刀と獪岳   作:dahlia_y2001

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刀と獪岳7

 

 

 

刀と獪岳7

 

 

 

「うふふ。いつも贈り物を下さるばかりで、今日こそは長居してくださいね」

 

元・花柱である胡蝶カナエがたおやかに微笑んだ。今日は天気も良いし、ちょうど庭の花も見頃ですよと言って、元・花柱は縁側の方に座を作った。ちょっと居心地悪げに獪岳は座り、すっかり懐いた竃門妹が当然のように獪岳の隣に座る。

 

「あらあら、すっかり獪岳さんに懐いていますね。禰豆子さん」

 

我から見ても困惑している獪岳。ちょっと面白い。基本、仏頂面の獪岳はあまり子供受けしないのだ。

 

「お二人が手をつないでいるのを見た時、まるで兄妹のように見えましてよ」

「あれは、この鬼娘を元・花柱様か虫柱様に引き渡す為です。俺の言うことが伝わらないから手を引いただけで。それにこの鬼娘を一人にさせない方が良いですよ」

 

獪岳の忠告に元・花柱はその美しい顔を曇らせた。

 

「なかなか禰豆子さんのことを受け入れてくれる人が少なくて。保護して下さってありがとうございます」

「皆の気持ちも分からなくもないです」

「でも、獪岳さんは違うのでしょ?」

「俺は鬼娘より強いですから」

「禰豆子さんですよ」

 

鬼娘呼びするな、と元・花柱に言外に言われて獪岳は言い直す。

 

「俺は竃門妹より強いですから。他の人間は怖がっているのでしょう。人は自分とは異なる者を拒絶するものです」

「・・・・・・私の報告書が獪岳さんを孤立させてしまったのでしょうね」

「遅かれ早かれです。俺は呼吸を使わないし、刀を使っていますし」

 

上弦の弐撃破以降、獪岳に合同任務が回されなくなった。上層部が我を危険視しているからであろうな。我の狂乱の、という名から我の能力を予想して共同任務をさせられない、と。流石、良い判断である。しかし、合同任務だと我が斬れない可能性が高いので単独任務の方が有難いのだが。

 

 

 

 

 

「今日はよろしくお願いします」

 

元気いっぱいに、そしてにこやかに竃門兄が言った。

今夜は珍しく俺こと獪岳とこの竃門兄妹との合同任務なのだ。妹の方は兄が背負っている箱の中にいるので、正しくは竃門兄と俺の合同任務ということになる。というか、竃門妹は戦うのか?

 

「ああ、よろしく」

 

とりあえず返事をして、何で今更に合同任務を組まされたのだろうと思う。大体、俺は例の刀を使うが為、合同任務はさせられないと上層部は判断した筈だ。それなのに、なぜ竃門と組ませるのか?

 

「聞いても良いか?」

「はい、何でしょうか?」

 

やけに親し気に竃門兄が言う。この前、成り行きで竃門妹をかばって、一緒に双六をやったのでこの兄妹の好感度が上がったのかもしれない。何とも単純な奴らだ。但し、俺にとっては不利益ではないし、村田にも頼まれたし、放っておこう。ついでに竃門兄がカスと同期で親しいことはこの際、忘れることにする。そもそも別人だ。カスと関わりのある人間をいちいち気にするのも逆に腹が立つ。

 

「合同任務を行った経験はどれくらいあるか?ちなみに俺はほとんどない。故に指揮はとれない」

 

年齢・階級から俺が指揮するのが道理だが、俺自身が呼吸を使わないので通常の合同任務と同じような行動を期待されても困る。大体において、俺は刀と共に討伐対象をつまり鬼をサクッと斬っている。他人との共闘経験が皆無なのだ。ぶっつけ本番で竃門兄と共闘できるとはとても思えない。加えて、俺の刀は鬼をもとい斬ることにかなりの執着がある。故に今回の作戦で俺が竃門兄の補佐に徹して、竃門兄に鬼を斬らせる訳にもいかない。

