真・魔王ノッブ 織田家最後の日!   作:天魔雅犯土

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来敵

 この足元を照らす、翠の光にも、いい加減に慣れて来たと秀隆は思う。

 というより、この光が無ければ、到底周りも見えないのだし。ずっと見続けているのだから当たり前と言えば当たり前なのだけれども。

 慣れて来た、というのは見えているものだけではなく……今、自分の体に血潮と同じように流れている、その輝きにも、だ。

 

『――分からぬものだ。態々、自らの懐に敵を呼び寄せる、等と』

「お前たちには分からぬ、か……お前たちの言う所の、無駄を楽しむ、人の業という奴が」

 

 では。今、自分が慣れたから、こうして些か以上に無茶な真似をする準備をしているのかと言えば。全くその通りではあるのだが。

 

 実際の所、秀隆にも分からない事はないのだ。この先、自分がやろうとしているのがどれだけ無駄な事なのか。黙って、密やかに事を終わらせてしまう事がどれだけ合理的でそうしてしまえば……間違いなく、自分の目的に最大限の邪魔となる。そんな存在を、今彼は懐に呼び寄せようとしている。

 御伽話の悪役の様だ。態々自分の悪事を大っぴらに広げる。そしてその手の内を態々明かす様な真似をして、最もの脅威をこちらに呼び寄せて。まるでそれは――滅びを自らの手で誘っているかのようで。

 

『分からぬ訳があるまい。我々が戦ってきたのは合理性などとという物から遥か遠くにいる大馬鹿者ばかりだ……『進化する意思』だけが我々に多くの辛酸を舐めさせた』

「じゃあなぜ分からない?」

『どうしようもない迫る脅威に対し立ち向かうなら兎も角……貴様のそれは、態々滅びの脅威を引き寄せているではないか。無駄、という範疇にすら入らん』

「あぁそうだ。そしてそれは……次につなげるには必要な事なのだよ」

 

 だがしかし。

 

 必要な事だと。彼は自分の中で定めている。だから、自分の中でも『おかしい事をしている』と思っていても、全く揺らがない。

 

「まぁ先ずはもてなしの準備でも始めようじゃないか。久しぶりに三姉弟がそろうのだから味気の無いお迎えというのも無礼だ」

 

 そう言って振り返れば、自分が浮かべている笑顔と比べて、何とも不審そうな傍観者の姿が見えて、思わず笑ってしまいそうになる。まるで、以前の自分と立場が逆転しているようではないか。

 別に何か、意趣返しを何時かしてやりたい……とは思った事はない。秀隆自身はただ彼らに決して心で負けない様に努めていただけで。

 

 しかし、目の前でこうもかつての自分の事を想像させるような顔で見られてしまってはそりゃあ、さんざっぱら自分に揺さぶりやら何やらをかけてくれたのを思い出して『やり返してやった』と悪戯が成功した様な気分になってしまうのも止む無しだと思う。

 

「なぁに、そう焦るな。俺だって滅びたいから姉上たちを呼ぶのではない」

『……では何故だ?』

「――無意味だから、だな。ここで臆せば」

 

 可笑しな話ではあるだろう。

 自分がこれから進む道の先、多くの脅威が待ち受けているのは間違いない。

 喜六郎は、自分の理想が理解される――とは到底思っていない。寧ろ、これから更に敵が増える事すら当然の様にあり得るだろう。相互に理解し、互いを尊重し合う事がどれだけ難しいか。ソレを良く分かっている。

 

 その多くの脅威と戦ったその結果として――一体どれだけの長い旅路になるのか。そんな事も、想像もできない程に、苦難に塗れた道であろう事は、流石に分からない訳が無いのである。

 

 だが。

その先を想像できなくても、一つだけ確信できることがある。

 

『無意味?』

「あぁ。きっと、ここで姉上と兄上から逃げだしても、最後にはあの二人の所で止まるんだよ、私は。結局はな」

 

 恐らく、どれだけの数の敵と相対し。

 歴史をひっくり返す様な強敵を相手にして。

 世界を揺るがす様な大戦になったとしても。

 

 結局は、そのどれよりも強敵で。無敵で。自分を苦戦させるのは……きっと、何時だって兄と姉、織田信勝と織田信長。彼ら二人だ。

 三千世界の何れを見回して尚。最後に自分の野望をくじいてくるのは、他の誰でもないのだろう。

 

