刀と獪岳   作:dahlia_y2001

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刀と獪岳12

 

 

 

刀と獪岳12

 

 

 

 

鬼殺隊と無惨との最終決戦が開始したのを我らが気付いたのは―――雲霞のごとく雑魚鬼が我ら(我と獪岳ついでに上弦の壱)に襲い掛かってきたからだ。いつもの獪岳と上弦の壱の特訓前だったのは良かったのか悪かったのか。こっちの都合も考えず襲ってくるのが鬼か。それに、斬るのが刀である我の使命であり業だ。

すらりと獪岳が我を構える。我が刀身が月明かりを浴びて、ぬるりと月光を反射した。斬れる喜びに我の魂が震える。

 

『さあ、斬って斬って斬りまくるぞ、我が同朋。ついでに我が眷族よ』

「なにかもう色々とお前は台無しだよ」

「鬼は鬼を殺せぬのだが・・・・・・」

 

大量の鬼を前に獪岳は呆れた様子で、上弦の壱は困ったように返事を返した。二人ともこの数の鬼、能力値はひくそうだが、やたら数は多い―――雑魚鬼共をわずか二人で相対せねばならないという気負いはなさそうだ。呑まれていないのは上等。鎹烏は既に放っているが、我は応援が来るとは思えぬ。無惨側も全兵力で、あやつの臆病さから考えれば勝算が高いと見積もってきているのならば―――産屋敷側にこちらへ回す余剰戦力はあるまい。足手まといがおらぬと良い方に解釈しておこう。―――本当に最悪の事態になったら狂乱を使ってくれようぞ―――なぜなら、無惨の我らに対する戦術はずばり、質より量作戦なのだから。

雑魚鬼とはいえ、鬼は鬼。体力は無尽蔵だし、再生能力は化け物並みもとい鬼。いくら獪岳が我を使い、最適解の剣術を使ったとしても生身の人間、限界が来るのは明らかだし、鬼側がそれを狙うのは目に見えている。だから、こそ―――。

上弦の壱が前衛に立ち、鬼を斬り伏せる。但し、鬼は鬼を殺せない。しかし、露払いは出来るのだ。一時的に無力化した鬼を獪岳が我を使って鬼の頸を斬り捨てる。この見事な連携は訓練によるものだ。短期間で獪岳を鍛え上げるのは難しい。だが、上弦の壱に獪岳の戦闘様式を叩き込むことは可能だ。二人に訓練を課したのはこの作戦の為だ。

戦術的に身もふたもないが、相手の土俵に立って戦う意味合いはない。我としては斬れさえすれば良い。こんな大量の鬼を斬り殺せる体力がはたして獪岳にあるのだろうか―――。

鬼は頸を落とした瞬間、消滅するのがこの雑魚鬼わんこそば状態では助かっている。殺した鬼の死骸がゴロゴロしていたら、凄く戦いにくかったと思う。既に鬼の頸を一個師団分は斬っていた。獪岳は呼吸で体力の消耗を回復させているが、息が上がってきている。

 

『我が眷族、一度、獪岳を退かせる。時間を稼げ!!』

「うむ、分かった」

「おい、刀!?」

 

反対する獪岳にかまわず、我は後ろへ下がった。それと同時に上弦の壱が月の呼吸・広範囲技を放って有象無象の鬼を蹴散らしてくれる。あやつ、本当に規格外に使える奴だったりする。眷族にして正解だった。あの時は、ノリと勢いだけだったがな。

 

『獪岳、無茶はするな。奴らはそなたの体力を削ってきている。我らは鬼を斬るのが目的ではない。夜明けまで生き残ることが我らの勝利条件だ』

「は?刀は鬼だろうが何だろうが斬るのが目的じゃねのか?」

『今宵の分は、十分に斬った。それに―――そなたは我の唯一の使用者。我はそなたと共に生き、共に斬りまくるのが望みよ』

「・・・・・・なるほど、刀のその己の欲に忠実なところ嫌いじゃない。勝利条件は夜明けまで生き残ること。分かり易い上に納得だ」

 

鬼の数がとかく多いので戦術変更もやむなし、である。ここで獪岳が「嫌だ、鬼を斬る!!」と我を通す性質でないのは助かる。流石、出会い頭に”死にたくない”と喚き散らしただけのことはある。

ちなみにちょいちょい偵察用に鎹烏は飛んでいるのに救援は来ない。二重遭難を恐れたのか、単に見捨てられたのか、単純に助力するだけの余力がないだけなのか。真相が分かったら、今後、産屋敷への助力についていささかよろしくない感情が加わってしまいそうだ。我も獪岳もお人よしではないのでな。

 

 

 

夜明けが遠い。獪岳は肩で息をしていた。我が狂乱を使うべきだろうか?上弦の壱に使ったような眷属化する程の強力な力ではなく、周辺に錯乱させるくらいの威力で放てば―――獪岳や眷属の上弦の壱には影響を与えないように―――出来るのか?そんな微調整が出来る自身はない。故に力を使うことに迷いが生まれる。

がくり、と獪岳が膝をついた。よく今までもったものである。仕方あるまい、我の狂乱を、そう思った時。

指示する前に上弦の壱が獪岳を守るように前に立った。

ぽかんと獪岳が上弦の壱を見上げる。

 

