真・魔王ノッブ 織田家最後の日!   作:天魔雅犯土

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兄弟

 会話が弾む事など、全く無かった。

 寧ろ子供だから会話の機会を作りやすい、等と言う事は一切ない。喜六郎は、初めて出会う兄の前で、完全に途方に暮れてしまっていた。

 

 何時もは、話さずとも絵に意識を向けて仕舞えば良かったが、今はそうする訳にも行けなかった。話して仲良くなれ。そう言われたのだから、そうしようと思った。しかしそうする為にどうすればいいのかがサッパリと分からないのである。

 そもそも目の前の兄は、母とそっくりの顔で、母と同じように無表情で。何を考えているかなんて、喜六郎にわかる訳がない。

 

「……」

「……」

 

 時折チラチラと、兄に向けて視線を向けるが、そんな幼い救援要請など気付かれる訳もない。言葉にしなければ他人には伝わらない、という当たり前の事すら、今の喜六郎にはイマイチ浸透しきっていない。

 

 なので、喜六郎にとっては全力でやったせめてもの反応の積りだ。それが上手くいかず喜六郎は泣きそうだった。

 こう話せばいい、とか。こういう事を話せばいい、とか。そう言う取っ掛かりすらない相手だ。こういう時、どんな相手にも無難に通じる話題の振り方、と言うのを知っていれば苦労はしない。だが、残念ながら喜六郎はそんな経験を持っていない。

 

 だから、こう思うしかないのだ……どうしよう、と。

 改めて言うようだが……喜六郎は、完全に途方に暮れていた。そして。

 

「……おい」

「は、はひっ!?」

 

 そんなところに急に話しかけられて、驚かない訳が無かった。考え込んで、考え込んで限界になって。途方に暮れた所である。本来、話しかけて貰って嬉しい筈なのに、この時ばかりは全てが自分を責め立てている様にすら聞こえてしまうのだ。

 

「……えっと……その……」

「な……ん、です……か」

「な、なんでもない」

 

 そして双方黙りこくる時間が再開されてしまう。

 

 結果。

 喜六郎は余計に泣きそうになった。もう実際、少し泣いていた。

 どうして自分はこんな所に居るんだろう。母上助けて。どうにかして。自分ではどうにもできないと早々に諦めて、いもしない助けを求める。

 

 喜六郎は子供だ。本来限界になれば泣き叫びもする……が。それに関しては。信じられない程に心を苛まれた経験から、ギリギリで踏みとどまる事が出来ていた。泣いてもどうしようもない、と言う事を幼い頃に知っていたからか。

 

 その経験と……そして。

 母に言われ続けて来た一つの経験が、一助の光となった。

 

「……あっ」

 

 必死になって重い空気に抗っていた喜六郎の懐から、一枚の紙が零れ落ちた。

 それは、先程迄描いていた絵だった。母に褒めてもらう積りで持ってきたのだが、完全に機会を逃していた……それは、母を描いた一枚だった。

 それがひらりと舞いながら落ちて行ったその先は。何と。

 

 渦中の中に居るもう一人、勘十郎の前だった。

 

「ん?」

「あ、あのっ」

 

 止める前に、勘十郎の目がその絵の中身を捉えていた。

 中身をみられるのが、どうして嫌だったのか。それは分からない。

それが、出来るだけ上手に描いたつもりの、母の絵だったから……むず痒い気持ちになってしまったのか。それとも。

今、意識している相手に見られるというのが、何となく『マズい』と思ったから。そこから来る、恐怖にも似た感情を抱いていたからか。

 

「……」

「あ、の……その」

「お前」

「は、はいっ!?」

「コレ、お前が描いたのか」

「へ?」

 

 言われた言葉に、きょとんとした。何を言われるのだろう、と体に無駄な力が入っていたからか。余計に。そして……その質問には、頷く以外の事はしなかった。それは確かに自分が描いたもので。誤魔化す、と言う選択肢はまだ彼には存在しなかった。

 

 そして、その仕草に彼は。少しだけ険しかった顔を緩めて。

 

「へー……上手だな」

「え」

「僕、こんなに上手な絵を見たの、始めてだ」

 

 それから、にっこりと笑った。

 母と同じ表情をしていた勘十郎が。始めて見せた『知らない』表情だった。

 母は、基本的に喜六郎に笑いかけた事は無かった。母が自分を愛してくれている、という自負は喜六郎にもあったが、しかしながらこの様なハッキリとした笑顔を見せてくれた事は無かった、と思う。

