転生したらあべこべアニメ主人公だった件について 作:カンさん
「おはよう、二人とも」
「あ……お、おはようあさひ……」
「お、おはよう……」
最近、ラタと真琴が余所余所しい。
ある日、突然おれに対する反応が以前と比べて距離が空いている様な態度を取り始めた。
嫌われた……訳ではない。ただ、何かを隠している様に見えた。
心を読めばすぐに分かるのだが、友達相手にそういう事はしたくない。
……それだけなら良いんだけど。
「ラタ。寝癖付いてる」
「あ、ごめん真琴」
……ラタと真琴の距離が物凄く近づいている。
以前は、ラタが真琴に好意を寄せていたんだけど、今は真琴もラタに対して満更でもない態度を示している。
ほら、今も二人揃って顔を赤くさせて見つめ合っている。そういうのは家でやって欲しいな……。
そして、様子が変なのは彼たちだけでは無かった。
「よ、よよよよよよよよよう! あ、あさひ! 奇遇だね!」
「はぁ……動揺し過ぎ」
昼休憩になりいつもの様に中庭で弁当を食べていると、いつもの様にやって来た刹那がそんな事を言い、そんな彼女の反応に十和子が呆れる。しかしそんな十和子もチラチラとおれと見て忙しなく感じる。
正直、それだけならいつものだとスルーできるのだが……。
「ちょっと
「ご、ごめん……」
あのラタが刹那の手を掴んでおれから距離を取ると、コソコソと内緒話をしている……。
女嫌いであるあのラタが、だ……。
ど、どういう事なんだ? あんなに刹那に対して顔を近付けるラタなんて見た事ない……。
「やれやれ……」
「仕方ない奴だ」
そんな二人を見て肩を竦める真琴と十和子。
そして二人は視線が合うと、お互いに苦笑した。
……なになになになに!?
四人の人間関係の急激な変化に理解が追いつかない。
心を読むか……? いや、でも、しかし……。
そんな風に悶々としながら昼休憩は終わり、四人の態度が変わる事はなかった。
一体、何が起きたんだ……?
第九話『転生したら蚊帳の外だった件について』
「じゃあ、俺たちは先に帰るね」
「ま、また明日ねあさひ……」
放課後、ラタと真琴は先に帰った。おれは今日掃除当番だから……。
でもやっぱり、二人の様子は何処となくおかしかった。
うーん……二人が話す気があるなら、待っていたいし……。
でも話したくない事なら無理して聞いたり、無理矢理心を読んだりしたくないな……。
だって、友達だから。
という訳で。
「ねぇ、何か知ってる?」
「い、いや何も知らないけど????」
現在、刹那を問い詰めている。こうやって問い詰めれば、いくら口で知らぬ存ぜぬと言おうとも心の中を読めば何が起きたのか知る事ができる。
彼女達相手なら心を読んでも良心は痛まない。だって時々良い事言ってもすぐにやらかして帳消しにするから……。
「本当に知らないの?」
さて、一体何が起きたのかな。
能力を使いながら尋ねると、刹那はしっかりとおれが知りたい事を答えてくれた。
「し、知らない!」
(二人にも黙っている様に言われたからなぁ。誘拐された事は」
――誘拐?
予想外な言葉に一瞬思考が止まる。なんで二人が誘拐されたのか? と思っていると刹那の心はどんどん情報を吐き出してくれた。
(それにしてもあさひテンプレイベントの誘拐が起きるとは……それに、真琴が鬼の一族ってのも二次小説で見た設定そのままだったし、血の契約? ってのも……)
どうやら例によって原作イベント……とは少し違うけど、何かしらの事件があったみたいだ。
いや、それよりも……。
真琴が鬼の一族? 刹那の言葉のニュアンスから察するに、真琴は人間じゃない、もしくはそれに類似する何かって事になる。
……そう言われてみれば、その華奢な体の何処にそんな怪力があるんだと疑問に思う程真琴は力持ちだったなぁ。それに真琴のお父さんも女性の見た目で軽々と鉄骨を担いでいたし……。
あ、でも。現場の真琴のお母さんや女性作業員はボディビルダー並みにムキムキだったなぁ。
なるほど、鬼か。確かにあの怪力が鬼に関係する何かが原因なら納得できる。
そして刹那やみんなの反応を見る限りおれ以外の四人はそれを知っている、と。誘拐が起きた時に知る機会があったって事か。
でも、何で隠すんだろう。今まで隠して来たのは何とく分かるけど、おれだけに内緒にするのは……寂しいな。
よし、聞くか。
「ねぇ、本当は何か知っているんでしょ? どうしてラタくんや真琴くんまで隠すの?」
「そ、それは」
思考を誘導する様に問いかける。
すると刹那は……。
「記憶の保持をする為には、対価が必要か……」
家に帰りおれは刹那から聞き出した情報を整理する。
真琴の家、獄寺家は代々鬼の血を引く一族。
昔は陰陽師とバチバチにやり合っていた武闘派だったらしいけど、ある時期を境に衰退して現在に至るとか。
そして、獄寺家は生存していく為にその存在を隠していき、もしバレた際には記憶を消していったらしい。
しかし、記憶を消さない様にする例外の措置があった。それがーー。
「血の契約……」
血の契約とは、鬼の一族を知った人間にその事を口外しない様にする為の儀式。
その儀式には二つあり、一つは獄寺家の人間になる事。結婚するって事だ。
