刀と獪岳   作:dahlia_y2001

1 / 13
刀と獪岳1

 

 

刀と獪岳1

 

 

 

死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 

 

強烈な意志の声に我は揺さぶられた。何年振り、何十年振り、何百年振りに叩き起こされたような気がする。そも、我に眠りなど必要ない。無に等しい時間をそう表現しているだけだ。それにしても、なんと強いーーーこやつならば、我と共に居ることに耐えられよう。さあ、応えよ。死にたくなくば我の手を取れーーー

 

『我の手を取れ』

 

我の呼びかけに呼応したのは黒髪の子供だった。その首には勾玉が飾られている。右手にしっかと握られた我・日本刀を手に呆然としている。冴え冴えとした月光が我を青白く輝かせる。ふむ、我の惚れ惚れする美しい刀身に魅せられておるか。子供ながら審美眼に優れているようだ。何より、我を使用しながら狂乱に陥らぬとは、やはり我の見立ては間違っておらぬようだ。

 

「なんだ、その刀」

 

声がかけられた。

我は意識を声の方に向けた。鬼だ、鬼がいる。

これは凄い。まさか鬼とは。

状況を整理しよう。月明かりの森、子供と相対する鬼。

 

『あははははははははは』

 

愉悦が心を満たす。目覚めて即ーーー鬼が狩れるとは。我はついている!!

 

スパン!

 

鬼の大きな悲鳴が上がった。我が子供を操って鬼の右腕を斬り飛ばしたからだ。我ぐらいになれば、人を操るなど容易いこと。たとえ、使用者が子供であろうと、不足分は我の技量で補うだけだ。そして、鬼は頸を斬らねば死なない。久しぶりの斬れるという行為に酔わせて貰おうか、なぁ、鬼よ。

 

ギャアアアアアアアアア

 

鬼の声が幾度も森に木霊していく。我が刀身が振るわれるたびに。

 

 

 

ちょいと羽目を外し過ぎたのでは、と我も多少は反省している。だから、その冷ややかな目で我を見るのは止めてもらいたいものだ、小僧よ。抜き身の我の刀身を恐れるでなく己の顔に近づけて小僧は我を睨み据える。

 

「なんだ、お前は?」

『我は刀だ。そなたの願いに応えたのだ。感謝するが良い』

「願い?俺が化け物刀に何を願ったってんだ?」

『死にたくない、と喚き散らしておっただろう。そして、我はそなたに応えた。我の手を取れ、と』

「・・・・・・それで・・・」

 

子供は鬼があった方へ向いた。月明かりの森、暴れまわった後だけが残されている。鬼は頸を斬った途端に消えた。そういう存在なのだ。だから消える前に我は散々、鬼を切り刻んでやったのだが、それが子供には気に入らなかったらしい。少しくらいは良いではないか。何年、何十年、何百年振りに斬ったのだ。久々の感触を味わって何が悪いというのだろう。何も悪くない。

 

『うぬ、我は悪くないな』

「いや、悪いと思う」

 

この点を突っ込むのは我にとって拙い展開になりそうだ。話を変えよう。

 

『ところで、そなたの名前は?使用者の名前を知らぬというのもおかしな話よ』

「獪岳」

『ほぉ、獪岳か。そなたはもう少し大きくなって鍛えねばな。あんな弱い鬼相手に動けなくなっているようでは先行きが不安だ』

 

そう、未だに森にいるのは小僧もとい獪岳が動けなくなったからだ。よくよく考えると今までの我の使用者は大人ばかりだった。こんな年端もいかない子供とでは、我とて勝手が違ったようだ。我の言葉にムッとしたのか立ち上がろうとした獪岳が立ち上がり切れずにへたり込んだ。これはどうにもならんな。

 

『ともかく今は休んでおけ』

「だけど、また」

 

そこで獪岳は口ごもった。何かに怯えているのが分かる。ーーーつい先ほど、鬼と相対していたのだ、恐怖がすっかり消えている訳でもあるまい。あれほど、死にたくないと喚き散らしていたのだから生存本能の強さは相当なものだろう。

 

『案ずるな、我がいる限り、獪岳にかすり傷ひとつ付けぬ』

「・・・・・・」

『心配するなと言っておろうが!!我の強さはそなたも分かっていよう』

 

獪岳はしぶしぶ納得したようで、安全の為に我を抱えたまま、ここで休むことにした。そもそも動けないのだから仕方ない。樹に背を預けて眠りにつく獪岳。明日になったら、そうだーーー我はこれからのことを計画し始めたのだった。

 

 

 

翌朝。

 

我は獪岳を藤の家に連れて行き、獪岳を育手に紹介させた。以前、我の使い手に鬼狩りがいたのだ。故に我は藤の家や鬼殺隊の仕組みを知っている。これから、効率的に鬼を狩るには、獪岳に鬼殺隊に入隊してもらうのが一番だ。

 

 

獪岳は雷の呼吸の育手・桑島を師匠とすることになった。桑島はなかなか厳しい人のようだが獪岳は泣き言も言わずに頑張っている。流石、我の使用者だ。しかし、我を使うのならば、特段雷の呼吸は必要ないのだがな。出来ないより出来た方が良いし、常に我が傍らに居れるとも限らぬ。保険はあった方が良いか。

しかし、ほかに問題がーーー。

 

『斬りたい、斬りたい、斬りたい』

「お前、本当にうるさい』

 

心底うんざりした様子で獪岳は言った。手入れをする風にしみじみ我が刀身を見つめる。獪岳が現役隊士ならともかく修行中の獪岳は鬼を狩れない。ああ、何年、何十年、何百年振りに味わった肉を、骨を斬る感覚が忘れられない。

 

『斬りたい、斬りたい、斬りたい』

「猪か鹿でも狩りにいくか?」

『我は誇り高き刀ぞ』

「じゃあ、止めておくか。悪かったよ」

『我は刀、我は刀、我は刀。斬りたい、斬りたい、斬りたい』

「猪か鹿を斬りに行かないか?辻斬りされると困るんだよ」

『・・・・・・行く』

 

この内なる衝動を抑える為、致し方なく、全くもって不本意だが我は猪を狩りに行った。不必要に斬って斬って斬りまくった。猪は桑島家で美味しくいただいたそうだ。これは獪岳に栄養を与え大きくする為、必要なことだ。決して我が斬りたい衝動に屈した訳ではない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。