 

 そして、自分の絵をこんなにしっかりと褒められたのも初めてだった。

 

「――あの」

「ん?」

「よろしければ、兄上の絵を、描きましょうか」

 

 ふと、そんな言葉が、喜六郎の口をついて出ていた。

 

 褒められたのが嬉しかった。

 半ば自業自得ではあるが、彼は今まで人に絵を褒められたことが少ない。褒められるために描いていた訳ではないのも間違いないが、何時も『自分の為』に絵を描いていたというのが何よりも大きい。

 

そんな彼が初めて褒められて。悪い言い方をすれば。浮かれてしまって……恐らくは、初めて誰かの為に。明確に。絵を描こうと口にしたのだ。

 

「ぼ、僕の絵を?」

「はい」

「……分かった、描いてくれないか」

 

 それが、彼等。喜六郎と勘十郎の、初めての兄弟らしい会話となったのだった。

 

 

 

 

 

 

「――おぉ! スゴイ! 僕だ! 僕が居る!」

「あ、兄上を描きましたから……」

 

 彼が、今までよりも若干気合を入れて描き上げた勘十郎の似姿絵は……見事な仕上がりとなった。

 正座の勘十郎は、目を軽く伏せ……涼やかな微笑みを浮かべている。まるで本人をそのままそっくり写したかの様な仕上がりである。

 

 その分かりやすい上手さは、渡した勘十郎を、大きく喜ばせた。

 子供らしく溌溂に喜ぶ勘十郎の姿に、喜六郎もつられて笑顔になる。

 

「凄いじゃないか喜六郎!」

「ありがとう、ございます。兄上が嬉しいなら、良かったです」

 

いつの間にか、勘十郎に話しかけるのも、普通にできるようになっていた。まだちょっとぎこちない部分は抜けないのだが。

 

「……もしよければ、これからも、兄上の欲しい絵があったら、描きましょうか」

「良いのか!」

「は、はい。絵を描く事は……好き、なので。それで兄上が喜ぶのであれば。暇を見つけた時で、あれば」

 

 それでも。兄と交流する手がかり、と言えばいいのか。それが掴めただけで、喜六郎は全然嬉しかった。それに、自分の描いた絵で喜んでくれる人は初めてだった。だから自分の絵をたくさん見て、喜んでほしかった。

 そんな子供の無邪気な提案だったのである。彼としては。

 

「――……じゃあ、一つ聞いて良いか」

「はい」

「何でも、誰でも、あ描いてくれるのか」

「え、えっと。はい、出来るだけ、ですけど」

「嘘じゃないよな!!」

「うわっ……」

 

 が、勘十郎の食いつき方は、喜六郎の思っていた物以上に物凄い食いつき方だった。こっちに向けてぐい、と迫るその勢いに、一歩のけ反ってしまう位には。喜六郎が最も気圧されたのは、その強烈な目だった。その眼は、同じ子供とは思えぬ程に、ギラギラと力の入った光が宿っていた。

 恐らく喜六郎ではなく、大人がその眼を見れば……間違いなくそれを『狂気の光』と称しただろう。

 

「じゃあじゃあ、()()()()()()()がいるんだ」

「描いてほしい、人。ですか」

「そうだ。ついてこい」

「えっ? 今から? で、でも母上は……」

「お前たちで話せって言ってたろ! だったら別にどうしたって僕らの自由だ!」

 

 それに気圧されている間に、手を取られ引っ張られるようにして走り出す。先ほどまでごく普通の人にしか見えなかった兄が、急に一変した事に、喜六郎は困惑せざるを得ず、止める言葉も思い浮かばない。

 

 流されるままに、引っ張られる喜六郎は……しかしながら、何となく、この状況に納得とは言えないが、しかしそれに近い、そんな思いを感じていた。

 この強引さ、というか。有無を言わせなさ。それと近いものを、形は違えど喜六郎は良く知っている。

 

「――やっぱり」

 

 母によく似ている。それがなんだか、喜六郎にとっては面白くて。

 兄への親近感をちょっと強めながら。喜六郎は、引き摺られるままにその部屋を後にしたのである。

 




信勝君とノッブの関係をどう書けばいいのか分からず虚無る
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