二周目、獪岳は隠になる   作:dahlia_y2001

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二周目、獪岳は隠になる13

 

 

 

二周目、獪岳は隠になる13

 

 

 

「二周目同士、僕に協力してください」

 

輝利哉はキラキラした目で俺を見つめる。

俺は大量に投入された事実に頭をぐるぐると回転させ、もとい混乱していた。日輪刀のこと、真菰の補佐、蟲柱に目を付けられているのに一介の隠が躱しきれている不思議さ、鱗滝氏と知己らしい桑島先生からの接触がなさ、穏やかで充実した隠の生活で全く気付いていなかった。俺が鈍感なのか、周囲に恵まれているだけなのか。その周囲の一部には、輝利哉の暗躍があって、あまつさえその手のひらに踊らされていたと気付かされると―――感謝の前に腹が立つ。ここで虚仮にされたと思うあたり、俺の性根がねじ曲がっている証左かもしれない。

いつまでたっても返事をしない俺に輝利哉は小首を傾げる。輝利哉の様子はどうでも良い。話が始まる前から返事は決まっていた。とはいえ、流石の俺もそうはっきりは言えないので、遠回しに告げる。

 

「考えさせてくれ」

「なんで!?」

「一介の隠には荷が重いし、鬼化して以降の記憶は曖昧で提出できる情報は全くないから何の役にも立たねぇよ」

「え、そうなのですか?でもでも、鬼の情報はなくても二周目のあなたなら流れを変えることが出来ます」

「同じぐらい悪化させる可能性があるだろうが。まさか上手くいくことしか考えていないわけじゃないよな」

 

上層部がそんな楽天主義だったら恐ろしい。しかも輝利哉は次期当主。周りがしっかりしていることを願おう。

 

「二周目の危険性は分かっています。しかし、それを上回る利点は無視できません。上弦の参は討伐。炎柱と音柱の現役。これだけの実績があるのです!!」

「結果論だ。それに俺は何もしていない。特に音柱の件はそっちがやったことじゃないか」

「くっ・・・・・・上弦の参討伐時にあなたを柱にとの話も上がったのですよ」

「は!?隠が柱!?正気かよ」

「推薦者は炎柱です。あなたの実力は炎柱が認めています。それに、最終選抜後、あなたは甲だったでしょう。討伐数はとうに達成しています」

 

一周目ならば柱になれる可能性に喜んだだろう。しかし、今となっては、だから何?だ。一周目の折に剣士の矜持を上弦の壱にべきべきに折られてしまったから。あれに勝てるイメージが二周目の今も全く描けない。

それにこの会談、平行線になってきている。

 

「興味ないので、柱の件は聞かなかったことにします」

「あああ、何かこう交渉になりそうな欲しいものとかありませんか?」

「現状満足しているので、どうぞお引き取りを」

「とうとう敬語に戻ってしまって。せっかく心を許してもらったのに」

「ため口はもう会うこともないから失礼でも構わないと思っただけです!!」

「僕一人じゃ無理です!!」

 

俺は意識して微笑を浮かべる。我ながら胡散臭いかもしれないし、隠の衣装で向こうには分からないだろう。

 

「輝利哉次期当主様でしたら大丈夫です。俺は遠くから見守っていますから」

「ていよく見捨てないで下さい」

「それでは、持ち帰って検討させて頂きます」

「遠回しに断られている」

 

輝利哉はぐだぐだ粘った挙句、俺の対応が変わらないことにようやく諦めてくれた。

 

「今日は仕方ありません。出直します!!」

 

いや、諦めてくれなかった。竃門より話は通じると思ったのに、少なくとも婉曲表現を理解してなお、諦めないというのはどうだろう。俺はため息をついて応接室を出た。

その時、声をかけられる。

 

「獪岳」と後藤さん。

「大丈夫だったか?何か話が長かったみたいだが」

 

心配げな後藤さんに、この人、隠の良心だと思う。

 

「そうですね。ところで退職届の書き方を教えてもらえませんか?」

「なんで!?」

 

 

 

昨日の今日で、しかも朝から輝利哉が再び会いに来た。わざわざ隠屋敷に。立場的に俺を呼びつけるのも容易だろうに、これが輝利哉なりの誠意の現れなのか。逆に呼びつけられたら断れるが、押し駆けられたら居留守は使えない。こっちの逃げ道を塞いでいるだけと思うとやはり腹が立つ。俺はしぶしぶ、応接室へ言った。

 

「獪岳さん」

 

輝利哉はにこにことこちらを待っていた。こっちの表情が死ぬ。隠の衣装のおかげで表情が分からないのは助かる。表情を取り繕う必要がないからだ。

 

「お話を伺ってから一日も経っていませんが?検討する暇もありませんでしたよ」

 