革新の魔王(おだのぶなが)魔王の道を拓く者(おだのぶかつ)……私は今、誰よりも彼ら二人を恐れている。だからこそ、ここで。一番初めに『決着をつける』」

『ここで決着を付ければ……後は全て上手くいく、と?』

「そうだ。そして逆に、ここで負けるようなら、逃げ出して先送りにしても負けるのに変わりはない」

 

 理屈ではない。

 自分にとって、生涯を通して、ずっと、ずっと、ずぅっと導いてきてもらった二人だ。

 彼ら二人の背を見て、喜六郎は育った。偉大なる二人。彼ら以上の存在が、この先に立ちはだかる等と、想像もできない。

 感傷的、と言われてしまえばそれまでかもしれないが、しかし。

 

 理屈ではない。血族にしかわからない。恐ろしい『底力』をあの二人は秘めている。喜六郎は、それを誰よりも恐れているのだ。

 

「……織田秀隆として、ゲッターを司る者として、そして未来を変革する者として。この一戦こそが天下分け目に等しい決戦。ここを抜ければ、気も少し楽になる」

 

 だからこそ。最初に乗り越えなければならない。その為の舞台、その為の戦力、そしてその為の覚悟だ。もしここで兄と姉を説得し、自らの味方と出来たなら。一体どれだけ心強いか。説得できずとも……敗北を刻み込めれば。それは大きな意味を持つ。

 

『――かつての我々にとっての、ゲッターチームの様なモノか』

「そのゲッターチームに滅ぼされた側が言うと、実に重い言葉だな」

『馬鹿を言うな。我々を滅ぼした直接の原因は百鬼よ』

 

 その思いは……ハチュウ人類を率いた皇帝にも分からぬ訳ではなかったのだろう。彼は初めて、ニヤリとその口に笑みを浮かべて見せた。

 此方はまだ滅ぼされた訳ではない、と言い返したかったが、しかしそこは堪える。それは些かと、黒に過ぎる冗句だろう、と。

 視線を前に戻して。暗闇に、目を取られる。

 

「『ぶらい』、だったか。そちらにも会いたかったところではあるが……?」

 

 向かう先は、先ほどと同じ、この通路の先。

 道の先は先の見えない暗がりに繋がっているように見えて――。

 

 足を止めた。

 通路を照らす明かりは、何処までも届いている。

そんな先を見通せない暗がり等無い筈なのだが。

 

 しかしながら……そこには確かに暗闇が見える。視線が全く通らない程に濃い。光が届いていないというより、そこに光を遮る壁が聳え立っているようだった。

 

『……まさか、コレはッ!』

 

 視線の先に、鋭く叫んだのは傍らの皇帝。何時になく取り乱した様子に、一瞬目を見開いたが。

 それ以上に驚いたのは……その闇が、鳴動し、蠢いた事。

 

 間違いなく()()()()()

 

 その中に爛々と光る濁った黄色の眼が、幾つも幾つも幾つも幾つも……開いては、四方を見回し、そして此方の姿を捉える。

 

『まさかここまで……ゲッターとあれば見境なしか』

「知っているのか?」

『貴様もゲッターを見て来たのであれば分かるであろう。永劫にゲッター線にへばりついて生きる『寄生虫』共だ!』

 

 うごめき、不定形のまま、闇の如く擬態していたそれは……こちらに気づかれたことに気が付いて、一つに集まって、固まって、何かの形を成そうとしていく。

 だがそれは、人が陣形を成すとのは違う、鳥が群れを形作るのとは違う、蟲が一つに集うのとも明確に違う。まるで、泥が大穴の中で一つに混ざり合おうとしているような、そんな動きを……

 

「あぁ、そうか。ゲッターと永劫にも近い時間を争うモノ……いたな、そんなバケモノも」

 

 秀隆は知っている。

 ゲッター線の歩んできた道を見て来た。否、体験してきたのだ。

 ゲッターという物を呑み込むための必要だった。あの無限にも等しい時間を。

 

 その中で見つめた、一つの世界。ゲッターエンペラーが『戦い続ける』勢力の一つ。それがゲッター線という『力』に取り付く悍ましき地球外生命体。あらゆるゲッター線に取り付き、他の知性体を利用しつくす、『ゲッター』を利用しようと企む悪辣な生命体。

 だがこの世界にはいない、異なる世界に存在する生命の筈だった、のだが。

 

『とはいえ、やはり総戦力を呼び寄せられる訳ではないようだ……手勢はこれだけ、ほんの僅かに過ぎない。一旦引いて、此方の全戦力で叩くのだ。そうすれば――』

「――必要ない」

『……何?』

 

