二周目、獪岳は隠になる   作:dahlia_y2001

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二周目、獪岳は隠になる8

 

 

 

二周目、獪岳は隠になる8

 

 

 

隠は本来、後方支援であり裏方であり、通常は戦闘能力は皆無で―――つまり、一般人なのだ。少なくとも鬼と戦ったりはしない。だから、鬼の、しかも上弦の参という一般隊士ですらそうそう遭遇しないであろう鬼に呆然としている後藤さんを俺はひっつかんで下がった。どこまでが上弦の参の攻撃範囲かははっきりしないが、即、炎柱が対峙したので退避できたと思いたい。

俺は一周目で鬼化したとはいえ、鬼化後の記憶は副作用の為かぼーっとしていたし(意識がはっきりしたのは最終決戦頃)、上弦の情報など全くない。本当、役に立たない一周目だ!!

そして、弱そうという理由で攻撃される竃門を炎柱がきっちり庇っている。弱いならば隠である俺たちの方が上では?とも思うが弱すぎて眼中にないのかもしれない。そもそも竃門は一応、隊士ではあるし。

 

「獪岳・・・・・・」

 

狼狽える後藤さんが俺に声をかけた。あまりの事態にどうしてよいか後藤さんには判断がつかない様子だ。隠には荷が重すぎである。故に俺は言い切る。

 

「足手まといは退避しましょう。炎柱がいくら強くとも我々を庇いながら戦うのは不可能です。真菰!!」

「はい」

 

ぱっと真菰がこちらに寄った。

 

「鎹烏で応援要請を」

 

真菰が「来て」と自身の鎹烏を呼び寄せ、当然のように俺に差し出した。俺は真菰の鎹烏に伝言を告げる。

 

「炎柱が上弦の参と交戦中。至急、柱もしくは最低でも甲以上の隊士を派遣されたし。急げ!!」

 

パッと鎹烏が上空へ飛び立つ。救援要請を出すことは出来た。しかし、間に合うように柱や甲以上の隊士が来れるか否かは運任せだ。正直、俺は期待していない。大体、この場は辺鄙すぎるのだ。

 

炎柱と上弦の参は激しい口論と戦闘を続けていた。戦いは拮抗しているように見える。これは拙い。鬼は人と比較して無尽蔵の体力と異常な回復力を有している。実力が等しいのならば、最終的な勝利がどちらに傾くかは自明の理。故に鬼との戦いは短期決戦、一対多数、数の暴力で囲んで潰すべし、というのが一周目の俺の結論だ。もっとも囲むべき多数派相応の戦闘力を持つ者でなくばならない。ここでは、望ましくは柱、最低でも甲以上の隊士である。

炎柱が隊士を盾にして鬼を斬れる性格ならば、他のやり方もあるが、反射的に竃門を庇うようでは弱者は足かせにしかならない。

 

「真菰、退避の間を頼む」

「ええ」

 

真菰は刀を構え、こちらに被害が来ないように控えている。今はこちらに関心がなさそうな上弦の参が、戦局を有利にする為、俺たちを逃がさない可能性もある。用心するに越したことはない。

もっとも、炎柱と上弦の参のやり取りから、逃げる人間に追い打ちかける性質ではなさそうだ。炎柱はやいのやいの鬼化を勧められている。現在進行形で。一周目で鬼化した俺だが、鬼側は隊士引き抜きが流行っているのか?人材不足なのかな、あの鬼組織。

 

「逃げるぞ、お前ら」

 

後藤さんをオープンカーまで逃がし、あとは竃門と猪隊士を同乗させる。あの二人まだ子供だから一人くらいの乗員オーバーも誤差範囲内だろう。

竃門に背を向けてしゃがむ。しかし、竃門は炎柱に任せて逃げるのをよしと出来ないらしい。

 

「でも、逃げるなんて・・・・・・」

「怪我しているお前が何の役に立つ?それとも、さっきみたいに炎柱に庇ってもらって足を引っ張りたいのか?」

 

ことさら意地悪く俺は言う。

隊士ってのは、己の実力も顧みず、ただただ特攻するのを正しいと信じ切っている。俺には理解できない感情だ。二周目の今はそんなものに付き合うつもりはない。そもそも竃門が真菰の弟弟子でなくば、ここまで親切にはしない。真菰が俺をここまで引っ張ったのは竃門を守ってもらう為だろうから。せいぜい仕事の分位は働くとも。ちらりと真菰をみれば、炎柱と上弦の参の激しい戦闘の余波を真菰が切り伏せ、相殺している。余波でもこれか。間違っても竃門の敵う相手じゃない。

 

「さっさと背負われてくれねぇか?この体制、わりにキツイんだが」

「あ、はい」

 

基本、竃門は真菰と同じでお人よしなので、こちらの事情を押してしまえば流されてくれる。俺は竃門を背負い、二周目はやけに人を背負っている気がする、猪頭を振り返る。

 

「お前も来い」

「はあ?なんで俺様が!?」

「竃門はお前の同期だろう?まさか、隊士ともあろうものが同期一人守れんとは言わねぇだろうな、あ?」

 

メンツがどーのこーの言う奴は、それっぽいこと言って丸め込んでしまえば良い。それに実のところ、逃がす後藤さんたちの中で戦える人間は猪頭しかいない。当然だが、怪我人の竃門は除く。どうせ炎柱の援護が出来る程の力量はないのだろうから、せいぜい同期となにより後藤さんの護衛をやってくれ。そもそも、隠はか弱い~(以下略)

 

「後藤さん、竃門と猪頭を頼みます。逃げてください」

「俺様がこの弱いのを守ってやる。ありがたく思え」

「はいはい、頼む」

 

