刀と獪岳8
「任務の度に怪我しているんだってな」
少し呆れたような口調で俺は竃門兄に見舞いのお菓子を渡した。「ありがとうございます」相変わらず人のよさそうな顔全開で竃門兄が破顔した。偶にこいつの能天気さに自分との違いを突き付けられるきがする時があるが、今はその顔に影を感じるのは俺の気のせいか。直前の任務は炎柱との合同任務で上弦の参と遭遇したとか。以前にもこいつは無惨と遭ったらしいし、悪運というか引きの強さは半端ないようだ。
そして、炎柱の死亡。
柱ですら上弦には敵わなかったか―――直接、俺は炎柱と会ったことがないので、それくらいの感想しか抱けなかった。しかし、同期や他の皆から炎柱が大層、慕われていたことは知っている。―――そりゃ、俺や刀には会わせないよな。
流石の俺だとて段々、分かってきた。刀はかなり危険だ。中身というか性格はアレでついつい気を許してしまうし、俺は刀が俺を裏切るとか俺の不利益になることをするとは思わない。共に過ごした月日、年月で俺は刀を理解している。しかし、知らない人間に刀は充分脅威になり得るだろう。ともかく、炎柱のことは口にしないことにする。
ちらりと俺は竃門妹の入っているであろう箱を見る。
「退屈しているのではないか?お前の妹は」
「また耐久双六大会ですか?」
「だったら、竃門兄も付き合わせるぞ」
「望むところです。寝てばかりで暇なんですよ」
「日にち薬だろう。大人しく寝ていろよ」
『我、我もやるぞ』
「刀は竃門妹にも容赦しないからな、大人げない」
『手加減何ぞ、相手に失礼だ』
「竃門兄、どう思う?」
「真剣勝負は良いんじゃないですか?」
「刀より大人だ」
『それ、どういう意味だ?』
竃門兄も大概、刀に慣れてきているから俺としても楽である。ここまで、ぶっちゃけているのは元・花柱の胡蝶カナエと竃門兄妹だけか。あれ、実は双六仲間じゃないか?流石に同期の村田にも刀の秘密はさらしていない。でも、村田ならば平気で受け入れそうだ。機会があったら試してみよう。
「それで、また刀を駄目にしてしまって・・・」
『刀は力の入れ方で容易に折れるからな。要は力学だ』
「俺は今まで刀の手入れをしたことがないんだが」
今更だが、俺は大変なことに気付いた。そもそも、手入れって何をすれば良いのかも分からない。
『我には自己修復機能があるから破壊されぬ限り問題ない』
「ああ、それは便利―――」
言いさして俺は口ごもった。自己修復機能ってなんだ?いや、意味は分かる。そうではなくて、何で刀はそんな機能を付加しているのだ!?今まで、おざなりにしてきたが本気でこの刀、何なのだろう?
俺ですら引いているのだ。当然ながら、竃門兄も唖然と刀を見ている。
『どうした、そなたら?』
「いや、別に」
「特に何も」
俺たちはただ、もごもごと言い訳をするしかなかった。
蝶屋敷へ菓子折り持参でご機嫌伺に行ってみたら、玄関先で竃門兄、猪頭(酔狂な格好の奴だ)、善逸と派手派手しい大男が喧々囂々と騒いでいる。騒ぐのは個人の自由、俺だってそこはゴチャゴチャ言いやしないが、俺はその玄関を使いたいのだ。しかし、何か巻き込まれそうな嫌な予感がする。裏口から入ろう。くるりと方向を変えようとしてばっちり善逸と目が合った。
「あーっ、あニ・・・・・・獪岳」
兄貴と呼んだら殺す!!という意志を込めて睨みつけたら空気を察したのか、音を聞いたのか善逸は言い直した。しかし、一同が俺に気付いた。あの阿呆、カスな上に碌な事しやしねぇ。いつか殴る。
「あ、獪岳さん」
どこか嬉し気に竃門兄が言う。何で嬉しそうなんだ、お前?そして、派手派手しい大男はなぜか俺をじっと見る。そして呟いた。
