セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-1
毎年毎年、少なくとも吾輩が精霊学教授になって以降、何かしらの問題が起こるホグワーツだが、今年は三大魔法学校対抗試合が行われる。はっきり言って、本当にやるのか!?と問い詰めたいところだが、このイベントは魔法省が旗振りしている。つまりお役所仕事なので中止決定など出来ないのだろう。例え、クィディッチ・ワールドカップの決勝において、ヴォルデモート卿を連想させる闇の印が空に打ち上げられたとしても、だ。
今年は常より早めにホグワーツへ戻ることになった。三大魔法学校対抗試合の準備の為だ。今年、吾輩がやろうとしているのは一つだけ―――ハリーを参加させないことだ。もともと、年齢というハードルがあるのでそんなに難しい話ではない。
しかし、ヴォルデモート陣営はまだ残っていたのか、と半ばあきれる。分霊箱は黒の日記をベースとして全て統合され、トム・レストレンジとして第二の人生を歩んでいる。しかも、狂信者レストレンジ夫婦の養子として、だ。だから、名家の元闇派は皆、トム・レストレンジ(今は精霊使い)に付き従っている。つまり、残党がまだ居たの?という感じなのだ。
それに、ペティグリューは魔法省に拘束されている。ネズミの動物もどきとバレているのでアズカバンに入れても脱獄されると思われているのだ。また、ペティグリュー本人が安全なのはここだけと思い切って魔法省に居座っている。ちなみにシリウスは未だ逃亡中である。故に現在のシリウスは犯罪者?(裁判で冤罪を証明出来ていないので暫定犯罪者)かつ逃亡者なのだ。流石の駄犬も魔法省突撃はやらかさないので事態は膠着状態だ。また、ルーピンはホグワーツを首になってからの消息が知れていない。しれっとシリウスの助力をしていたところで吾輩は驚かん。シリウスは冤罪を証明できない限り、表を歩けまい。ホグワーツに迷惑をかけなければ、駄犬が何をしようが構いはしない。迷惑さえかけなければ。
ホグワーツが開校され、今年は何の問題もなく生徒がホグワーツに到着した、しみじみ安心した。そして安心していることに驚いた。そうそう、問題が発生してはたまったものではない。
今年の闇に対する防衛術の教授はマッドアイ・ムーディ、外見も内面も凄まじく個性的な元・闇祓いであり校長と懇意にしている。去年のルーピンにしろ、今年のムーディにしろ、校長は防衛術の教授に自分のシンパを採用していないか?一昨年のロックハートはどうか分からないが、校長の指名だったな、確か。とはいえ、マッドアイ・ムーディの中身はクラウチ・ジュニアだったんだよな。どうしよう、校長の採用枠はことごとく外しているのだが。故に来年はどーしよーもないアンブリッジが教授になる訳で。毎回、校長指名教授がやらかしていれば、魔法省も重い腰を上げるよな。それで選ばれたのがアンブリッジというのがアレだけれど。闇祓い派遣しておけよ、魔法省もそんなポンコツ人事やるからホグワーツ人事にまた口出しできなくなるんだ。
でも、今年の防衛術の授業は真面だった筈だ。中身クラウチ・ジュニアには学期末まで仕事をしてもらった方が良さそうだ。いい加減、この科目の座学を受け持たされることに辟易していた吾輩はクラウチ・ジュニアについては口をつぐんでおくことにした。
マッドアイ・ムーディの登場は劇的だった。食堂に雷鳴をバックにしての登場である。ロックハートとは別ベクトルの目立ちたがり屋なのだろうか?と思った。その後、会話した限りでは真面なので少しホッとしたのだが。これだけ個性の塊だと逆に演じやすいのかもしれない。
儀式めいた中で炎のゴブレットが挑戦者の名前を吐き出す。ビクトール・クラム、フラー・デラクール、セドリック・ディゴリーまでは原作通りだ。そして、番狂わせの最後の一枚は―――バーテミウス・クラウチだった。
一同がしんと静まり返った。
ガタン!!
