刀と獪岳   作:dahlia_y2001

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刀と獪岳2

 

 

 

刀と獪岳2

 

 

 

勤勉と言うか生真面目な獪岳は雷の呼吸の使い手として弐の型以降を習得した。別に我を使っていれば呼吸は必要ないのだが・・・。桑島は我のことを知らぬし、全く実力のない者を鬼殺隊に入隊させる訳にもいかないから仕方ないか。呼吸は習得していた方が便利だしな。我にとって雷の呼吸とはその程度のものだ。しかし、獪岳は変に真面目な為か壱の型が出来ないことに酷く思い悩んでいた。

桃園で休憩している獪岳は、半ばぼんやりと空を見上げていた。午前中の訓練が響いているのか。最近、紺を詰め過ぎているようで我は心配していた。

 

「なあ、刀」

『なんだ、我に何ぞ用か?』

 

獪岳の影にいる我が応じた。我は常日頃、獪岳の影に存在している。影は混沌に通じているから触媒としては適当なのだ。

 

「お前は刀だ。つまり、剣技に関しては専門家だ。俺には何が足りない?」

『我は雷の使い手ではない。そなたらの使う呼吸は我とは相容れぬものよ』

「で?」

 

冷たく獪岳が促す。

 

『極力、呼吸は使わぬ方が良い。呼吸は人が鬼に対抗できるため能力を無理に叩き上げているのだ。我を使う限り必ずしも呼吸は必要でない』

「呼吸は無理に能力を叩き上げているのか?」

 

初めて知った様子で獪岳は目を丸くする。ふむ、そういう様は年相応に見えるな。

 

『そうでなくば、到底人は鬼に敵うまい。長生きしたくば呼吸を多用するでない。とはいえ、呼吸自体は便利であるから習得して損はなかろう。そもそも、そなたは死にたくなくて我の手を取ったのであろう?』

「死にたくなければ、技に拘るな、か?」

『壱の型は利点もあるが欠点も大きい。居合は初撃を躱されば全くの無防備よ。生きることに執着が強いそなたには向いておらぬ』

「しかし、壱の型は雷の呼吸の基本だ」

『居合は剣術の究極型とも言われるが、ならばなぜ他の流派が存在している?究極であろうとも唯一ではないからだ。履き違えるな。技は斬る手段に過ぎぬ』

「・・・・・・」

 

考え込む獪岳。

我が思うに剣術は基本、一対一の人間相手のものではないだろうか。あまり対鬼戦に向いているとも思えぬのだが、脆弱な人間に他の術もないと思いなおした。そもそも、他人なんざどうでも良い。問題は獪岳だ。体格も出来上がり、剣の才能もある。正直、生真面目で修行に熱心なのは有難いが雷の呼吸に拘られても困る。我を使う以上、呼吸は必要ないのだ。全く、どうしたものか。

 

 

 

そうこうしている内に、桑島が子供を拾ってきた。日がな一日、泣き言を喚きたてる子供だ。とても五月蠅い。そして、獪岳がとても苛々している。今日もまた逃走した善逸(拾ってきた子供)を桑島が追っかけて行き、獪岳は休憩がてら桃園に来ていた。獪岳と二人きりだと遠慮なく喋れるので我も気楽だ。獪岳は桃をぱくついている。やけ食いしているみたいだぞ。

 

「全く、あのカス。忌々しい。何で消えないのかな」

『怖い、発想が物騒すぎる』

 

そのうち、我に斬らせるつもりではあるまいな?・・・あと腐れなかったら、考えんでもないが。

 

「日頃、斬りたい斬りたいと喚いている刀に言われたくねぇよ。はっ、何が弟弟子だ。虫唾が走る」

『獪岳・・・・・・そなたは―――」

 

我は絶句した。

 

「ん?刀、お前までもあのカスと仲良くしろなんて綺麗ごとを言うつもりじゃないだろうな?」

『我が居るのに雷の呼吸を使うつもりなのか?アホなのか、そなたは?』

「は!?」

『我だぞ、我。天才を超越した我を、至高の我の所有者であるそなたが我を使わぬなどと言い出すわけではなかろうな、な。そなたが我を使わねば、あの肉を骨を斬る快感がどうなるというのだ!?我はそなたが剣士に鬼殺隊に入るのを一日千秋の思いで待っているというのに!?この期に及んで我を使わずに雷の呼吸!泣くぞ、我!!』

「うわぁ・・・・・・」

 

思わずという風に獪岳が引いている。

しかし、こっちは必死だ。我を使える人材なんぞ、そうゴロゴロしている訳ではないのだ。今、ここで獪岳を失うわけにはいかない。我には我を使える人間が、獪岳が必要なのだ。

