セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-2
吾輩が廊下を歩いていた時、ぞろぞろと移動教室中の生徒たちと行き合った。精霊学教授である吾輩と生徒とは本来ならば接点がない筈だが、去年、夜逃げしたロックハートの代わりに闇の魔術に対する防衛術の座学を受け持たされたので大概の生徒に教授として認識されてしまっているのだ。元気よく吾輩に挨拶する生徒たちに鷹揚に返した。こんな返しで良いのか三年目の今でも戸惑う。流石に、生徒からの挨拶に対する適切な返しなんて他の教授陣に聞くわけにもいかないし、原作セブルスがどんな返しをしていたのかも分からん。
ふと、ハリー達三人組が揉めているのが目に入った。正確にはロンとハーマイオニーが喧嘩していて、ハリーがオロオロしているといったところか。
「廊下で騒ぐな!!それで、何があったのかね?」
原因を解明せねば、また同じことを喧嘩を繰り返すことだろう。
先に口を開いたのはロンだった。
「ハーマイオニーの馬鹿猫が―――」
感情的なロンを吾輩は視線ひとつで黙らせた。喧嘩再開など、御免こうむる。次にハーマイオニーが口を開こうとしたが、それも黙らせる。喧嘩の当事者が冷静に状況を説明出来るとは思えない。
「ミスターポッター、説明したまえ」
唐突な指名に面食らったハリーがそれでも説明を始める。
「えっと、実はその―――」
ハーマイオニーの飼い猫クルックシャンクス(何でそんな長い名前をつけたんだ?呼びにくいのではないか?)が執拗にロンのネズミ・スキャバーズ(本当の名前はピーター・ペティグリュー、逃亡者なんだから、よく考えるとカオスだ)を狙っているとか。ネズミの正体を知っていて狙っているのならば、この猫は相当に賢い。シリウス並みに?
「ミスグレンジャー。その猫に充分、エサは与えているのかね?」
「もちろんです」
猫は遊びでそういうこともやるらしいから・・・。
しかし、シリウスと猫に狙われるネズミ(ピーター・ペティグリュー)、ストレスで胃に穴が開くのじゃなかろうか。
「そのせいで、すっかりスキャバーズの調子が悪くなって」
さもありなん。映画でもペティグリューはくたびれたおっさんだった。このまま放置すると、シリウスが暴走して厄介なことになるのだよな。気は進まないが、とても気は進まないが仕方ない。
「このまま放っておくのは問題があるようだ。今から皆でケトルバーン魔法生物学教授のところへ向かう、ついて来たまえ」
一瞬、目を合わせたハリー達三人組は、素直に吾輩の後をついてきた。ケトルバーン教授は部屋にいた。二度手間にならず、良かった。ケトルバーン教授は吾輩とハリー達三人組を不思議そうに見て、吾輩に視線で問う。『何の用だ?』ごもっとも。
ケトルバーン教授に吾輩は手早く事情を話す。その折、猫でなくロンのネズミの特異性を強調しておいたが、それだけだ。しかし、ケトルバーン教授は魔法生物狂い、こちらの思惑通りにネズミに興味を抱いてくれたようだ。ネズミは居心地悪そうに机上でじっとしていた。ケトルバーン教授はロンのネズミを研究材料として見つめ、矢継ぎ早にロンに質問している。
「ほお、そんなに長生きを」
「ふむ、指が一本かけておるのはなぜだ?」
流石、ケトルバーン教授はいいところを突いてくる、吾輩はますます困惑するネズミを見る。すっかり、ネズミにしては異様に長生きなスキャバーズに夢中なケトルバーン教授は吾輩の誘導なしに、ロンにネズミをしばらく預かりたいと口説き落としている。こっちは放っておいて良いだろう。ロンとネズミを引き離しておけば、ロン(そしてハリー達)は駄犬シリウスと接触する恐れはあるまい。
逆にケトルバーン教授はシリウスに突撃される可能性大となったが、ケトルバーン教授もホグワーツ教授なのだ、撃退出来るだろう。少なくとも、生徒が危機に陥るより遥にマシだ。我ながら身勝手過ぎるかと思いなおし、吾輩はマクゴナガル教授にもこの情報を流しておくことにする。
「マクゴナガル教授、お願いしたいことがあります」
マクゴナガル教授の私室の扉を開けると共に、吾輩が口にした。その途端、マクゴナガル教授は一瞬顔を歪ませたが、即、表情を取り繕った。
「どうしましたか、セブルス?まさか、また森で何か?」
アクロマンチュラ調査の一件はマクゴナガル教授の中で半ばトラウマになっていたらしく恐恐として聞いてきた。
「大丈夫です。森ではありません」
シリウス脱獄のせいでホグワーツの防衛に頭を悩ませているマクゴナガル副校長にこれ以上の心労を与えるのは吾輩の本意ではない。校長の方はどうでもよい。校長が生徒想いのマクゴナガル教授程にこの事態を憂いているとは思えないからだ。
