二周目、獪岳は隠になる   作:dahlia_y2001

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二周目、獪岳は隠になる1

 

 

 

二周目、獪岳は隠になる1

 

 

 

 

それは唐突であった。まるで雷に撃たれたような、いやいや雷に撃たれたのはカスであって、俺こと獪岳ではない。そして、あのカスならば雷に撃たれたような衝撃を受けた後、運命の恋とか戯言を宣うのだろうが、こちとら衝撃と共に受け取ったのが前回、一周目の記憶というのが泣けてくる。しかも、藤襲山最終選別の説明中なのだ。

声を上げなかっただけ、落ち着いていられたことに自分で自分を褒めたくなった。あのカスみたいに騒ぎ立てて雷一門に恥を晒さずに心の底から安堵する―――が、いや、俺が鬼になって雷一門はどえらい目に遭ったわ!!と心中は大騒ぎだ。故に説明何ぞ一言も聞いていない。

ハッと気づいたら、皆、出発していた。動かない俺に、鬼殺隊主催者側が声をかけようとする前に、俺は急ぎ山へ入った。心中は困惑しまくっているけれど。

藤襲山にとりあえず入る。うじゃうじゃ鬼はいるが、今の俺の敵ではない。一周目の能力は保持しているようだ。手には既に階級があり、「階級を示せ」と半ば諦めと共に呟いたら、甲の印が・・・。一周目の鬼化直前か。大きくため息を吐いた。一周目で死んだせいか、1周回って何もかも諦観な気分。なんで一周目、あんなに必死に誰かに何かに認められたがったのだろう。憑き物が落ちたような、とはこのことを言うのか。さて、これからどうしよう。

周囲は鬼だらけの野戦状態なのだが、俺はこれからの身の振り方をひたすら考えていた。だって、大概の鬼は敵ではないのだから。

ちょいちょい鬼斬りしつつ俺は、これからのことを考える。鬼殺隊に入隊して、死に物狂いで鍛えても上弦の壱に勝てるとは思えない。一周目も強くなることには禁欲的に全力投球していたのだ。多分、無理だ。とはいえ、鬼になってあのカスに斬られるのも業腹だ。そもそも、今、カスに遭ったら将来の為に殺してしまいそうで自分が怖い。このままでは殺人鬼だ。あのカスのせいで人生棒に振る気にはなれねえ。あのカスも先生も物理的にも精神的にも距離を取った方が良い。やっぱり、雷一門とは縁を切った方が互いに幸せである。

良し、藤襲山最終選別で死んだことにしよう。この最終選別では受験者の大半が亡くなるのだ。そして、俺は剣士(隊士)にはならない。一周目の時、鬼殺隊の隊士たちと自分が根本的に違っていることを知った。鬼に異様な恨みを抱き、我が身も実力も顧みず特攻かける連中とはどうしても合わなかったのだ。とはいえ、力を手放せば今度は鬼に蹂躙されてしまう。隊士でなく鬼殺隊とつながりが持つことが出来る職業―――そうだ、隠になろう。

これからの方針が決まると、俺は大分楽になった。ふらりふらりと夜を歩き回る。この山に居るのは雑魚鬼なので緊張感はあまりない。かといって油断はしていない。時折、危なそうな受験生を助けておく。命を助けてやったのだから恩に着てくれ、と思う。純粋な人助けではなく、打算だ。

とはいえ、積極的に助けまわっているわけではない。これは最終選別で隊士にふるいをかける為だからではなく、そこまで面倒見切れないから、である。いや、この山広すぎるんだよ。

 

最終選別最後の夜。別格の鬼を見つけた。何だ、あの鬼は。あきらかに雑魚鬼ではない。とはいえ、俺の敵ではないが。隊士前の見習いには荷が重すぎる。一気に駆ける。

この鬼、自身の有利さから女見習いを嬲っている。故に、俺の存在が意識外のうちに―――雷の呼吸・肆ノ型 遠雷(えんらい)。俺はスパンと鬼の頸を斬り落としたのだった。

殺される前にその女隊士見習いを助けられた。甚振る目的であの鬼が時間をかけた為、逆に俺の助けが間に合ったようだ。鬼の性悪さに助けられたとも言えるが、流石にそれを口にしないだけの分別は俺にだってある。俺は屑ではあるが、常識はあるのだ。

