転生者はお金を稼ぎたい   作:unthraeae

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第2話

「練習相手が欲しいなあ。そして寒い」

 

練習用コースへの道すがら、悩みが口から流れ出る。教官の最大公約数的なトレーニングはこなしているが、やはり誰かと競ってみないと分からないことも多い。

 

友達とか欲しかったけど、入学時点で既に各コミュニティが完成していて割り込めなかったんだよなあ。ライスシャワーさんには何故か避けられている気がするし、頼れる先輩もいない。

 

練習用コースが見えてきた。まあいないものはしょうがない、今日もがんばりますか!

 

「今日も良バ場、素晴らしい……ん?」

 

コースの隅の方。休憩中なのか、スポーツドリンクを飲んでいるウマ娘が居る。度々見かけてはいたが、一人でいるのを見るのは初めてだ。

 

ミホノブルボンさん。同期の中でも、今一番注目されているウマ娘。遠目に見ても分かるトモの仕上がりが羨ましい。何をどうしたらあんなになるのやら。

 

「一人……。併走、お願いしてみるか?でも、あっ」

 

ちょっと逡巡している間に、休憩し終えたらしいミホノブルボンさんが予備動作なしで走り去っていってしまった。いや速いな。本当に同期か?

 

「うーん、しょうがない。まずは柔軟からだな」

 

次は頑張って誘うとして、今日も一人でやるしかないか。……と、思っていたのだが。

 

なんと、“次”がその日のうちに巡って来た。トレーニング開始後しばらくして、私が休憩しているところにミホノブルボンさんも休憩に来たのである。

さっきと同じ動作でスポーツドリンクを飲んでいる。がんばれ私、今だ行け!

 

「あのー、ちょっといい?」

「はい、何か?」

 

こちらの顔に無機質な視線が突き刺さる。ちょっと怖いが、もう後には引けない。

 

「併走とかって、お願いしていい?」

「いいえ、お受けできません。マスター、私のトレーナーからの指示に含まれていないトレーニングメニューは実行できません。……時間ですので、失礼します」

 

すげなく断って、またさっきと同じ動作で走り去っていってしまった。ふ、振られた。しかもド正論である。へこむ。

 

ああもう!頭を振って、自分の頬をペシっと叩く。振られたものはしょうがない、トレーニングに戻ろう。とても残念だけど。

しかしさっきの動き、はじめに見たときより精彩を欠いていた気がする。気のせいか?

 

 ◇◇◇

 

「はあっ、はあっ、ふぃー」

 

日没からしばらくして、トレーニングメニューをすべて消化できた。そろそろ帰るかとバッグを背負ったところで、三度休憩中のミホノブルボンさんを見かけた。無表情だが、かなりお疲れの様子である。

 

そう、休憩中。どうも終了という雰囲気ではない。無機質な印象とはいえど本当に無機物な訳もなし、オーバーワークではないだろうか。でもトレーナーの指示と言っていたし、でもなあ。

 

ええい本人に聞くぞ!もう一回だけがんばれ私、気合入れろ!

 

「あ、あのー」

「はい、何か?」

 

こちらの顔に再び視線が突き刺さる。怖い、貫通しそう。

 

「えっと、だいぶ疲れてそうだけど大丈夫?」

「疲労については問題ありません。マスターからの追加オーダーがあるまで、同じトレーニングの反復実施を予定しています」

 

そのマスターを今日お見掛けしていないのだが。本当に指示が来るのだろうか。

 

「その、追加オーダーはいつごろ来そう?」

「追加オーダーの時間、および伝達手段は指定されていません」

「それ来ないやつでは」

 

ついボソッと言ってしまった。視線の出力が上がったような気がする。これ以上は本当に穴が開いてしまいそうだ。バッグを下ろして中身を漁る。お、あったあった。

 

「こっちから連絡した方が良いと思うよ。はいこ、れ?」

 

取り出した電話を渡そうとすると、少し距離をあけられてしまった。

 

「私が電子機器に接触すると破損する可能性がありますので、結構です」

「えっ、触れると壊す?」

 

良かった、嫌われたわけではないようだ。そういえばそんな体質という話があった気がする。しかしそれなら話は早い。

 

「なら私が操作するよ。まあ、余計なお世話でなければ、だけど」

「……。了解しました、お願いします。連絡先は……」

 

というわけで、マスターの直通番号ゲットだぜ!早速番号を入れて、スピーカーモードを確認する。はい、これに話しかけてねー。

 

『はい、もしもし』

「マスター、ミホノブルボンです。現在のオーダーの残り時間、およびその次のオーダーをお願いします」

『は?ちょっと待て、どういう事だ、そもそもどうやって連絡を?』

「回答します。まず連絡手段については……」

 

説明が始まった。トレーニング後に腕を上げ続けるのは少々きついが、我慢だ我慢。どうでもいいけど、渋くて良い声だなマスター。

 

『……状況は理解した。そうか……。よし、今日はもう引き上げろ』

「オーダー、了解しました。本日のトレーニングを終了します」

『ああ。それと、そこにいる子。連絡ありがとう、手間をかけたな』

 

おっ、終わったかな。

 

「いえ、この程度は大したことでは……ないのですが、ちょっとご相談がありましてですね」

『ほう?』

「えっと、ミホノブルボンさんと模擬せ、いえ併走をさせて頂きたくて。一度で構いませんので」

『なるほど、強かだな』

 

うーん、ちょっと心証を悪くしたか?

