〝本日は〇〇海峡フェリーをご利用いただき、誠にありがとうございます。当船は、間も無く函館へ到着いたします。大型トラック、車両チケットをお持ちのお客様からのご降船となりますので、チケットをお持ちのお客様は、お車に移動の上、誘導員の指示に従い、車内でお待ちください。〟
雑音の混じるスピーカーから流れる女性の機械音が耳朶に響き、一等室の二段ベッドで毛布にくるまっていた牧村ユタカは目を覚ます。
「ん~~。もう到着?結構あっという間だったね。ヒロ、小塚とカジは?」
「小塚さんは長距離トラックの運転手さんと仲良くなったみたいで、ロビーで一緒にワンカップ片手に盛り上がっています。カジは見張りの為扉の前ですね。」
「船旅って楽しいの最初の一時間だけだね。強風で甲板にも出られなかったし……。あ、でも自動販売機で道内各地のお弁当売っていたのは面白かった!あの蟹メシは美味しかったな。帰りにもまた食べようかなぁ。」
「蟹メシですか……。わかりました、野口さんに頼んで作れるようにしておきます。グリーンピースと根野菜は抜きですね。」
「そんなに気合入れないで!?まぁ、とりあえず小塚たちと合流しようか。」
本州から北海道に向かうルートは大きく分けて3つある。
1つ、空路。北海道の政令指定都市札幌の近く、新千歳空港へ向かうことの出来る空港便は山ほどある。しかし飛行機に乗る以上避けては通れないことであるが、荷物のチャックが恐ろしいほど厳しく、【道具】はおろか、ヒロの三段ロッドすら通関で没収されかねない。
2つ、青函トンネルを用いた新幹線の利用。こちらも簡単ではあるが、手荷物検査があり、【厄介なもの】が発見されれば大事になる。なにより手荷物検査だけであるということは、逆を言うと牧村を襲う刺客にとっても好都合な出来事だ。
3つ目がかつては連絡船とも呼ばれていた、青森―函館を結ぶ青函フェリーの利用だ。長距離トラックの御用達であり、一々車や荷物の中身を検査していればキリがなく、ほとんど素通りで乗船することができる。それに船内は個室の一等船室と大勢が雑魚寝する二等船室に分れており、個室であれば護衛の見張りを立てることも可能だ。
そのため今回牧村たちは北海道へ行くにあたり、かなりの遠回りと分っていながら、車で出発し途中仙台で一泊、青森からフェリーに揺られ、ようやく北海道に辿り着いた。
「は~、やっと北海道だ。ヒロとカジ交代とはいえ、長く運転させてごめんね。」
「いえ、気にしないで下さい!むしろ色んな景色が見れて楽しいっすよ!んで、どうします?函館で一泊しますか?」
「いいや、このまま札幌に向かってもらおうかな。野口さんに〝事前に宿を決めるな〟って言われているから今からとれる場所があるかわからないけれど、小塚、ちょっと手配してもらっていい?」
「了解っす!事前に色々調べてましたから何とでもなりますよ!」
「事前に聞いていると思うけれど、国の割安キャンペーンは使わないようにね。暴力団ってことに足が付くから。」
「あ~、それで逮捕された暴力団の会長いましたもんね。気を付けます。」
「まったく、ホテルに泊まっただけで逮捕なんて本当に不便だよね~。一時期ホテル暮らししてた俺が言う事でもないけれどさ。」
「……牧村さん、そろそろ教えてくださいよ。まさかアニキがすすきの豪遊目的で北海道に来た、なんて訳ないですよね。」
「そうっすよ。密漁っすか?それともロシアンマフィアとのコネクション?」
「あはは……。小塚、ヤクザ映画の見過ぎ……。簡単に言うと今、東京から別の都道府県へ本社の所在地を転出させる動きが活発になってるんだ。これはコロナ禍で首都一極集中がどれほどリスキーであるかが周知されたこと、そして在宅ワークの業務促進でオフィスを構えるコストを抑える目的が挙げられる。」
「はぁ……。でも何で北海道なんすか?」
「飲食業で言えばブランド名だね、ほらコンビニにも【北海道産〇〇】なんてものが山ほどあるでしょ?今回のコロナ禍で一次産業でも飲食店の売り上げ減少に伴ってダメージを負った農産業は多い、力のある企業ならマッチングを持ち掛ければ、かなり有利な条件で良品質な食材を安価で手に入れられる。本社を北海道に移せば道や市から補助金も出るからね。
次に製造業。北海道は貧富の差が激しい地区でもあるんだ。例えば札幌市や北広島市は税収赤字は目を瞑れる方だけれど、夕張市が財政破綻したのは有名な通り、10年以内に財政破綻の危機に陥るだろうとされている市町村は枚挙に暇がない。だから例えば〝もの凄い汚染物を垂れ流しますが工場を建てさせてください、税収はお支払いします〟と言われれば断る事は難しい。
……ざっくりだけれどそんなあたりかな?」
「つまり、企業と地域のマッチングに一噛みされるということですか?」
「運営コンサルトっていう形になるから暴力団である俺たちには敷居が高いかな、でもこの流れをみすみす見逃すと言うのももったいないからさ。実際札幌で経営コンサルタントをしている人とアポイントがとれたから話してみようと思って。」
「はぁ~、てっきりロシアンマフィアとドンパチ騒ぎでもするのかと思ってワクワクしてましたよ!」
「だから小塚は俺に何を期待しているの……。兎に角北海道という今熱い地を実際にみてみたかったんだ。他にシノギのタネが見つかるかもしれないしね。」
牧村が柔和な笑顔を浮かべたあたりで、一同が乗る車は函館インターチェンジから高速道路を走り始めた。
・長くなってしまったので一端序章と言う形にします、次回更新は未定です。
・プロットは出来ておりますが、その間に他の話を挟む可能性があります。ご了承ください。