二周目、獪岳は隠になる   作:dahlia_y2001

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二周目、獪岳は隠になる5

 

 

 

二周目、獪岳は隠になる5

 

 

 

いつものように真菰の単独任務を手伝った後、一緒に茶屋で菓子を食べている。

 

「後で蝶屋敷へ炭治郎のお見舞いに行くの」

「ふうん」

 

俺は全く気のない返事をした。興味がないことを全力で表す。なぜなら、蝶屋敷には多分、カスが入院しているから。炭治郎よりカスの方が重症そうなのでカスの方が入院期間が長いと見た。故にしばらく、蝶屋敷は俺にとって鬼門なのだ。

 

「一緒に行かない?」

 

直接、真菰に聞かれたので仕方なく俺ははっきり断る。無論、本音は明かさないが。

 

「やめとく。そうだ、竃門は後藤先輩を激怒させていたぞ。あの温厚な後藤先輩を」

「何をやったの、あの子?」

「知るか。怖くて聞けねぇよ」

 

実は後藤先輩が愚痴りまくったので隠の皆は何があったのか知っているのだが―――隠の団結力により他には口外しないことになったのだ。産屋敷内のいざこざを外部に知らせないという職業意識からである。つくづく隊士より隠の方がその辺りの教育が行き届いていると一周目を知る俺は思う。

 

「団子を見舞いにするのか?というか、食べれるのか?」

 

先ほど、茶屋のおかみに持ち帰りの団子を注文していたので俺は聞いてみた。

 

「炭治郎はもう機能回復訓練に入っているから。差し入れの規制はないのよ。機能回復訓練の方が順当に行き詰っているけどね。常中で引っかかっている」

「それは、それは」

 

ぐいっと真菰が俺に顔を寄せた。思わず、俺は真菰を睨みつける。まれに真菰の距離感はおかしい。

 

「なんだよ?」

「獪岳も常中を使っているでしょ?」

「チッ」

 

俺は舌打ちした。一周目で叩き込んだ常中は既に俺の血肉となってしまっていた。それは意識せずともである。そもそも呼吸は基本中の基本だから仕方あるまい。意識して呼吸を乱す等、あえて行う馬鹿はいない。

 

「せっかくなので炭治郎に常中を教えて欲しいな、と」

「何で俺がそんな面倒くさいことをせにゃならん。断る」

 

ずりずりと俺は緋毛氈の上、真菰から距離を取る。阿呆の真菰はじりじりとこっちに寄ってくる。

 

「はしたないぞ、真菰。異性に不用意に近づくな」

「獪岳はお父さんか!?」

「お前のような大きな娘を持った覚えはない」

「まあまあ機嫌を直して。炭治郎は獪岳を慕っているのだよ」

「慕っているだと?」

 

呼ぶなというのに間違った名前(只野角士)でちょいちょい呼ぶ間抜け=竃門に慕われていると言われても俺は首を傾げるしかない。慕っているならば、まず名前を勘違いしないで欲しい。いや、竃門のうっかりからすれば、名前を間違えたままの方が俺としては都合が良いか。

とはいえ、竃門に常中を教えるのは面倒くさい。別に俺が教えずとも蝶屋敷の誰かが教えるだろう。

 

「面倒くさいから嫌だ」

「んー、しょうがないなー」

 

真菰はパンと柏手を打つように手を合わせ、小首を傾げる。加えて片目を閉じて言った。

 

「お願い、獪岳」

 

一瞬の間が落ちる。

ひきっと俺は顔を引きつらせた。

 

「普通にイラッとする」

「え、なんで?おかしいなー。これがお願いするのに有効って聞いたのに」

「どこ情報だ。というか、どこで教えられた?」

「蝶屋敷の女の子たち」

「禄でもないこと、教わりやがって・・・」

 

思わず俺はぼやいた。鬼殺隊は女性が少ない為か結束力が高いようだ。仲良いことは良いことだろうが、これはない。平和といえば平和だが。

フイに俺は上空を見やった。鎹烏、あれは真菰の鎹烏だ。

 

「お前の鎹烏だ」

「おいで、おいで」

 

真菰がスッと左腕を上げると鎹烏が舞い降りた。

 

