「バカモン共が、大学生にもなっておきながら考える力が養われんかったんか? ん? たしかに好きなだけ使ってもええとは言ったが、限度を知らんのか? これが食い尽くし系ってやつなんじゃなぁ、お里が知れるのぉ!! 親の顔が見てみたいわ!」
翌朝、俺と大河は正座をさせられ、婆ちゃんからお説教を受けていた。
お里はここだし、親の顔はお前の子供だろうがって思ったが、常識外れなほどに食材を食い尽くしたのは事実なので、ツッコむことはできないままされるがままにサンドバッグになるしかなかった。
「すまない……遠慮したつもりだったが、どうやら多すぎだったようだ……。まさかこれくらいで足りなくなるとは思っていなかった……」
「京一、お前さんの友人はどうなっとるんじゃ? あのアホみたいな量をこれくらいでと抜かしとるんだが??」
「すみません、彼、いや彼女はブラックホールなんです……いだっ婆ちゃんごめんなさい、ごめ、悪かっ、すみませっ、ちょっ、痛っ、待っ、痛いっ、ごめって、ちょぉ、てめっ、おい!! 痛えって!!」
真剣に言ったのにふざけてると思われたのか、婆ちゃんにこれでもかと殴られる。最初は素直に受け止めようと思って耐えたが、途中から嬉々として杖で殴りにかかっている婆ちゃんの邪気に気付いた。
ただ単に殴っていい口実を見つけて喜んでるだけだこれ。
「いいぞババアやっちまえ! ざまぁバカ兄ィ〜〜ヒュー!! 身体に北斗七星を刻んでやれ〜! そこだ〜! いいや、やっぱオレにもやらせて! アタシ我慢できない!」
横では大河が俺を庇おうとしていたが、ケイトのバカが騒ぎに乗じて俺を殴るのに混ざろうとしていたので、ケイトを羽交い締めにして抑えながら困惑している。すまん、バカな親族で本当にすまん。
「誰がババアじゃクソガキが!!」
「ごふっ」
ひと通り俺を殴って満足した婆ちゃんは、俺への攻撃をやめて落ち着いたかと思ったら、大河に抑えられているケイトに肘鉄を食らわせる。
グッジョブババア、ざまぁバカ弟……妹。
「というわけで今日、お前たちには食材を集めてきてもらう」
「食材を集めるって……買ってくればいいのか?」
「そんなもんはもうとっくに手配されとるわ。樹ちゃんが昨日、お前らが食材を食い尽くすことを予見してな。旅館の者と共に漁場や農家に掛け合ってくれとった。陽ちんも協力しとったぞ。ほんまにできた子たちじゃ、お前らも見習わんか」
「いや樹ちゃんて。陽ちんて。距離縮まりすぎじゃない?」
「お前さんがちんたらしてるからわしの方が先に仲良くなっちまったの〜かわいそうにのぉ〜婆ちゃんに負けるとはのぉ〜」
「はぁ〜? いやいやいや、そんなこと絶対にないし。俺の方が仲良いし」
「そんなこと言うくせにまだ誰ともちゅーのひとつやふたつもしておらんじゃろうが。卒業してから出直してきな!」
「友人!! 友人として仲が良いの、俺にとっては同性の友人なの!! 俺はまだ婆ちゃんのその、た、種馬計画とか認めてないからな!!」
「諦めの悪いやっちゃなぁ。友人らは満更でもなさそうなのにこのバカ孫は」
「そんなわけないだろうが!! なあ大河!!」
「……ん、いや。そうだな、そうじゃないかもしれない」
なんだどうしたバグったのか? 大河が煮え切らない返事をしていて不思議に思いそちらに目を向けると、ケイトが未だに俺に噛みつかんばかりの状態で無表情の大河に取り抑えられていた。その攻防、まだ続いていたのかよ。
「ケイトてめーはいつまで俺を殴ろうとしてんだ、さっさと諦めて大河を解放してやれよバカ!!」
「ちっ、しゃーねぇなぁ! 今は勘弁しといたらぁ! やろうと思ったらいつでもヤれるしなぁ!」
「どこのチンピラだよ!」
やっとケイトから解放された大河は、何事もなかったかのような顔でほどけかかった髪の毛を結い直している。
大河に離してもらったケイトのバカは俺へ向けてシャドウボクシングのような素振りを見せていたが、急に飽きたとばかりに廊下にスライディングして消えていった。
「そんなわけで罰として山でなんか食えるもん集めてこいや」