そして今回、ラタが身代金目当ての誘拐犯に攫われ、そんな彼を助ける為に巻き込まれた真琴が鬼の力を使い正体がバレたらしい。真琴はラタ達の記憶を消して別の町に消えようとしたが、真琴のお父さんが血の契約を結んでこのまま友好関係を結べば良いと、そう言って今回の決着に落ち着いたみたいだ。
……何でも、ラタはそっちで契約を受けようとしたらしい。それで真琴はラタの事を意識しているとか。刹那がその時の事を思い出して興奮して、控えめに言って、その、女の子がそんな顔しない方が良いと思いました、まる。
そしてもう一つは、己の秘密を獄寺家に打ち明ける。
人の秘密とは、弱点でもあるらしく、それを打ち明けるのは信頼の証……という捉え方をしているらしい。
刹那と十和子はこっちの契約を行ったらしい。
結果、秘密の共有を行った四人は前よりも仲良くなり、そして図らずともハブられる事になったおれに対して後ろめたさを感じているって事だ。
全く、相変わらず優しいな……。
「そりゃあ、おれに隠すわけだ」
四人から見ると、おれはどちらの契約も結ぶ事ができない。
……一応、心が読めるという秘密があるし、それを基に契約をしても良いと思っているが――まだ、刹那と十和子に知られたくないと
そう考えるとおれはあの四人に比べて優しくないな。少し自己嫌悪してしまう。
「それにしても……」
――今のあさひはまだ魔法少年じゃ無いからなぁ。
魔法少年。その言葉から察するにおれは彼女たちの言う原作で魔法使い……魔法少年になるらしい。
そして刹那たちは自分たちが魔法を使う事を獄寺家に教えた……って事か。
何でも誘拐犯からラタ達を助ける時に魔法を使ったとか。
……なお、肝心のラタは真琴が鬼の力を使って助けた模様。これはフラグ取られたな……。
だったら、無理して聞くと困らせるだけになるな。これ以上は聞かない様にするか。
……それにしても。
「魔法……」
自分の手を見る。おれは将来魔法を使う事になる。特別な力がある。
そう思うと嫌にも考えてしまう。
もしおれが魔法を使えていたら父さんや母さんを助けられたのだろうか。刹那たちの言う原作イベントとやらからに。
しかし、チートを持っているらしい刹那たちが救えなかった事から難しい……んだろうな。
「……ちちんぷいぷい」
くるりと指先を回してみるが当然何か起きる訳でもなく……。
ちょっと恥ずかしくなってきた。
それにしても、魔法少年か……。前世で言うと魔法少女モノなんだろうな。
おれも前世で何作か見たことがある。と言っても幼馴染が見ていたものを漫画読みながらチラッと見たくらいでだけど。
だから、この世界がおれの世界の魔法少女アニメと当て嵌めてこの先の事を考えるのは無理だ。
少なくとも、両親が殺された魔法少女アニメをおれは見た事がない。
二次小説も……うーん、魔法少女原作ものはそこまで見た事がなかったな。大体SFとか異世界ファンタジー原作物だったし……。
これが原作知識なし転生オリ主の感覚か? いや、それにしては状況がかなり怪しすぎるけど……。
「ただいまー」
「あっ、叔父さんお帰りなさい」
「うん。ありがとー」
先にシャワー浴びるねーっと言って叔父さんは浴室へと向かった。
ああ、そういえば。叔父さんと暮らしていて知ったんだけど、叔父さんもちょっと普通の人じゃないらしい。
「風間一族ーー忍者、ね」
そう、忍者である。
なるべく読まない様にしているんだけど、ふとした瞬間に心を読んでしまう事があり、それで知ってしまった。
まぁ、小説作家だけで食っている様には見えなかったからな……。ちなみにお爺ちゃんも忍者だったらしく、そうなると父さんも忍者だったんだろうな。
ただ、叔父さんの一族の忍者はおれが知っている忍者とは違う。
いや、分身の術とか火遁の術とかはあるらしいんだけど、その……明らかに全年齢向けアニメというよりも18禁エロゲ向けの忍者っぽいんだよね。
今もちょっと心を読む力を強めれば、浴室から叔父さんの声が聞こえるだろう。疼いた体を鎮めている状態の叔父さんの。
……叔父さんが結婚しないのはその忍者の仕事の事もあるけど、仕事の時にその……まぁR指定な事を散々されているから、女性と恋仲になるのが怖いらしい。
嫌という訳ではない。ただ、仕事で叩き込まれた傷で夜の生活が暴走する事を恐れているというか……。
可哀想だな……叔父さん。でも、どうする事もできないんだ、ごめん。
……でも嫌がっている割には股間の形が分かるピッチリとした服を着ているみたいだけど。
嫌よ嫌よも好きのうち、って奴か?
「……今日は一品、叔父さんの好きなおかず増やしておこうかな」
それと精がつく料理も。
やれやれ。鬼が居たり、イヤらしい忍者が居たり、魔法が存在したり。
おれが転生した世界は、一体どんな世界なんだか。
「原作開始、か」
そして帰り際に聞こえた十和子の心の声で気になるワードがあった。
十和子はおれを見て確かに「そろそろ原作が開始する」と言っていた。どうやらおれの平穏な日常も終わるらしい。彼女たちはこれからの原作に備えて修行をしているのだろう。原作が始まった時におれを助ける為に。そしておれの知らない原作で起きるであろう事件を解決する為に。
「当事者というか、渦中なのに……おれだけ蚊帳の外だなぁ」
ははは、と苦笑しながらおれは夕食の準備を済ませて。
それから一週間後。おれはその日に不思議な夢を見て――原作が開始した。
書くことがないので原作に入ります