「お前が無位の獪岳か」
”無位の獪岳”なんだ、それは。いつ、そんな訳の分からん二つ名がついた?俺は知らないし、認めていない。
故にこう言い返す。
「階級・甲の獪岳です」
この派手派手しい大男、たぶん、音柱の宇随だ。元・忍者で使用する音の呼吸は雷の呼吸の派生とか。仮に桑島先生の弟子ならば、それ経由で俺のことを知っているかもしれない。ついでに刀のことも、お館様経由で知られているだろうよ、ケッ。
「あ・・・そうだ。獪岳もこの任務に参加してもらおう!!そうすれば俺の生存率が上がる!!」
「善逸、お前・・・」
半ば俺を盾にすると言い切る善逸に竃門兄が引いている。人間としてどうかと思う発言だ。そして、それ以上に。
「黙れ、カス。俺に合同任務は出来ねぇよ」
「え?なんで?」
「あー、それはその」
阿呆のカスは本気で分かっていないし、逆に竃門兄の方が察しが良い。前回、俺と一緒に合同任務をやったから、刀の特異性を理解しているのだろう。
「任務先は吉原だ。お前は絶対に来るな、無位の獪岳」
「承りました」
表面上は丁寧に答えておく。相手は柱だ。気を遣う。もっとも、頼まれても行かないともさ。そんな人の多いところ、危なくて行けるかよ。
音柱から言質を貰ったから、応援要請が来ても無視してやる。多分、間違っても俺には応援要請は来ないと思うけれど。
そして、音柱と騒がしい三人組は任務地へむかう、のを俺は見送った。騒がしいとはいえ猪頭はずっと俺の方を伺っていた。正しくは俺ではなく刀を警戒していた様子だった。良い勘している。少なくとも、あのカスより大分、マシだ。
さて、玄関を使えるようになったので蝶屋敷に入ろう。聞きたいことも出来たことだし。
元・花柱、できたら蟲柱様にご挨拶したいと伝えたら、お二人が揃って会ってくれることになった。忙しい二人だから、もう単刀直入に聞こう。そして、答えを聞いたら直ぐに帰ろう。
「お忙しいところ申し訳ありません」
「いえ、お持たせですが、すぐにお茶を淹れますね」と元・花柱。
「いや、お茶はいいです。それよりお聞きしたいことが」
俺はちらりと蟲柱を見る。多分、現役柱である蟲柱の方が知っている可能性大だ。そして、歯に衣着せぬ物言いをしてくれるのでは、と期待している。
「私に、ですか?」蟲柱が小首を傾げる。
「刀、お前も居てくれ」
『我もよいのか?』
ぬるり、と刀が俺の影から出てくる。戦闘時ではないので黒い鞘におさまっているが、外見が既に普通ではない。見慣れないと禍々しい迫力を感じさせるかもしれない。蟲柱は初めて見る為か、まじまじと刀を見つめている。
「つい先ほど、音柱様に会いまして、俺のことを”無位の獪岳”と呼ばれたのですが、どういう意味ですか?」
「それは、柱合会議でそのようにお館様から通達されたからです。獪岳さんは十分、柱の要件を満たしていますが柱には呼吸が必要なので―――」
『鬼狩りに呼吸は必要ないぞ。いつから鬼殺隊はそのように変わったのだ?』
「「「・・・・・・」」」
「別に俺は柱になりたい訳ではないので構いませんが。この刀を使う剣士という意味での”無位の”なのですね?」
柱ではないから無位。つまりはそういう意味か。
「ええ、そして。私たちは獪岳さんたちに吉原へ行ってもらい音柱の補佐をお願いしたいのです」
「音柱から絶対に来るなと言われましたよ」
うんざり気味に俺は返した。作戦隊長に拒絶されている遊撃部隊なんて微妙な立場は御免こうむりたい。
『我も反対だな』
珍しく刀がきっぱりと言い切った。任務については鬼を斬れるということで基本的に積極的な刀が、だ。
「それはどうしてですか?」と蟲柱。
