セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-1
6年度が終わってすぐ、ハリー・ポッターが失踪というニュースがマグル側顧問弁護士からもたらされ、ポッター失踪の翌日には吾輩とマグル側顧問弁護士ブラウン氏とダーズリー宅の前に佇んでいた。吾輩はひとつ、溜息を零す。
「ミスター・ブラウン。今更だが、吾輩の格好はこちらで浮いていないかね?正直、取るものとりあえず来たので、こちらの流行まで気を使えなかったのだよ」
ブラウン氏はサッと視線を吾輩の頭から足先まで流して小さく頷いた。
「問題ありません。女性に比較して男性の流行はそう変わるものではありませんし、逆に流行に左右されない服装の方が無難かと」
「そうか。ならば行くとするか」
とはいえ、吾輩の足は進まない。全くもって気が重いといったらない。ダーズリー家を訪れる折はいつもそうなのだ。しかも原因はいつも他人のせいで。
何で吾輩がいつもいつも貧乏くじを引く羽目に。とはいえ、吾輩が出張らないと名付け親シリウスが出てくるのだろうし、奴が魔法使い嫌いのダーズリー夫婦と上手くやれるビジョンは描けないし、つまり吾輩が動くのが最善手なのだ。
玄関先で立ち止まる吾輩に気を使ったのかブラウン氏が口を開いた。
「二人でこの家の玄関に立っていると昔を思い出しますね」
「ああ、あの時はポッター分家の皆さんに頼まれたのだよな」
魔法界で例のあの人が消えて英雄ハリー・ポッターが誕生した時―――校長がダーズリー家にハリーを一方的に押し付けた件ーーーの後始末にポッター分家の皆とその代理人の吾輩は奔走したのだ。養育費も碌な説明もなしで甥を養育しろ、とはあんまりである。魔法使いは近づけないというので精霊使いの吾輩、実は家族に魔法使いのいるマグルの弁護士ブラウン氏、同じく親戚に魔法族のナニーを連れて事情説明と養育費の取り決めをしたのだった。
ここに突っ立っていても仕方ないと、しぶしぶ吾輩はドアベルを鳴らしたのだった。
夏休みとはいえ平日の為、ダーズリー家にはハリーのおばペチュニアだけであった。酷くショックを受けている様子で、ハリー失踪が堪えているのは明らかである。
「久方ぶりだ。ミセス・ダーズリー、ハリーが家出したとか?」
と吾輩が尋ねると、ペチュニアは手紙を差し出した。ハリーの手であるのは、その筆跡で分かる。
『ダーズリー家の皆さんへ』という文章から始まる手紙は今まで育ててくれた礼と、しなければならないことがあるので出かける、ということがシンプルに綴られていた。とはいえ、はっきりしたことは何も書かれていない。十分にその点に気を使っていた。
「何だか、もう会えないと決めつけているようで・・・」
ペチュニアはこの文面に不安を感じて、顧問弁護士ブラウン氏へ連絡したそうだ。流石、勘が良い。ペチュニアは勘と察しが良いからこそ、空気読めないタイプの多いグリフィンドールと相性が悪いのだよな。
ハリーの手紙を一読して、うっすらともう戻ってこれないことを覚悟しているのは伝わる。何でこんな覚悟を決めてしまったのか・・・吾輩は思わず顔をしかめてしまう。校長の課外授業のせいだと思うと、未だ聖マンゴで治療中の校長に恨みの一つもぶつけたくなった。
「ミセス・ダーズリー。即急な連絡をありがとう。ミスター・ポッターがなぜこのような覚悟というか決心をしたのか吾輩には分からぬが―――魔法界は決して未成年の学生にそのような使命を強いたりはしない。魔法界のミスター・ポッターの知人や友人に連絡をして、彼を保護しよう」
ほっとペチュニアは安堵の溜息を零した。ペチュニアには魔法界への伝手が少なく、ただただ心配するしかなかったのだ。
「ええ、よろしくお願いいたします。ミスター・プリンス」
「心配しないで待っていて欲しい。何かわかり次第に逐次報告を入れよう。ブラウン氏、お願いできるかね?」
「承りました。では、ミセス・ダーズリー、私から連絡を入れます」
ダーズリー宅を辞した吾輩たちは一度、ブラウン氏の弁護士事務所へ場所を移動して相談することになった。実のところ、どのように動くべきであるか、である。ブラウン氏は元々が吾輩の顧問弁護士ではなく、ポッター家の弁護士でありポッター家の利益方向に動くことになるのは当然である。事務所の応接室のソファーに腰かけた途端にブラウン氏は口を開いた。
「ハリーの行き先に検討はつきますか?」
「全く分からん。まず友人関係を押さえよう。ミスター・ポッター単独で動くとは思えんな。マグル育ちで魔法界に疎いところがあると思われる。まず、ブレインになり得るハーマイオニー・グレンジャー嬢。彼女はマグル生まれのマグル育ち。ある意味でハリー同様に、いやそれ以上に魔法界に伝手がない」
マグル育ちの交流関係はホグワーツしかない。ある意味でホグワーツ生は隔離されているとも言える。
