二周目、獪岳は隠になる14
何で次期産屋敷当主である輝利哉が俺名指しで会いに来るのか?と真菰が不思議そうに俺を見る。しかし、答える訳にはいかない。俺が二周目などと真菰へ打ち明けるつもりは毛頭ないのだから。
「真菰、席を外してくれるか。用があるなら帰っても構わない。輝利哉の用事がどれくらいかかるか分からん」
「・・・・・・だいぶ、仲良いのね」
真菰に俺がうっかり輝利哉を呼び捨てにしたことに気付かれた。迂闊な、とも思ったが、相手が真菰だから良いかと割り切る。会いたくもない輝利哉に押しかけられて苛ついたのがうっかりの原因と思われる。
「仲良くない。お客が早く帰るおまじないってホウキを逆さに立てかけるんだったか?」
「玄関に、ね。やっぱり仲が良いの?」
「だから、良くないって」
部屋の外で控えている屋敷の者が所在なげに声をかけてくる。
「あの、輝利哉様を応接室へお通ししているのですが」
「すまん、すぐ行く。真菰、どうする?」
「ここで待っている。あまり遅くなりそうなら置手紙を書いてから帰る」
「そうか。悪いな」
俺はしぶしぶ応接室へ向かう。あまり気が進まない。ホウキのおまじないをするか?なんて思いつつ、それをやったら輝利哉でなく真菰が帰ってしまうと嫌だな、と迷っていた。絶対的目上の輝利哉相手ではホウキのおまじないがせいぜいなのである。
俺が応接室へ入った途端、「獪岳さん、助けてください」輝利哉が泣きついてきた。
助けてほしいのはこっちだ、と内心でツッコミを入れる。そもそも、こちとらか弱い隠なんだぞ。それでも、相手は次期当主という肩書持ちである。きっぱりはっきり断れる相手ではない。
「最初から順序立てて説明してください」
助けるとは言質を与えず、俺は話を促した。
そして、その説明によると―――
「つまり、アル中の元・炎柱が現・炎柱の健在により立ち直るきっかけを失った、と」
「平たく言うとそうです」
「その元・炎柱は最終決戦に加わるのですか?」
「いいえ」
「じゃあ、放っておいて良いのでは?」
「・・・・・・いや、それは拙いでしょ。僕が良かれと思ってやったことでこんなことになるなんて」
「事態が悪化することは織り込み済みでしょうに。それにしても、良かれと思ってね。哀しい言葉ですね」
輝利哉は顔をそむける。あれ、今の俺の言葉が突き刺さったのか?別に意地悪するつもりで言った訳じゃないのだけれど。
「そもそも、元・炎柱は何ゆえにヤサグレてしまったのですか?」
「ヤサグレって・・・。父の話では奥さんを亡くされたとか」
「それ、いつも話ですか?最近の話ではないですよね」
「現・炎柱が就任前のことです」
俺は頭の中で炎柱の就任期間を考えて、思わず呟く。
「立ち直る時間は十分あるような気がしますがね。しかし、こればっかりは人によるので何とも。俺の見たところ、炎柱は引きずっているようには見受けられませんが」
「あの方は基本的に前向きな方ですから」
うーんと考え込む。元・炎柱が最終決戦に加わらない、つまり戦力外ならば別に無理して立ち直らせなくとも、と思う。落ち込んで立ち止りたいならば、気のすむまでそうさせておけば良いだろう。しかし、家族や周りの者はそうもいくまい。輝利哉も、自分の行動の結果と思わなければ手出しはしないと俺は思う。輝利哉のこの行動は罪悪感が根底にあるようだ。
「輝利哉様が直接、説得したらどうですか?産屋敷次期当主ならば元・炎柱も無下には出来ないですよ」
「獪岳さん、ついてきて下さい」
「俺がついて行ってどうしろと?他人への説得には全く不向きですからね」
輝利哉のお供で元・炎柱の説得とか面倒で仕方ない。そもそも上手くいく気もしないし。
「お願いします。獪岳さんがいたら上手くいくと思うんです」
「誤解です。荷が重すぎます」
のらりくらりと躱していたら、輝利哉は話を変える。
「あ、もう一件。獪岳さんと同門の善逸さんの成長が一周目より伸びないのですが」
「あのカスのことなんぞ、俺が知るか」
俺の吐き捨てた言葉に、輝利哉は目を丸くする。
「えっと、仲が悪いのですか?もしかして」
「一周目で俺を殺した相手と仲良くできるほど、俺の神経狂っちゃいませんのでね」
客観的に見ても、主観的に見ても、そりゃ俺が悪いのだろうよ。鬼化したし、同門に泥を塗った。しかし、それはそれ。これはこれ。二周目の今の俺は何もやっていないのだし、そうなると一周目に奴に殺された記憶と二周目において奴に苛つかされた記憶しか残らない訳で。俺の保身の為に殺意が湧かなくもないといった感じなのだ。
「同門なのに、ですか?」
「同門だから余計に、じゃないですか?」
「複雑なんですね」
よく分からないといった顔で輝利哉は呟く。なんだかんだ言って輝利哉は子供なのだ。誰とでも仲良くなれるというのは理想論に過ぎない。どうしたって合わない人間は存在する。人は成長するにつれ、合わない人間との適当な距離感を掴んでいくものだと思う。もっとも、俺の場合、一周目の殺意が未だ消えないのでカスには極力会わないようにしているだけだ。あれ、適当な距離感ではなく、絶対的に距離を取っている?