 

「えっと、同期たちと、それからナダクモヤマ任務でしょうか」

「使う呼吸は?」

「・・・・・・水の呼吸です」

「俺は呼吸を使わない。故に共闘は難しい。今回、討伐対象は俺が斬るのでお前には補佐もしくは見学して貰いたい」

「はい、分かりました」

 

不満げなく竃門兄が答えた。

自分が、自分がと我を通そうとする性格ではなさそうだ。早く階級を上げたい隊士はどうしても鬼を斬ることに拘るが、こいつにはそれがないようだ。なお、俺が鬼斬りに拘るのは、うるさい刀の為に過ぎない。大体、俺の階級は既に甲なのだから。刀の欲求に応えていたらこうなっただけで深い意味はない。柱の条件も達成はしているが、呼吸を使っていないので話自体がない。別にどうでも良いのだが・・・・・・。

俺たちはのんびり歩きながら任務地へ向かう。町はずれのさびれた裏通りが目的地である。すっかり夜は更けて、しかし晴れている為か半月の月明かりが明るい。

 

「今回の鬼は血鬼術が分からないが、不可視の攻撃をするらしいとの情報がある」

「不可視の攻撃ですか、回避は可能なのでしょうか?」

「さあ?その不可視の攻撃が物理か精神かで変わってくる。つまり、物理なら叩き落せたり避けることも可能な気がするが、精神なら無理じゃねぇか?」

「うーん、そうですか?」

「回避不可ならば、速攻で鬼を斬るしかない。回避可能でも速やかに鬼を斬るのが望ましい。結局、やることに変わりはないな」

 

色々と真面目に考察した結論が、速攻で鬼の頸を斬るではほとんど何も考えていないに近いような気がする。

そこで、また俺はなぜ合同任務を組まされたのかに考えが戻った。竃門兄がいなければ、刀と会話するところだが、妹はともかく兄に刀の特異な力を見せる気にはなれず、俺は刀へ話しかけないことにした。妹の方は刀も含めて双六したので今更だ。

多分、竃門兄は俺に対する監視なのだろうと思う。鎹烏だけでは情報が不十分なのかもしれない。竃門兄は鬼の妹を連れている隊士だ。捨て駒にしても惜しくはないと上層部は考えて俺と、それとも狂乱の刀と組ませたのだろうか。それはあまり愉快な仮説ではなく、思わず顔をしかめた。もっとも、それが正解とは限らないのだけれど。

 

俺と竃門兄は予定された裏通りに立っていた。古ぼけた街路灯がぽつりと一つだけあり、その灯によってより一層、その裏通りが寂れて見える。人気は全くない。お化けが出てもおかしくない雰囲気があった。いつもなら刀に向かって軽口のひとつも叩くところだが、竃門兄に対してそうするつもりはなかったので俺たちの間には気づまりな沈黙が落ちている。

 

 

ガンッ!!

 

 

地面が揺れた。とっさに俺は腰を落とした。揺れが酷くて立っていられない。しかし、地震という感じではない。なぜか地震ではないと直感で思った。揺れは止まった。前方の気配に俺は前に出て、背後に竃門兄妹を庇う立ち位置を取る。

 

「刀」

 

呼びかけに即、刀は応じた。俺から見て左脇の影からぬるりと日本刀が現れ、俺は一気に引き抜いた。街路灯の灯で刀身は安っぽい光を放っている。

 

『獪岳、影だ』

 

風切り音を立てて何か黒いモノが襲い掛かってきた。不可視ではなく夜に黒いモノが襲うことでそのように誤解されたのだろうか。視認できたそれを俺は手早く斬り捨てた。きちんと斬り捨てられた。物理攻撃が通ることに一安心する。

 

「獪岳さん、鬼は一体です。その、鬼はですけれど」

 

