団欒
「おのれノッブ私の羊羹をよくもと言う事で叩き込むご挨拶三段突きぃ!」
「背後からの一撃なのじゃあああっ!?」
「あっ、姉上ー!?」
いきなり飛んで来た沖田さんの一撃で、取り敢えずノッブが流れる様に死んでいく。そして卒倒した姉上に駆け寄る信勝君。そんな光景を横目に見つつ、今日の食堂メニューのカレーうどんを啜る。マシュもいい加減にこの光景に慣れたのか、少し困ったような笑顔をしているばかりだった。
「お二人共、あんまり暴れるとエミヤさんに怒られてしまいますよ」
「止めないでくださいマシュさん! 悪逆非道の魔王は此処で討たねば!」
「ふ、ふふ……このワシが倒れようと、何時か第二、第三の織田家姉弟が現れ、比叡山の生臭坊主でバーベキューをするであろう……」
「この人斬り風情が、姉上に何をする! 姉上、新しい髑髏です! これで再臨して相性ゲーの得意ぶりを見せ付けてやりましょう!」
「良くやった信勝……ってもう最終再臨まで行っておるわー!」
仲良いなぁ。
素直にそう思う。とてもではないが、生前弟が裏切って敵対した姉弟――叛逆した側の事情は兎も角として――とは思えないくらいには仲がいい。その辺りは下手に言うと首が飛ぶので言わないけれど。
しかし、相も変わらずノッブの発言は吹っ飛んでいるというか。生前からこうだったのだからまぁついていけないという人がいても不思議じゃない。
「と言うかノッブ、第二はカッツが居るけど、第三は居ないよカルデアに……」
「お主それは言わないお約束じゃろ。まぁ別のワシ呼んで来ても良いけど、それじゃ結局ワシだから芸がないんじゃよなぁ。まぁ」
「森君に代役やってもらう?」
「森家じゃろ可成の奴は……いやー、第三の織田家やってくれる奴、誰か居たかのう?」
そう言ってノウム・カルデアの天井の蛍光灯を見上げるノッブに、ちょうど一つ気になった事があるのでちょっと質問してみる事にする。第二、第三とか言える位に、ノッブに兄弟が多かった印象が無かったのだ。子供は結構いた、と言うのは聞いた事があるのだが。
「そういえば、ノッブって信勝君以外に兄弟っているの?」
「んー? おるっちゃおるが? 腹違いの兄弟ならまぁ馬鹿程おったわ本当に」
「そうなんだ。じゃあ、ノッブの直接の兄弟は信勝君だけなんだ」
そう言った時、ノッブが一瞬、何も言わずに黙り込んだ。
そして、こっちをちらと見たのだ。その眼は……なんと言うか、少し揺れているような気がして。泣きそうにも見えて、でもそれともほんの少し違う様な。
――強いて言うなら、そうだ。寂しそうな、そんな表情を、見せた気がした。
昔を懐かしむ様な。もう戻らないものを、慈しむ様な。
普段からノッブが余り浮かべない。そんな表情をしてた。
「――おるよ。もう一人。同じ母の胎から出て来た姉弟は」
「え……?」
それは本当に一瞬だけで。あっと言う間に何時もの調子を取り戻したのだが。
けれど。明確に表情が変わったのは、ノッブだけではなかった。ノッブの傍らに居た信勝君は、表情を変えないまま、少し気まずい様な顔をしている。
何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのか……とも思ったが、しかしながらそもそもそう言う事を聞いたら冷えるどころか、ワンチャン首が飛びそうになって終わりまであるのがノッブだ。
「秀隆……幼名を喜六郎と言うてな。ワシの一つ下。三男坊だった」
「ヒデタカ、さん?」
「うむ。可愛い弟であったよ」
それが、こうして話しているのだから、恐らくはそう言う類の物じゃない。このまま話を続けて良いのだと判断する。
それにしても、織田ヒデタカ……聞かない名前だ。
信勝君は一応、歴史の授業で、ノッブの弟さんとして偶に話が出てくる事もあったが、本当にそのヒデタカ、と言う人は名前を聞いた事が無かった。
「――えぇ。そうです。僕にとっても、可愛い弟でした」
と、そこに。珍しく姉の会話に割り込む様にして信勝君も会話に加わって来た。だが、それにノッブは驚いた様子もなく、寧ろニヤリと笑って見せる。
「なんじゃ、珍しいの信勝。何時もは話に入るでもなく大人しくしておると言うに」
「……喜六郎は、僕の弟でもあります。姉上だけが話されて、除け者にされるのは、ちょっと寂しいですから」
「それを普段から出してくれれば、と思わんでもないが」
「――えっと、見つけました。織田ヒデタカさん」
こうして話題に出していたからか、どうやらマシュも気になって調べていたらしく。手元のタブレットに件の人物の情報が表示されていて、それを皆の下に差し出した。
覗き込んでみると……そこには、土田御前の子、三男坊、と言う情報と共にその人……『織田秀孝』の名前が表示されていた。
写真等はなく、ノッブのデータベースを見た事があると……失礼な物言いではあるが、内容が、やはり薄い、というか。後世にあまり伝わっていない事も多いのだろう事は、それだけで想像出来た。
「……アレ?」
そのページを見て、真っ先に首を捻ったのは、信勝君だった。
「どうしたの信勝君」
「秀隆の名前だよ。『秀孝』って書いてあるけど、文字が違うんだ」
「えっ? そうなの」
「そうだよ。なんだこの資料、喜六郎の名前も正しく書けないのか?」
「――信勝、そうではない。それが正しい」
弟の名前が違う、と憤慨する信勝君に対し、待ったをかけたのはノッブだった。思わずと言った様子で、信勝君が振り返ると、ノッブは一つ溜息をついて、そのまま、そっとタブレットの表面を……正確には『秀孝』と言う名前をなぞった。
「これはワシがこう書き換えさせた。万が一も無いように、弟の痕跡は一切を残さぬように」「……そんな、姉上、本当にやったんですか!?」
「やると言うておいたであろう信勝。ギャーギャー喚くでない」
「ですけど……!」
……今日は、とんでもない日だと思う。信じられなかった。信勝君がノッブに逆らう。というか、言葉を返しているだけでも驚きだ。基本的にノッブの言う事に『流石姉上!』と全部よいしょする勢いだったのに。
しかも、姉の目を正面から見てしっかりと自分から話しをするって事が、信勝君とある程度触れ合っていると、天地がひっくり返っても無いと思っていたから、驚きは倍々位の気持ちになってくる。
「仕方あるまいよ。可愛い弟じゃが、決して世に何かを遺してはならぬ忌み子でもあった」
「……!」
忌み子……と言うその言葉で浮かべた、信勝君の表情と、口にしたノッブの表情はあまりにも正反対で。片や少し泣きそう、片やまるで無表情。
自分の弟に対して、忌み子……という、半ば差別にも等しい強い言葉を使うのが、一体どれだけの事なのか。ぼんやりとではあるが、俺にも理解できる。故に……俺は、あえて踏み込もうと思った。
それがノッブについて、どんな思い出なのかを。知るために。
「――ノッブ、いったいどういう事なの?」
「ふん……まぁ、もう世界も滅んでおるし、カルデア内々であれば……あやつの弔い代わりにでも、話しても構わんか」
「――あやつは、絵が好きでな。始めに描いた絵は、ワシも見た事はは無いが……まぁワシが初めて見たあやつの絵は、ワシにとって好みのものじゃったよ」
ゲッターロボを理解しようとして虚無になる。