セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-6
吾輩はルーナと共に校長室を訪れた。本当はルーナを伴いたくはないが、校長の肖像画に尋ねてみるというアイデアを出したルーナが留守番に納得する訳がない。説得するのも面倒だし、ルーナの身になってみれば気持ちは分かるので同行を許可した。
ある意味で吾輩よりルーナの方が原作知識を持っているのだから、この件の好奇心は吾輩以上だろうとも。
校長室の前で合言葉を告げる。
「フェリックス・フェリシス(幸運の液体)」
ハウスエルフのメリーアンを先触れに出して現校長スラグホーンに面会の約束を取り付けている。その際に合言葉を教えてもらった。原作ダンブルドア校長の合言葉はお菓子の名前だったように思うので、今の合言葉を思うと校長の好みが出ていて面白い。フェリックス・フェリシス(幸運の液体)か。吾輩も調合しておくべきだったかもしれない。毎年、何かしら起こるのでついつい忘れてしまったけれどフェリックス・フェリシス(幸運の液体)が必要な人間は多かったのだ。
ハリーとかハリーとかハリーとか。
でも、あの薬は調合するのに半年くらい必要じゃなかったか、調合自体も複雑だし。
校長室に入って、吾輩はそれとなく、ルーナは興味津々で部屋を見渡す。原作と違って、吾輩はダンブルドア校長と親しくはなかったので校長室に入るのは初だ。
ダンブルドア校長にしてみれば、吾輩は理事会推薦の貴族代表(時々、忘れそうになるがプリンス家当主でブラック家の後見を受けている)なので、敵対勢力と思われていたのかもしれない。例えるなら、魔法省がごり押ししてきたアンブリッジ教授みたいに。あれと一緒扱いされていたと思うと腹立つけれど、役に立つと思われて駒扱いされるよりはマシか。
部屋は模様替えされているようでスラグホーンの私室を連想させるが、歴代校長の肖像画群が異彩を放っている。ところで、校長室にいた不死鳥はダンブルドア校長死亡後、いつの間にかいなくなってしまった。まるで主を失ったペットみたいだと思ったのは吾輩だけではなかったようだ。
日刊預言者新聞でそのような記事がセンチメンタルに記載されていたのだから。とはいえ、あの新聞はゴシップ紙と大差ないから信ぴょう性については疑わしい限りだが。
「セブルス、ルーナ、ようこそ。校長室は面白いかね?」
スラグホーンが楽しそうに声をかけた。観察していたのがバレたか。
「これは失礼したスラグホーン校長。メリーアンに言づけた件、引き受けてくださって感謝する」
「いやいや、構わんさ。あちらがダンブルドア校長の肖像画だ」
スラグホーンが歴代校長の一番はじっこの肖像画を指し示した。肖像画内の校長たちはこちらに関心を向ける者はあまりいない。半分くらいは不在だし、ちらりと視線をこちらに向けた者もいたがそれだけだ、あと居眠りしている者もいる。勝手気ままなものだ。どういう仕組みかは分からないが、肖像画になってまで校長らしさを強いられるとは気の毒な気がする。
吾輩は肖像画作成は断ろうと強く思う。ホグワーツの方は肖像画の可能性がないと言えるが、プリンス家の方は分かったものじゃない。
さて、ダンブルドア校長の肖像画はこちらに気付いているのかいないのか、ぐうぐうい眠りしている。スラグホーンは肩をすくめた。
「魔法省が何度も来て話を聞いたのだが、まあ、その上手くいかなかったようでね。だから、セブルスもあまり期待しない方が良いのでは、と一応は伝えておくよ」
ダンブルドア校長が素直に喋る性質でないことは確かだ。政治家というか弁護士というか上げ足取られないように慎重なのだろう。つくづく厄介だ。それでは、シリウスの方がマシかというと、アレはアレで感情的過ぎて話にならない気がする。
「随分と立派な肖像画ですね」
ルーナが感嘆の声を上げた。
亡くなって三か月も経っていないのだから、ルーナの意見ももっともだ。
「この肖像画はダンブルドア校長が生前、自身で用意したものだ」とスラグホーン。
死ぬ前に自分の墓を建てるみたいだ、と吾輩は思ってしまう。例えるならば死ぬ前に自分で遺影を用意する感覚だろうか。
「普通、自分で用意するものですか?」
「いや、そんなことはない・・・・・・が、ダンブルドア校長は色々と覚悟をしていたのだろう」
ルーナの疑問にスラグホーンが答えた。やはり、肖像画(校長室用)を生前に用意しておくのは珍しいことのようだ。
