セブルスに成り代わって平穏に生きてみる 作:dahlia_y2001
セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-3
吾輩の個人所有ハウスエルフ・メリーアンが吾輩とトムのドロドロに汚れ切った姿に悲鳴を上げていたが、そんな些細なことには気が回らない程に考え込んでいた。
「メリーアンはセブルス様に洗浄魔法をかけて差し上げます」
パタパタとメリーアンが洗浄魔法をかけたが、それも上の空で吾輩は部屋を歩き回る。トムは吾輩の後にメリーアンから洗浄魔法をかけてもらい、こまごまと世話を焼かれ、今はソファーに腰かけてホットミルクを飲んでいた。
落ち着かず部屋を歩き回る吾輩をトムはぼーっと眺めている―――そこで、吾輩は自分の椅子に座った。
「吾輩はあまりアクロマンチュラに詳しくはない。貴公は?」
「いえ、僕もあまり興味のある分野ではないので、巨大な蜘蛛ですよね。毒性も強かったような?」
「基本的に昆虫は基礎能力が高い。それが人より大きいとなれば相当に厄介であろう」
吾輩の前世知識では大きな牛くらいのサイズだったような。もしかしたら、もっと大きいのかもしれない。それが大量・・・蜘蛛嫌いのロンでなくとも生理的嫌悪を覚えそうだ。
「やはり魔法省経由で魔法生物に詳しい人物に協力を願った方が安全だな。効果的な殺し方を知っているかもしれん」
「プリンス教授なら、物理でごり押しも可能な気がしますけれど」
「やってやれなくもないだろうが、森を更地にしたくはない」
トムはうーんと考え込む。
「僕の力で充分で焼き尽くせそうだけれど。プリンス教授の水で森の延焼は防げるでしょう」
「何を言っている?」
我ながら低い声が吾輩の口から出た。
トムが戸惑う瞳を揺らす。
「まさか、吾輩が本件に生徒である貴公を関わらせると?」
「え?でも・・・」
「帰りたまえ!!今すぐに!!」
吾輩の怒声にトムは文字通りソファーから飛び上がって、逃げるような素早さで退室した。ハウスエルフのメリーアンは部屋の隅で震えている。
やってしまった、感情を押さえられなかった自身の情けなさに大きな溜息を吐いた。
「わざわざ時間を取ってもらってすまない、フィルチ」
「いえ、プリンス教授。どうぞお気遣いなく」
吾輩は頼み事をする為、部屋にフィルチを招いていた。フィルチの膝に風の妖精・白の小虎が猫のように丸くなる。ハウスエルフのメリーアンに視線を送れば、万事にそつがないメリーアンが紅茶とお菓子をサーブする。紅茶とお菓子を勧めた後、吾輩は口を開いた。
「どう話して良いものか」
吾輩は口ごもり、考えを巡らす。フィルチにバジリスクの件を明かすわけにはいかない。森にアクロマンチュラコロニーの件だけ話せば良いが、情報ベースがどこかというのを説明できない。出来ないことを明かすか。
「禁断の森にアクロマンチュラの巨大コロニーがあるらしい」
「は!?」
目を丸くするフィルチ。
「アクロマンチュラは危険度マックスの魔法生物で巨大コロニーが出来ている」
「いやいや、森にそんな危険生物がいて今まで問題が起こらない訳が・・・」
「森には飼育だけは得意な危険生物好きがいるだろ?」
フィルチは指定した人物に思い至って言葉を失う。
「ところで、ハグリッドが退学になった理由を知っているかね?」
「いや、詳しいことは秘密にされて―――まさか、あの森番はアクロマンチュラ飼育で退学に!?」
「他にも事件もあったらしいが、アクロマンチュラ飼育が発覚すれば、一発退学でも当然であろうな。去年はドラゴン飼育でアズカバン行きだったし。もっとも、なぜか今学期戻ってきているが」
「何で首にならないんですか、あの森番」
忌々し気にフィルチが吐き捨てる。いや、本当に。同意だ。多分、校長が庇っているのだろうが、ハグリッドが手駒として盲目的だからかな?それ以上に、あのうっかりで足を引っ張りそうだけれど。
「そこでホグワーツ教授として学び舎の傍にそのような危険生物を放置する訳にはいかない。今まで問題なかったから今後も安全とは言えまい。しかし、アクロマンチュラを教授陣で退治するのは不可能に近い。一匹、二匹でなく巨大コロニーなので打ち漏らしでもあれば生徒が危険だ。加えて―――」
吾輩はタメを作る。
「ハグリッドが妨害してくる。危険魔法生物でも奴にとっては可愛いペットだ。故にしっかりした証拠を提出して、奴をきっちり犯罪者として隔離した上で魔法省と協力のもと、アクロマンチュラを退治したい。そこで、フィルチ。森にアクロマンチュラのコロニーがあることをマクゴナガル教授に報告して欲しい」
「マクゴナガル教授に、ですか?」
フィルチは考え込んだ。
フィルチも校長には恩を感じているだろうが、去年のドラゴン騒ぎで校長のハグリッドに対する扱いには理不尽さを感じているだろう。それに間違っても偽りを口にしろ、と言っている訳ではない。真実を公明正大なマクゴナガル教授に報告し、きちんとアクロマンチュラを退治する―――何の問題もない筈だ。フィルチは深く頷いた。
