仮面のヒーローアカデミア   作:灰面

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No.3 オリジン

 灰垣 巡。個性『循環』。

幼少時代は特に目立つことはない普通の少年。

集合写真をみるに、小学生高学年になってから自身を鍛え始めたのだと思われる。

そして中学3年卒業後、雄英を受験……登校初日に大規模戦闘に巻き込まれ重傷、入院。

 

(しかし、その後謎の回復を得て僅か1ヵ月で退院と……)

 

 その一ヵ月で留年も決まってしまったが、やはり彼の転機はあの事件だと相澤は確信を得ていた。

そしてそれ以上を知るために、中学時代の教師や病院の担当医などにも連絡を取ってみた結果、追加で分かったことがある。

 

「そもそも運び込まれた時点で怪我はなかった…?」

「えぇ、血だらけの衣服から重傷を負ったのは確かなんですけどね。ただ意識不明だったので、そのまま入院してもらったんです」

「そして目を覚ましたのが一ヵ月後、と」

「はい」

 

 もし、個性が概念にまで干渉しているとしたら、自分の状態を一周させ、元に戻したと考えられる。

だが、それだと身に着けていた衣服が血だらけなままなのはおかしい。メグルの個性は、自分と触れているモノが対象なのだから。

 

「……お話、ありがとうございました」

「いえいえ……あ、そういえば」

「はい?」

「彼、一時期病院に通っていたんですよ」

「それは、何か持病でも?」

「いえ」

 

 一拍置いたのは、語っていいのか悩んだからかもしれない。

しかし、雄英の教師が彼の変化について知りたいというのなら、やはり伝えるべきだと判断した。

 

「ある少女への、面会に」

 

――

 

 その子は、とてもか弱く見えた。

実際病弱だったし、個性も強くなかった。そういう点で言えば、弱かったのかもしれない。

でも、そんなことを想わせない程に凄く眩しかった。

 

 明るい性格だったわけじゃない。ただ、芯があった。

入院している現状に悲観しているわけでもなく、楽観しているわけでもなかった。

現実を受け止めて、やれる事をやろうとネット空間で活動をしていた。

 知り合ったのは、同じように活動していた別の人からコラボに誘われたのがきっかけだった。

彼女と自分がお互いに設定を練り合って執筆、添削し、コラボを提案した人が執筆した物語を動画として編集、アップロードしていた。

 

 リアルで会うことになったのは、その二人が現実で友人関係であり、第一作記念としてお祝いをしたいと言ったから。

住所も近かったが……まさか病院へ連れていかれるとは思っていなかった。

 

――「「「かんぱ~~い!」」」――

 

 その日はとても楽しく、出会いに感謝した。

2作、3作と続くにつれてリアルでの交流も深まるにつれ……彼女との仲も深まった。

片思いするには十分だったが、告白する勇気は中々でなかった。

 ところが、もう一人の友人は両片思いを見ててじれったかったからと、告白を進められた程度には、二人そろって甘ったるかったらしい。

 

「もう、5年か」

 

 そっと、今でも宝物になっている三人で撮った写真を眺める。

小学5年のある日、晴れて恋人になった。間を見繕った友人には沢山迷惑をかけた。

幸せな時間は、あっという間に過ぎていった。

 

 僅か1ヵ月のこと。

 

 当時中学生だった彼女は、急死した。

友人は何も言わず、彼女の遺言だけ渡し、消失。

ガタイが良かった友人を追いかける為にも鍛え、そして次に会ったのは――。

 

「……よし、頑張ろ」

 

 その写真を眺めるのは毎日の日課。

今日も彼は、ヒーローになる為に雄英へ通う。

 

――

 

「今日は、救助(レスキュー)訓練を行う」

 

 その日は相澤先生とスペースヒーロー13号先生、そしてオールマイトによる救助訓練が行われる。

筈だったのだが、諸事情によりオールマイトが来れなくなったらしい。

とは言え、授業は授業。2人の先生によって、『ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)』で救助訓練が始まろうとしてた。

 

「ボクの個性はブラックホール、どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます」

 

 授業開始の前、13号は個性の強大さ、危うさを語る。

その危険性に関しては、身をもって知っているメグルは深く頷いた。

 

「この授業で、人命の為に個性をどう活用するのかを学んでいきましょう!」

 

 締めくくってくれた先生へ拍手を生徒が送り、まずは、相澤先生が始めようとしたその時――

 

 眼下にある噴水のある広場に、黒い渦と

 

「オールマイトはどこだ?――子供を殺せば、出てくるのかな?」

 

 悪意が、現れた。

 

「一塊になって動くな!!あれは、(ヴィラン)だ!!!」

 

