セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-5
クリスマス休暇、吾輩は家に帰った。クリスマスは日本ではともかくイギリスでは家族と過ごすものである。一応、吾輩はプリンス家の当主なので、名門のパーティーに参加する必要もあるのだ。これは、あまり得意な分野ではないが仕方ない。
そういう訳で、吾輩は原作と異なり、クリスマス休暇にはホグワーツを不在にしていた。とはいえ、今の吾輩はどこの寮の寮監という訳でもないのでホグワーツに居る必要もない。
クリスマス休暇が終わり、イベントが多くて休暇が短く感じられた、吾輩はホグワーツに戻った。休暇前のホグワーツの日常は変わらなかった。強いて言えば、森番ハグリッドがドラゴン飼育の件で短期アズカバン送りになっていたが、吾輩としては些細なことである。あの件で本命のクィレルをしょっ引けなかったことは残念であったが。
しんしんと雪が降り、冷えるホグワーツ城―――しかも就寝時間に吾輩は見回り当番で城内を歩いていた。生徒というのはルールを破るというだけでスリルを感じる、何ともお手軽な思考をしている。吾輩ならば、こんな寒い中、暗い城内をうろつくことに面白味など全く感じないけれど。それでも、夜の見回りは教職員の当番制なので仕方ない。一年に一度くらい迷子の新入生を回収したりするが、それとて入学三か月前後といったところだ。この時期に迷子になる者はあまりいない。全く否定はしないが。
だが、今夜、その人影を見かけた折に、その子供が迷子とは思えなかった。頭からマントを被った小柄な姿は―――そのマントが妙に闇に沈んでいるように見えた―――目的地がはっきりしたような足取りで進んでいる。今、捕まえて詰問するよりは目的地まで案内してもらった方が良いと判断して、吾輩はそっと後を付けた。
するり、と子供はある部屋に入った。空き教室、一応はそれを確認し吾輩も入った。大きな姿見の前に子供は座り込んで食い入るように鏡を見つめている。子供はハリー・ポッターだった。
カツン
ワザと足音を立てて、ハリーへ近づいた。音に驚いてハリーが振り返り、吾輩を見て目を丸くしている。減点を告げるべきか、罰則を言い渡すべきか。そもそも、この大きな姿見は本当に吾輩の知る『みぞの鏡』だろうか?
「その鏡に何が見えるかね?」
「・・・・・・僕の両親が見えます、プリンス先生」
聞くんじゃなかった。反省しつつ、姿見を観察する。『みぞの鏡』とあった。間違いなさそうだ。ほんの少しの好奇心から吾輩は鏡を覗き込んだ。一体、何が映るのだろうか?
ビキッ
鏡の表面が凍った。『みぞの鏡』は鏡を見る者の願望を映し出す。つまり、相手の心の底を覗くようなものである。それは一種の精神攻撃、精神干渉ともいえるのではないだろうか?故に反射的に吾輩の精霊は鏡を凍り付かせたのだろう。この『みぞの鏡』思っている以上に危険な代物かもしれない。
驚くハリーを促し、『みぞの鏡』から引き離す。
「ミスター・ポッター。これは『みぞの鏡』だ。あまり良い代物ではない」
吾輩はハリーを振り返った。今更だが、ハリーの顔色は悪く、やつれている様に見える。
「マダム・ポンフリーのところまで送ろう」
教師に深夜徘徊を見つかった以上、意気消沈しているのかハリーは大人しく吾輩に従った。ホグワーツ城の暗い廊下をただ黙って歩く。吾輩も気まずいが、ハリーも気まずかろう。保健室へハリーを送り届けると、マダム・ポンフリーは当然びっくりしていた。しかし、ハリーの様子に何も言わず、吾輩の一晩頼むという依頼に頼もしく請け合ってくれた。
さて、次はマクゴナガル教授へ報告か。
夜回り後の時間に訪れたためか、マクゴナガル教授は巡回報告に来たと察していた。かつ、何か問題があった、と。そうでなくば翌朝の報告でも充分だからだ。
マクゴナガル教授に椅子を勧められ、立ったまま報告もどうかと思われたので座ったが、長居するつもりはない。
「巡回中にポッターを見つけたので、マダム・ポンフリーに一晩預けてきました」
ぴくり、とマクゴナガル教授は眉をひそめた。夜の見回りで生徒を回収することはあるが、即、保健室送りというのは少々珍しいかもしれない。通常であれば、寮監引き渡しで終わり、だ。
「何があったのですか?」
マクゴナガル教授のこういう察しの良さは好感が持てる。
「ポッターは『みぞの鏡』に魅入られておりました。気付かれませんでしたか?」
マクゴナガル教授は小さく息をのんだ。ハリーの顔色の悪さは、おそらく寝不足から。やつれた様子は『みぞの鏡』に魅了されたからだろう。いくら寮監とはいえ、一生徒の不調に気付けというのは酷か。
「・・・・・・気付けませんでした」
苦渋ににじんだ声でマクゴナガル教授は返した。
「『みぞの鏡』をあのように放置しておくのは危険と思われます。即急に片付け、再発防止に務めて頂きたい」
「ポッターはあの鏡に・・・・・・」
「両親を見たそうです」
「何てこと!?」
本当にな。物心つく前に両親を失った子供が『みぞの鏡』に魅了されるのは当然である。
「『みぞの鏡』はすぐに移動させます。ポッターに『みぞの鏡』の意味を伝えましたか?」
「いえ、早く休ませた方が良いと思いましたので」
ついでに、そういう言いにくいことを吾輩に言わせようとするのは止めて欲しい。
「分かりました。私が朝、保健室へポッターの様子見がてら説明して引き離しましょう。アレに魅入られて人生狂わせる者は多いですから」
「なぜ、そのような危険な代物がホグワーツ城に?まして、容易に生徒が触れられる場所にあるのですか?」
これは前世知識の頃から思っていた。加えて、精霊が問答無用で攻撃仕掛ける程に危険というのは、今、はじめて知ったけれど。
黙り込んだマクゴナガル教授に、返事を得られぬことが分かった。どうにも話にならない。吾輩は席を立った。
「では、マクゴナガル教授、後は頼みます。夜分遅くにすみません」
「いえ、セブルス。ありがとうございます」
翌日。校長は元気がなさそうだった。
ハグリッド逮捕で保護者から非難の手紙が殺到し、理事会からハグリッドの免職請求の勢いが凄まじいとか。加えて『みぞの鏡』のザル管理にマクゴナガル教授から鋭い叱責を受けたそうだ。流石に少しくらい、しおれないと神経を疑う。
さて、ハリーの方は徐々に元気を取り戻したとか、これはマダム・ポンフリーからの報告である。若いから回復も早いのかもしれない。クィレルの方はよく分からん。ハグリッド逮捕でバタついている今がチャンスのような気もするし、逆に魔法省に睨まれている状態なので身動きが取れないのかもしれない。
一応、監視の必要はあるのだが、吾輩も初の教員職。学年末テストの為、そこそこ忙しいのである。