セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-4
なぜかハリー達三人組が吾輩の部屋に来た。ハリーは新品の箒を、ロンは小さな豆フクロウの入った鳥かごをハーマイオニーは猫クルックシャンクス(やっぱり、名前長すぎないか?)を抱っこしている。三人組はともかく、持ち込んでいるものが奇妙だ。相談事があるとのこと。
何で吾輩のところに相談に来たのだ?原作乖離も甚だしい。
とはいえ、教員である以上、突っぱねるのも何か違う気がして部屋へ通し、ハウスエルフのメリーアンが茶の用意をした。相談がある割に口が重くなかなか話をし始めない。茶とお菓子で少しは心が落ち着いたのかハリーはぽつりぽつりと口を開いた。
「今、新聞(日刊預言者新聞やザ・クィブラー他のことを指しているのだろう)で色々と書いてあって。あれは、その、本当のことでしょうか?」
吾輩は言葉に詰まった。原作知識はあるがホグワーツに通っていない吾輩は、直に愚連隊のことを知らない。故にハリー達にもフラットに対応出来ているのだと思う。しかし、原作知識が原因で愚連隊を色眼鏡で見ていなかったとは言えない。特にシリウスに対して。精霊使いということで吾輩はよくブラック家を訪問していたが、意識的にか無意識的にかシリウスを避けていたところはあった。そもそも気が合わなかったのだが、それ以上に将来ホグワーツでこちらを虐めまくる相手と親しくなろうという意欲がわかなかったのだ。これで吾輩がホグワーツに通うのならば布石を打とうとも思ったかもしれないが、当時のホグワーツは精霊使いを受け入れていなかった。結局、婚約者レギュラスと仲良くなるという言い訳からシリウスとは当たり障りのない関係を築くにとどめていたのは―――多少なりと原作知識に振り回されていたようだ。
シリウスから見て吾輩はどう思われていたのだろう。はっきりとは分からないが、当初、幼いレギュの相手をする吾輩に悪感情はなかったようだ。活動的なシリウスは妹の相手をマメにする性質ではなかった。決して妹レギュを可愛がっていない訳ではないが、わんぱく過ぎたのだ。
妹レギュラスが吾輩を兄のように慕うのをあまり面白く思っていなかったのかもしれないが、だからといって態度を改めることはしなかった。やっぱり自分勝手な性格である。
そのうち反抗期からシリウスはヴァルブルガ様と対立するようになった。ヴァルブルガ様は魔法使いとしてハイスペックなシリウスに期待しすぎたのだと思う。淑女代表のヴァルブルガ様と名家出身なのにチンピラのようなシリウスはまさに水と油。相容れない者同士だった。そして、ヴァルブルガ様は次期プリンス家当主の吾輩とシリウスを比較してしまう。しかしながら、元々の精神年齢が高い吾輩と年のわりに子供思考のシリウスでは比較対象にならない。この点、シリウスは気の毒だった。とはいえ、ブラック家とプリンス家の家格差は大きい。吾輩がオリオン様やヴァルブルガ様に気を遣うのは当然だが、シリウスはそれを良い子ぶりやがって!!と非難する。
いや、吾輩にどうしろと?
そういう訳でシリウスがホグワーツに入学する前にはすっかり吾輩はシリウスに嫌われてしまった。シリウスは自由気ままに過ごしていながら、ブラック家の居場所を吾輩に取られたように思っているのは感じた。妹レギュラスに兄と慕われるのも、母ヴァルブルガ様に自慢に思われるのも、父オリオン様に頼りにされるのも―――そこは自分の居場所の筈だ、と。
だから、吾輩にどうしろと?
そして、シリウスがホグワーツに入ってブラック家に帰らなくなった。物理的距離は心理的距離となる。止めは愚連隊のやらかした数々の暴行・愚行だ。決してグリフィンドールに入ったことではない。
つらつらとそのことを思い出し、吾輩はどこまで話すべきかと悩む。シリウス本人とて全てをハリーに知られたくはあるまい。
「吾輩はホグワーツに通っておらぬ。当時、ホグワーツは精霊使いを受け入れていなかった。故にミスターポッターの父親には直接会ったこともない」
ついでにピーター・ペティグリューは奴が教授室で正体を現した時に初めて会った。くたびれたおっさんだった。長年の逃亡生活はペティグリューを年より10歳は老けさせていた。
「ルーピンやシリウス、ハグリットならば―――」
ルーピンは人狼発覚で行方知れず、シリウスはアズカバン脱獄かつ逃亡中、ハグリットはアズカバンだ。関係者が軒並み犯罪者か逃亡者ってどうなんだ?
