二周目、獪岳は隠になる3
入隊して1年もしない内に真菰は水柱の継子になった。鬼の討伐数も高くハイスピードで昇級している。俺はちょいちょい真菰の任務に付き合っているので真菰の才能を知っていた。流石は鱗滝一門の秘蔵っ子だ。
「なあなあ、獪岳」と先輩隠しの一人が俺に声をかけた。
「今度、水柱様の継子になった女隊士、お前の知り合いだろ?」
「ああ、真菰のことだろ」と俺と同期隠が言う。
「気を付けた方が良い」
言っている意味がよく分からん。先輩隠と同期隠が視線を合わせてから俺を見る。
「ありていに言うと隊士たちのやっかみなんだ」
「柱まで行ってしまえば、そうでもないのだけれど、その前は。誰も彼も競争相手だからな」
「ほら、階級である程度、力関係は明白なんだけど。剣士って強さと性根が比例する訳じゃないし」
俺はヒキヒキと顔を引きつらせた。嫉妬や恨みは一周目、自身でたっぷり体験してきたので、部外者(隠)としてそれを見せつけられるのは辛い。自分のやらかしを突き付けられる気分である。先輩隠と同期隠は俺の内心には気付いていないようで助かる。
「真菰は女だから酷い噂を立てられててさ。女の隠が激怒していたよ。アホだよなー、隠をしかも女を敵に回すのは」と先輩隠。
仕事をやる上で仕事仲間の女を敵に回す恐ろしさをよく知っているそうである。隠も人間だから。当然といえば当然である。
うん、俺は屑だが一周目もそういう意味合いで女隊士を軽んじたことはない、と誰に対してか言い訳をする。いや、本当に誰に対して言い訳しているんだか。
まあ、その、なんだ。一周目は割にギスギスしていた、俺も。柱や継子を羨んでた、すまん。
「水柱様の継子と親しいんだろ?だから、獪岳。噂を聞かないように気を使ってやってくれ。隠全体に通達が回っているけど。一番、隠の中じゃお前が仲良いし、さ」
「同期は真菰の実力を知っているから。そんな妙な嫉妬はしていないんだけど」と同期隠。
年代が近い先輩とかが一番、反発激しそうだ。その気持ち分かる。心の底から分かる。しかし―――。
水の使い手は多く、その中で最も力のある一門が鱗滝一門だ。ふと、真菰の隊服を届けた折の騒ぎを思い出した。世間で言われている穏健派とはとても言えないだろうよ、あの一門。穏やかそうにみえて、相当な過激派だ。
「鱗滝一門はあれでなかなかの過激派。真菰に危害を加えようとすれば、躊躇いなく牙を向けるだろう」
「水の一門でも鱗滝一門は発言力が大きいか」と、しみじみ先輩隠が言った。
そうだ、鱗滝一門は後ろ盾として大きい。そして、隠一同が付いている。だから、真菰が潰されることはないだろう。そのことに安堵している自身に苦笑した。今も昔も、俺には何の力もないのだから。
そして、ふいに雷一門、古巣を思い出す。遠く想う位が、俺と雷一門の距離感としてはちょうど良い。
獪岳
二周目な為か性格が丸くなった。なんで一周目はああ自分を認めてもらいたがったのかなー?と。まさに憑き物が落ちた感じ。二周目は周囲と少し距離をとれるようになり、かつ、自身を客観的に見れるようになったので、隠仲間や同期とそこそこ仲良くなっている。少々、天然入っているところ有り。
推理小説でいうところの『信頼ならない語り手』とまではいかないが、獪岳視点である為、獪岳の見たもの感じたものが必ずしも真実であるとは限らないのである。
例えば、真菰の単独任務に付き合わされているのは決して成り行きではなかったり、など。