普段から妄言だった。
「うっ、言葉が刃の様にキレッキレ過ぎる」
「アンタここまで言わんと言う事聞かんでしょうが! 良いからさっさと朝ご飯食べちゃって!」
「はーい。そういえば母さんは?」
「仕事。アンタが寝てる間に行っちゃったよ」
彼女の母、神城みちるもまたこれといった特徴のない女性会社員。
社畜よろしく毎日社会の歯車になって働いている。
今日は日曜日だが、急な要件で仕事に出たらしい。可哀想。
「ふーん」
「で、今日も出掛けるの?」
「うん」
「暗くなる前に帰るんだよ。当然宿題を終わらせてね。アンタただでさえサボり気味なんだから、そこの所──」
「わ、分かっているよ……」
いつもの様に説教をされながら、刹那は朝食を摂り続ける。
これが、彼女の日常である。
家を飛び出した刹那が向かったのは、学校の裏にある山。
彼女はここ最近休みの日には必ず此処に訪れ、魔法の練習をしていた。
胸元にいつもぶら下げている剣のペンダントを取り出すと、それに向かって魔力を込める。そして、力を使う為の言葉を口にした。
「契約に従い、我が手に宿れ剣の精。来れ万物を斬り裂く刃。薙ぎ払え我に仇す敵を。我が名は神城刹那。汝の名は──ブラック・ソウル!」
そんな十和子が聞くと悶え苦しみそうな詠唱を完了させる。
すると、彼女の足元にサークル状に輝く光──魔法陣が出現しペンダントが装飾された儀式剣へと変わる。
「リバースワールド、発動!」
そしてその剣を天に掲げて叫ぶと同時に、彼女の髪と同じ銀色の光が解き放たれ裏山が覆い尽くされる。これにより、刹那は一般人には辿り着くことができない場所、異界へと移動することができた。この場所で起きた事は現実世界では反映されない為、彼女は此処で魔法の練習をしている。
「ワイルドファング──ファイア!」
刹那は己の魔力で生成した的に向かって魔力で作った弾丸を放つ。
片手に浮かんだ光の球から次から次へと細かく分割された光弾は、的が展開したバリアを削っていき端から削っていく。
「はっ!」
そこに剣に魔力を纏わせて薙ぎ払う事で斬撃が飛び、弾丸を防いでいた的のバリアを突破し命中。分割された光弾もそのまま的を蜂の巣にした。
「やっぱり強いなこの戦術……」
実は今彼女がしているこの攻撃スタイル。魔法少年あさひにて、主人公あさひが得意としている戦法だ。人並み外れた魔力でガトリングの如く射撃魔法を浴びせて、足を止めて防いだ所を上から砕く。前世で見た時はえげつないと思っていたが、転生する際に魔力を多くして貰った彼女は嬉々として真似した。
「やっぱり凄いなこの転生特典」
刹那が転生する際に神に願った特典は、①銀髪オッドアイ。②魔法使いにおいて最適な身体。③魔法を使う為の発動体──通称『杖』の優遇である。この世界の優れた魔法使いは魔力が多く、身体能力が高い。魔法少年あさひもそれに該当し、後に魔法世界の英雄と呼ばれる様になるくらいだ。
「よし。原作に入ったらあさひを守るために、訓練だ!」
斬撃魔法。砲撃魔法。防御魔法。強化魔法。飛行魔法。転移魔法……。
様々な魔法を刹那は使い、練習していく。彼女の使っている魔法は、予め杖に登録した魔法術式を選んで使用する。
魔法少年あさひの中でも、この魔法を使う者がほとんどであり、あさひはその場に応じた魔法の選択、展開速度、術式精度がピカイチだった。
前世では戦いとは無縁の生活をしていた刹那が、いくらチートを貰っても作中のキャラ達に追い付き、追い抜いて守る為には訓練する事は必須。
でないと。
「また、
あさひの両親を助ける事ができなかった事を思い出しながら、彼女は己を高め続ける。
もう後悔しない様に。もうあさひを泣かせない為に。
そして……。
「あいつには、絶対に負けない……!」
別の山で訓練をしているもう一人の転生者の事を意識しながら、そう言った。
「また来たのかアンタ……」
「お前は嫌いだけど、ここの店のご飯は美味しいから」
父親から貰ったお小遣いで刹那が入ったのは喫茶ラビット。
休日はいつもで此処で食事を摂っており、そうなると必然ここの店のオーナーの娘である十和子と顔を合わせる事になり……。
「ったく。おかげでアタシもこの時間に強制的に付き合わされるんだけど」
「せっかくの美味しいご飯が台無しだ」
「それはこっちの台詞だよ……!」
と言いつつも、刹那と十和子はそれぞれ魔法の訓練を終えると一緒に喫茶ラビットで食事をしている。