それはともかく、吾輩は手早くロンのネズミをケトルバーン教授に預けたこと、そしてネズミがいかに異常であるかということ。マクゴナガル教授本人は変身術の使い手である。それとなく誘導すれば、マクゴナガル教授はハッと気付いて顔色を変えた。
「そんな・・・でも、まさか。動物もどき!?」
「ひとつお聞きしたいのですが、動物もどきは必ずしも登録は必要ありませんよね。例えば某新聞記者とか。ところで、リータ・スキーターに教授した訳ではないでしょう?」
「もちろんです!!そもそも、リータ・スキーターが動物もどきですって!?」
「知っている者は知っていますよ」
貴族にとって情報は力となる。吾輩がリータ・スキーターのことを知ったのも出版会社を持つ貴族経由だ。とりあえず、話を戻そう。
「つまり、動物もどきは独学で習得できる、と。そして、問題のネズミがウィーズリーのペットに成りすましているとなれば、まっとうな人間とは言えませんな。ミスターウィーズリーからケトルバーン教授に引き渡したのは正解だったのでしょう」
「すぐにシルバヌス(シルバヌス・ケトルバーン教授)へ連絡します。いや、今すぐ行きます」
「ご同伴いたします」
ネズミに逃げられては面倒だ。そして、ネズミがピーター・ペティグリューと明かされたら、また一波乱だろう。
その後のことは、吾輩の思惑通りに進んだと言えるだろう。マクゴナガル教授と共にケトルバーン教授のところへ行ったところ、ケトルバーン教授はネズミにべったりで研究していた。ネズミを逃がしていないのは僥倖。あんな研究熱心な教授に観察されていては流石のネズミも逃げる隙はあるまい。そこにマクゴナガル教授と吾輩が入室し、ますますネズミの包囲網は強固なものとなった。
あれよあれよと言う間、というよりはマクゴナガル教授のアンチ動物もどき呪文でネズミはピーター・ペティグリューの正体を晒したのだ。その後は、ピーター・ペティグリューを腕利き闇祓いのロングボトム夫婦じきじきに引き渡した。横やり入れられると面倒なので、事情聴取は魔法省でやってくれ、と即、実行させたのだ。ロングボトム夫婦も我が子在学のホグワーツにこんな怪しさしかない人間を置くわけにはいかないと嬉々として連行していった。その後のペティグリューは魔法省預りなので、逃亡されようが、殺されようが魔法省の責任である。
翌日の日刊預言者新聞にはペティグリュー確保、シリウス冤罪か?の記事が一面に載っていた。冤罪か?のところにシリウスへの疑いが未だ晴れていないことが伺える。どれだけ人望がないのだ、あの駄犬。あの裁判も相当にいい加減だったらしいし。
ホグワーツでの愚行とブラック家からの絶縁が効いているのだろう。シリウスはホグワーツでのやらかし、主にスリザリンだが他寮に対して行っていた暴力行為に対して、卒業と共にブラック家から絶縁され、シリウス・グレイとなっている。ブラックを名乗ることも禁じられている訳だ。
これを厳しすぎる処分とは言えない。スリザリンは貴族や有力者の子供が多く、彼ら彼女らに危害を加えたことをブラック家が正当化することは許されないのだ。また、ポッターやシリウスは就職する気がなかっただろうがーーールーピンやペティグリューが卒業後、就職出来なかったのは不死鳥の騎士団に入団したからだけではない。就職できなかったから騎士団に入ったと思われる。雇用者側からすれば愚連隊の一員を自社に入れる筈もあるまい。
それはともかく、今朝の食堂はこの件でもちきりである。吾輩は食事を済ませ、あえて紅茶片手に日刊預言者新聞を眺めている。既に一度は読み切っているのだ。食堂に入ってから、生徒の噂から何か不穏さに気付いたのかルーピンが青い顔でハイテーブルに座った。
「おはよう、ルーピン」
「あ、ああ。おはよう、セブルス」
ルーピンは吾輩の持つ日刊預言者新聞にじっと目を向けている。吾輩は新聞を手渡した。
「気になるであろうよ。貴公の親友のことであるからな」
ルーピンは吾輩から新聞を奪う様に取り、じっと一面に目を通す。小さく悲鳴のような呻き声を上げた。
どうやら今の今まで全くルーピンは知らされていなかったらしい。吾輩はちらりとマクゴナガル教授を見たが、全く知らない顔をしている。これは、わざとルーピンに情報規制をかけていたのだろう。親友の為として、なにか事を起こされては困る、ましてホグワーツの教員が、であろうか。やっぱり愚連隊の一員ということで、ルーピンは信用されていなかったのか、と吾輩は納得した。
2022/5/18
リータ・スターキーをリータ・スキーターに変更。ご指摘ありがとうございます。
2022/5/19
ケルトバーンをケトルバーンに修正。ご指摘ありがとうございます。
ケルトって北欧神話か。
この世界のセブルスははたして生徒からの人気があるのか否か。生徒からの挨拶の返しに悩むぐらいだから、本人は未だ生徒との距離感を掴みかねているのじゃないですかねー。