刀と獪岳 3
一年中、藤の花が来る咲く藤襲山。この山で七日間、鬼を狩り、生き残ることが鬼殺隊入隊の合格条件なのだ。いつから、こういう入隊条件になったのであろうな?我の時は違ったような?獪岳と共に試験を受けるのはあやつも含めて20名。つまり、少なくとも20体以上の鬼がこの山にはいると我は読む。
くくっ、他人の分も我が斬って斬って斬ってくれようぞ。
おっかなびっくり山に入る者、心中はともかく淡々としている者、獪岳は割に平常心っぽい感じだ。我が傍にいるからだろうな。一同がてんでバラバラになったなかで、ようやく我は口を開いた。
『鬼の気配がするな。うじゃうじゃいるぞ、この山の中は』
「生け捕りにした鬼を閉じ込めているのだから、そうだろうよ。というか、そういう選抜試験なんだから。説明を聞いていたのか?」
『斬って斬って斬りまくる!!』
「あー、うん。良かったな」
『ここは天国か?』
「普通に地獄だよ」
『さあ、行くぞ。獪岳!!』
「鬼の活動時間は夜だろ?今のうちに休んでいた方が良くないか?」
『鬼の活動時間に合わせる愚か者がいてどうする。何より我は斬りたい!!』
「あー、はいはい」
この山にいる鬼はたいして強くない。しかし、獪岳の経験値を得るには適当だろう。楽しむでなく、効率的に鬼を斬る―――久々の狩りで高揚する感情を我は意識して抑えようとする。さもないとはしゃいで獪岳に無理をさせてしまう。
ザシュ!
獪岳がゆるやかに刀を振った―――と同時に鬼の頸が落ちた。さらさらと消える鬼と腰を抜かして座り込んでいる子供。
「怪我はないか?」
「あ、ああ」
呆けた子供に獪岳は次の鬼へと向かう。ここの鬼は我と獪岳の敵とはなり得ない。鬼狩りはほぼ作業と化していた。
鬼を一体(単位が不明)斬れば、普通に修行するのとは比較にならない経験値を得ることが出来る。肉を、骨を斬る感覚、敵と対峙する度胸、戦闘時の空気は教えようとして教えられるものではない。
昼は獪岳に休息をとらせ、我が警戒する。我に休息は必要ないのでな。夜は鬼の気配と子供の悲鳴で鬼の居場所を探ってひたすら効率的に斬り殺した。我を使う限り呼吸は必要ない。そして、獪岳も雷の呼吸を使わずに鬼を斬っていく。
『大分、鬼の気配が消えたな』
「これだけ斬っているんだ、減ってくれなきゃ困る」
我らの快進撃のせいか、目端の利く鬼は我らから逃げを選んだようだ。妥当な判断である。しかし、自惚れが強いか、本能が勝ちすぎる鬼を斬ることは出来る。例えば、今、目前の鬼はどちらであろう。何体も鬼を斬った為か、獪岳はすっかり落ち着いて目前の鬼と対峙している。鬼は人より優る身体能力で襲い掛かる。しかし、呼吸の中でも速度に特化した雷の使い手である獪岳は慌てずに鬼を避けた。鬼の横を避けると共に我を一閃。決められた型の舞を舞っていたら、鬼が突っ込んで自らの頸を差し出したようにすら見えるほど、自然な動きだった。ぴったり型にはまるように美しくも無駄がない動きだ。我は獪岳の仕上がりに満足した。
『流石だ、獪岳』
「ああ、今のは綺麗に斬れた」
獪岳自身も無駄がそぎ落とされていっているのが分かるのだろう。やはり実践に勝る経験はないようだ。
最終選別が終わって七日前の集合場所に一同が集まる。全員合格で20名の子供たちは皆、疲労困憊していた。七日間の野営では無理もない。獪岳は大分マシな方だ。我が付いているから当然だ。感謝するが良い。そう、獪岳にこっそり言ったら「押しつけがましい」とボソッと言われた。失礼な奴め。
対服の採寸は20名もいるので大騒ぎだが、皆々合格の為か嬉し気でもある。ただし、日輪刀の玉鋼選びに獪岳は加われなかった。
主催者の一人が
「あなた様には必要ないでしょう。今の刀以外、お使いになるおつもりは―――お互いにないのでは?」
疑問形だが確定で言いおった。ふうん、最終選別を見ておったか。獪岳の面倒を見るので手一杯だったことを指摘されたようでイラッとする。ふん、知られたところで問題ない。ただ、面白くはないがな。