「大丈夫だ。守ってやる・・・・・・」

「え?」

『え?』

 

いつもの無表情ではなく、上弦の壱はやわらない笑みを浮かべていた、ように思う。我の見間違いでなくば、多分。

鬼は鬼を殺せない。だから出来るのは時間稼ぎのみ。それでも、正直助かっている。この質より量の物量作戦による消耗戦の前では。

 

 

 

明けない夜はない。撤退した鬼どもを見逃すのは業腹だが、我が使用者・獪岳が立っているのもやっとの状態なので、やつらの逃走に安堵していた。上弦の壱が獪岳の肩を貸す、というより半ば抱え引きずるように母屋へ入った。縁側で仰向けに転がった獪岳が呼吸を整えている。そして、呼吸で大分、回復してきていた。そもそも、あのわんこそば状態でなくば、獪岳は一晩中戦っていられるくらいに鍛えてはいるのだ。ゆるゆると明けていく空に上弦の壱がより一層、母屋の奥へ下がった。ひとまず、しのぎ切ったと判断して良いだろう。ゆるりと獪岳は上体を起こした。

 

「刀」

『うむ、獪岳。よくやった』

「途中から目的が変わってきたがな」

 

獪岳は苦笑する。こちらとしても、まさか鬼側がこちら限定で物量作戦を仕掛けてくるとは思いもしなかった。それなりに鬼側には警戒されていたということだろう。もっとも、鬼側が思う程に、我らが産屋敷側に重用されていないのが現実だったりするのだが。

 

 

ぞわり

 

 

今まで感じたことのない違和感に、我は声を上げた。

 

 

『我が眷族!!』

 

声の鋭さに獪岳も母屋の奥、上弦の壱に視線を向けて絶句した。上弦の壱の身体がホロホロと解け、崩れ、かき消えていく。それは、まるで頸を斬られた鬼のように。なぜ、どうして、と思う我の前で、妙に穏やかな上弦の壱は何か口にしたようにみえたけれど、その声を聞くことは叶わなかった。呆然とする我と獪岳に、上弦の壱が存在した証は横笛のみであった。

 

 

 

 

日が昇ってからようやく、産屋敷から応援が来た。今更という感じはしたが、我も獪岳も上弦の壱を失ったことが大きく、彼らの手伝いと片付けをおざなりに眺めているだけだった。

最終決戦は産屋敷勝利で終わったが、多大な被害を出してしまったとか。被害状況を見ると、相討ちに近かったのでは、と我は思った。ほとんどの柱は死亡、もしくは戦闘不能に追い込まれた。無惨は明け方ギリギリに滅したとか。上弦の壱が消えたのは同じくらいの時刻では、などと詮無いことを考えたりもした。

我が眷族にしたところで身体は鬼であり、祖の影響を大きく受けていたのではと推察したが検証できる話でもないし、する気もない。喪失感は意外な程に大きかった。我のみならず獪岳も。獪岳の方は、おそらく身近な人の死。上弦の壱が初めてなのではないだろうか。無論、このご時世、この組織である程度の心構えが出来ていただろうが、手が届く範囲で自分より強いと思っていた対象を失う心づもりは出来ていなかったのだ。こればっかりは、まさに時間薬しかないと我は思っている。

 

 

 

無惨が死んで―――それで全ての鬼が消えたわけではなかった。無惨と繋がりの強かった上弦は同時に消滅したが、そうでない鬼は逃走していた。鬼が元来、人ならば無惨という一人に種の存亡が左右するわけではないのだ。但し、無惨という長を中心にした組織が消えたことは確かで、今後、鬼殺隊ははぐれと呼ばれる個々の鬼を狩る組織へと変わっていくし、縮小されてもいくことになるだろう。そもそも最終決戦で大量の隊士を失っているのだから、望むと望まざると縮小されるのだが。

 

 

 

 

真新しい石碑に獪岳は花を供えた。しゃがみこんで手を合わせる。色々と差しさわりがある者や今回の死者に対する石碑で、現当主・輝利哉が設置したものだ。そして、ここに上弦の壱の横笛を収めることになった。なんやかんや色々と思惑があったらしいが我が思うに墓は差しさわりがあるのでこういう形にしたのではなかろうか。お偉いさんは考えることがたくさんあってご苦労なことである。

 

「俺はあの人のこと、よく分からなかった。もっとよく話しておけば良かった」

『あやつ、口数少なかったからな』

「というか、怖かったし」

『うむ、迫力あったな。ほら、剣士らしく刀で語り合うとか?』

「刀で語り合えるものか?刀?」

『無理であろうな』

「無理だよな」

 

獪岳は立ち上がり、そしてぐるりと周りを見回した。真新しい墓がたくさん建てられている。獪岳の同期も、知人の隠の墓もある。ふと、獪岳の目が産屋敷輝利哉を認めた。彼も墓参りに来ていたのだろう。一瞬、目が合って、互いに気まずげに軽く会釈した。

我の存在のせいか、いまいち産屋敷輝利哉とは仲良くなれそうにない。だが、―――無惨を滅したことで戦局は変わった。

今後、はぐれの鬼を獪岳と狩っていくのだ。それもまた悪くない、と我は微笑した。我の永い、永すぎる時を、獪岳と共に駆け抜けるのはきっとなにより楽しい一時となろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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