ハイテーブルに座っていたクラウチ氏が真っ青な顔で立ち上がった為、椅子を引っくり返した音だった。クラウチ氏は魔法省の代表として立ち会っていたのだ。随伴のパーシー・ウィーズリーが心配げにクラウチ氏を見上げている。
「わ、私ではない!!私がそんなことをする筈がないだろう」
皆も『それはそーだろーなー』と思う。例えるならば、オリンピック委員会役員がオリンピックの参加を表明したようなものだ。年齢的にも無理だろう。
「なにかの間違いですかね」
「そうでしょうな」
「本人、あんなにパニックに陥っているし」
ハイテーブルのホグワーツ教師陣が口々に言う。吾輩も何でこんなことに、と首を傾げるばかりだ。吾輩が精霊に頼んだのは参加用紙には入れた本人の名前が明記されるようにしただけだ。そこで思い出した。クラウチ・ジュニアは父親と同じ名前だったことに。ジュニアまで明記されていれば、こんな間違いもなかったろうが世間様ではクラウチ・ジュニアは死んでいる筈で、どちらにせよクラウチ氏は詰んでいるのだよな、と思い至った。
結局、緊急会議を開くことになり、場は解散となる。生徒たちにしてみれば、盛り上がりに水を差された気分だろうが、実行委員会側のこちらとしてはトラブル対策で大騒ぎだ。
原作ではダームストラング専門学校カルカロフ校長がうちの学校からもう一人選出させろとか、ボーバトン魔法アカデミーのマクシーム校長が不正は如何なものかと非難するところだが―――流石に口をつぐんでいる。それどころか、いや、これどうするよ、という雰囲気だ。
「魔法契約は契約だし」
とダンブルドア校長が言い出したが、一同の『正気かよ!?』の視線に口を閉ざした。
「棄権して頂くのが一番ではないでしょうか?棄権ならば一応、参加している形にはなります。そもそも、本人も参加希望という訳ではないですし」
吾輩が意見を述べ、クラウチ氏を見やれば勢いよく首を縦に振る。ちなみにクラウチ氏もこの会議に参加して貰っている。当事者なので当然か。
こっそりとクラウチ氏は胃の辺りをさすっている。クィディッチ・ワールドカップでの闇の印打ち上げ騒ぎ(しかも容疑者は彼所有のハウスエルフ)、息子の失踪(発覚したら政治生命が死ぬ)、止めに炎のゴブレットから自分の(と思われているが実は息子の)名前が出てきたのだ。心臓にガタが来てしまうのではないだろうか。
「それにしても、なぜクラウチ氏の名前が?」
「私は知らん!!」
クラウチ氏が強く否定する。強く否定しすぎて、いっそ怪しいくらいと思うのは吾輩だけではなかったようだ。クラウチ氏は自分に向けられる視線の冷ややかさに口を閉ざした。会議はすっかりしらけ切った空気となる。結局、そのまま会議は終了した。
数日後、クラウチ氏は聖マンゴ病院に入院した。仕事中毒のクラウチ氏でなければ、政治家が非難躱しの為の入院かと疑うところだけれど、会議中の様子から本当に身体を壊したのだと吾輩は思う。クラウチ氏にとってはその方が幸せだろう。なお、急なことで碌な引き継ぎも出来なかったらしくパーシー・ウィーズリーが走り回っている。気の毒だが、こちらに出来ることは何もない。三大魔法学校対抗試合は既に始まっており、今更、執行委員の一人が入院してもさしたる変化はなかったのである。逆にその程度のトラブルでここまで大規模なイベントが中止になる方が恐ろしい。
ホグワーツ城では、この三大魔法学校対抗試合に生徒たちは浮足立って、また、盛り上がっている。授業に対する集中力が欠けていると教員会議において教授陣が零していた。今年の吾輩は精霊学のみ担当している。今のところ、マッドアイ・ムーディはまっとうに授業をしているので座学に駆り出されることはないが、何をしでかすか分からない不安は残っていた。なにせ、炎のゴブレットへの仕込みは吾輩が妨害したが、それで全く諦めるとは思えないからだ。