『・・・・・・音柱、あ奴は自分の作戦を狂わせる要素は好むまい。まして、事前に獪岳へ釘を刺していた。事後承諾は得られまい。仮に助太刀して罵倒されてはやりきれぬわ。それに、獪岳の助っ人は上層部全体の総意ではなさそうだ。故に、この話、全く旨味がない』
刀の言うことももっともだ。音柱は俺たちと共闘する気はないだろうし、情報も共有できない。本当にこの依頼、不利益ばっかりじゃないか。しかも、上層部の総意でない可能性大だ。(上層部は刀を危険視しているので)
「どうしても、この依頼を受けては頂けませんか?」
『お館様に問い合わせれば、即、依頼自体が無かったことになるだろうよ、蟲柱』
刀はせせら笑った。蟲柱と刀の冷ややかなやり取りに俺と元・花柱は引いている。
このまま、会話を続けさせるのは拙いかもしれない。
「刀、下がってくれ」
『我はこの依頼、受けぬぞ』
「分かっている。俺も受けない」
とぷり、と刀は俺の影に戻った。
蟲柱は不機嫌そうだが、まあ、俺の知ったことではない。
「お話をお聞かせいただきありがとうございました。これで失礼させて頂きます」
一礼する俺に蟲柱は問う。
「本当に良いのですか?」
「おっしゃる意味が分かりかねます。それに蟲柱様が俺たちを信頼してくださっているのかもしれませんが、その期待にはお応えできません。吉原は非戦闘員が多すぎます。狂乱の刀を使うには危険度が高すぎます」
そのことにようやく気付いたのか蟲柱は目を見張った。
お見送りします、と元・花柱が玄関まで付き合ってくれた。正直、恐縮する。お断りしたのだけれど、元・花柱は笑顔で存外、意志を通す佳人なのだ。美人に強いて願われたら男は断れねぇよ。
「すみません、獪岳さん。妹が我儘を言いまして。でも、獪岳さんたちにお願いしたら安心できると思ったのでしょう」
いわゆる保険か。それだけ信用されているのは有り難いが、最近はちょいちょい俺自身が信用ならないからな・・・・・・。刀の能力は人の範疇に収まらないのでは?と思いつつあるのだ。刀に畏れは感じないが、刀の力には畏れを抱く―――これが今の俺の心境に近いだろう。
「期待に応えられず残念に思います」
俺もよく言うよ、と思うような返事をした。
しかし、申し訳ないのは確かなので、近いうちにまた蝶屋敷へ差し入れしようと思ったのだった。
吉原合同任務で上弦の陸が撃破されたとか。竃門兄の引きはもはや神がかっているように思う。そしてまた怪我をして蝶屋敷に入院中らしいので、手土産片手に見舞いへ行くことにするか。しかし、上弦相手に再起不能の怪我をしていないだけ運が良い。ちなみに音柱は怪我の為、引退とか。あの依頼を蹴ってしまったので蝶屋敷に行きにくいな。
「行くべきか、行かざるべきか」
そういえば、善逸も吉原合同任務に参加していたか。よし、行くのは止めよう。あのカスとは顔を会わせたくない。加えて、胡蝶姉妹に合わせる顔もない。
贈り物だけ郵送しておこう。
そう思っていたのだけどなー、と俺は竃門兄の病室に見舞いに来ていた。竃門兄から手紙をもらって相談に乗って欲しいとのことで―――他人から相談されたのが初ということもあって―――のこのこと俺は来てしまったのだ。俺もカス並みに阿呆である。そして、竃門兄の相談事というのが。
「刀鍛冶の人を怒らせてしまって・・・・・・」
刀を使っている俺に刀鍛冶の相談されても知らねぇよ。刀を作ってもらってないんだ、こっちは。お前も知っているだろ?と言いたくなった。まあ、しょぼくれている竃門兄には言わないけれど。
「ちなみに竃門兄。何回、刀を駄目にしたんだ?」
・・・・・・。そりゃ、刀鍛冶も切れるわ。刀鍛冶に同情するわ。
いくら上弦に遭遇しまくる不運?悪運?持ちの竃門兄とはいえ、これは酷い。
