なんで俺だけTSしないんだよ!   作:yoshida

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2話:島に来てしまった

 ついに来ましたTS島。

 

 道中の船、男五人がキャッキャーギャーギャーうるさくむさ苦しいなと思いつつ、まあこうして浮かれるのも夏の醍醐味だよな。

 なんて、さっきまで思っていたんだ。

 

 

 船から陸地を見た時に、波止場に猫がたくさんいることに気付いた俺は、着いた瞬間誰よりも早く船を降り、お猫様たちに夢中になっていた。

 そのせいで、すぐには異変に気付かなかった。

 

 

「わあ、すげえ猫! オレ、猫あんま得意じゃないけどこんなに人馴れしてるとちょっとかわいいかもしれねっす。あとイッチ先輩、猫しか見えてなくてウケる」

 

「……にゃんこさん、かわいい……いっぱい……」

 

「憂まで猫に夢中じゃん、ウケる。写真撮っとこ」

 

 

 背後から何やらやんややんやキャピキャピした聞き慣れない声が聞こえる気がした。

 でも、目の前のお猫様が足元スリスリの後にゴロンとお腹をさらけ出してくれていて、俺は今それを堪能したいので一旦無視する。

 

 

「へ〜、のどかで良いところですね。海風が少しベトベトしそうだけど、風が気持ちいいからあまり気にならないかも。砂田さん、船酔い大丈夫ですか?」

 

「……ああ。吐くもの吐いたからな」

 

「無理しないでくださいね。キョウくんたち、しばらくは猫に夢中でしょうから日陰に移動しときましょう。水を買って飲みましょうか」

 

「すまないな、助かる」

 

 

 お猫様に意識を支配されてはいたが、後ろから聞こえてくる四種類の声にだんだんと違和感を覚えてきた。

 船の乗客に女の子はいなかったはずだが、後ろから聞こえてくるのはどう聞いても女性たちの戯れ。

 

 俺の愉快な仲間たちはどこにいったんだ?

 さすがに気になったので、頑張ってお猫様から意識を移すことにして、俺は猫の腹毛をさわさわしながら振り返った。

 

 

「……あれ? みんなどこいった?」

 

「な〜に言ってんすか。先輩と憂が猫に夢中だから、砂田さんと宮っちパイセンは売店の方に行っちゃいましたよ」

 

「え? あの、すみません。どちら様でしょうか」

 

「ハァ!? 暑さでボケたんすか先輩!?」

 

 

 振り返った先にいたのは、ウェーブした金髪をなびかせてスマホを構えている、化粧バッチバチのどう見ても陽キャそうなギャル。

 と、そのギャルのおそらく双子であろう顔付きをした、青みを帯びたショートボブ? くらいの髪型をした大人しそうで控えめな少女が、しゃがみ込んで猫を眺めながらフニャッとした笑顔を浮かべている。

 

 

「あの〜、さっきまでここに、バカそうな金髪の男とそれの双子のやる気なさげなやつと、ガタイのいい日焼け男と眼鏡の真面目そうな野郎がいませんでしたか? ちょっと、はぐれちゃったみたいで……」

 

「もしかしなくてもそれオレたちのことっすよね!? 何のボケなんすか先輩!! オレたちのこと女扱いしてないってのは知ってましたけど、さすがにデリカシーないっすよ!!」

 

「?????」

 

「憂、お前もそろそろ猫から離れろっての! イッチ先輩が暑さでやられちまったみてーだぞ」

 

「あ……うん。東先輩、この島いいところだね。猫がいっぱい」

 

「あ! 砂田さんたちあそこにいるじゃん。おーい! 砂田さーん! 宮っちパイセンー! なんかイッチ先輩がバカになってるー!」

 

 

 見知らぬ少女たちが、俺を知り合いのように接してくる。見知らぬはずだが、俺の友人たちの特徴っぽさがある見た目のせいか、だいぶ混乱している。

 

 ギャルに声をかけられた売店の方にいる女性ふたりが、こちらに歩いてくるのが見えた。

 ひとりは緑みを帯びたセミロングで、眼鏡をかけた真面目そうな女性。

 もうひとりは赤みを帯びた長髪を雑に束ねていて、前髪はオールバック。日に焼けた褐色の肌と筋肉質な体が魅力的でクールそうな雰囲気がある女性だ。

 

 

「どうしたんですか。キョウくんも船酔いしましたっけ?」

 

「水。多めに買ったから、お前も飲め」

 

 

 俺は混乱の極みだった。

 俺の愉快な仲間たちは全員男だったはずだが、そいつらにそっくりな特徴を持った女性たちが、俺に親しげに話しかけてくる。差し出されたお水をがぶ飲みしながら、頭をフル回転させる。

 

 

「ちょっと待ってくれ、待ってください。何が起きてるのか理解が追いつかない」

 

「体調が悪いみたいですね。キョウくんの親戚の方がお迎えに来てくれるって話でしたけど、もう着いてるのかな?」

 

「あ! アレじゃないっすか? なんかやたら美少女が手を振ってますけど……あれってもしかしてイッチ先輩の妹ちゃんじゃないっすか? 学校で騒がれてるの見たことあるっすわ、京都ちゃんでしたっけ」

 

「は……?」

 

 

 売店の奥にある駐車場から、やたら人懐っこそうな、銀髪ツインテールの美少女が手を振っているのが見えた。

 

 ちなみに俺には弟しかいないはずである。大学デビューと言ってツーブロックにした髪を銀髪に染めて、チャラチャラ女を侍らせている系のクソガキだ。

 

 

「兄貴〜! おっそいよ、いつまで猫に夢中になってるんだよ〜! 夢中になるならこのかわい〜い妹のケイトちゃんに夢中になってよね〜。まーとにかく婆ちゃんが待ってるから早く車に乗って!」

 

「いやいやいや、いや! 待って、本当に待って! わかんないから! 今の状況なんもわかんないから!」

 

「? いーからもう早くして! なんか重要な説明があるって婆ちゃんが言ってたよ!」

 

 

 混乱している俺を無視するように、早く早く! と急かされるままズルズルと引きずられ、なんか小さい頃に見覚えがあったような気がするワゴンに押し込められてしまった。

 

 

「じゃあしゅっぱーつ! 兄上殿御一行様、ごあんなーい!」

 

 

 何もかもがわからないまま、流されるまま、よくわからんが俺は何かに巻き込まれたらしい。

 もしかしたら夢かもしれないので、助手席で寝ることにしたが、女子たちのキャピキャピした会話が眠りを妨げる。

 

 

「ケイトさん、免許、持ってるの……?」

 

「持ってませーん! この辺ぜーんぶ婆ちゃんの私有地だからへーきへーき!」

 

 

 俺は腕組み目を閉じ、考えるのをやめた。

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