「分かりました、プリンス教授」
「大体の位置はこちらの地図でこの辺りだ。この情報は水の精霊からだ。フィルチの風の精霊だけで確認して欲しい。但し、危険だから決して無理はせぬように。アクロマンチュラのコロニーがあるらしいという情報だけで充分だ。証拠はマクゴナガル教授と吾輩とで入手するから」
さて、これで吾輩とマクゴナガル教授の森においてアクロマンチュラのコロニー発見という道筋ができた訳だ。
マクゴナガル教授はアクロマンチュラのコロニー発見から即、緊急職員会議を開いた。折り悪く(吾輩に取っては折よく)校長は不在であったが、マクゴナガル教授はそんなことに頓着しなかったし、状況はそんな悠長なことをしていられるものではなかった。
マクゴナガル教授は会議開始、すぐに言った。
「森にアクロマンチュラのコロニーがあります。その数、50匹以上を認めました。犯人はハグリッドでしょう」
教職員一同は言葉を失った。そして、ハグリッドならばやりかねないという雰囲気だ。去年、ドラゴンの違法飼育に手を染めているのだ。どこからも擁護の言葉はなかった。そして、ロックハートが口を開く前にマクゴナガル教授は続ける。
「私とセブルス二人で目視確認済みです」
じろりとマクゴナガル教授は一同を見回した。というか睨みを利かせた。特にロックハートを睨みつけている。くだらない事を言い出したら実力行使もいとわないという気迫に流石のロックハートも開いた口をしずしずと閉ざした。ロックハートを黙らせたのを確認してからマクゴナガル教授は言う。
「ホグワーツを閉鎖。生徒は即、帰宅させます。列車の手配、そして魔法省への報告と協力要請。そして急ぎアクロマンチュラの退治です」
「おおっ」
歓喜の声を上げたのはケトルバーン魔法生物学教授。状況を理解しているのだろうか、この教授は。絶対にアクロマンチュラ捕獲に意識がいっている。
「ひえっ、退治ですって!?」とロックハート。
ロックハートの声には狼狽えと怯えがあった。彼の実力でアクロマンチュラ退治には無理がある。とはいえ、ロックハートの大言壮語には吾輩も大概辟易していたので原作通り当てこすってやった。
「貴公の素晴らしい冒険にアクロマンチュラ退治を加えては如何かね?」
「そうですね。防衛術教授として是非、協力をお願いします。戦力として」
冷たい声音でマクゴナガル教授は言う。
「さぞやご活躍頂けるのでしょうな。楽しみです」
温厚なフリットウィック教授まで続けた。他教授陣も冷えた瞳を向けるのみ。ロックハートは吾輩が思う以上に教職員から不興を買っていたようだ。助けを求めるように忙しなく視線を泳がせ―――後に諦めた。
一部の女子生徒と異なり接点の多い教授陣にロックハートへの信頼と好意は欠片も残っていなかったようだ。
逆にロックハートがあれだけやらかしておいて、未だ一部女子生徒から慕われているのが不思議な話だ。結局のところ、顔か、顔なのか。それはさておき、ロックハートは引きつった顔でそれでも虚勢を張る。他に術もあるまい。
「そ、それでは私は準備の為に失礼させて頂きます」
そそくさと立ち去るロックハート。
きっちりロックハートがいなくなった後にマクゴナガル教授が呟く。
「厄介払いが出来たところで」
とうとうロックハートは厄介者扱いだ。納得しかない。
「各寮監は生徒たちへ休校の説明ならびに荷造りの指示。マダム・フーチは私の代わりにグリフィンドールを頼みます。セブルスは魔法省へ連絡願います」
校長不在の為、副校長マクゴナガル教授が指揮権を行使しているが、校長が居るよりスムーズに動けているだろう。下手にハグリッドを庇ったり、魔法省への協力に拘らない辺り。また、名門プリンスの当主である吾輩がこの場で最も魔法省へ口が利くと踏んでの指示だろう。流石、マクゴナガル教授は仕事が出来る人だ。一度、ここで皆は解散した。
マクゴナガル教授は各所へ連絡するため走り出し、一同はその場に残される。
「本当にハグリッドは碌な事しないんだから」
ホグワーツ特急の手配担当を任されたマグル学バーベッジ教授がぼやいていた。
反対に魔法生物学ケトルバーン教授は感嘆の声を上げる。
「いや、英国寒冷地でアクロマンチュラのコロニーとはハグリッドのブリーダー能力は天才と言っても良い」
もっとも、言った後に周囲の冷たい視線に気づいてケトルバーン教授は「いや、ホグワーツでやることじゃないが」と続けた。
もし、ここにマクゴナガル教授がいたならば、間違いなく怒鳴りつけられたであろう。
生徒は朝一のホグワーツ特急で帰宅させ、学校は一時休校処置。速やかにアクロマンチュラの退治となれば、今夜のうちに手配をすませねばなるない。
理事会役員であるルシウス・マルフォイとモンスターペアレンツ化が考えられるレストレンジ夫婦への説明は上手くやらないと大惨事になりかねないだけに吾輩は溜息をついたのだった。