 

「怪我の手当てをする」

「えっと、ありがとう」

 

その女隊士見習いの手当てを俺は行う。いつもならば、ここまでやらないが、というかこんな怪我をさせる前に鬼を斬っていたのだ。この少女は軽傷ではない。左足は捻挫、右腕は折っているか。俺は顔を歪めた。これは、熱が出るな・・・。でも、右腕は綺麗に折れているから治りも早そうだ。しかし、別の鬼に狙われたら殺される。まして、この足では逃げられまい。最終選別の終了まで後、半日だし付き合っても良いか。

 

「後、半日。護衛してやる。気に入らんかもしれんが、この状況で独りでは危険すぎる」

「あの、その、ありがとう」

 

少女は赤くなる。もう熱が出たのか?困ったな、熱さましは持参していないのだ。

 

「水場へ移動しよう。熱が出たら、水があった方が良い。おぶされ」

 

俺は少女に背を向けた。少女は少し戸惑った後にそっと俺の背にその身体を預けた。少女は酷く身体が軽かった。これで剣士か?あのカスが女の子がどーのこーの言うのがちょっと理解出来てイラッとした。思わず舌打ちする。びくり、と少女が身体を震わせた。

 

「すまん、お前のことじゃねぇんだ。苛つく女好き野郎を思い出して。悪い」

「ううん。気にしていないよ。あのね、私は真菰。あなたの名前は?」

「・・・・・・・獪岳だ」

 

一周目、真菰という同期はいなかった。そもそも、あの手がいっぱいある鬼・暫定で手鬼と名づけよう、手鬼とは遭遇しなかった。一周目とはどうにも違うようだ。考えて考えてどうでもよいか、と放り投げた。考えてもよく分からなかったのだ。

川の傍、真菰を大木の下に寝かせ、傍の川で濡らした手ぬぐいを真菰の額へ乗せる。直に熱が上がるやもしれない。

 

「最終日で良かった。終わったら、薬を貰ったらよい」

「ありがとう、獪岳」

 

真菰はぐいっと額の手ぬぐいを目元まで下げ、泣いていた。声を押し殺して泣いている。どうしたものか、と俺は口を開き、閉じた。俺は一周目、人間関係を上手く回せず、鬼殺隊ではギスギスした人間関係だった。俯瞰した今なら尖がっていた俺自身にも問題があったのは分かるが、それでも鬼殺隊は実力主義で足の引っ張り合いやら何やら、ああ嫌だ、競争なんて碌なものじゃない。本当、禄でもない連中ばっかりだよ、隊士なんて。嫉妬や妬みや。隊士なんてなるもんじゃない。

俺は口が上手くない。だから、ただ真菰の頭を撫でてやったら余計に泣かれた。「すまん」って手をひっこめたら「いいから、撫でてて」と言われた。人肌が恋しいのか、それとも単に怖いのか、と思った。

 

 

最終日。

再び、真菰をおぶさって集合場所へ行ったら、案外、受験生がいて驚いた。半分くらい、残っている。一周目とはあまりに違っていて俺は首をかしげてしまった。隊士になるの前提で話が進みそうだったので、俺は慌てて口を挟んだ。

 

「すみません、俺は隠になります」

「え!?」

 

おんぶしたままの真菰が素っ頓狂な声を上げる。他の者も目を丸くする。鬼殺隊の主催者側、多分、お館様のお子様たちも驚いている。

 

「あ、あのなぜですか?」主催者側の一人が言う。

 

きっぱりはっきり、俺は答える。

 

「俺は隠になりたいのです」

「あなたが、その、この場では一番強いと思われますよ?」

「そうだよ、獪岳は凄く強いんだよ!?」と真菰。

「隠になりたいんです」

 

強く強く俺は言い切った。

だって、これが俺の二周目の分岐点なのだから。

 

 

 

 

 

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