刀と獪岳   作:dahlia_y2001

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刀と獪岳10

 

 

 

刀と獪岳10

 

 

 

獪岳こと俺の感覚は酷く鈍く遠かったが、それは夢の中に居る感触であった。薄ぼんやりした、しかし、ぬるま湯のような心地よさに今はまだ留まっていたかった。留まっていたかったが―――そう出来ないことをまた俺は悟った。

遠くで、いや、近くで誰かが口論している。音は耳に入るのに意味は取れず、しかし、くだらない口論であることは理解していた。だから、俺は怒鳴った。これで目が覚めてしまうと分かっていながら。

 

「やかましい、お前ら。黙れ、眠れやしねぇ」

 

ぴたりと口論は止まった。

俺は目を開ける。天井を背に蟲柱と元・花柱が居た。彼女らは目を丸くして俺を見ている。こっちも一気に目が覚めた。ゆるゆると俺は半身を起こした。身体の痛みはなさそうだ。眠っている間に回復したようだ。元からそう怪我はしていなかったが。

枕元には刀がいた。

 

「よお、刀。無事か?」

『・・・・・・ああ。そなたも無事のようだな』

 

戦いの折に、一番痛めた利き腕をそっと動かす。うん、大丈夫だ。

それから、さも今気が付いたかのように俺は蟲柱と元・花柱へ視線を向けて頭を下げた。

 

「お見舞いに来てくださったのですね。ありがとうございます」

 

さっき怒鳴ったのは寝ぼけていたということで、俺の中でなかったことにする。例え剥がれていたとしても外面は大切だ。

そして、面を上げた時、部屋の隅に居た男が目に入り。

 

「刀!!」

 

俺は刀を掴んで一気に抜刀し、布団を跳ね飛ばすと同時に後方へ飛びずさった。我ながら、よくこんな動きが出来たな!?と自分でも思う。いや、それ以上に何でお前がここにいる、上弦の壱。

 

『あー、ちょっと落ち着け獪岳。そなた、病み上がりぞ』

「凄い動きね」と元・花柱。

「気持ちは分かりますよ、本当に。心の底から」

 

蟲柱が忌々し気に上弦の壱を睨みつけるが、当の本人は全く他人事のように受け流していた。

訳が分からない状況だが、きっと原因は刀に違いない。俺は未だ上弦の壱に刀を向けたまま、刀へ問う。

殺気は大分、抑えておいた。あちらに戦う意志はなさそうだ。あったらとうに俺はなます切りにされている。

 

「おい、刀。説明しろ」

『えっと・・・・・・もう少し落ち着いてから方が良くないか?つまり、怒りを抑えてからの方が我は説明しやすいのだが』

「・・・・・・ちっ」

 

舌打ちしてから、俺は刀を鞘へ納めた。但し、いつでも抜刀できるようにはしておく。上弦の壱を前に気は抜けない。

あの戦いの最後。刀が一か八かの大勝負をすると言い出して、俺もその賭けに乗ったのだ。刀が咆哮を上げて―――俺の意識が暗転したことまでは覚えている。その後、どうなったかのかはさっぱり分からねぇけど。

 

「どこまで記憶があるのか分かりませんが、私から説明させて頂きます」と蟲柱。

「お願いします」

 

蟲柱の説明は、救援要請で駆け付けたら、刀を構えたまま気絶した俺と、その俺に膝をつき頭を下げる上弦の壱という訳の分からない状態だったという。

 

「刀?」

『つまり、我の”狂乱の咆哮”で上弦の壱を眷属化したということだな』

「阿呆か、お前は!?どうすんだよ、これ!!」

『仕方あるまい、他に手がなかったのだ。この後どうするかなんて我も知るか!!』

「後先考えてなさすぎる!!」

「本当に・・・・・・・なんてことをしてくれたのですか!?刀さん!!」

『何だ、蟲柱。それでは我も使用者に、獪岳に死ねと言うのか!!この人でなし!!』

「そんなことは言っていないでしょうが!!」

「・・・・・・・」

「先ほどから、こんな感じで言い争っていまして」

 

困ったものだと言わんばかりに元・花柱が眉を寄せた。しかし、その表情はどこか柔らかく、この事態を困った兄妹喧嘩ぐらいにしか思っていなさそうだ。流石は元・花柱。たおやかに見えて肝が据わっていらっしゃる。俺には無理だ。

 

「刀、眷属にしたって、具体的にどうなっている?」

 

ぴたりと刀は蟲柱との言い合いを止めた。

 

『我と同等にそなたが上弦の壱の主となる。我らが命令が最優先事項だが自由意志はある。そなたらが思うような傀儡化しているわけではない。自ら考え決めることが可能だ』

「自由度が高いんだか、危険度が高いんだが。鬼舞辻無惨の呪いは?」

『ハン、我が我が眷属にそのようなものを許すものか。我はな、主として我が眷属を守る甲斐性くらいはあるわ』

 