 去れども。

 ゲッター線が、こうして本来あり得ぬ程遠い壁を越えて辿り着いたのだ。最早、秀隆にとってここに誰が居ようともさして不思議な事ではない。

 問題は、その存在が決して歓迎すべき稀人ではなく、全人類の天敵、否、全ての生命の怨敵とでも呼称すべき災害であるところではあるのだが。

 

 それでも。

 その圧倒的な暴力を前にして……秀隆は、尚も微笑んでみせる。

 寧ろ、今ここに彼らが辿り着いた奇跡を。不運ではなく、秀隆は幸運である、と取って今、笑ったのだ。

 

「先ほど、私にとっての最大の脅威は姉上や兄上だと言ったな?」

『……言ったが?』

「逆に言えば、それ以外は、何ら脅威足りえない。それを今ここで……示そう」

 

 一歩。前に踏み出す。

 息を呑む音が、かすかに聞こえた気がした。

 

確かに無謀に見えるやもしれない。文字通り、日ノ本どころか、この広い世界、それ以上の宙の全てを呑み込む程の悪意の塊のような相手だ。たった一人で立ち向かおう、とどうして思えるのか。そう言われても不思議ではないだろう。

 

 あぁ、だが。秀隆はそう言われたならば、こう返す。

 たかが世界を呑み込む程度の存在に恐れを抱いて。本気で世界を変える気などあるのか。

 

「――おいで」

 

 一歩。

 じぃっ、と自分が見られているのが分かる。闇の中から、ではなく、闇そのものが、自分を取り囲む様に見つめている。

 敵意を孕み、睨むようにか。それとも、悪意に塗れ、あざ笑うようにか。

 何れにせよ構わない。さらに一歩……一歩、一歩、一歩。無造作に、寧ろ両手を広げて歓迎するかのように。距離を詰める。

 

 空気が淀んでいる。生臭い香りがする。うじゅる、と何かが湧き出す音がする。歪んだ命が、噴き出す音が。それは一つの形へと、集って、捻じれて、纏まって。そして。

 

『■■■■■■ーッ!!』

 

 ぐじゅりっ

 

「――」

 

 体に、何かが突き立つ感触。瞬く間の一撃。僅かに驚いて、声が出せなかった。見るのと相対するのとは大きく違う。

黒い不定形の化生は、此方が更なる一歩を生み出すその間に、牙をむき出しにした蛇の如くその形を変えて、槍衾のように無数の刃を伸ばして此方の体に、突き立てていた。

 

 胴を貫く感触と、感じる痛み。間違いなく、これは腹から背中まで。人一人であれば容易に殺し得る致命的な怪我だろう。

 思わずして浮かべたのは――笑みだった。

 

「そんなに腹が減っていたのか?」

『■■■ッ、■■■■■■■■~ッ!』

「そうかそうか。であれば」

 

 その程度ならば、と。秀隆は笑っていた。

 

「この痛みの礼だ――たらふく食らうがいい」

 

 がしり、と胴を背中へと貫く、黒い肉の槍を掴み取る。優しく、女が奉仕をするかのように……しかしながら、そこに込められたのは、明確な相手への、敵意。一撃を入れられたのだから、一つやり返すくらいのつもりで。

 びくり、と突き刺さったそれも、どうやらこちらの意図に気が付いたようではあるが。残念ながら、それでは一歩、遅かった。

 

――ぱぁん

 

『■■ッ!? ■■■■! ■■■ッッッ!?』

 

 弾けた。

 それが当然な事のように。

 

 ぼこ、とぬらめく黒い肌の表面、幾つも幾つも好き勝手に泡立って、腫瘍の様に膨らんでいって。そこから泡の様に膨らんで、弾けたのだ。四方八方に、肉とも、液体ともつかないその体を、まき散らしながら。

 声ならぬ悲鳴と共に、生きた沼の如き闇が、一歩後ずさった。

 殺した、と思って油断していた所に、想像をはるかに超えた手痛い反撃を貰って、怯えて下がったのか。だとすれば、想像していたよりもはるかに与しやすいと、秀隆はその笑みを深くし……さらに一歩、自分の足を前に進めた。

 

「物は相談なのだが……君たちは、ゲッター線を食らうバケモノなのだろう? 少しばかり『炉心』が元気過ぎてなぁ。溜まっているモノを抜いて欲しいのだよ」

 

 丁度いい。

 自分が手に入れたこの炉心、色々試してはいたが……誰かへの明確な『攻撃』へと利用するのは、実は意外としていなかったのだ、と。

 そりゃあ敵対する相手も居なかったのだから、当然と言えば当然だが。ゲッター線に明確に敵対する存在も、こうして出てきたのだし。試す機会だろう。

 

