二周目、獪岳は隠になる   作:dahlia_y2001

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二周目、獪岳は隠になる4

 

 

 

二周目、獪岳は隠になる4

 

 

 

「那田蜘蛛山ですか?」

「ああ、大規模討伐戦だ」と隠の隊長が言った。

 

那田蜘蛛山で大規模な討伐戦が計画され、それに伴って俺・獪岳も含めて隠たちも大集合なのだ。とはいえ、隠が出撃もとい出されるのは討伐が終わった後なので安心である。鬼と対峙することはあるまい。そもそも、か弱い隠を鬼と戦わせたりするものか。いや、そんな事より那田蜘蛛山のことが遠い記憶に引っかかった。一周目で俺は那田蜘蛛山任務に参加していないので後日、人伝で聞いた情報しかない。しかも、その情報も大したものではないのだ。なぜか鬼が徒党を組んでいたり(単独だろ、普通)、那田蜘蛛山の名前に従ったのか蜘蛛っぽい血鬼術があったような?たいした記憶じゃないな。役に立ちそうにない―――が、俺は別に戦う必要性はないから良いか。大所帯の隠たちで那田蜘蛛山に到着したら、やはりというか当然というか現地は想像以上に不穏な感じだ。濃厚な死の気配に吞まれている隠たち。剣士より隠は死に慣れていない。

 

「隊長、少し様子を見た方が良さそうですよ。よければ、俺が斥候に行きましょうか?」

 

俺は隊長に申し出た。那田蜘蛛山任務は当初の予想以上に被害が出たのを今になって思い出したのだ。か弱い隠たちでは対応できない。そして、自身の実力を知っている隠たちは危機回避能力が高い。故に皆、今、この山に入るのを躊躇っている。そう、無謀で実力不足の剣士と比較して、なんて理解出来る感情なのだろうか。隠の隊長は少々悩んでいる風だが、しぶしぶ言った。

 

「仕方ない。獪岳、行って来い。但し、やばそうなら直ぐに戻ってこい」

「はい、行ってきます」

 

俺は、俺の日輪刀に少し触れてから山へ入っていった。この日輪刀は、真菰の日輪刀が届いた日になぜか俺にも渡された。

その日は刀鍛冶を俺が鱗滝宅へ案内し、真菰の色変わりを見学させてもらった。綺麗な水色に変化して、鱗滝と刀鍛冶が大喜びしていた。そして、どこから注文されたか知らないが俺に日輪刀を渡して圧をかけてくるので、俺はしぶしぶ刀を抜いた。刀は以前同様に刀の呼吸の変化が現れ、刀鍛冶は踊り出さんばかりに喜ぶのでドン引いた。何で日輪刀の刀鍛冶はああ刀馬鹿ばかりなのだろうか。

ともかく、日輪刀があるのは助かる。山の中に、あまり人の気配を感じられない。踏み入って、俺は息を飲んだ。強い血の臭いと転がる死体、着ているものは隊服だから隊士か。生きている人間はいない。俺はしゃがんで死体を検分する。刀の斬り傷、どの死体もそうであることを確かめてゾッとした。

 

「まさか同士討ちじゃないよな?」

 

いやいや、剣士がいくらなんでも同士討ちはするまい、と思った後にこれが血鬼術ならば同士討ちもあり得るかと思い至った。

ふいに人の気配を俺は拾った。とりあえず、そちらに向かう。今は情報が欲しい。

出会ったのは髪に蝶の飾りを付けた小柄な女性。目の覚めるような佳人。おそらく、この人は。

 

「失礼ですが、蟲柱様ですか?」

「あなたは?」

「隠の斥候です。今、この山に隠は入っても問題はありませんか?」

「鬼が残っているようで、水柱と別れて山を回っているところです。隠さんたちはまだ入らない方が良いでしょう」

 

それでは、いったん戻ってその旨を伝えてきます、と言おうとしたが―――鬼の気配に台詞を変える。

 

「少々、失礼します」

 

俺は一気に3時の方向へ走り、雷の呼吸・弐ノ型 稲魂(いなだま)を放った。五連撃で鬼を切り伏せたのを確認してから、再び蟲柱の元へ戻った。

なぜか蟲柱はじっと俺を見つめた。その視線はどこか居心地の悪いものであった。まるで観察されているような?

