◆壊れたオーパーツ
20代の頃の俺は今の俺の数倍頭が良かったらしい。昔開発した機械の設計図を今見ても全く理解できない。
「おい、ちゃんと直るんだろうな。分かっているな?できなければ、記憶を消すことになるぞ」
「あ、あと一日でいい。時間をくれ。もう少しなんだ」
「・・・分かった、では明日また同じ時間に来る。その時にできてなければ、コイツを飲んでもらうからな」
黒スーツの男は手に持った錠剤を見せつけ、そう言い残し去っていった。
まいった。恐らく最近騒がしくなっている反政府組織だ。不味い集団に目をつけられてしまった。拉致されて研究室兼実験室に監禁されて早一週間。目の前の機械を直す希望は未だ見えない。
『次のニュースです。先日、百発百中で有名な競馬王、ミラノーレさんが引退することを宣言しました。ミラノーレさんいわく──』
ラジオの電源を切る。俺に許されているのはこのラジオを聞くことと、インターネットに繋がっていないパソコンを使うことのみ。助けを求めるのは絶望的だ。
万事休す。
俺は頭を抱え必死になって明日の言い訳を考える。
その時。唐突に例の機械が光り出した。
眩い光に思わず目を瞑る。そして、プシューという独特の音に目を開ける。
「やあ、未来の僕」
目を開けるとそこには、タイムマシンの扉を開く、やけに若い俺がいた。
「・・・普通、そういうのって未来から来るもんじゃないのか?」
「過去に行ったところで知ってることしかなくて退屈じゃないか。で、今って何年?」
「2082年6月4日」
「お、じゃあ成功だね。ここ10年間でなにか面白いこと起きた?」
「たった今現在進行形で起きてるよ」
勢いよく喋る過去の俺。
過去の俺に比べれば随分と脳が小さくなった自覚はあるが、それでも、今の俺にだってここまでくればあとは「察する」程度の知能はあった。
「なあお前、これ直せるよな?」
これ。俺はそう言って、目の前にあるどデカい卵形のマシンを指さした。
「え、うん。ちょっと待って。えーと、そうだね、このくらいなら2時間くらいあれば直せるけど」
「良かった、じゃあ今すぐ直してくれないか?期限が明日までなんだ」
「別にいいけど、なんだって未来の僕はこれの、自分で作ったタイムマシンの直し方が分からないのさ?しかも超直しやすい壊れ方してるのに」
「いやあ、老いだね、老い」
「君まだ38だろ?ボケるにはまだまだ早いよ?」
「君まだ28だろ?年長者の言うことは黙って聞いとくものだぜ?」
「・・・まあ、いいけどさ」
「恩に着る」
翌日になって、男は約束通りやって来た。
男が扉から出てきた際に見える外の世界は、分厚い壁ともうひとつの扉だけだ。二重扉だ。絶対に俺を逃がす気がないのだろう。
いつも通りの黒スーツを着て、高そうなカバンを手に持った男は、毎回開口一番にこう言う。
「それで、ちゃんと直したんだろうな、例のものを」
しかし今回ばかりは俺の返答はいつもと異なる。
「ああ、しっかり直したよ」
タイムマシンはウィンウィンと不思議な音を立てて起動している。これなら今すぐにでもタイムトラベルができる。
「そうか。じゃあまずはマウスを・・・」
「ちょっとまってくれ。コイツを直したら俺はもう用済みになるだろう?それで記憶を消されたらたまらない。先に例の記憶抹消薬を寄越してくれ」
「チッ、分かったよほら」
男が俺にカバンごと薬を渡す。中身を確認した後、俺と男はタイムマシンに向かう。
「まずはマウスからだ。10分後に送ることは可能か?」
「ああ。もうすでにそこら辺のナットで試した」
嘘だ。
あのタイムマシンは一度使うと12時間はクールダウンが必要になる。当然試運転なんてする暇はない。
俺は、男が研究室にあるケージから適当なマウスを見繕っているのを横目に、タイムマシンの扉を開け中に入った。
「おい!何してる!?」
タイムマシンが起動する音で男が気づくが、もう遅い。マシンの中には過去の俺が既にいるため、2人ですし詰め状態で入り、予め設定しておいた10年前の時空、つまりはこのタイムマシンで行ける一番遠い過去へと転移を始める。
転移する直前にマシンに付いたドクロマーク付きの分かりやすい赤ボタンを押し、去り際に言い残す。
「バーカ!」
『このマシンは1分後に爆発します。60、59、58、』
最後にそう言い残して、俺は過去へ飛んだ。
「それで、なんでこんなことをしたのか事情を説明してもらおうか」
「まあまあ落ち着けよ若いの。とりあえずお茶でも飲め」
「そのお茶僕のなんだが」
「ということは俺のでもあるだろう?」
「はぁ、分かった分かった」
そう言って過去の俺は一気に俺の入れた麦茶を飲み干した。
「さて、話を聞かせてもらうよ」
「本当、せっかちだな。思った通りで助かったよ」
「なにいって・・・」
過去の俺は、そこまで言って意識を失った。俺が混ぜておいた記憶抹消薬が効いたらしい。
さて、ここまで来たらあとはひと仕事だ。重要なとこのネジを外して解体して、タイムマシンを壊していく。直すのは無理でも、壊すのは俺にだってできる。
そして、俺は何とか過去の俺が起きる前にタイムマシンの破壊を終わらせることができた。
こんな物があったら、世界が好きなように書き換えられてしまう。今は最大で10年しか時間の行き来ができないが、この先もそうとは限らない。というか、10年だけでもかなり不味い。
だから、壊すことにした。俺の記憶もろとも。まあ、俺は俺でも過去の俺だが。
「じゃあな、若いの。俺は競馬で食ってくわ」
これで辻褄が合う。