セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-4
賢者の石を狙うクィレルは、しかし、今のところ全く進展がないと思われる。おそらく、クィレルが焦っているのは予想がつくので、この辺りでこちらから一手を打たせて貰おう。わざわざ待ちの姿勢で対応することもあるまい。
自室に戻って、ハウスエルフのメリーアンを呼んだ。
メリーアンは吾輩個人所有のハウスエルフだ。何と言っても精霊使いは魔法使いと異なって日常魔法と分類されるものが一切使えないので個人所有のハウスエルフを持つ者は少なくないのだ。
一応、吾輩はプリンス家当主でもあるし。
「セブルス様はメリーアンをお呼びになりました」
「うむ、実はメリーアンに手紙を届けてほしくて呼んだ。内密の手紙だ。必ず本人に渡し、返事を貰ってくるように。返事は口頭でも手紙でも構わん」
「メリーアンは手紙をお預かりいたします」
メリーアンは丁重に手紙を受取、バチンと姿くらましを行った。一般的なフクロウ便は機密性に不安があるので、内密の手紙はメリーアンに頼むことが多い。
直にメリーアンが戻ってきて、口頭での返事―――了解した―――を伝えた。絶対ではなくても、あてには出来る。彼の能力には信頼がおけるので。
ホグワーツの図書館、その素晴らしい蔵書に吾輩は満足していた。しかも教職員なので禁書棚もフリーパスである。その為、ちょいちょい図書館を利用している。吾輩としてはそう頻繁に図書館へ通っていたつもりはなかったのだが、気付いたら司書マダム・ピンスは吾輩を馴染み客と思い込んでいる節がある。年一度の蔵書購入日には是非、ダイアゴン横丁の書店に付き合って欲しいと言われている。別に吾輩は本の目利きという訳でもないが渡りに船なので、こちらこそ参加させて頂きたいと返答した。話がズレた。吾輩がいつもの習慣で図書館へ行ったら、貸出カウンターに森番ハグリッドが貸出手続きをしているのを見かけた。その本のタイトルが『ドラゴンの飼育法』というのだからーーーハグリッドはドラゴンの卵を手に入れたか、と察した。ハグリッドは大変ご機嫌である。吾輩としては、予防策を張ったつもりだったが上手くいかなかったか。もともと、ドラゴンの卵を正規ルートで入手することは、個人的にはまず不可能なのだから非正規ルートなのは間違いない。蛇の道は蛇とも言うしな。吾輩はまたメリーアンに手紙を届けさせることにした。
今度は、メリーアンへの返事は手紙であった。吾輩は自室でそれを読み、眉をひそめた。前世知識はあっても、それを裏付けるものがないというのは他人を説得させ難い。返事をテーブルに置き、コツコツと指でテーブルを叩く。あまり、吾輩としては目立つ行動は取りたくないし、吾輩の力は隠密行動に向いていない。風の精霊ならば、情報収集に特化しているが、吾輩の水の精霊は常に力押しだ。苛々している吾輩を気遣ってか、メリーアンが言う。
「セブルス様、メリーアンがおいしいお茶を淹れてさしあげます」
お茶の気分ではないが、断るのも悪い気がしたので「好きにしたまえ」と返した。
メリーアンが嬉々としてお茶の支度をする、その時だった。せわしないノックの音に一瞬、吾輩たちは目を合わせる。
「どうぞ入りなさい」
吾輩の許可に、慌てた様子でドラコ・マルフォイが入ってきた。
「セブルスおじさん、大変です!!」
ネビルもそうだが、ドラコも幼少のころから交流があるし、マルフォイとは遠い親戚関係でもある。故に『セブルスおじさん』呼びもホグワーツ入学前はそれが常だったので仕方ない。まして、ドラコはネビルとは異なって、精霊学を受講していないので教授としての吾輩とは全く接点がない。自室であれば、『セブルスおじさん』呼びでも構わないか。