言っていることは立派だが問題は山積みだ。

俺が蟲柱を見やると、ムスッとした顔で蟲柱は頷いた。

 

「珠世さんに確認いただきました。また、刀さんの願いで人を喰わないということを上弦の壱に受け入れてもらい、珠世さんに体質改善済です。これは鬼殺隊としては最低限の条件です」

 

蟲柱の言いたいことは分かるが、相手は存在自体が規格外の上弦の壱。鬼殺隊が譲歩したという気が全くしない。上弦の壱に開き直られたら鬼殺隊に対抗する術はないだろうよ。

 

「ちなみにここは蝶屋敷ではありません」

 

申し訳なさそうに元・花柱は言うが、こんな火薬庫みたいな危険人物を蝶屋敷にはおけない。ありていに言って隔離だ。藤の家どころか急ぎ用意した民家とか。全く世話をかけて申し訳ない。ところで、俺が気絶していたのは半日とか。その間ずっと胡蝶姉妹を束縛していたのかと思うと尚更に申し訳ない。半分は上弦の壱の監視であろうとも。

日中なので上弦の壱には家というか部屋にいてもらって、俺は刀を影に戻し胡蝶姉妹を玄関まで送った。二人はこれからお館様へ報告するのだろう。そして、情報が鬼殺隊にある程度、共有されて・・・・・・・。柱稽古にハブられて、今後、鬼殺隊からもハブられそうだ。同期の村田たちは柱稽古で死にかけてなきゃ良いけど。下手に情報は流せないから手紙も書けないな、と思っていたら蟲柱が玄関先でじっと佇んでいた。姉は先に行かせたようなので俺だけに話がしたいらしい。

 

「どうしました、蟲柱様?」

「獪岳さん、あの刀とは、狂乱の刀とは手を切るべきです。あれは人の手には負えない。存在自体が害をなします」

「刀は俺の影に存在するのですよ。この会話も聞かれています」

「分かっています。それでも尚です。あなたは、とても努力家な方で元・鳴柱様が後継にと望む程の実力を持った方だと。刀を頼る必要はないでしょう?怪我を治す為に常中を使っていた位なのですから」

「俺が壱の型を使えないと知っていても?」

 

俺自身、壱の型を使えないことを引きずっているからこそ、あえて軽い調子で告げた。しかし、表情まではとりつくろえなかったかもしれない。

 

「それでも、私は―――」

「蟲柱様」

 

俺はそれ以上、言わせないように言葉をかぶせた。

 

「刀は俺を救ってくれました。俺は刀に心を救われたんです」

 

あの阿呆で自分本位な、それでいて身の内に入れた者に、例えそれが鬼であろうとも受け入れる懐の広さを持つ刀に。綺麗ごとを言わない刀にどれほど、救われたことか。蟲柱、あなたには分からなくても俺は刀と共に居る。よしんば理解されなくても、その昔―――そなたの命が尽きるその時まで、我はそなたの刀で居続ける、と誓った刀に俺は応えたい。

 

「お気持ちは有り難く。しかし、受け入れることは出来ません」

 

蟲柱は何も言わず、言うべき言葉もなく帰った。

刀は全て聞いていた癖に何も言わない。俺もあえて何も言わない。今更、言うべき言葉なんてないのだから。

 

 

 

 

獪岳

目覚めたら胡蝶姉妹という嬉しいドッキリから、上弦の壱と同室という格差の激しさ、心臓に著しく負荷がかかった可哀そうな人。ポンコツ刀の後先考えない暴挙に、今後、あちこちから厄介者扱い受けるであろうと覚悟している。でも、刀は手放さない、律義者。

 

 

『狂乱の咆哮』で獪岳が自我崩壊起こさなかったので一安心。成り行きで上弦の壱を眷属にしてしまったが後のことはノープラン。鬼殺隊がてんやわんやしているだろーなーとは思っているが気にはしていない。災害並みの迷惑さ。

 

 

上弦の壱

本件最大の被害者。

刀は自分の眷属には面倒見が良いので、長い目で見れば良い関係になる・・・のかな?

 

 

胡蝶姉

刀のやらかしに困ったものね・・・と割におおらかに構えている。なまじ刀と親しいだけに、刀に関する感覚が獪岳寄りになっている。

 

 

胡蝶妹

刀のやばさにドン引いている。姉さんも獪岳さんもちょっとおかしいのではと思っている。

なお、後日、二人が刀の精神干渉受けているのではと疑う。実のところ、精神干渉は受けていないが、絆されてはいる。

 

 

 

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