竃門兄が困惑気味に鬼ではなく、刀の方を見る。

 

「刀のことは数に入れなくて良い。俺の刀だ」

 

影から刀が現れれば普通は驚くか。共同任務が久々すぎて気遣いを忘れていた、と俺は自分の迂闊さに呆れた。竃門兄には後で口止めをしておかねばならない。あちらも鬼連れ隊士だ。異端同士、口止めもそう難しくはないだろう。

 

 

ガンッ

 

 

再び地面が揺れた。地震というより建屋に強風を叩きつけられたような感じだ。足場の不安定さに舌打ちする。ついでにふらつく竃門兄に怒鳴っておく。

 

「しゃがんでいろ。ついでに何もするな」

 

ちょろちょろされたら、たまったものじゃない。他人を庇う戦い方なんて俺は知らない。

 

『獪岳、鬼は影を扱う。そなたの周囲の影は我の管理範囲で奴も手出しは出来ぬが、干渉しようとした跳ね返りがこの地震もどきだ』

 

この局地的地震はそういう訳か。刀の周囲の影はとりあえず安全ということだ―――つまり、竃門兄妹を守る必要性から俺と刀は打って出ることが出来ないじゃないか!?

 

「刀、管理範囲の拡大は可能か?」

『無理だ』

「使えない!!」

 

のそり、と前方の気配が蠢いた。ありがたいことに鬼の方がこちらに来てくれた。影が大きな槍の形状で迫りくるが遅いので容易に斬る。斬ったはしから影は消えていく。物理攻撃が通るのだから、物理的に存在しているのだよな?どういう原理なのだろうか。

 

 

ガンッ!ガンッ!

 

 

しつこく鬼は影越しに干渉してくる。直接、こちらを攻撃してこないのは、この鬼の戦闘形式が遠距離型であり、近接戦闘に不向きだからだろう。刀の保護下になく、自身の影から攻撃されたら、かなり不利なのは確かだ。俺はこれが単独任務ならばと思考は走るが、今更詮無いことだと割り切った。

しかし、どうしたものか。まったくもって手詰まりだ。鬼相手に長期戦など自殺行為だ。一気に頸を斬らねばならない。断続的に来る攻撃をしぱしぱ斬り飛ばしながら俺は刀に相談する。

 

「竃門兄に俺と並走させつつ、接近戦に持ち込むのはどうだ?」

『竃門兄がそなたの速さについてこれるか分からんぞ。雷の呼吸は速度特化型だ。他の流派よりそなたの方が速い』

 

俺、もとい刀の管理範囲外では即、竃門は影から攻撃されてしまう。

 

「詰んでんじゃねーか」

『あやつより獪岳の方が強いのだ。そして、あの鬼は近接戦闘に不向きと思われる。ならば、どうすれば良いかは明白であろう』

 

どこか面白げに刀は答える。

ああ、そうか。竃門に攻撃させ、俺が防御を担当すれば良い。俺ならば竃門兄に並走し、補佐するのは容易だ。但し、そうなれば刀は鬼を斬れなくなるが、刀がこの案を提案するということはその辺り織り込み済みなのだろう。織り込み済みだよな?後になって『斬りたい』と駄々をこねられても困るのだが。

 

「竃門兄」

 

背後に視線を向けると、ちゃんと刀を構えた竃門兄が「はいっ」と元気よく返事をした。もしかして、俺が取りこぼした分を斬ろうとしていたのか。無用な心配だ。俺と刀で取りこぼしなどあり得ない。(きっぱり)しかし、その慎重さは嫌いじゃない。

 

「竃門兄。悪いが作戦変更だ。お前が先行で攻撃しろ。俺が並走し刀の管理範囲からお前らが外れないように保持しつつ、さばききれない影は斬ってやる。出来るか?」

「はいっ、出来ます」

「よし、行け!!」

 