「ピラミッドも生前に建造していましたしね」
そうでもしないと死んだときに間に合わないだろう。若くして急死したツタンカーメンはピラミッドが間に合わず、配下のピラミッドを回したとか。あれは単なる創作だったかな。ツタンカーメンの急死自体は史実の筈だが、ピラミッドが墓というのは現在の研究においては疑問視されているし。
思考が横滑りしている。
「どっちにしろ縁起が悪そうだな。縁起を担いで遺言書を書かない人もいる位なのに」
「そりゃ、残された者が困りはしないかね、セブルス」
「困るでしょうな。でも縁起を担ぐ気持ちも分からなくもありませんし」
仮に吾輩が今、死んだところで遺言書はないが、配偶者に全て遺贈されるから問題ないけどな。
「もっとも遺言書があったとしても、揉める時は揉めるがね」
やれやれとスラグホーンが溜息を吐いた。
「何か揉めたのですか?スラグホーン校長」とルーナ。
一瞬、躊躇したが、スラグホーンが続ける。
「ダンブルドア校長がハリー達に遺品を残してね。そのこと自体は問題ないが、残そうとしたものが・・・・・・」
「差し支えなければ、何を指定されたのですかな?」と吾輩。
「グリフィンドールの剣だ」
吾輩は眉をひそめた。グリフィンドールの剣はホグワーツの至宝だ。校長とはいえ、ホグワーツの至宝を自由にする権利はない。しかし、校長職が長くなり、自分のモノと学校のモノの区別が付かなくなってしまったのかもしれない。政治家にはよくある話であり、ダンブルドア校長だけが特別という訳ではない。問題大ありだけどな。
「それで魔法省が肖像画に事情聴取をした、と」
結果、ダンブルドア校長がのらりくらりと躱していたわけか。そりゃ、ダンブルドア校長が認めるわけがない。
「ついでに校長室からごろごろ行方不明品が出てきてね。引っ越し前に魔法省の調査が入ったよ。いや、逆にお願いした。後で見つかったら、より面倒なことになっただろうよ」
スラグホーンが苦笑を浮かべる。
魔法省のガサ入れ、もとい調査の後に校長室へ引っ越ししたそうだ。スラグホーンは人脈豊富なので、ダンブルドア校長のやらかしを知っている(予想している)何者かから忠告されたのだろう。
なお、それらの品々は魔法省経由で持ち主に返却されたそうだ。めでたし、めでたし。
こうなると、ダンブルドア校長の肖像画と話をしても上手くいくとは思えないな。
「帰るか」
「見切りが早い」とスラグホーン。
「待って、待って、センセ。諦めないで」
ルーナが焦ってぐいぐいと吾輩のローブを引っ張る。うんざりと吾輩はルーナを見下ろした。ルーナは何かと人のローブを引っ張る癖があるのではなかろうか。
「無駄足だろう」
「試してみましょう。やってみなきゃわかりません」
「やらなくても分かる気がする」
「挑戦してみないと結果は出ません」
ルーナはしっかと吾輩のローブを握りしめる。これ、校長の肖像画に話しかけるまで離さない感じだ。
どうして吾輩の周りはこう強引な人間が多いのだろうか。吾輩が謙虚だから相対的に周囲が強引に思えるのか。なんて、流石にそこまで烏滸がましいことは言わないが、誰か強引な者がいないと話が進まないからだろう。仕方ない。
「聞きたいことが聞けなくても仕方ないとしよう」
吾輩はしぶしぶダンブルドア校長の肖像画の前に立つ。
ゆっくりと肖像画のダンブルドア校長が瞳を開いた。狸寝入りしていたのだろう、タイミングが良すぎる。
「おや、セブルス。珍しいお客さんだ」
ファーストネーム呼びされる程、ダンブルドア校長と親しい記憶はこちらにはないのだが。向こうの認識はどうなっているのだろう。勝手に解釈している可能性も大だ。
しかし、この狸じじいと会話を駆使して知りたい情報を得るとか―――原作セブルスならともかく、吾輩にはちょっと、いやだいぶ無理だ。もう素直に聞く。
「ダンブルドア校長、なぜあの時期に不死鳥の騎士団を再結成し活動を始めたのですかな?」
「―――どういう意味かね、セブルス?」
「言葉通りの意味の質問です。何か理由があったのでは?例えば予知とか」
ギュッ
心臓を鷲掴みにされたような痛みに吾輩は胸を押さえダンブルドア校長から視線を逸らしてしまう。
それは、一瞬。
敵から視線を逸らしてどうする!?己を叱咤し、胸を押さえたまま、校長を睨みつける。
肖像画のダンブルドア校長は見たことのない激昂の表情でこちらを睨みつけていた。それは今までダンブルドア校長が一度も見せなかった感情をあらわにした表情だった。