「ミス・グレンジャーは夏休みで実家にいるだろう。ホグワーツ教師として吾輩が直接、彼女にあって事情を話す。場合によっては、ミス・グレンジャーにミスター・ポッターを説得してもらおう。吾輩よりも友人の言葉の方が心に響くだろう。もう一人、ロン・ウィーズリーだが、そちらはマクゴナガル教授にお願いした。あそこは、な」
ブラウン氏はうんざり顔で頷いた。ロン・ウィーズリーの両親アーサーとモリーが熱心なダンブルドア賛同者なのは有名である。ブラウン氏は吾輩から、ハリー失踪の原因はダンブルドアの意向ではという疑いを既に話していたので、アーサー・モリー夫婦と息子ロンがどのような暴走をするのか、グリフィンドール気質を知るブラウン氏は心配していた。
ところで、吾輩はダーズリー家訪問前にホグワーツ教授陣へハリー失踪と捜索依頼を出している。マクゴナガル教授の慌てっぷりからとうにウィーズリー宅へ向かっていることだろう。下手に精霊使いの吾輩が行くよりは、同じダンブルドアシンパのマクゴナガル教授の方がアーサー・モリー夫婦も大人しく話を聞いてくれるだろう。気がかりなのは、マクゴナガル教授が言いくるめられないか、であるが。
「懸念事項はシリウス・グレイが名付け親として口出ししてくることです。義務を果たさず権利ばかり主張する者が名付け親とはなんと嘆かわしい」
「未だに養育費をダーズリー家に支払っていないのか?」
「ええ、いいところの坊ちゃんはマグルが魔法使いを育てる苦労なんぞ想像も出来んのでしょう」
家族に魔法使いの産まれた、いわばペチュニアと同じ立場のブラウン氏はどうしてもペチュニア側の心情の方に理解が深いのである。結果、シリウスには点が辛い。名門出身の吾輩でもフォローの言葉が見つからない。ポッター家の意向もあるだろうが、ハリーとシリウスの接触を嫌っているのは確かだ。特にこの状況でハリーがシリウスを頼ったら相当に面倒なことになるだろう。シリウスならば率先してハリーの暴走に助力しそうだ。そういう訳で、一刻も早くハリーを保護せねばならない。吾輩はブラウン氏と手配を詰めてから別れた。
吾輩はこれからハーマイオニーの自宅へ向かうことにした。吾輩はハーマイオニー宅へ行ったが、これは空振りであった。ハーマイオニーはハリーから手紙すら貰っておらず、吾輩のハリー失踪の知らせに相当、驚いていた。その表情に嘘も隠し事もないようだ。
その時、吾輩のハウスエルフ・メリーアンが現れた。
「セブルス様、お知らせいたします。至急のことであります」
吾輩とハーマイオニーは一瞬、顔を見合わせた。
「何があったのかね?」
「ハリー・ポッターが見つかりました。ロン・ウィーズリー宅にいます」
「良かった」
思わずという風にハーマイオニーは安堵の声を上げた。
安堵したのは吾輩もである。大事になる前にハリーを保護できたようだ。大事にならない、よな?ダンブルドアシンパのウィーズリー宅である。ハリーの使命?を支えかねないところが不安だ。
「プリンス先生、私をかくれ穴(ロンの家)へ連れて行って下さい」
ハーマイオニーの申し出に吾輩は渋面を返した。
ダンブルドアシンパの本拠地にグリフィンドール気質が強いハリーのブレインを突入とか冗談ではない。そもそもハーマイオニーは勘違いをしている。吾輩は現場に行くつもりはない。拒否の意が伝わったのだろう、非難を載せた声をハーマイオニーは上げる。
「なぜ!?」
「既に寮監マクゴナガル教授が行っているからだ。それに吾輩は精霊使いなので姿現しは使えぬ」
「・・・・・・そうでした。すみません」
その後のことは―――吾輩は報告を受けるのみで問題は解決したそうだ。
そもそも、ハリーが失踪したのはダンブルドアの意志を継いであの人の分霊箱を回収する為だったらしい。しかし、この分霊箱だが、校長が呪いによって聖マンゴへ緊急搬送された際のハリーの説明により、既に闇祓いが特別チームを組んで回収していたそうだ。しかもハリー失踪前に。その旨をニンファドーラから伝えられて、ついでに分霊箱は無効化されていることも合わせて伝えられて―――ハリーが失踪してまで動く必要はなくなったのである。
そして、ブラウン氏がハリーにいかにペチュニアが心配しているのか、今年が最後の夏休みであるとブラウン氏に説得され、ハリーは大人しくダーズリー家に戻ったそうだ。原作と違って養育費は支払われているので虐待までは受けていないハリーは、それでも叔母からの愛情を素直に表現はされていなかったらしい。今回の件で、少しわだかまりが解けたとか、解けなかったとか。
ブラウン氏がここまでペチュニア寄りなのは、ハリーとシリウスの接触を減らす為だけかもしれないが―――部外者の吾輩は特に何もする気はない。シリウスには悪いが、未成年に対してシリウスが良い影響を与えるとは逆立ちしても思えぬからだ。一教師としての意見に過ぎないが。
ともかく、新学期に皆が元気な顔を見せてくれることを願っておこう。