「ドラコ、そちらに座りなさい。メリーアン、お茶とお菓子の用意を頼む」
「メリーアンはドラコお坊ちゃまにおいしいお茶とお菓子を差し上げます」
メリーアンは親戚筋のドラコがお気に入りなのか、唯一のお坊ちゃま呼びなのだが、ドラコがそれを喜んでいるかは不明だ。どこかで修正してやるべきだろうか。
「ひとまず、お茶を飲んで落ち着いてから話すように。それくらいの時間はある筈だ」
吾輩の言葉に従って、ドラコは一口、紅茶を味わった。深呼吸してから口を開いた。
「あの森番が小屋でドラゴンを育てています!!」
「やはりな」
ドラコは目を丸くした。
隣でメリーアンがお菓子をサーブしている。メリーアンも大概マイペースだ。
「ご存知でしたか」
「事前に手を打っていたのだが、上手くいかなかった。しかし、ここまでは予想の範疇。後手にはなるが正規に片を付けよう」
「セブルスおじさんが始末するのですね」
安堵したような嬉しそうなドラコに吾輩は首を振った。なぜ?と不思議がるドラコに吾輩は薄く笑った。
「ホグワーツ教授が違法ブリーダーを逮捕する義務も権利もない。義務と権利を持ち合わせた者に正規の手段で正規の罪に問うて貰おう。既に手配済みだ。ドラコ、この件から手を引くように。面倒に巻き込まれる可能性がある」
「はい、分かりました」
正規の手段、正規の罪―――に予想がついたのかドラコは納得してくれたようだ。
それから三日後。魔法省の抜き打ち調査でハグリッドの小屋―――その外からもドラゴン飼育状況が分かった為、ハグリッドは現行犯逮捕。ドラゴンは保護されたらしい。
らしいというのは―――吾輩が実際に現場を見た訳ではないからである。吾輩がやったのは、魔法省の風の精霊使いに情報を流しただけだ。元から、ハグリッドは危険な魔法生物を飼育することに興味津々で闇ブローカーとも関わりがあったし、いつかやらかして検挙されるのではと噂されていたようだ。そういう意味では、とっくに魔法省から危険人物もしくは犯罪予備軍としてマークされていたらしい。道理で逮捕までがスムーズだった訳だ。
なお、本件はハグリッドが違法にドラゴンを飼育していたことも罪状としてカウントされているが、それ以上に違法にドラゴンの卵を入手した件にウエイトが置かれている。そこを足がかりに闇ルートの解明を目的としているのだ。魔法省側としてもハグリッドが知っているとは全く思っていないが、一種の見せしめもあるのだろう。日刊予言者新聞に大きく取り上げられている。結果、ホグワーツの安全管理はどうなっているのか、と保護者から校長あてに非難が殺到していた。普通に考えて当然である。学校の隣にドラゴン飼育とか恐怖でしかない。また、ハグリッドがドラゴンを飼育していた事を知っていた生徒がいないか調査され―――というか、ハグリッドが取り調べてうっかり話してしまいーーーハリーたちはマクゴナガル教授同伴で魔法省の役人から話を聞かれることになった。他人事ながら酷いとばっちりである。役人は人当たりの良い子供受けしそうな者が対応し、あくまでハグリッドの証言の裏付けという流れであった。きちんとハグリッドの裏付けが取れて役人はハリーたちを巻き込まれた被害者と認識し、報告した。その点ではマクゴナガル教授は安心もしたが、ハリーたちを叱り飛ばすことも忘れず、役人が宥める一幕もあったとか。
吾輩としては、ハグリッド逮捕はおまけで本命はクィレルだがそう上手くいかなかった。ハグリッドにドラゴンの卵を渡したのはクィレルと思ったがーーー何も直接、クィレルが動く必要もない―――とはいえ、今、闇の帝王の手先はそう多くはないからクィレルを釣れるかと思っていた。
それ程、期待はしていなかった。そう強がって吾輩は次の一手に思いをはせたのだった。