この猪頭、扱いやすいのか扱いにくいのか。上弦の参との戦いに拘らないあたり、強さが分かっているのかもしれん。竃門よりマシかもな。

 

「直ぐに迎えにくるからな」

「状況によるので無理しないでください」

 

後藤さんが置いていくことになる俺たちを心配してくれる。本当、隊士より隠の方がずっと真面だ。

俺は座席の荷物から投げナイフを両手首の防具へ手早く装着していく。この投げナイフには藤の毒を塗布している。こんな品が上弦の参にどれ程、効くか分からないがせいぜい目くらまし程度だろう。真菰を逃がして、俺が逃げる時間を稼げれば上々だ。炎柱については、柱だから頑張ってくれ、としか言えない。鎹烏で救助応援は出したのだ、一介の隠にこれ以上を求めるのは酷というものである。

 

 

 

後藤さんたちを見送ってから、俺は意識を炎柱と上弦の参の方へ向けた。炎の呼吸による派手な技と上弦の参の力がぶつかって、見ただけでも格の違いが分かる。列車の乗客と足手まといを逃がしたのはつくづく正解だったと俺は思った。少なくとも炎柱が戦闘に集中できる場を用意出来たのだから。

とはいえ、鬼とのタイマン勝負など、よほど実力差がなければ人側が不利である。

俺は真菰の傍に寄った。真菰の意見を聞きたかった。俺の見立てと同じか否か。

 

「どうだ?」

「難しいわね。私では及ばないと思う」

 

真菰の階級は上から三つ目。決して弱くはないが、上弦の参に敵うかと言えば贔屓目の俺から見ても否定せざる得ない。一応、俺の階級は甲だが、上弦の参が斬れるかといえば、正直無理と思う。さすがは上弦。俺に出来るのはどれ程頑張っても時間稼ぎが良いところだ。ちなみに、これが上弦の壱なら速攻で逃げている。逃げ切れるかどうかは分からねぇが、今の俺は隠なので捨て置かれる可能性に賭けるしかない。実際のところ、どうだろう?

炎柱が負傷したり不利になった際に割って入って時間を稼ぐ―――俺がそういう方針を真菰に伝えると真菰自身もそれが現実的と認めてくれた。消極的方針だが隊士一人と隠一人なのでこれが精一杯である。

 

「あ、拙い」

 

俺は思わず呟いた。

炎柱が技を食らって後方へ飛ばされた。追撃をかけようとする上弦の参に向かって俺は藤の毒付き投げナイフを投げつける。隣の真菰が流れる動きで上弦の参に接近と共に広範囲技を放った。上弦の参は真菰の技を優先して叩き伏せる。当然の判断だ。故に俺の第二弾投げナイフは上弦の参の腕に突き刺さった。真菰の技に合わせて放った第二弾投げナイフは避けられなかったようだ。とはいえ、鬼に投げナイフなど蚊に刺されたようなもの。塗った藤の毒が蚊でなく蜂位の効果があれば御の字である。忌々し気に上弦の参は突き刺さったナイフを引き抜いて投げ捨てた。

 

「杏寿郎との勝負を邪魔するな、女!!」

 

勝負って・・・何でこっちが鬼とタイマン勝負しなきゃならないんだ!?口には出さず、出す余裕もないが俺は真菰の補佐に入る。何度も俺は真菰と任務をこなしているので互いに技を合わせるのは容易だ。また、互いの技を遅滞なく放ち鬼を仕留めるのを常としている。つまり、鬼が回復する前に俺と真菰の技で削りに削って、真菰が鬼の頸を斬るのが俺たちの戦闘体系だ。

しかし、さすがは上弦の参、とかく回復が早い。本来ならば、とっくに戦いの均衡が崩れている筈だが―――上弦の参はなぜか真菰に対する技にキレがない。わざと手心を加えている?何度か、真菰を仕留められる機会があったのに攻撃の手を緩めていた。

もしかしたら―――上弦の参は女を斬れないのか?

俺の周りにはいなかったが、鬼狩りだから当然だが―――女を斬るのに愉悦を感じる者、女を斬るのに躊躇し斬れない者とがいる、と。どちらも病んでいるのでは?と俺は思ったりするのだが。

真菰もそれに気づいたのだろう。積極的に俺の前に出てきている。うわぁ、上弦の参が嫌がっている、嫌がっている。分かり易いな、こいつ。

こんな風に思考は走るがその間も絶え間なく技を放っている。回復が早かろうが、相手を削って削って反撃させないように、常に防衛させていく―――攻撃こそが最大の防御という戦闘形式なのだ。問題は持久力が持つかというところだが。

 

「参戦する」と炎柱。

「お願いします」

「おおっ、杏寿郎」

 

上弦の参が喜んでいるけれど、タイマン勝負再開じゃないから。どれだけ、勝負好きかよ。

炎柱が加わって、俺は一歩退いた。今まで炎柱が加わらなかったのは俺と真菰の戦闘形式を学び、上弦の参の弱点によりこれが有効と踏んだからだろう。炎柱は今まで俺のやっていた真菰の補佐に入っている。当然、俺より鬼を削っているけれど。

 

 

とはいえ、この状況がいつまで続くか。夜明けはまだ遠い。

 

 

 

 

獪岳

 

本人の望まぬ方向に流されつつも、現在進行形で一介の隠のつもり。だんだん、ギャグっぽくなっていく、このシリーズ。

一周目は上弦や下弦に関わる任務がなく、鬼化してからの記憶は善逸との対戦前はぼんやりしている為、二周目でも役立つ記憶はほぼほぼ皆無。

なお、このシリーズでは寺での悲劇はないという設定なので岩柱とは会ったことがない。その為、ますます勝手気ままに動いているような?その割に真菰や炭治郎には振り回されているけれど。

 

 

 

 

 

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