二周目、獪岳は隠になる7
切り離した車両が停まり、俺が列車から降りて待っていると割に直ぐ、後藤さんのオープンカー(真菰も乗っていた)が到着した。トラックはまだ遅れている。
「鬼を斬った?」と真菰。
「先頭車両を切り離してやった。鬼は知らん」
きっぱりと俺は言い切った。ここにあの鬼の気配はしない。
「じゃあ車内に入ろうか。鬼の残党が居るか確認してから隠の皆さんに乗客の救助をお願いしよう。獪岳は私の補佐ね」
「俺も入るのか?」
「もう鬼の気配がないの分かっているからといって手を抜かないで」
「嫌な予感がするから車両に入りたくないんだよ」
カスが乗っているみたいだから入りたくないと言うに、そんなことを知らない真菰は俺の苦情を気にしない。
「大丈夫、獪岳のことは私が守るから」
気にしているのはそこじゃない。
入ったとたん、陰気そうな車掌がさめざめと泣いていた。大の男がさめざめと。
「見なかったことにしよう」
「そうね」
車掌をよけて進もうとした俺たちに向かって?聞いてもいないのに事情を話し出す車掌。つまり良い夢?を見せてもらう代償に鬼の手先になった、と。かける言葉はないが、俺は奴の首に手刀を下して意識を狩る。真菰がぎょっとした目で俺を見ている中、俺は男を持参していた縄で縛る。
「えっと、獪岳さん。何をしているのかしら?」
「こいつは鬼の手先と自白したんだ。歯向かってこないように無力化する必要がある」
「そう・・・かな?」
「真菰にとって脅威にならなくとも、他の隠にとっては分からん。安全策を取るべきだ」
「なるほど、慎重なのね」
乗客は寝ていて、眠っているのか気絶しているのか俺には判別がつかない。次の車両に人目を惹く男がいた。紹介されたことはないが見た目だけで分かる。炎柱だ。強さが視覚から分かるような気がする。
「君たちは?」
「水柱の継子・鱗滝真菰です。こちらは私専属の隠です」
「・・・・・・いつから、俺はお前専属になった?」(小声)
「説明が面倒だから、そういうことにしておいて」(小声)
こそこそ話す俺たちを炎柱は不思議そうに見ている。見ているよな?視線がこっち向いているのか、ちょっと分からないような。
「時に竃門少年と猪少年が先頭車両に向かったのだが」
「やだ、炭治郎がこの列車に!?」
ギョッとした様に真菰は声を上げた。
柱が担当するような任務に弟弟子が巻き込まれたとあっては心穏やかではいられまい。そうか、やけに竃門が上弦・下弦の任務についていたのは、こういう風に巻き込まれてか。やっぱり、竃門とは距離を取った方が良いな。すまん、竃門。個人的に嫌いとまで言わないが、若干苦手だが、俺の温和な人生にお前は危険要素なのだよ。
俺が心中、竃門と距離を取る決断をした頃、真菰は炎柱に隊士二人は切り離された先頭車両と鬼ごと先に行ってしまっていることを説明している。二人がやいのやいの意見を述べている間、発言力のない俺はぼーっと車窓から外を見ていた。そしたら、隠のトラックが到着したのが見えた。
「悪い、真菰」
俺は真菰注意を引いた。
「え?何かしら?」
「隠の救助部隊が来たようだ」
「よもやよもや。こちらが鎹烏を出す前に救助の隠が来るとは」
炎柱は俺たち隠が同行していることを知らなかったのか?これだけ大所帯の救助団を一体、誰が指示していたというのだろう。しかも、水柱の継子まで参加させているのだから、水柱も知っている筈だ。ここまでは誰かの思惑通りとして。竃門の同乗を真菰は知らなかった。故に、竃門は偶然に同乗してしまったのかもしれない。あいつ巻き込まれ体質だな、気の毒に。
「じゃあ、行くわよ」
当然のように、真菰は俺に言う。
「どこに?」
「後藤さんの車で炎柱様と私と君(人前なので名前を呼ばない)で先頭車両を追いかけるのよ。早く行かないと、手遅れになるわ」
「・・・・・・俺も?」
「うむ、隠の彼を連れて行くのは如何なものかと思う」
「大丈夫です。彼はとっても強いので」
「しかし―――」
そうだ。炎柱、頑張ってくれ。か弱い隠を同行させよう等、正気の沙汰ではない。俺はこれから乗客の救助という仕事があるんだ。
「彼は私より強いので来てもらった方が良いです」
じいっと炎柱が俺を見る。見ているんだよな?