そして、連絡用の鎹烏が支給された。この烏、監視用だな。
じっと我が意識を向けると鎹烏は怯えたように鳴いて上空へ逃げた。勘は悪くなさそうだ。
「こんな状態で上手く連絡できるのかよ」
ぼやくように獪岳がつぶやく。我は知らぬ。
獪岳は無事、鬼殺隊に入隊した。支給された隊服の上に深いほぼ黒に近い紺の自前の羽織を身に着けている。本来、師匠が仕立てるのだろうが、選抜から戻った獪岳は雷一門からの除籍を正式に桑島へ願った。我の存在を公にしてまで・・・。けじめだと獪岳は言っていたが―――獪岳は妙に思い切りが良くて平気で今まで蓄積したものを放り投げるところがある―――獪岳本人だけスッキリと清々しげにしていた。残された雷一門の方は唖然としていたが。なぜこんなことになったのか理解できないといった様子が気の毒でもあり滑稽でもあった。こうなる下地は十分にあっただろうに。
「善逸、お前が雷の呼吸の後継者だ。せいぜい頑張ることだな」
獪岳が最後に善逸へ告げた言葉は餞(はなむけ)にしては棘が含まれていたように我には思えたが、それは意地悪な見方であったろうか。
単独任務をこなしていて、初の合同任務は同期の村田という男と一緒であった。しかし、さくっと獪岳と我が斬ったので単独任務と変わらない。二人は茶屋で甘いものを食べている。最終選別の時に村田は獪岳に助けらたとかで奢ってくれた。
『覚えておるか?』
「いや、全然」
あの時、鬼を斬りまくって子供たちを助けた記憶は我とてあるが、かなりの人数を助けたのでいちいち覚えていないのだ。我ですら覚えていないのに、余裕のない獪岳が覚えていられる筈もない。
「俺たちの選抜、脱落者も死亡者もいない前代未聞の年だったそうだ」
「へー」
気のない返事をする獪岳。
まさか我らが斬りまくったから?まさかな。
しかし、フッと村田が表情を曇らせる。
「でも、俺たちの同期、隊員になってからの死亡率が高いって」
「選抜の鬼は任務の鬼と比較してずっと弱いから仕方ないのではないかな」
何度か任務を受けて、獪岳は最終選別の鬼が初心者向けと認識しているのだ。我から見てもそう思う。但し、その事実は獪岳にとってもそれなりに衝撃を与えたようだ。
「鬼も全力で抵抗する。殺し合いである以上、覚悟が必要ってことか」
しみじみと獪岳は言った。
獪岳
寺から追い出された後、鬼と交渉する前に刀と出会い鬼を斬殺した。不必要に鬼を痛めつける刀の思考(歓喜と狂気)、生まれて初めて遭遇した鬼への恐怖、鬼を斬り殺す感触などから以前の記憶が吹っ飛んだ。
刀は長く生きている為か的確?なアドバイスを獪岳に与えた。故に、そこまで性格は歪んでいない。承認欲求は一応、刀唯一の使用者ということで満たされている。最終選別の意義など考えておらず、刀の欲求を満たし、自身の経験値上げにしか関心がなかった。なんとなく同期の村田とは仲良し。雷一門とは距離を置いたので精神的に、大変楽である。
刀
長生き?している刀。とにかく斬りたい欲求に忠実である。獪岳とは共依存?互いに協力しているから獪岳を利用している後ろめたさは全くない。色々、ろくでもない過去がある。尊大だが、言うだけの実力はある。人でなしとまでは言わないが人格者ではない。自身がろくでなし寄りと思っているので善人は苦手。宗教家はもっと苦手。
桑島
手塩をかけた真面目で努力家の弟子から、あっさりと除籍されたのでかなりショックを受けた。獪岳と善逸の二人で後継者にする計画は頓挫する。二人の性格から考えると、大分無理のある計画ではあった。
善逸
真面目で努力家の獪岳を尊敬していたが、傍らに不穏な音(刀)がいることに薄々気付いていた。雷に撃たれて感覚が鋭くなり、はっきり刀を認識した。その為、獪岳から完全に避けられるようになる。
獪岳との隔絶は刀のせいだと誤解している。本当の理由は善逸の性格、刀を認識できる耳、壱の型を習得した能力である。結局、相容れない同士だったのだろう。