「雑ぅ」
「話が進まないんじゃボケ共が。なんとかならんわけじゃないが、元凶が何もせんのは度し難いじゃろうが。反省しとるならそれくらいせんかい」
「それは本当にそうだと思います。すみませんでした」
俺と大河はふたりで婆ちゃんに頭を下げた。頭を下げる瞬間に婆ちゃんが振りかぶったのを察したので、謝罪のポーズのまま素早く後ろに後退る。
婆ちゃんが空振り舌打ちをしたので、そのまま大河の腕を引っ張り廊下に素早く逃げ出した。
ふっ、あれだけ殴られまくってたんだ、その程度ならもう見切ってやったぜ。
廊下に出て少し先に、樹が立っていた。陽と、陽にがっちりと首をホールドされている憂もいた。
憂はなんでホールドされてるんだ? 陽はなぜかにっこにこで、憂は腕から逃れようとバタバタもがいている……声は出せないのか「フーッ、フーッ!!」という息遣いが聞こえてくる。
そんな様子を気にも留めず、俺と大河に気付いた樹が声をかけてきた。
「あらキョウくん、砂田さん。お説教は終わりましたか」
「お、おう。樹と陽、すまんかったな。俺らの尻拭いしてたんだって?」
「いえ、砂田さんを止められなかったのは私もですし、少しでも被害を抑えようとしただけですよ」
「宮っちパイセンにせっつかれたから手伝っただけっすよ〜、一応オレにも原因ありますし。そんで憂も連帯責任ってことで捕まえときました!」
「いやお前らは悪くないだろ……っていうか先に憂を離してやれよ、ずっとタップしてるぞ」
「ぐぅぅ」
ホールドから解放されてぐったり床に座り込み遠い目をする憂を眺めながら、樹から昨日の顛末を聞かされる。
どうやら樹は一応大河に作りすぎを指摘していたようだが、周りが見えなくなっていた大河には指摘が届かなかったらしく、それならばなるべく宿への迷惑は減らそうと動いてくれていたようだった。できた友人すぎる……。
陽はそれに協力して、市場へ行って漁師の兄(姉)さん方に食材足りなくなっちったテヘペロ! と言ってきたらしい。
仲良くなって記念撮影をしたようで、たくさんのマッチョに担がれてニッコニコでピースしている陽の写真を見せられた。何してんだって思ったけど無駄に爽やかで楽しそうだなおい。
大河は食材を好きなだけ使っていい機会なんてそうそうないため少し気分が上がってしまっていたこと、限度がわからずやりすぎてしまったこと、指摘が耳に入らないほど熱中してしまったことを改めて皆に謝罪していた。
普段から大食いではあったがここまでではなかったので、好きに使っていい大量の食材を目の前にしたというのが引き金になってしまいブレーキがぶっ壊れてしまったようだ。
俺も改めて苦労をかけてしまったことを謝罪し、皆の気遣いに感謝を伝えた。
こういうやりとりをしていると皆俺が悪い、私が悪い、自分も……という応酬がはじまってしまい切りがない。たぶん皆同じようなことを思ったのだろう、顔を見合わせて苦笑する。
憂だけはちいさく「ボクはそんなに悪くないと思う……」と言っていたが、それはそれで本当にな! 巻き込んで悪かった。
そして、樹と陽は今日の俺たちへの罰も把握していたので、すでに準備を整えてくれていたという。本当に何から何までお世話になっております……。
裏山に繋がる庭に出ると、全員分の作業道具が用意してあった。靴や服も山に適したものが準備されており、安全に配慮されている。
てっきり俺と大河だけでやるものだと思っていたが、樹たちも手伝ってくれるようだった。都会に住んでいるとなかなかやれることじゃないし、これはこれで楽しみのひとつになるんだそうな。
確かにな。罰だとはわかっていつつも、俺も正直ちょっとわくわくしている。
何もかも至れり尽くせりすぎるなぁと思いながら、各々作業着に着替えて出かける準備を進める。
役割分担で、俺と樹と憂は山菜やキノコ、食べられる木の実などを採りに行き、陽と大河は川で釣りをすることになった。川の方にはあとでケイトが合流して教えてくれるらしい。
