刀と獪岳6
那田蜘蛛山で大規模戦闘があったと聞いて、我と獪岳は見舞いの品を手に蝶屋敷へ向かった。獪岳の同期が何人か入院しているそうだ。蝶屋敷には、元花柱(あの件で柱を引退した)や妹しのぶと縁が出来たので任務が近い折など菓子の差し入れを獪岳はしている。案外、マメな奴だーと思っていたら、上司には付け届けするものだ、と言い切っていた。それ、どこ情報?我、知らないんだけど。
蝶屋敷に入ろうとして、汚く甲高い声が響いていた。あー、この高音聞いたことある。善逸の声であろうな、これ。獪岳はこれ以上ないという位、眉間に皺を寄せていた。ある意味、凄いな、善逸は。声だけで獪岳を不快にさせられるとは。獪岳はくるっとまわれ右。さっさと立ち去ろうとする、その行動に欠片も躊躇いはない。判断が早い。しかし―――
『見舞いの菓子折り、どうする気だ?』
「あ」
忘れていたらしい。存外、間抜けな奴め。しぶしぶ獪岳は蝶屋敷へ戻り、入り口近くで職員を捕まえて菓子折りを押し付けていた。職員も獪岳に慣れているので菓子折りは遅滞なく譲られて終了。
善逸が蝶屋敷に入院しているなら、しばらく獪岳は蝶屋敷に近づかないだろうと思っていたら、菓子折り押し付けてすぐ、同期の村田と会った。同期内で村田が一番仲が良い。我としては獪岳に友達が出来て嬉しいが指摘したら起こるだろうから黙っておく。村田も見舞いだとか。
「獪岳も見舞いか?」
「ああ、だた思った以上に大変そうだから菓子折りだけ預けてきた」
本当は善逸がいるから避けているだけなのに、獪岳は上手く村田の問いを回避した。雷一門や善逸のことを話すつもりはないようだ。
「村田も那田蜘蛛山任務に参加したのだろう。うどんでも奢るから何があったのか聞かせてくれ」
「おう、いいぜ」
二人は軽口を叩きつつうどん屋へ入る。
情報は重要だ、と獪岳はその点において貪欲である。そして、手段も問わない―――というか嫌っている割に善逸の手紙を読むのは情報収集以外の意味はないだろうと我は思う。当然ながら返事は書かない。一番最初、鎹烏ならぬ鎹雀が手紙を届けた時「最終選別に生き残りやがったか、あのカス」と吐き捨てていた。溝は相当、深いようである。
流石の我も、そこまで言わんでも・・・と思った。思っただけで何も言わなかったがな。
那田蜘蛛山の鬼が徒党を組んでいたという話に獪岳は「鬼って単独行動じゃないのか!?」と驚き、鬼を連れた剣士の話に「マジかよ!?」と呆れていた。獪岳の反応に気をよくした村田は裁判のことも話すが、それ、話しても良いのか?などと我の方が心配になってきたぞ。
「鱗滝一門が連座で責任とる、か」
「凄いよな」
「逆にそこまで言われたら他の柱も引かざるを得なかったんじゃねぇか?」
「どういうことだ、獪岳?」
「実際、その竃門妹がやらかしても兄はともかく鱗滝一門まで連座制で処罰はいかねぇだろ」
「証文出しているぜ」
「いやいや、水柱を責任取って切腹とかありえねぇよ。それよか、鬼斬りまくってもらった方が鬼殺隊としても助かるし、貴重な柱を無駄死にさせるもんか。鱗滝一門も分かったうえでやってんじゃないかな」
「確かに助命嘆願だされそうだ」
「それにお館様がもともと竃門妹を認めているのなら、ますます他の柱を黙らせる茶番だったりしてな」
ケラケラと獪岳は笑う。
「・・・・・・もしかして、獪岳。鱗滝一門が嫌いとか?」
「会ったこともないが」
「じゃあ、鬼連れの剣士が許せないとか?」
「別に。話に聞く限り、その鬼娘は殺せないほど強くはなさそうだし。蝶屋敷にとって便利な実験体じゃないかな。ああ、でも他の剣士連中は納得できないだろうよ。風当たり強そうだ」
獪岳の意地悪な?指摘に村田は目を白黒させている。村田をからかっているのか、単に気を許しているのか―――我が思うに気を許しているのではなかろうか。ずけずけ物が言えるというのはつまり、そういうことだ。
「その、気に障らないなら竃門兄妹を気にしてやってくれないか?なんか俺、絆されちゃってさ」
ぽかんと獪岳は村田を見て、少し考えてから頷いた。
「お館様が許可しているんだ。俺は別に構わない」
「そっか、ありがとう」
村田の笑顔に獪岳は困ったような顔をする。村田は大概、お人よしだ。そして獪岳も自身は気付いていないようだが、正当な言い訳をわざわざ作ってまで村田の意向に従おうとしている―――会ったことのない竃門兄妹ではなく村田の為であろう。割と獪岳も身の内に入れた者には優しいのでは?なんて我は思ったりするのだ。
獪岳
成り行きで花柱の危機を救ったが、自身が気絶していたので上弦の弐撃破の功績はない。本人も納得しているが、刀が鳩尾にツカを叩き込んだことには怒っている。大分、痛かったらしい。刀の過去?を知ったがあまり気にしていないし、今更手放す気もない。
村田とは仲良し。後日、竃門兄妹が善逸の友達であることを思い出して、村田との約束を反故にしたくなった。なお、那田蜘蛛山の件の際には別任務についていた。ある時より、刀を使っているため単独任務しか命じられなくなった。
刀
お館様により過去がバラされた―――が、あまり気にしていない。昔は、狂乱の、と呼ばれていた。実は精神の介入や狂気をもたらすことが出来るが、とある理由からこれらの精神系の能力は使っていない。鬼殺隊も自身の能力を正確に把握していないことを知っている。色々あって、過去も含めてお館様とは相性が悪い。上弦の弐を撃破し、その潜在能力の高さを示した。
元・花柱
刀と獪岳に成り行きで助けられた。しかし、二人の特殊な状況を察して口をつぐむことが出来る、大変空気の読める人。獪岳からはちょいちょい付け届けされている。
岩柱
獪岳に忘れ去られていてショック。獪岳が寺から追い出されていたことを翌日に知る。あの騒ぎ(派手に刀が鬼を痛めつけたので大騒ぎとなった)の後に来た鬼殺隊から鬼事件を聞き、獪岳の生存を絶望視した。あの事件をきっかけに鬼殺隊に入り、獪岳が生きていることをかなり後で知る。
お館様
刀については文献でしか情報がないが、直感的に強大な力を持っていることと、信用ならないことを感じている。しかし、その実力は認めていて、身の内に爆弾抱えている気分。警戒しすぎ。そんなに危険視する必要のないポンコツであることに気付いていない。