 

「あなた、名前は?」

「なぜ隠の名前を聞くのですか?」

 

名乗るつもりはないので俺は質問で返した。

 

「・・・そうですね。失礼なことを聞きました。私の補佐をお願いします」

「はい」

 

仕方がない。面倒だが。心の底から面倒だが。しぶしぶ俺は蟲柱と並走する。

そして、思いっきり顔をしかめた。カスが気絶して転がっていた。加えて手足が縮んでいる。全く訳が分からない。足でつついたら、まだ生きていた。

 

「あらあら、これは大変ですね」

「これ、どうにかなるんですか?」思わずツッコミを入れる俺。

 

手遅れじゃないのか、これは?俺のツッコミをスルーした蟲柱がてきぱきと応急処置をしていく。この人、本当に多才な人だよなー、と感心した。

その時、近場に鬼の気配、そんなに強くない、が引っかかった。

 

「蟲柱様、ちょっと斬ってきます」

「どこの方向かしら?」

「俺から見て7時の方向です」

「そう、ではそのまま西回りで回ってください。東回りで水柱が回っているので合流できたら、下山して隠さんたちと共に山へ入ってください」

「了解」

 

カスの傍にいて、正体ばれると困るので、速攻で離脱する。なぜなら、カスは異様に耳が良いので近づくのは危険だ。それに、蟲柱も苦手だ。常に温和な笑みを浮かべているが内心と表情が連動していない違和感が引っかかる。大人なのだから作り笑いも世間を渡っていくには必要だろうが、蟲柱のそれは常軌を逸しているように思う。

俺は一周目でもそうだったが、感情が表情に出やすい性質で、それは世の中渡っていくのにあまり良い性質ではない。だから、今の隠の衣装は正直、助かっている。目元しか見えないので。

蟲柱は俺とは対極で、故にこそ苦手なのかもしれない。

 

 

適度に鬼を斬って水柱と合流。水柱は無口を通り越して意思疎通が俺には難しい。ここに真菰が居れば、と心の底から思った。会話?水柱が言葉を惜しみ過ぎるので会話が成立していないのを強制終了の後、俺はさっさと下山した。

隠の皆は山の入り口で待機していた。隊長はパッと面を上げ、俺の無事に安堵している様子であった。他の隠もホッとした様子が俺の心を暖かくした。ついぞ一周目には感じなかった感情だ。少しこそばゆい気がする。

 

「蟲柱様から入山しても良い、と。山に入ってすぐに剣士たちの死体が多数。おそらく全滅だと思います」

 

隊長が小さく呻いた。それから、俺の報告から隠をいくつかの班に分けた。どの班にも俺のような戦闘の出来る(戦闘能力は様々だ)人材を入れているところ、まだこの山が危険であると判断していることが分かった。俺はせめてカスがいるであろう場を拒否していたら、なかなかに厄介な場に回されてしまった。

竃門と竃門の連れている妹=鬼娘の現場である。竃門と妹は産屋敷へ呼び出しかかっているのだが、基本、剣士は産屋敷の場所を知ってはならないので、隠が運ばねばならない。怪我を負った竃門を運ぶこと自体は隠たちも嫌がらない。それは仕事だから。しかし、竃門の妹は別だ。鬼を箱に入れて運ぶことは隠の仕事とは言えない。

鬼の入った箱を前に、これ、どうしよう状態である。

一応、元・水柱である鱗滝一門とは知らない仲でもないし、しぶしぶ俺が手を挙げる。

 

「俺が運びましょう」

「いやいや、毎回、獪岳に任せるのは」と隊長が言う。

「どちらにしろ、獪岳は産屋敷まで行けませんよ?」

 

同期の隠が鋭い指摘をする。そう言えば、一周目の時も俺は産屋敷の場所を知らない。当然、二周目の今も知らされる立場ではない。

 

「とにかく、途中まで俺が運んで。その後はじゃんけんか何かで決めたら?」

 

俺がやりっぱなしに言い切った。後のことは知らん。大体、大概の鬼は斬り捨てたが、未だ血と死の気配が濃い那田蜘蛛山でぐずぐずしていたくないのだ。まして、カスの救助に回されたくはないので行き先が蝶屋敷でない方が望ましい。俺が途中まで鬼の入った箱を運び、それから産屋敷へ運ぶ為のじゃんけん大会は相当に熱が入っていた。

隠の連中はノリが良いのか能天気なのか。

 

 

 

 

 

 

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