 黒い煙の様なワープゲートから現れる、ヴィランの数々。

素人に取って、数はそのまま脅威に変わる。

本来、現役ヒーローが教師をしているこの学校に直接乗り込むのは、大変愚かだ。

しかし彼らは事実行い、そしてこちらの警報などを無効化している。

 

 馬鹿だが阿呆じゃない。

 

 これだけの人数を集め、そして襲うだけの算段を立てられるモノがいる。

 

「13号避難開始、学校に電話を試せ!センサーの対策も頭にあるヴィランだ、電波系の個性が妨害している可能性がある。上鳴、お前も個性で連絡試せ!」

 

 相澤が命令を飛ばしている間にも、続々とヴィランが現れる。

勿論、メグルも命令を聴いて、その判断に従おうとして――1体の敵に、視線が向いた。

 

 脳みそ丸出しで、筋骨隆々の真っ黒なバケモノ。

 

「ッ先生、アイツ――!」

 

 しかし、相澤が抹消ヒーローとして跳び下りたのとほぼ同時で、その言葉は届かなかった。

 

(まずい、まずいまずいまずい!!)

 

 彼はその脅威を知っている(・・・・・)

仮面がなんだのと言ってる場合ではなくなったメグルは、跳び出そうとしてその腕を掴まれた。

 

「ちょ、ちょっとアンタ何する気!?」

 

 耳郎響香、耳たぶがイヤホンになっており、自分の心音を武器に戦う少女。

彼女が握りしめる手は震えていた。そうだろう、こんな危機的状況、普通に怖い。

 

「行かないと、先生でもアレ(・・)相手に1人は」

 

 無理がある、そう告げようとしたとき、彼らの周囲を黒い靄が包んだ。

ワープの個性者が現れたのだ。

切島と爆豪が突っ込むが、ワープで攻撃をスカされてしまう。

 

 危ない危ない、なんて言いながら、悠々とオールマイトを殺しに来たと宣言する。

そして、卵の自分たちは――

 

「散らして、嬲り――殺す」

 

 次に眼を開いた場所は、山岳ゾーン。

広場まで高低差も距離もあり、敵に囲まれてしまった。

近くに居るのはさっき掴まれていた耳郎、上鳴電気、八百万百の三人。

 

「うっわ、最悪」

「くそっ囲まれた!?」

「落ち着いて、一塊になって対応を…!」

 

 八百万の指示でお互いに視覚をカバーするように動く。

耳郎は八百万の『創造』で作られた警棒を素早く受け取り、襲い掛かってくる敵に対応――しようとして、轟音と衝撃に、ヴィラン共々動きが止まった。

 

「え、何今、の……!?」

 

 衝撃の元へ目を向けると、そこには異形系の(ヴィラン)の頭を片手で掴み、地面へ叩き付けて頭をめり込ませたメグルの姿。

そしてその顔には――黒い模様が浮かぶ、髑髏の仮面が装着されていた。

 

「悪ィが、あまり時間がねェから――速攻で潰す」

 

 姿が掻き消える速度は、50m走の比ではなかった。

攻撃する時に現れ、ヴィランが吹き飛び、また姿が消え、現れてヴィランを叩きつける。

 

「八百万!!縄でも造って縛っといてくれ!!」

「あ、は、はい!」

 

 唐突な乱暴な言葉にも従い、手分けして気絶したり痛みで動けないヴィランたちを

縛り上げていく。

 

「くそ、なんで『髑髏』野郎が此処にいるんだよ!?―グハッ」

「っていうか、雄英生!?冗談だろ!?――プギャッ」

 

 何やら仮面に関して知っているヴィランも居たが、そいつらは強めに吹き飛んだり、深めに減り込んだりしていたのは蛇足だ。

 そこから目に見えるヴィランを全滅させるのに、1分とかからなかった。

地面に潜って隠れていたヴィランも居たが、他のヴィランを叩きつけて地面を割っていたため、慌てて出てきて吹き飛ばされたりと……ほか三人が呆然としたのも仕方ないだろう。

 

「お、おつかれ……すごかっt」

「ふぅ……ごめん、オレ、先行く!!」

「たよって、速!?」

 

 褒め言葉も労いの言葉も後にして、一度仮面を消失させたメグルは広場へ駆けた。

高いところから飛び降りても、要所要所で個性を発揮し、負荷を分散させながら走る。

 

そして、広場に辿り着いた時、想像通りの光景がそこにあった。

 

 ボロボロになり、片腕を折られて組み伏せられる相澤の姿が。

 

「ッ先生ェー!!」

「バカ、来るな!!」

 