「真摯に謝るしかないだろ。俺の刀みたいに自己修復機能が付いてりゃな」
『破壊されれば自己修復機能も意味をなさんわ』
怒った口調で刀が口を挟んだ。同朋をこうもバキバキ駄目にされてはな・・・・・・。
ますますしょぼくれる竃門兄。
「追い打ちかけてやるなよ、刀」
『使用者が未熟なだけだ。力学と言っておろうが、力のかけ方で刀は容易に折れるのだ』
「力学?」と竃門兄。
気にするな、と俺は片手を振った。刀は妙に博識だが、その知識をきちんと理解している訳ではなさそうなのだ。ふわっと理解しているだけなので他人に説明できる訳もない。いちいち気にしない方が良い。
「刀鍛冶さんはどこに住んでいるんですかね。やはり、こちらから出向くべきでしょうし」
「確か刀鍛冶の里は秘匿されているんじゃなかったか?元・花柱様か蟲柱様に相談してみろ」
「はい、分かりました」
「そろそろ、俺は帰る」
「あ、あの。善逸に会わないのですか?もうじき機能回復訓練から戻りますよ」
「じゃ速攻、帰るわ」
カスとは顔を会わせたくないんだ、察しろ。お前は察しの良い奴だろう?俺は知っているぞ。
竃門兄は苦笑して続ける。
「じゃあ、カナエ様には会わないのですか?」
「そっちは俺に合わせる顔がない」
「?」
「依頼を断ってしまったからな」
竃門兄の引きの強さを考えれば、蟲柱が俺という保険をかけたがったのは当然だ。結果論だが、音柱から拒絶されたことと場所が一般人だらけの吉原ということで依頼を断った判断が誤っていたのでは、と思っているのだ。せめて死人が出なかったのは良かったが、音柱は引退せざる得ない傷を負ったし。
『そなたが居たところで、どうなっていたか分からぬぞ。人一人が出来ることなど、たいしたことではない』
「しかし、補佐が増えれば少しは状況が改善されたかもしれねぇだろ」
『たら、ればなんぞ言っても始まらぬ』
「そりゃそーだが」
そう言いつつも、刀が俺を慰めようとしているのは分かっていたので、それ以上は何も言わないことにする。俺一人が居たところで何も変わりはしない、多分、そうだろう。
「じゃあな、竃門兄」
「はい。また」
この後、刀鍛冶の里へ向かった竃門兄がまた上弦と戦闘することになったとか。あいつ、一度お祓いでもして貰った方が良いのではないか?しかし、その折に柱が偶然にも刀鍛冶の里に居たとか。偶然なのか、それ?必然性?もしくは―――竃門兄の引きの良さに保険をかけたのだろうか?刀鍛冶の里でドンパチやる気は毛頭ないだろうから囮ということもないだろう。一応、かけていた保険がぴったりはまった、と。
―――そして、竃門妹が太陽の光を克服した。
獪岳
当然ながら無限列車任務には不参加。そして、吉原合同任務も刀の危険性から自主的に不参加となっている。なぜか、どんどん竃門兄と仲良くなっていく・・・・・・。そして、善逸とも距離を置いたのが逆に良かったような感じに。多分、この後の柱稽古にはハブられる。呼吸を使っていないから。
刀
前回の竃門兄との合同任務で、獪岳と自分にとって合同任務がいかに足かせになるかを知った。故に吉原合同任務には大反対であった。自己修復機能持ちで手入れ要らず。
竃門兄がバカスカ刀を駄目にして、どうしても刀視点に立ってしまい怒っていた。
『貴様が未熟者だから刀を駄目にするのだ、愚か者!!』
蟲柱
獪岳を音柱への保険にしようとしたが、使っている刀が危険すぎることを半ば忘れていた。でも、姉さんや禰豆子さんと双六やってた愉快な刀だよね?後日、お館様から注意されて反省。
元・花柱
獪岳が顔を会わせなくなった。先の吉原合同任務不参加を気にしているのかと心配している。