「カアー。任務。合同任務。イマスグ、イケ」

「あらやだ、すぐに行かなきゃ」

 

俺は舌打ち一つ。

 

「仕方ない。団子は竃門あてに蝶屋敷へ届けてやるが、常中は真菰か水の一門が教えてやれ。竃門も部外者の俺よりそちらの方が良いだろう」

「それはどうかなー。獪岳は部外者じゃないよ」

「それはどうも」

 

俺は真菰の世辞を軽くかわして、団子片手に蝶屋敷へ向かったのだった。

 

 

 

 

蝶屋敷の職員に団子と言伝を頼んで、さあ帰ろうとした折。

 

「あ!?只野さん」

 

俺は顔を引きつらせて振り返ると―――予想通り、竃門がなぜか嬉しそうに立っていた。俺を只野角士と思い込んでいるのは竃門くらいしかいないか、と半ば諦めと共に溜息を吐いた。

 

 

「それで調子はどうだ?」

 

俺と竃門は蝶屋敷の入院部屋から最も離れている応接室へ案内された。ちゃと持参した団子を出されたが、俺はさっき甘味を食べたばかりなのだよな。うっかり断り損ねたので、仕方ないから食べよう。俺は口元の布を外して団子をぱくつく。

 

「はい、今は機能回復訓練の最中なのですが、上手くいかなくて。どうしたら良いでしょうか、只野さん」

「名前で呼ぶなと言っているだろうが。お前は言いつけを守る気がないのか?」

 

きょとんと竃門が俺を見る。

 

「真菰が二人きりの時は名前呼びしていると自慢していますよ」

「チッ、あの女」

 

竃門は真菰と違ってうっかりやらかすから駄目と言ってもききやしないだろう。こいつはそういう性格な気がする。ついでに竃門は俺の名前を間違えているし。うっかりやらかしても正体はバレないだろう。

 

「話を戻すが、そういう相談は真菰や同門の兄弟子にしろ」

「皆、忙しいんですよ」

「俺だって暇持て余しちゃいねーよ!!」

 

ダン、と俺は湯呑をちゃぶ台に叩きつけた。

失礼な、奴だな、本当。

わたわたと竃門が慌てる。

 

「いやいや、そーじゃなくて。誰も見舞いに来ないし、相談する人がいなくて、その」

「あー、そうか。あのな、この団子は真菰がお前の見舞いにって買い求めたものだ。直前に合同任務が入って、俺が代理で来ただけだ」

「あ、真菰が。そうか」

 

にへら、と笑って竃門が団子を食べる。

何だか悪いことした気分だ。この団子の代金、真菰が出しているのだから。

 

「真菰は元気ですか?」

「ああ、元気だ。但し、忙しいのは確かだな。単独任務の直後に合同任務へ駆り出されていたから」

 

やっぱり隊士なんてなるもんじゃない。とんだ極悪労働形態じゃないか。給与が良くてもあれはない。大概の隊士は使命感に溢れているから労働条件の過酷さ等、気にならないのかもしれないが。

 

「大変なんですね」

「あと、お前の同門の兄弟子は水柱様か。柱の忙しさはまた違うし。とはいえ、常中のコツなんて同門でないと教えようがないような?」

「常中って何ですか?」

「お前!?そこからかよ!?」

 

仕方ないので俺は常中の定義を教えた。正直、ここから説明させられる羽目に陥るとは思いもしなかった。竃門はパアッと表情を明るくして「俺、頑張ります!!」と元気に宣言する。

早速、機能回復訓練へ戻る竃門の背を俺は見送った。

なんというか暑苦しい性格だなー、と思わずにはいられない。

帰ろうとしたら、よければ蟲柱様が―――と職員が言い出したので俺は被せるように「急ぎの用がありまして」と断って逃げた。

那田蜘蛛山任務の折、蟲柱がみせた探るような観察するような視線が未だに引っかかっていたからだ。

 

 

 

 

獪岳

隊士の時より隠である二周目の今の方が心穏やかに生活している。隠の中では武闘派であることに気付いていない。また、わざわざ自分専用の日輪刀を用意されている理由にも気付いていない。

 

 

 

 

 

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