最終選抜で俺は死亡したと偽装している訳だから、そうなるのだよな。今更だけど、あの死亡偽装はどうなているのだろうか。
「あの、獪岳さん?」
「すみません。考え事を。カスのことも放っておいて良いでしょう。一周目と違ってカスが上弦の陸を殺す義務もありませんから」
「最終決戦で死にかねませんけど」
「それは自己責任でしょう。仕方ないですよ。分かったうえで最終決戦に加わるのならば、隊士としての覚悟もある筈。何もかも輝利哉様が抱え込む必要はありません。例え、二周目だとしても」
そう、問題はこの点だ。なまじ二周目で未来知識があるからこそ思い悩むのだ。どこかで割り切らないと未来知識が有利性でなく足かせになりかねない。下手をすれば身動きが取れなくなる可能性がある。
「ちなみに一周目で黒死牟様を倒せたのですか?」
「・・・・・・様付けで呼ばない方が良いですよ。鬼殺隊最強の柱・悲鳴嶼と柱数名、加えて血鬼術の使える隊士で討伐しました」
「そうですか。柱で囲んで一対多数で袋叩き。適切な作戦ですね」
「心なしか非難されている気がしないでもないような?」
「何を言っているのですか、輝利哉様。勝てば官軍負ければ賊軍です」
きっぱり言い切る俺に輝利哉は頭が痛いとばかりに額を押さえている。そういえば、あの人は血鬼術というよりは剣技の方が脅威だったように思う。
「あの人、確か月の呼吸を使っていましたね」
「月の呼吸ですか?もしかして日の呼吸の派生でしょうか?」
日の呼吸って何?と視線を向けたら、輝利哉が始まりの呼吸で無惨を倒すには必須の呼吸?なぜか竃門の家に代々伝わっている舞で継承しているらしい。どういう繋がりがあるのだろうか?
「竃門炭治郎は妙に無惨との接触があったのですが。竃門家に伝わる日の呼吸が自身を追い詰めると知っていたからかもしれません。炭治郎は日の呼吸を一周目も調べていて、それで炎柱の屋敷へ訪問していました」
「話を戻しますが、月の呼吸の型だけならば俺も知っていますよ。柱に見てもらっておいた方が良いでしょうね」
「それは是非に」
輝利哉は前のめりで言った。
月の呼吸は発動不可能でも型だけならば見せることが出来る。全く情報のない呼吸法なんて初見殺しだから少しは役に立つだろう。しかし、誰に見せるか―――いや、炎柱一択か。考えるまでもない。
「炎柱様に話を通しておいて下さい。俺も型を練習しておかないと」
だから、輝利哉には早く帰って欲しい。
「分かりました。お願いします」
輝利哉を見送ってから、俺は安堵したのだが―――積極的に手伝っている自分に気付いて顔をしかめた。
ともかく、月の呼吸の型だけでも見せられる代物に仕上げないと。柱の生存率に関わってくる・・・かもしれない。
そのまま、俺は月の呼吸の型の練習に入ったので、すっかり真菰のことを忘れてしまった。置手紙を見て思い出し、謝罪の文を鎹烏で送る羽目に陥ったのだった。
(後書き)
獪岳以外の二周目が登場。二周目の利点と欠点がようやく明らかに。ある意味で真相解明編だったかも。未来知識とそれを積極的に動かせるのは二周目のみ?と思わせているが、獪岳と輝利哉がそう思っているだけである。救済した者(例えば真菰)もある意味で歴史変更が可能であることに今の二人は気付いていない。