「イッチ先輩! 農学部の女子、結構狙い目っすよ! 垢抜けてない感じはしますけど、磨けば化けるというか、女扱いされるのに慣れてないっぽくて満更でもなさそうなんすよね〜」
「お前そういうところ本当軽いよな」
「フットワークは軽い方が人生楽しいっすよ?」
「いいんだか悪いんだか判断し辛い……」
「先輩、陽はバカだから、ほっといていいよ」
「まあ、あんま酷いことはしないってのはわかってるからそんなに心配はしてないけどな」
「イッチ先輩は彼女作んねーの? モテないわけじゃないっしょ」
「いやモテねーよ。知ってて言ってるだろお前。ぜーんぶ京都目当ての女しか近付いてこねーよ!」
「ああ……ケイトくん、すごい目立ってるもんね」
「見る目ねーよなー。オレが女だったら、イッチ先輩のこと放っておかないんすけどねー。飲み会とかでオレのゲロ掃除してくれるし」
「東先輩、いいお父さんになりそう」
「恋愛対象に見られないってヤツじゃねーのそれ!?」
「キョウくんはいい人止まりで終わっちゃうことがよくありましたね。いい感じかと思ったら、そういうのじゃないって振られてましたっけ」
「樹ィ!! やめてくださいお願いします死んでしまいます」
「……どうでもいいが、学食であまり騒ぐな」
「砂田さんは彼女いなさそう〜〜、あ、でも実は許嫁がいるとかそういうパターンはありそうっすね!」
「いない。興味ない。喋ってないで飯を食え」
「……大河、お前食い過ぎじゃね? ハンバーグ定食、おかわり何回してんの?」
「五回」
「砂田くんは黙々と食べてましたからね……気付いていましたけど、止めるべきか少し悩んでいました」
「食える時に食べておかないと力が出ない。備えは必要だ」
「お前は戦士か何かなの……?」
「全員彼女なしのヤローばっかで食が進まないっすわ〜〜! イッチ先輩今すぐ女になってくださいよ〜〜宮っちパイセンでも可」
「アホ言ってないでさっさと食え! 大河に続け! 負けるな!」
「それはそれで無茶かと」
チュンチュンと鳥の声が聞こえる。どうやら俺は寝てしまっていたらしい。学校での出来事を、夢に見ていたようだ。
今日は休みだったっけ? 予定があるなら目覚ましをセットしていたはずだし、たぶん何もなかったような気がする。
うっすらと目は覚めたが、なんだか体がやけにダルいので、このまま二度寝しようとして、寝返りをうつ。
「…………あ。東先輩、起きたんだね」
「…………………どちら様でしょうか」
「先輩、またバカになっちゃったの?」
ゆっくりと体を起こす。
周りを見渡すと、憂(女)と大河(女)がいた。憂は俺の枕元で体育座りをしており、大河は腕を組みながら、扉の横の壁にもたれ掛かっている。
そういえばそうだった。ここはTS島で、こいつら女体化しているんだった。
「体調はどうだ。昨晩浴場で倒れたそうだぞ」
「え? 俺倒れ…………!!?!!!?!」
一瞬で昨晩の出来事を思い出してしまい、恥ずかしくなった俺は布団の中に丸まった。下半身がまた元気になりかけてしまったせいもある。
「陽が見つけたようだ。先程まで旅館の従業員が度々様子を見に来ていた。後で礼を言うといい」
「あっ、ハイ……」
「……どうせまた、陽が何かしたんでしょ。陽、今宮間先輩に怒られてるみたい」
「あっ、うん」
陽のせいと言えばそれはそうだが、ある意味俺自身のせいでもあるし、なんならこの島のせいだと思う。
二人は俺の反応を待っているようだが、なんとも説明しづらく、もじもじとしたまま何も喋ることができない。
「キョウくん起きたんですね。体調はどうですか?」
どうしようかと考えていると、助け舟のようなタイミングで樹が現れてくれた。
その後ろから続いて陽も部屋に入ってくる。
一瞬助かったと思ったが、どうやらそうでもなさそう。
「陽さんから話は聞きました。キョウくんはまだ混乱しているでしょうから、とりあえず今日はゆっくり休んでくださいね」
「あ、うん。ありがとう」
「イッチ先輩〜ごめんねまさか倒れるとは思ってなくて〜」
「あ、はい、大丈夫です」
「陽さん。本当、次はないですよ」
樹から何やらすごい迫力を感じる。昨晩のこと、陽はどこまで話したんだ? 基本バカだから全部そのまま話してしまっている気がする。
なんだかよくわからないが、怖い。
「……京一。俺たちは外に出ている。何かあればすぐに言え」
「お、おう。サンキュー大河。とりあえずダルいくらいだから、寝とけばすぐ元気になると思う」
「ボク、ここにいとく。誰かひとりくらいいた方がいいでしょ」
「……わかった。任せたぞ憂。宮間、陽、行くぞ」
陽は「う〜っす」などと言いながらさっさと部屋から去っていく。
樹は少し考える素振りを見せたが、素直に大河に従うことにしたようだ。
最後に大河が出ていく瞬間、大河はこちらを振り返り、何も言わずにじっと見つめてきた。
「……どうした?」
「いや、いい。ゆっくり休め」
そう言うと、部屋を出て扉を閉めていった。
大河はあまり口数が多いわけではないし、考えていることをよく人に話すタイプではない。
おそらく何か思うところがあったのだろうが、俺を気遣ってそのまま去ることを選んだようだ。
少し気になったが、お言葉に甘えて休むこととする。
憂は相変わらず枕元に座り、窓の外を眺めているようだった。
「憂、お前は外に出なくていいのか? はじめて来た島だし、観光とか。俺のことは気にしなくていいんだぞ」
「……別に。ここにいる方が、落ち着く」
「それならいいけど」
布団に寝転がり、目を閉じる。
外の風の音や鳥の鳴き声、扇風機の音。かすかに聞こえる憂の呼吸音。それらに耳を傾けていたら、だんだんと落ち着きを取り戻していく。
気付くと俺は、再び深い眠りへと落ちていった。
「……東先輩。寝顔かわいい、ね」
縁側で猫と戯れ合い、一緒にお昼寝をする夢を見た。