 静止の言葉など無視して、仮面を瞬時に装着したメグルは突っ込み、拳を叩きつけ――

 

「ハハっ、まず一人」

 

 ――そんな悪意の嘲笑と共に、黒い巨拳が真正面から叩き込まれ、吹き飛ばされた。

 

「―――ッ」

 

 あまりに強烈な一撃はメグルをぶっ飛ばし、水難エリアから合流しようとしていた緑谷達の眼前の水面へ落ちた。

どこかの骨が折れ、突き出たのか水を血の朱が染めていく。

 

「う、うわぁぁあ!?」

「ケロッ!?大変!」

「灰垣くん!!」

 

 カエルの個性であり、泳ぎが得意な蛙吹梅雨が急いで引き上げようと潜った。

 

――

 

 痛みで意識が薄れる中、メグルは二人の姿を幻視した。

真っ白い髪の少女と、真っ黒い髪の青年。

ふと思い出す、なんて事の無いやり取り。

 

「メグルくんは、こういう人に成りたいの?」

「うぇ!?」

 

 物語のキャラ。成れる筈もないからこそ、「憧れはするけど」と無難に応えた。

「そっかぁ」と彼女は笑い、「そりゃそうだろう」と彼は同意した。

あの時はそんなやり取りで終わったけど、でも、最期の言葉は……。

 

 

「ありがとう……貴方は、私のヒーローでした」

 

 

 録音越しに言われた、締めくくりの言葉が胸に刺さって離れない。

ヒーローだったという、こんな凡人を。

ヒーローだったんだという、何も知らなかった只人を。

 

(オレ、は、ヒーローなんかじゃ……無かった)

 

 でも彼女がそう言ったのだから。

そうじゃないと、どれだけ自分が思おうと、彼女が、彼が、言ってくれたのだから。

 

 だから――ヒーローになろうと思った。

誰かを助けられるヒーローになって………自分を、認めようと決めたのだ。

 

「ッ」

 

 仮面の力をさらに引き出し、肌が一部白く染まる。

同時に負傷が急速に回復した彼は、水中を蹴った(・・・)

 

(うそ!?)

 

 泳いでこちらに来る蛙吹を通り越して、跳びあがった。

 

「拳が効かねェなら」

 

 中空で落ちながら、指先を向けて狙いを定める。

 

消し、飛ばす(・・・・・・)!!!」

 

 黒い巨漢に向かって、斜め上から紅黒い光線が放たれた。

巨漢はそのどす黒い光に反応し、わずかに動いたことで上半身の四分の一が消し飛ぶだけですんだ。

この光景に、誰よりも驚いたのは主犯であろう手を身体に張り付けた一人の少年だ。

 

(……ハ??対オールマイトの兵器を、学生ごときが!?)

 

 勢いよく落ちてきた真っ白な少年は、真っ黒い巨漢と対峙した。

未だ倒れている相澤から引き離す為に、さっきの紅黒いエネルギーを掌底と共に、衝撃波として放つ。

乱暴に相澤を緑谷達の方へ投げ、そして始まるのは――。

 

「おぉぉラぁぁアアアアアア!!!!!」

 

 拳に纏った紅黒い衝撃波と巨漢のラッシュの応酬。

 メグルは拳を受けても退かない為に、足の指先を地面に突き刺し、衝撃波をありったけ連続で叩きこむ。

巨漢の攻撃が何発か当たり、拳が合わさる度に激痛が意識を飛ばそうとするのを必死に食いしばって耐える。

 対して、衝撃波を拳で相殺する巨漢は痛みを感じているのかいないのか、構わず動き続ける。

 

 一人と一体のぶつかり合いにより発した衝撃は、周りのヴィランも寄せ付けなくなっていた。もし動いて巻き添えをくらっては笑い話もならない。

ワープのモヤも吹き飛ぶため、近寄れない。

 この奇跡の様な膠着状態は、しかして長くは続かない。

ダメージの蓄積の差は歴然で、どちらが先に倒れるのは明白だった。

 

 だが、その時間稼ぎは――勝利への布石となった。

 

「大丈夫!」

 

 拳を受け、また吹き飛ぶ最中。今度こそ意識を失う直前、頼りになる声が、彼を抱きとめた。

そう、彼が……。

 

「私が、来た!!!」

 

 ナンバーワンヒーローが、来たのだから。

 

■■

 

 次に彼が目覚めて観た光景は保健室の天井であり、保健室の老婆医であるリカバリーガール曰く、無傷だったから何もしなかった、さっさとお帰りと言われたのはまた別の話。




3話短編の予定なので、一応ここで一区切りだったりします…。
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