「なァに、私に炉心が馴染むまでの相手をして貰うだけだ。君たちを相手取れれば、私もそれなりには『ゲッター』の力を使いこなせているだろうと、思うのだよ。くくく」

 

 こうして。

 ゲッター線を得た事で。自分の目の前に現れた存在は、いわばゲッター線というモノが背負う『業』のようなものである。

 ゲッター線は生きて、そして自ら成長する『力』である。他に類を見ない異質な性質を持つゲッター線は、多くのモノを魅了し、引き付け、そして争いを引き起こす。

 

 その果てに、ゲッターは『あそこ』まで行きつくのだから、魅了されるのも無理からぬ話ではあるが。

 まぁ、要するに秀隆にとって『この程度』は想定の範囲内なのである。ゲッターが本来こじ開けられぬ『壁』を越えてここへ来たのだから、それを追い求めて、別の招かれざるモノたちが来れるのも、さして不思議な事ではない。

 

 ゲッター線の力は、『時』の壁すら超える。

 『縦』が可能なら『横』も不可能ではないのだろう。しかし……何れにせよ越えられる物の数も限られるようではあるのだが。

 

「何故逃げる? 食い放題なのだぞ? 余り怯えてくれるなよ。君たちはゲッターに寄生する存在なのだから、持ちつ持たれつで行こうじゃあないか」

「■■ッ……!? ■■■■ーッ!! ■■■ッ!!」

 

 好都合だ。

 これから進むゲッターの道の先。この程度は、いくらだって沸いて来るだろう。それならば。今から体験の一つでもしておいて、損はないだろう。

 

『……あまり遊ぶなよ』

「知っているか? 武術というのは、『手合わせ』という戯れこそが一番の修練になるのだよ。遊びもするさ」

 

 自分は、今ある全てを手に入れたばかり。ゲッターの力を受けて生まれ変わったばかりの自分は最早赤子の様である、と秀隆は認識している。

 力を与えられればいきなり全てを圧倒できる全能の存在に成れる。そうなれば誰も苦労しない。結局の処、与えられたモノをちゃんと自分の『扱える』モノにしなければ、何も持たざる者にすら劣るだろう。

 

 赤子の如く。遊んでもらうその中で感覚を掴みたい所であった……というか。こちらが赤子の如く好き勝手に遊ぶつもりではあるが。

 ふと。

 半ば無意識の内に『相手を玩具として認識している』事を、秀隆はその時になって自覚して……その笑みをより深い物に変えた。

 

「いかんなぁ……良くない良くない。気を引き締めないと……全くゲッターというのはこれだから業が深い」

 

 先ほど、自分の中で確認したばかりだというのに、これだ。

 余りにも刺激的過ぎる。間違った全能感に支配されかねない。全てを理解したような気になってしまう……そうではない。ゲッターに触れたからと言って、その人物が本当に全能になる訳が無い、と再度己の胸に刻み付け。

 

 ゲッターに恭順するならともかく。

 ゲッターを支配するならそれではいけないのだ。

 

 本来のゲッター線と比べれば、比較に値しない程に弱々しいものでも。たかが人一人には余る膨大な力である。コレを己の手で十全に扱えるようになった時。その時こそ、秀隆が思う夢を実現できる時。

 

「もう少しじゃないか」

 

 思う。

 

 目の前の、このゲッター線を求めて来た敵は、『証』だ。

 自分のゲッター線が、確かに育ちつつあることの証左だ。

 育ち切ったこの、ゲッター線を、自分の手の内で、思う様に活かし切る事が出来たなら。自分はきっと。

 

 目の前の脅威も、

 最大の強敵すら超えて。辿り着ける。

 

 黄金の如き日々。

 誰もが皆、思う通りに何処までもいける。

 誰もが特別で、そして同時に特別でもない、そんな。全ての人間が『英雄』になり得るが如き理想郷ならば――

 

「――そりゃあ昂って、遊びたくもなるさ」

『……貴様も、立派なゲッターの系譜だよ』

「■■■■■■■■■■■■っっっ!!!」

 

 そんな夢が、今、叶えられる現実へと、変わろうとしているのだから。

 

 楔たる『曼荼羅(最高傑作)』は、遂に、完成していた。

 




ゲッターへの執着だったら多分歴代の悪役でもぶっちぎりの彼ら。ハチュウ人類が出てるからって漫画版だと思ったか!? 残念! ゲッター線はそんな狭い範疇に収まらない!

でもやっぱりゲッター線関係者としては狂気が足りなくて虚無る。

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