「そう、マクゴナガル教授は?恩師だろう」
「忙しそうで捕まらなくて」とハーマイオニー。
逃げているのでは?と思うのは意地悪な見解だろうか。愚連隊のトップ2が名門ブラックとポッターだ。ホグワーツが例え独立裁量権を持っていたとしても忖度がなかったとは思えない。結果、下手な忖度がシリウスを勘当に追い込んだ気がする。きちんと職員が指導していれば、というのは今の吾輩が教員だからだろう。全ては今更だ。また、ポッターも卒業後にそれなりの制裁を受けている。
ポッター本家はジェームズ・ポッターに本家を継がせず分家にしたのだ。ホグワーツ時代、スリザリンを中心に各名門へ喧嘩売りまくっていたのだ。ポッター家がまともに名門と付き合う為にはジェームズを本家当主には出来なかったのだ。
さて、公明正大な当時を語れる者など思い至らない。新聞ではアンチ愚連隊の意見ばかりだろうし、バランスを取るためには愚連隊側の意見が。
「やはり、ルーピンか。フクロウで手紙を送れば届くだろう」
死んでいなければ、と心中で呟く。人狼だし、そこそこ優秀な魔法使いなので大丈夫な気がする。
「ところで、持参している箒と豆フクロウは?」
なんでそんなものを持って吾輩の部屋に来たのだ?箒ならばグラウンドだし、フクロウならばフクロウ小屋だろうに。ちらりとハリーとロンが目を合わせた。
「僕たちにシリウスがプレゼントしてくれたんです」
「シリウスはハリーの名付け親だから分からなくもないのですが、僕にまで豆フクロウを」
ああ、ハリーはシリウスが名付け親と知ってしまったか。ホグワーツを混乱させたアズカバン逃亡者が名付け親。実の父親グループ(名付け親含む)は新聞で叩かれまくり。心中察して余りある。
「ミスターポッターに対して何もしてこなかった故の罪滅ぼしだろう。気にせず受け取っておきたまえ」
本当にあの男(シリウス)は何もしてこなかったからな・・・。ハリーの養育費は全てポッター家が手配していた。この辺りも原作乖離している。あの猪突猛進なシリウスはペティグリューの始末が出来なくなって、ようやくハリーに思い至ったのじゃなかろうか。あいつはそういうところがある。
「僕の豆フクロウは?」とロン。
「間違いなく迷惑料と慰謝料だろう。シリウスからというのは気になるのかもしれないが、多分、おそらく、きっと悪意はあるまい」
シリウスの考えなんぞ吾輩はよく分からん。分かりたくもない。
吾輩は視線をハーマイオニーの膝で丸くなっている猫クルックシャンクスへ向けた。大人しく、ロンの豆フクロウには欠片も注意を払っていない。この豆フクロウは怪しくないようだ。
「その豆フクロウはよいペットになるであろう。大切にしたまえ」
「はい」
ロンは良い返事をした。
これで、ペットロスから是非に回復して欲しいものである。ロンやハリー達には、スキャバーズがペティグリューであったことは伏せられているので、ハリー達も純粋にロンのペットロスに対応しているようだ。真相を知ったらペットを飼うことに拒否感を抱きかねない。皆の心の平穏の為、自身の心の平穏の為、吾輩はこの秘密を墓場まで持っていこうと思う。
「吾輩もルーピンに手紙を送ろう。周囲は騒がしいかもしれぬが、あまり気に病まぬように。また、いつでも相談に来ると良い」
ほんの少し優しくしてしまうのはシリウスの矯正をしなかった罪悪感だろうか。
「「「ありがとうございます。プリンス先生」」」
2022/6/6
感想ありがとうございます。
『ザ・クィブラー』がもっとも公平でしょうが、『日刊預言者新聞』で叩かれまくっているので、セブルスは全体のバランスを取るためにリーマスに聞いたらと提案していますが―――真実を知らせるというよりはハリーの心情を配慮しただけですよね。
セブルスと比較されてしまったシリウスは正直、気の毒だなーとは思います。でも、比較していたのは本作品上ではヴァルブルガ様くらい。オリオン様はセブルスの微妙な立ち位置を考慮して、あれと比較してはいけないと思っていただろうし、レギュは実兄と婚約者を比較はしないでしょう。実兄の出来の悪さには頭が痛かったかもしれませんが。
シリウスはそのままの自分を受け入れてもらいたかったのかもしれませんが、周囲に少しも寄せようとはしなかったところが子供思考っぽいなーとは思います。また、名家には一人二人、魅力的だけれど碌に仕事をしないごく潰しみたいなタイプがいて、シリウスがそれに該当するのでは。次男三男ならば良かったでしょうが、長男が故の悲劇。しかも、なまじ能力値が高い魔法使いなので・・・。原作を読んでいても、貴族っぽい思考に難ありな気がするのですよね、この人。
セブルスがロックハートと比較して、人望を得たとしたら。人望を得たことには喜んでも(このセブルスは褒められるのが好きなタイプなので)、ロックハートとの比較には微妙な顔をしそうです。アレと比較されてマシとか言われても・・・なんて。