なんだかんだ、この二人も付き合いは長い。初めて会った時はチートを使って戦い合った事を考えると、二人の仲は良好なものになっていると言える。
「しかし、美味いな。流石あさひのお気に入り」
「……」
「それにしても考えたなぁ。行きつけの店の子どもに転生するなんて」
彼女達が座っている席は店の奥。会話が聞かれる事はない。原作でもあさひが魔法の事を話す時に使っていた席である。
十和子は刹那の言葉を否定する事なく、かと言って何かしらの言葉を返す事はなかった。
まぁ図星なのだが。
十和子が転生する際に貰った特典は①喫茶ラビットの子どもに転生する事。②魔法を使う為の杖。③魔法使いにおいて最適な肉体。この三つである。
つまり、魔法戦闘において刹那と相違ない力を持っている訳であり……。
「原作に介入しないって考えは変わらないの?」
「……」
「でもそれだと矛盾するよなぁ」
そう、原作に介入せず普通に暮らしたいのなら、原作主人公と接触する可能性のある喫茶ラビットの子どもになる事も、魔法使いの才能を貰うこともおかしいのである。
「本当は、あさひに関わりたいんだろうに……」
「アタシ、別に……」
「私さ、バカだから分からないけど──中途半端な考えで中途半端な行動してるとあさひを悲しませるって、あの件で学んだだよね」
「……ちっ」
舌打ちをする十和子。
しかし、刹那の言葉は正しく……あさひの泣いている姿を見て後悔した。
だから、十和子も魔法の訓練を続けている。これから起きる悲劇に対処できる様に。
「答えなくても分かっているだろ」
「へっ。とりあえず邪魔だけはするなよ? 私はあさひだけじゃなく、ナイトも真昼も救って、そしてゆくゆくは……」
そこまで言って、刹那はだらしない顔を浮かべてニヘニヘと危ない笑みを浮かべる。
それを見た十和子は舌打ちをしてコーヒーをグイッと飲む。
こうして自分の欲望を隠す事なく口にできる彼女の事を、十和子は苛立ちを覚えていた。嫉妬している、とも言う。
「本当に踏み台転生者だなアンタ。そんなんだと、また
「ぬぐ……。分かっているよ。次こそは
そう言って二人はあさひの両親を死なせてしまった事を思い出し、改めて反省する。
あんな思いはしたくない。させたくない。
だから強くならなくてはならない。
(アイツに負けない様に──)
刹那はそう誓い。
(──? アイツって誰だ?)
自分の違和感に首を傾げ。
(原作改変するなら、失敗しない様に──)
十和子は
そんな事をそれぞれが考えていると、喫茶店の扉が開きカランコロンと来客のベルが鳴る。
普通なら気にも止めないだろう。この店に客が来るのは当然の事、と言い切れる程度には繁盛している。
しかし、二人の高性能な肉体はすぐにその声を聞き取った。
「いらっしゃ──あら、あさひくん!」
「こんにちは。今日も忙しそうですね」
推しの声を聞いた二人の行動は早かった。
「──やぁ、あさひ。奇遇だね、こんな所で会えるなんて」
「……うん、そうだね。奇遇だね刹那ちゃん」
一気にあさひの前に駆け抜けた刹那が、彼の前で跪きあさひの手を取ってキランっとキメ顔をする。
それに対して一瞬惚けたあさひだったが、すぐに彼女の言葉に応えた。
どうやら突然現れた刹那に驚いたらしい。いつもの様に柔らかい笑顔を浮かべると、優しくそう返した。
「お客様。当店でナンパするのならお帰りくだ──さい!」
「ぬお!?」
「刹那ちゃん!?」
しかし、そこに十和子が追いつき刹那の首根っこを掴むと扉を開けて店の外に彼女を放り出した。
突然の十和子の行動にあさひが驚いて追ってみると、華麗に着地した刹那が十和子に掴みかかり、十和子も応戦していた。
「さっき言ったよね??? 邪魔をするなって???」
「他のお客様や、あ……あさひに迷惑をかけるなら、容赦しないぞ」
その様子をあわあわと落ち着かない様子で止めようとするあさひと、いつもの事かと気にする素振りを見せない常連客たちと店員。
「あさひくん。いつものシュークリーム二個で良い?」
「あ、はい。……あの、二人を止めなくても?」
「別に良いよ。気が済んだら帰ってくるから」
そう言って十和子の姉は店の奥に戻って行った。
その背中を見送ったあさひは、再び視線を二人に向けて困った表情を浮かべる。
作中でも優しい彼の事だ。争っている二人をどう止めようか悩んでいるのだろう。
「……どうしよう」
「やんのかコルァ!」
「んだとオルァ!」
あさひの言葉は、二人の喧騒に掻き消された。