 

『ううむ、そうだな、いいだろう模擬戦だな?明後日16時ちょうど、そこのコースで行うが良いか?』

「おお、ありがとうございます!」

『構わない。細かいことは当日決めよう。では失礼する』

 

通話を切って一息つくと、目の前で突っ立っていたミホノブルボンさんが口を開く。

 

「連絡手段の提供、感謝します」

「どういたしまして。こちらこそ、明後日はよろしくね」

「はい。では失礼します」

 

くるりと方向転換したミホノブルボンさんは、荷物を置いてあるのだろう方向へ歩いて行った。マスターと二人、なかなか独特な雰囲気だなあ。

模擬戦の約束を取り付けられたのは大収穫だ。あとは醜態をさらさないよう頑張らねば。

 

 ◇◇◇

 

なんて、なんてことだ。

 

「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ」

 

目測で、6から7馬身ほど。それ以上かもしれない。皐月賞想定の2000メートル、今の彼女にとってはかなり長い距離のはずなのに、全く距離を詰められなかった。これはかなり厳しい結果だ。

 

ここまで、(いただき)とはここまで遠いものなのか。とはいえ、彼女もずいぶん息を切らせている。今日はこれ以上は望めないだろう。

 

マスターからスポーツドリンクを受け取る。声を出せないので軽くお辞儀をすると、マスターは片手をひらひらさせてミホノブルボンさんの方へ歩いて行った。マスターマジイケメン。

 

「フゥーッ」

 

息を整えつつ、バッグの方へ歩く。本当は後にすべきなのは分かっているのだが……。スポーツドリンクを飲み干し、バッグから色紙とペンを取り出した。

 

「ラップタイムのブレがまだ大きい。体内時計の精度を……うん?どうした、何だそれは?」

「ちょっとお時間ください。負けた相手からはできるだけサインを貰うようにしてるんです。──ありがとうございます。ミホノブルボンさん、サインを貰っていいかな?日時付きで」

 

マスターがミホノブルボンさんの正面を譲ってくれたので、色紙を差し出す。それを数秒ほど、じっと見つめた後、若干ぎこちなくではあるが受け取ってくれた。と思ったら、そのままサラサラと何かを書いて、すぐに返されてしまった。

 

妙に速いなと思いつつ受け取って色紙を見た瞬間、思わず天を仰いでしまう。色紙の真ん中に「ミホノブルボン」と印刷したような字と日付が書かれていた。

 

これもう署名(サイン)では?違うそっちじゃない。覗き込んできたマスターも少し苦笑いしている。

 

「くくく。良いのかそれで?」

「あー、まあ、はい、これはこれで。ありがとう、ミホノブルボンさん」

「はい。【ミッション:サイニング】の達成を確認」

 

二人はまだ何かするようなので、私は先にその場を辞することにした。これ以上邪魔をしてはいけないし。

 

帰途につきつつ、ため息吐きつつ。気になる事でもあったのか、こちらをじいっと見つめてきたミホノブルボンさんを思い出す。

 

「あれは、勝てないな」

 

 ◇◇◇

 

数日後。柔軟体操のためにしゃがんでいる私に、今度はミホノブルボンさんから話しかけてきた。

 

「失礼します。先日実施したミッションについて修正させてください」

 

と言って、渡した覚えのない色紙を差し出してくる。もしやと思いつつ受け取ると、そこには独特の意匠が凝らされた、まごうことなきサインが描かれていた。

 

「私が着る勝負服のコンセプトとなる予定の“宇宙を飛ぶ戦闘機”をモチーフとしたものです。これをもって【ミッション:サイニング】を確実に達成したものと考えます」

「おお……!」

 

かっこいい。これはすごい。少し眺めた後、色紙をバッグに仕舞うべく立ち上がった。

 

「ありがとう、大事にするから」

「いえ。ミッションコンプリート、トレーニングを再開します」

 

ミホノブルボンさんがトレーニングに戻ろうとする。あっと、そうだ。聞かないといけないことが。

 

「ちょっと待った!」

「はい、何か?」

「ニシノフラワーさんにも負けたことがあってさ。お話ししたいんだけど、仲介をお願いできないかな?」

 

本当は真っ先にサインを貰いに行きたい相手だが、中等部に突撃する勇気が持てなかったのだ。寮への突撃は怖がらせるかもしれないし、同室(らしい)ミホノブルボンさん経由で何とか穏便にお話しできればと思ったのだが。

 

「……以前同様の要請が多発したため、私を媒介した接触は制限中。代替措置として、裏門方向の花壇周辺で待機することを推奨します」

「ええ……?そっかぁ、ありがとう」

「いえ。トレーニングを再開します」

 

だめか。まあしょうがない、そちらは改めて頑張るしかないか。

 

トレーニングに戻っていくミホノブルボンさんを見送ったあと、もう一度色紙に目を落とした。つい笑顔になってしまう。

 

「らしいというか、なんというか。ここまで厳密に、とは言ってないんだけどなぁ」

 

 ◇◇◇

 

なお後日、裏門近くの花壇に近づこうとしたところ、プランターから生えた触手に威嚇されたのですぐに撤退する破目になった。意味が分からない。

 


 

受取日時:xxx1/11/08 16:08

  記載者:ミホノブルボン

  備考:署名と勘違いした?

 

受取日時:xxx1-11-11T15:37:54+09:00

  記載者:ミホノブルボン

  備考:宇宙を飛ぶ戦闘機(勝負服のコンセプト)がモチーフとのこと。

 

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