 

『良いか、我はそなたの命が尽きるその時までずっと、そなたの刀でい続けよう。そして、我らが敵を斬って斬って斬りまくるのだ』

「縁起が悪い上にとことん自分本位な刀だよな、お前」

『我は自分に正直なだけだ。他人にとって良い人になって何の得がある。馬鹿馬鹿しい。そなたは桑島にとって良い子になろうとし過ぎてはおらぬか?』

 

図星なのか獪岳は顔を歪めた。

獪岳は良い子になろうとして無理をし、結果、歪みが見られる。感情をガス抜きさせてやらないと、いつか爆発するのではなかろうか。故に我は素直に感情を出す手本を見せたのだ。別に素という訳ではない。ないったらない。

獪岳は深いため息をついた。

 

「刀を話していると悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなる。凄い刀なのに中身がこれとか」

『ふん、我は己の望みを知っているだけだ』

「望みって何だ?」

『斬りたい』

「聞くんじゃなかった」

 

つくづく呆れたように獪岳は言った。

 

 

 

何の前触れもなく事件が起こった。例の喧しい子供(善逸)が落雷に遭って黄色になった。流石の我も驚いた。普通は死ぬと思う。桑島に言いつけられて獪岳がしぶしぶ看病していたら、善逸は恐ろしい音がすると言って泣き出した。

 

「何か怖い音がする。絶対に変だよ」

「はぁ?わざわざ看病している人間に暴言とは良い度胸だな、てめぇは!!」

 

苛立った声音で獪岳が怒鳴る。やりたくてやっているわけでもない看病で既に気が立っている獪岳だ。善逸の言葉は間違いなく火に油を注いでいる。しかし、この善逸、ことごとく獪岳の地雷を踏みぬいてくる。天然なのかワザとなのか。天然ならばワザとより始末が悪い。悪意がないという免罪符は加害者を容易く被害者にするからだ。

 

「ちがうよ、兄貴じゃない」

「俺はお前の兄ではない」

 

苦々しく獪岳は吐き捨てる。

何度言おうと善逸は獪岳を兄呼びする。そう続ければ、偽りも真実になると思っているのだろうか?我には理解できぬ。以前、獪岳にこの件を聞いてみたら、拒絶を記憶できない都合の良い頭なんだろう、と言っていた。

 

「斬りたい、斬りたい、斬りたいって声がする」

 

一瞬、我の思考が止まった。それ以上に動揺したのは獪岳だった。物も言わず、看病を放り投げて部屋から出て行った。

 

「え!?兄貴!兄貴!」

 

慌てて呼びかける善逸も、途中で行き会った桑島も無視して獪岳は桃園へ逃げ込んだ。周囲を確認し、小さな声で囁く。

 

「刀」

『・・・・・・うむ、気付かれたな』

 

まさか、たかが人間ごときに我が感知されるとは思わなかった。善逸は耳が良いとは知っていたが・・・。表に対する深度をもう一段下げるか?いや、それでは、いざという時に獪岳の危機に間に合わなくなる。本末転倒だ。

 

『極力、避けるしかあるまい』

 

我の声音に苦みが含まれる。

善逸を斬って良ければ話は容易いが、そうもいかん。我が長く斬り続けることを可能とする為には、我は鬼だけを斬り続けた方が良い。長期的に見ればそうなのだ。人を斬るのはリスクが高すぎる。

 

「それしかないか。チッ、あのカス。耳が良いからこっちが苦労させられる」

 

忌々し気に獪岳が結論付けた。

 

 

 

その後、善逸は壱の型が出来るようになり、尚更に獪岳を苛つかせていた。我はもう呆れるしかなかったが、以前に雷の呼吸が必要ないことを獪岳に諭しておいたので善逸に直接あたることはなかった。我が感知されていることもあって、獪岳は善逸を避けまくっている。桑島も善逸が壱の型を使えないが故と思っているようだが、それもあっただろうが、それだけでなはい。我の存在を隠すにはその方が都合が良かったのだ。

 

 

 

それから、獪岳は前倒しで最終選別に向かうことになった。桑島は渋っていたいが、獪岳が大分せっついていた。理由を聞いたら「刀が五月蠅いから」と我のせいにされた。解せぬ。我は最終選別に行けとは言っていない。ただ、斬りたいと言ったら、獪岳が渋々ながら鹿や猪を狩りに行っただけだ。これは代償行為に過ぎぬのだが、獪岳の心遣いなので文句は言わぬ。我は大人だからな。

 

 

 

 

 

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