「うむ、彼は相当、強そうだ。よし、行こう」
隠の俺が水柱の継子より強い訳ないだろうに。よほど、人手が足りないのか。そりゃ、竃門よりマシだろうし、真菰が竃門の為に保険として俺を連れて行きたいのは分からないでもない。いざという時は竃門を抱えて逃げろってことだな。よし、その時は真菰は自分で走れよ。
後藤さんの運転するオープンカーは四人乗りである。当然ながら、後藤さん、炎柱、真菰、不本意だが心の底から不本意だが俺というメンバーだ。車の運転出来るのが後藤さんだけというのが不安でたまらない。故に俺でなく先輩隠に、と言ったのだが真菰が「駄目」と許してくれなかった。思いっきり舌打ちしてやったが、知らん顔してやがる。なんて図太い女なんだ。
俺たちは停まっている先頭車両を発見した。何で停まっているのだろうと思ったが、後部車輌を置いてしまったことに気づいたら、そりゃ先頭車両を停めるだろうよ。となると、腹立ちまぎれに車輌を切り離したのは正解だったかもしれん。
とりあえず、鬼の気配がないことを確かめて俺は一安心した。隠の後藤さんに戦闘能力はない。故に危険地帯に隠を連れて行ってはいけない。あと、今は隠の俺も含めて、だ。
「炭治郎!?炭治郎!?」
オロオロしている真菰の傍らに駆け付けたら、うずくまった竃門の腹回りが血で濡れていた。真菰が竃門に呼吸での止血を指導している。教わって直ぐに出来るもんかね?と思いつつ、俺は竃門の応急処置を進める。刃物傷か?鬼が刃物傷とは珍しいことだ。そして、もう一人の隊士は猪の被り物をしている。隊士だよな?俺の視線に気付いた竃門が「同期の伊之助です。あと後部車輌には禰豆子と善逸がいるのですが」竃門、自分がそこそこの怪我をしているのに他人の心配をしていられるのか?そんなに余裕あるのか?俺は後部車輌には既に隠一団の救助部隊が到着していることを伝えてやった。だから、自分のことだけ心配してくれ。真菰が心配のあまり青ざめているのだから。
それにしても鱗滝一門は仲が良いというか過保護というか。俺は同門の善逸=カスが危険な任務についても欠片も心配しないけどな。そもそも、カスは俺の頸を斬るのだから、最終決戦までしぶとく生き残るだろうよ。やっぱり今のうちに殺っとくかな・・・・・・。ふと気付くと、困惑した顔の竃門が俺を伺っていた。
「あの、何か怖いこと考えていませんか?そういう匂いが」
「匂い?今日できることを明日に延ばすな、と言うから。殺っとくべきかなーと思っただけだ」
殺ったら後始末が、な。それに最終決戦まではあのカスには馬車馬のごとく鬼狩りしてもらう方が鬼殺隊にも俺にも助かる。うん、だから殺るのは止めておこう。そもそも、隠の俺が鬼化することもあるまい。
運転手共の意識を狩って(説明が面倒くさい)、拘束の後にオープンカーに放り込んでおく。乗客と一緒にしておかないと後々、つじつまが合わなくなるかもしれないからだ。そして、乗員オーバーなので、後藤さんにまた迎えに来てもらうことで話が決まった。―――その時だった。
ドンッ
空気が変わった。この空気は戦場のそれだ。しかも相当にヤバイ。
なぜか、ここに上弦の参がいる。