来るの早すぎじゃねぇか!?との意味を込めるが、分かったうえで輝利哉は無視している。癖の強い剣士を取りまとめる次期お館様ともなれば、これ位の図々しさが必須なのかもしれない。

 

「我々ならば、よりよい未来を進めることが出来ます。是非、僕に協力して下さい」

「二周目仲間、か」

「はい」

「俺にとって二周目の人間は仲間になり得ない」

「え・・・・・・」

 

輝利哉は俺の言葉の意味がつかめず、目を丸くしている。どうして気付かないのか。俺以外の、しかも鬼殺隊に近い二周目の人間は俺にとって警戒対象にしかならない。なぜなら、一周目の俺の所業をしっているのだから。

冷めた目で俺は輝利哉を見据える。

 

「協力者にはなりません。これで失礼させて頂きます」

 

丁重に頭を下げ、俺は応接室から出たのだった。

 

 

 

 

鬼殺隊は組織で、隠もその組織の一部である。輝利哉が当主であったとしても、逆に一介の隠に無理を通すことは難しかったろうし、有難いことに今の輝利哉は次期当主だ。要求を断ることは不可能ではない。

いざとなれば、俺が夜逃げすれば良いだけのことだ。何も深刻に考えることじゃない。もっとも、出来ることならば最終戦局まで隠でいた方が俺の安全性が高まるので隠でいるだけだ。しかし、輝利哉の二周目の概念は色々と新しい事実を知ることが出来た。そして、輝利哉は積極的に一周目の知識を活用しているらしい。それに比較すると、俺は俺の手の届く範囲のことしかしていない。隊士でなく隠を職業に選んだ時点で再構成されたように思う。同期も違うし、仕事も異なる。このままいけば、縁切りした雷一門が俺の責任を取らされることはあるまい。それで充分と思ってしまうのだから、俺はつくづく自分本位なのだろう。しかし、手を広げ過ぎては失う可能性が発生する。それ位ならば、手の届く範囲だけ守ろうとするのは、一周目のせいで臆病になってしまったのかもしれないな、と俺は溜息を零したのだった。

 

 

 

流石にもう輝利哉は来なくなった。忙しいのもあるだろうし、こちらの意志も伝わったのだろう。俺は相変わらず隠屋敷に詰めていた。柱稽古の今が俺にとって一番、危険だからだ。周囲には何か誤解されているみたいだが。俺が輝利哉からの引き抜きを断ったとか、それに文句を言わせないために隠の仕事が好きなことを主張しているとか。世の中、誤解で成り立っている。それにしようと思えば仕事はいくらでもある。柱稽古による隊士たちの宿や食事の手配などもあるし、色々な事件の後処理もある。俺が隠屋敷に籠っていても全く問題ないのだ。

俺が仕事柄、隠屋敷に籠ってばかりだからか真菰が差し入れ持参で遊びに来た。隊士たちは柱稽古で真菰もそれで忙しいと思っていたのだが。遊びに来る余裕はあったか。

 

「お久しぶり、獪岳。お菓子、買ってきたのよ」

「そりゃどうも」

 

真菰の持参したのが饅頭だったので、俺は熱い茶を淹れた。二人で饅頭をぱくつく。頭を使う事務作業に甘いものがしみる。

 

「そちらはどう?」

「柱稽古の宿とか食事とかの手配は不都合ないように回せているかな。最初はバタバタしていたけど」

 

輝利哉の件は黙っておいて、俺は今の業務の話をした。これはこれで本当のことだ。但し、隠側の視点と隊士側の視点では変わってくるだろう。その為、水を向ける意味もあって言ってみた。

 

「そうね。最初の頃に比べるとそういう不満はなくなっているみたい。そういうのを口にするな、という雰囲気はあるけれど」

「程度はあるだろうが、苦情は出してもらった方が助かる。察しろ、と言われてもな」

「隠の業務はそういう方面じゃないしね」

 

こればっかりは互いにすり合わせていくしかない。そもそも柱稽古自体、近年実施例がなく、てんやわんやしている状態である。柱稽古が過酷で達成するのが大変と真菰が面白おかしく話してくれるが、内容はなかなかにエグい。炭治郎が蝶屋敷を退院して直ぐに柱稽古に入ったと聞いて、そのハードスケジュールに同情する。あいつ、鬼と戦っているか、入院しているか、訓練しているかじゃないか。いや、隊士はそういうものか。うん、やっぱり俺は隊士にならなくて正解だった。そうしみじみ思っていた時、バタバタと足音が近づき、隠屋敷の者から

 

「輝利哉様がいらっしゃいました。獪岳さんに会いに」

 

と伝えられ、俺は心の底からため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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