あいつ本当バカだけど、なぜか釣りとか色々やたら上手いんだよな……落ち着きないくせに器用でムカつく。
「あっ……もふもふがいる……!」
ケイトへのムカつきで少しだけ複雑な気持ちになっていたら、嫌々ながらといった様子で元気なく準備を進めていた憂が急に大きな声を上げた。
その視線の先を追うと、山道に行く門の前にもふもふの中型犬が鎮座している。
「おおっ犬じゃん! 婆ちゃん犬飼ってたっけ? よしよしよし、わんわんわん」
「ヴヴヴヴ」
「ええ、何でぇ、人が嫌いなのかなぁ? 大丈夫だよ〜嫌なことはしないよ〜お名前なんて言うのぉ〜?」
「グルルルルルル」
仲良くなろうと近付いたら、立ち上がり俺を睨みつけながら唸り声を上げはじめる。どちらかというと動物には好かれる方なはずなんたが、普段はあまりされない反応をされてしまいちょっとショックだこれ。
やわらかそうな見た目のわりに、頑固親父のような威圧感がある。
「イッチ先輩めっちゃ唸られててウケる〜。ウチらにはそんなことなかったのに」
「わんわんわんが気に食わなかったのでしょうか。ムーちゃん、大丈夫ですよ。このおうちのお兄さんですからね」
どうやら樹と陽は初対面ではなかったようだ。ムーと呼ばれたその犬は、樹と陽が近付くと唸るのをやめてふたりの足元にお利口さんの様子でお座りした。
「ボ、ボクも近付いてもいいかな……? ワンちゃん、ムーちゃんっていうの?」
「目が隠れているが、それで見えるのか?」
恐る恐る憂が近付いても唸りもせず、撫でろと言わんばかりに頭を向ける。
大河が臆すことなく犬の前髪を掻き分けたが、それにも嫌がりもしない。
なんで俺だけ唸られてるんですかね?
「昨日近所を回っている時に出会ったんですよ。ムーちゃんはこの辺りの看板犬のようなものらしいです。この島の人なら知らない人はいないみたいでした」
「へぇ〜そうだったのか、知らなかったな。……ふと思ったんだが、ムーちゃんってメス? こいつが島を出たらどうなるんだろう」
「この島の影響ってやつっすか? 動物も例外じゃないってばっちゃが言ってたっすよ〜」
「すごいな、本当にわけわからんなこの島。……まてよ? そうだ、それならオスのひよこを取り寄せて、卵を産めるようにしたりできるんじゃないか!? すごい大発見じゃないかこれ、世界がほっとかないぞ……!?」
「ああ、すでにやっている様子でしたよ。牧場の方に専用の施設が建てられていましたね。定期的に島外と取り引きしていると聞きました」
「お、おう……さいですか……。世紀の大発見をした大天才になっちまったと勘違いするところだったぜ……。まあでも、それで廃棄処分されるオスのひよこが減ってると思うとなんか少し安心したな。まさかこの島ってもしかして、本当は良い島だったのかも……? 痛ぁっ!!」
話しながらさり気なくムーに近寄り撫でようとしていたのだが、遠慮なく思いっきり噛みつかれた。皆が大丈夫そうだからどさくさに紛れていけると思ったのに……!
てか手袋をしてなかったら皮膚を貫いてたぞこれ!?
「何で俺だけダメなんですか!?」
「女好きなんじゃないっすか? 島の男の人たちはあまり近付かないようにしてたみたいだったし。あとオスっすよこの子」
「女好きのオス犬だと……! いやオスでもいいんだけど……! くそぅ、俺だってもふもふしたかったのに……! というか俺以外も本当は男なのにずるい……!」
「ボク、女でよかったぁ。もふもふだね……かわいいね……」
「ずるいぃ!!」
「イッチ先輩も女になればいいんじゃないっすか?」
「正直今だけならちょっとなりたいよ!! なんで俺だけTSしないんだよ……!! いやしてたまるかだけども!!」
「はいはい、それくらいにしてください。そろそろ出発しましょうね〜。ムーちゃんもついてきますか?」
「ワフッ」
悔しさのあまりTSを羨ましく思ってしまった俺をよそに、樹から声をかけられたムーは元気よく返事をしている。
いい子ですねと撫でられて、丸まった尻尾を嬉しそうに揺らして……ずるいよ俺にもその対応してよぉ!!