一気に竃門兄が走り、俺は距離を保つように並走する。鬼の方が接近されるのを嫌ってか影槍が数を増やし、俺たちに襲い掛かる。本来ならば、俺たちの直近の影から攻撃したいのだろうが刀の管理範囲に阻まれて遠距離からしか攻撃できないようだ。おかげで攻撃を迎え斬りやすい。

 

「水の呼吸 弐ノ型 水車(みずぐるま)」

 

竃門兄が広範囲攻撃技で影槍を斬り飛ばす。

近づかれて焦ったのか、鬼は影槍の大きさと小さくし、手数を増やしてきた。しかし、一本一本の攻撃はそのために軽くなっている。常の戦い方が出来ないことが、この鬼の敗因であろう。

 

「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り(みなもぎり)」

 

思ったより、あっさりとそして他愛なく鬼の頸は落とされた。

 

 

 

合同任務は終わり、俺たち―――俺と竃門兄妹ーーーはのんびりと藤の家に向かっている。割に早く終わったので、箱から妹を出してやったらどうだ?と水を向けたら竃門兄は嬉しそうにいそいそと箱から妹を出していた。

妹も常に箱の中では気が滅入るだろう。どうせ今は夜だし、夜明けも遠いし。すると、「獪岳さんは優しいんですね」と竃門兄が勘違いなことを言い出したので「竃門妹より俺の方が強い」と言い切ってやった。なぜかよく分からない顔をしている竃門兄妹。

そして、『発想が脳筋な』と刀が言った。

 

 

「ともかく竃門兄。お前の報告書を提出しておけよ。俺も書くけど」

「二人とも書くのですか?」

「普通は不要だが、俺は刀を使っているから上層部に信用がない。正しくは、刀を警戒されている、か。竃門兄も鬼娘の妹を連れている以上、異端がどういう扱いを受けるか分かるだろう?」

「そんな、獪岳さんは―――」

『そう、我のような至高の存在を畏れるのはか弱い只人ならば致し方なかろう』

「「・・・・・・」」

 

刀の尊大な物言いに俺と竃門兄はドン引いている。鬼娘の竃門妹は全く人ごとの様子であった。凄い受け流し能力(スルースキル)だと思う。いっそ俺もその境地に至れたら良いのだが、只人の俺には無理だ。

 

「上層部がこの刀を警戒するのは気にし過ぎじゃ?と思わんでもないが―――実は結構、凄いんだ」

「いえ、凄いのは今回だけでも分かります」

 

互いに先の戦いでの刀の果たした役割から、刀を褒めているのだが何でこんなことになっているのやら。

 

「刀、お前は喋らない方が良いと思う」

『ふむ、我は寡黙な方が良いというわけか』

 

喋ると小者っぽいというか、何か残念な感が溢れてくるのだよな。多分、竃門兄妹も刀を畏れたりしないと思う。

ともかく、久々の合同任務は問題なく終了した。

藤の家に着いてから、竃門妹に強請られて、刀もまじえて完徹双六大会に突入してしまったのはーーー完全に予想外のことであった。

 

 

 

 

獪岳

久々の合同任務で苦戦?既に甲なので刀の為だけに鬼を斬っている。故に竃門兄に手柄を譲っても気にはならない。双六大会に付き合わされた方が辛かった。完徹はきつかったらしい。

 

 

今回は鬼が斬れなかったが、獪岳が先輩やっていたので満足。うちの使用者は凄いだろ、の気分である。

双六はガチ勝負派。大人げない。

 

 

竃門兄

妹に対して優しいので獪岳の株はますます上昇中。獪岳の状況判断の的確さと無駄のない剣術にその強さを理解した。

刀については、双六大会に付き合わされたこともあり、凄いけれど性格は子供っぽく心配することないのでは?と思っている。

 

 

竃門妹

獪岳は遊び(双六)に付き合ってくれる遊び仲間枠。刀も同じ遊び仲間枠。

本作品一番の大物なのは間違いない。

 

 

 

 

 

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